FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

能舞台にて

2007年01月08日(Mon) 09:11:00

雑木林の向こうに佇むのは。
古風な寝殿とも見まがう、壮麗な黒木の築地。
ひとはそれを、
御所
と呼んでいた。

御所の甍がそのままに映じる水面を。
無言の行列が踏みしだいてゆく。
輿のうえには、白無垢の女。
ややおいて、紋付姿の男。
担ぐものも。担がれるものも。ただひたすらに、無言。
脛ほどの水かさの川面に、ばしゃばしゃと踏み入れながら。
袴をたくし上げた逞しい脛たちは、ひたすらに御所を目指している。

久々に点じられた燈火に、古びた灯籠は蘇えったようにかつての輝きを取り戻し、
主なき宮殿はつかの間、甍や欄干から枯れた落ち葉を払いのけられる。
庭の中央には、吹きさらしの能舞台。
周囲を取り囲む篝火は、赤々とした焔をあげて。
あたりいちめんにたちこめた冷気のなか、あたかも結界をなすがごとく、
ほてるほどの熱気を散じつづけている。
行列をなしていた数十人ほどは。すべて男。
いずれも厳粛の裡に表情を消して、
輿からおりた花嫁と花婿を、引き立てるようにして舞台の上へと促してゆく。
黒木の床は、ぴかぴかに磨かれている。
篝火の熱気はまだそこまでは届かないものか、
素足には氷板のように冷たい。

ぬばたまの 夜の闇こそ うれしけれ 夫(おと)は夫ならず 妻(め)は妻にあらじ
夜這いわたる この夜の闇に 見まほしき しとど濡れたる 濃ゆき繁りを 
おのがめを ひとにまじらす ひとよゆえ せのきみましませ 木下闇に
まれびとに おのが妻(め)まゐらす 濡れ床の 夢めくるめき しじまのなかに

古風で露骨な謡い文句が、呪文のように秘めやかな韻律を伴って、
澄み渡る冷気を淫らに染めはじめた。
花嫁は手を引かれるままに。
背すじをしゃんとさせ、しずしずと舞台の中央に歩みをすすめ、
花婿はまた周囲の男どもとおなじように、口許を引き結んで表情を消している。
花嫁の手を引く男の顔が、にわかにおもてをあらためて。
丁重に引いていた花嫁の白い手をぐいと引き、
荒々しく、その場に引き倒す。
ずだん・・・
場違いなほどの転倒の音が、周囲の静まりかえった空気を一気に乱した。
和装の男どもが、まろび臥した白無垢のうえ、いっせいに踊りかかってゆく。
いなやはなかった。

ぬばたまの・・・
夜這いわたる・・・
おのがめを・・・
まれびとに・・・

呪文は花嫁の嘆声を呑み込み、そのうえに群がる獣どもの息遣いを消してゆく。
袴の裾をぎゅっとつかまえたまま。
花婿だけがひとり、恍惚と傍らに控えている。

能舞台の袖に引き出されたのは、ふた組の男女。
いずれも都会ふうの洋装に身を包んでいる。
男ふたりは、暗い色の背広。
年嵩の女は、グレーのスーツ。
十代の少女は、純白のセーラー服。
周囲の寒気には場違いな夏服の胸もとを、青いスカーフが引き締めていて、それが折からの風になぶられている。
能舞台のうえの凌辱を、ぼうぜんとして見つめるまなざしを。
引き立ててきた男どもは、面白げに眺めている。
女たちの洋装が、よほど珍しいのか。
見慣れないよそ者に興味をそそられたのか。
熱っぽい目線は淫らなものを含んで、
きちっと束ねられた黒髪から、むき出しの白いうなじから。
ゆるやかな隆起を帯びた礼装、そしてスカートの下を染める色とリどりのストッキングまで。
まるで舐めるように、見つめつづけている。
女を伴った背広の男たちは。
そうした目線をさすがに察して。
時おり咎めるような目線を送り返すのだが。
無遠慮な目線はたえて、女たちから離れることはない。

儀式は整然さを取り戻していた。
呪文はあいかわらず、流れている。
能舞台の中央。
仰向けになった花嫁は、氷のような無表情に感情を押し隠して。
その上に、着物をはだけた男たちが、
かわるがわる、順ぐりにおおいかぶさってゆく。
必要以上の乱れをみせない白無垢が、却って場の淫らさをひきたてていた。
声ひとつ、咳払いひとつ、許されない。
時おりこらえきれないのか、花婿の耳にまで届くか届かないかの嘆声が、女の唇から洩れるいがいは。

