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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

譲り渡すとき

2005年10月19日(Wed) 07:14:27

その日のきみのイデタチは、
白地に黒い水玉模様のワンピース。
黒のストッキングにエナメルのハイヒール。
いつも頭の上でまとめて背中に長く垂らしている黒髪は、お嬢さんみたいにそのまま肩先に流している。
きょうの装いは、これから逢いにゆくあの男のためのもの。
そう思うと、清楚で気品あふれる身なりにもかえって昂ぶり嫉妬してしまう、心の狭いわたし。
清楚に装うほど劣情をそそられて、きみにおおいかぶさってゆくという彼。
その彼の贈りものとして装うのか。
それとも大切な刻を迎えようとしている身体を、ただせいいっぱいに飾りたかったのか。
そんな思惑も知らぬげに、速いテンポでカツカツと響くハイヒールの音。

―――妻の生き血を正式に進呈します。・・・非公式にはもう召し上がっておいでのようですが。
―――幸いお気に召していただいているようですので。夫としても嬉しい限りなのですよ。
そういって、妻を引き合わせるわたし。
妻を奪われたのではなく。
あくまで、飢えたるものを癒すための慈善行為として。
自発的に潔く、妻を与える機会を与えられた。
妻の熱心なすすめは、決して自分を正当化するためだけではなく。
どこかに、一点も曇りのないものを秘めていた。
それで、だれもが幸せになるのだと。
たしかにひとつの答だね・・・と。
そう肯くことを急かすようにして、うなじにじんじんと響く傷口がせわしく疼いていた。

初めてわたしの血を吸ったときとおなじように、
吸血鬼氏はとても丁重な態度でわたしたちを迎え入れた。
―――どうか妻の生き血で、喉をうるおして下さい・・・
心ならずも口にしているはずのその言葉。