さあ・・・というように。
洋装の二組が、能舞台にあげられる。
鏡のように磨かれた舞台の床は、まだ冷たくて。
薄い沓下に包まれたつま先が、黒木のうえに寒々と映えている。
一同の長らしき白髯の男は、逆立った髪を振りたてて。
そこになおるがよい。
ひと言、重々しく告げた。
戸惑うように、顔を見合わせる女たちを。
数人の男が肩を捕まえて、引き据えた。
あ・・・
連れの男たちの制止は、両脇についたべつの男どもに遮られている。

皆の衆。祝言の引出物じゃ。ぞんぶんに愉しむがよい。
長老が厳かに、女たちの処遇を宣告する。
あ・・・そればかりは・・・
戸惑う男女を、一群の男どもが呑み込んでゆく。
引き剥かれたブラウス。あらわにされたレエスのスリップ。
人妻は激しくかぶりを振りながら、涙をひとすじ、頬に伝わせた。
スカートはたくし上げられて、奥まで手を這わされて。
じょじょに狂わされてゆく理性。
ここに連れてこられるまえに含まされた毒酒が、いまごろになって、
灼けつくほどの焔を体内にぐるぐるとくゆらせてくる。
あ、ダメ。見ないで。あなたっ・・・
淫婦だそうだな。
長が、女の夫に囁きかけた。
夫は無表情に、頷いている。
仕置きじゃ。悪う思うな。
そんな囁きにも。
せんこくの花婿とおなじように感情を消した頬が、頷き返している。
行き渡った毒酒が、男の血管を紫色に浮き上がらせていた。

妹さん、なのだな?
長の息子が、もうひとりの青年に語りかける。
えぇ・・・
小心らしい青年は、整った目鼻立ちをひきつらせながら。
虐げを受けてゆく妹から、目を離せないでいる。
ひざ丈のプリーツスカートは、太もものすこし上あたりまでたくし上げられていて。
大人びた薄墨色に染まった脚には、淫らなものに満ちた手や指が這わされあてがわれている。
ほら。舐めるやつがいますよ。
長の息子が告げるまでもない。
黒のストッキングのうえから、よだれをたっぷりと光らせた野卑な唇があてがわれてゆき、
いたぶるように吸いつけられてゆく。
少女はすでに表情を消していたけれど。
さすがにむたいなあしらいが気になるらしく、
時おり咎めるような目を、じぶんの足許に送っている。

とりどりの手が。
ふたりの女の胸をまさぐり、太ももを撫でさする。
素肌からにじみ出る若やぎを奪い取るように、荒々しく。
呪文のむこうでは、誰もが、無言。
ただ、秘めた息遣いから伝わる熱気だけが、あたりを妖しく包んでいる。
足許を彩るグレーや黒のストッキングは。
都会の気品や理性を忘れさせようとするように。
かわるがわるすりつけられてくる唇やべろの下。
青白く浮き上がる脛の周り、ふしだらなよじれを深めてゆく。

ぬばたまの・・・
夜這いわたる・・・
おのがめを・・・
まれびとに・・・

意味はさだかに取れないまでも。
禁忌の歌、ということは、都会のものたちにも察しがついた。
古から伝わるらしい、それらの淫歌は。
その場のものたちすべてを支配するごとく、
艶麗な旋律に合わせ舞うように、人々の鼓膜に妖しく沁み入って。
裡なるものを狂わせてゆく。

ぶちっ。
肩先からストラップがはじける音。
人妻の乳房のふくらみを蝟集(いしゅう)する目線から遮っていた薄衣が、
皮一枚めくるほどの他愛なさで取り除けられる。
おぉ・・・
声にならない声が、賞賛をつたえていた。
ぱちぱちっ。
妹の脛から、黒のストッキングが裂け目を滲ませた。
かわるがわる舐めいたぶられてきた女たちのストッキングは、
もはやあらわな欲情から素肌をさえぎる役割から解放されている。
女たちがみせた衣裳の隙に、獣たちは瞳を昏く輝かせて、
見境なく襲いかかってゆく。
グレーのストッキングのなか、キュッと丸められた足指が。
禁じることのできない歓びをつたえ、
濃紺のプリーツスカートから鮮やかにはみ出した白い太ももが。
少女が一人前の女になったことを物語る。

妻や妹を穢された都会の男たちは。
周囲の男どもに親しげに肩をたたかれて。
いまは淪落の渦のなかに身を投じている。
青年の下には、妹がいた。
手を貸さないまでも、相姦の風景を見入るもの。
見境なくなった同類のために、突っ張る腕を取りのけてやるもの。
兄に吸われる唇が、いまは応えるように。
けんめいに、吸いかえしてゆく。
夫の下には、白無垢の女。
自らの婚礼を祝う引出物たちが淫らな誘惑に身をさらしているあいだにも。
なおも数人の凌辱を、まるで娼婦のような無表情を保ちながら受け入れていたのだが。
身を合わせてくるのが都会の男と知ると、ほんの少し羞じらいをみせた。
拒むような仕種が、夫の心に火をつけた。
狂ったような吶喊の果て。
妻よりも若々しい、なめしたような皮膚がみずから吸いついてくるのを。
どうしようもないほてりとともに受け止めている。
見て。
自分の下にいる女が囁いた。
あざやかに朱を刷いた唇が、毒蛇の舌のようにぬめらかに光っている。
花嫁は、うまれて初めて感情をあらわにするように、おっとりと笑みながら。
男の目線を傍らに促してゆく。
妻が、はしたなくも、悦んでいた。
乱れたネックレスを輝かせた、むき出しの胸。
すりむけたストッキングに淫らに彩られた立て膝。
躍動するがごとくくねる全身に、淫らな歓びをしんから滲ませて。
氷板のような黒木の床のうえ。
淫靡な舞踏に、身をゆだねている。
妖しい呪文の旋律に、あたかも合わせるように、舞うように。

ぬばたまの・・・
夜這いわたる・・・
おのがめを・・・
まれびとに・・・

ぱちぱちと静かにはじける篝火に取り囲まれて。
能舞台のうえ、くり広げられる秘められた宴。
渦巻く禁断の熱情は、築地の向こう側に洩れることはない。

あとがき
こちらに時おりお越しいただいているmasterblueさまが、華麗極まる禁断の世界をくり広げていらっしゃいます。
向こうを張ったわけでは、決してないのですが・・・^^;(ムリだって)
つい、触発されてしまいました。(^^ゞ
村の因習・・・のような世界。
妖しを覚えますね。

masterblueさまのサイトはこちら。
「日々の妄想を形にして」
http://pettrainer.blog34.fc2.com/
前の記事
声 励まして
次の記事
姫はじめは、お振袖♪

コメント

妖しい感覚
masterblue様とは違った柏木様の世界。
なんとも引き込まれそうな感覚で拝読いたしました。

>しとど濡れたる 濃ゆき繁りを
白無垢とはまいりませんが、白い長襦袢を身にまとい白い足袋。
もちろん長襦袢の下には何も身に付けず・・・赤い腰紐だけを締め。
それでもストッキングは必要でしょうか?
by 桜草
URL
2007-01-08 月 13:32:01
編集
嫌がってるのが好きだったりして♪
うば玉の夜の闇路に迷ひけり
あかたの山に入る月を見て
花の錦の露けしや
うらやましくも宿る月影
おろかなる身こそ
うれしけれ
彌陀の誓にあふと思へば

どきどきいたしました。
by さやか
URL
2007-01-08 月 15:15:26
編集
素晴らしい夜の果てに・・・
ぬばたまの闇が覆いし雪白の
  肌に走るは初夜の慄き
夜に這いわたるかの手を待ちぬるを
  触れた指先霜の冷たさ
おのが妻を我が女といいしかの人は
  紅き椿を我が身に散らす
まれびとに捧げ賜いし我が心
  恋うる夫の手に残るはこの身

お粗末様でございました(笑)
by 祥子
URL
2007-01-09 火 10:16:09
編集
うわっ。
正直なところかなりリキを入れて描いたお話だったのですが。
これだけ皆様に書き込んでいただけると、作者冥利に尽きる思いです。
皆様のお志に、あつく御礼申し上げます。m(__)m

>桜草さま
長襦袢も、乙ですね。^^
防寒のため和服の下にストッキングを召される方もいらっしゃるようですが。
ここはあくまで、純和風に迫ってみました。
でもそれだけじゃもの足りなくて。
結局洋装のご婦人がたにも登場いただいちゃいましたが。(笑)
都会ふうに洗練された洋装の貴婦人がひなびた村で・・・というシチュエーションは。
今回コメをちょうだいした「恭しい拝礼」と同一路線でございます。^^

>さやかさま
うわっ。
タイトルはそのまんま、貴女に差し上げます。
正直、度肝を抜かれました。
良寛さんのお歌ですね?
どなたかが、こっそり教えてくれました。^^;
天性の歌聖に、まさかこんなところにご登場いただけるとは♪
畏れ多いことでございます。
なによりも。
きっと秘めていらっしゃるだろうと直感していたさやかさまの天性の叡智をかいま見ることができて。
柏木とっても感激です♪

>祥子さま
これは、御製の和歌でありますでしょうか?
負けました。^^;
完敗です。^^;;;
え~、作中の和歌は私めの古典的教養の一端などではございませんで、
キー叩いているうちにてきとーにでっちあげた代物でございます。
及ばずながら返しをつくりました。

めぐりめぐる 心のあやに 惑いつつ つむぐ話の 尽きざる夕べ
by 柏木
URL
2007-01-09 火 19:11:20
編集

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/760-e8882c6d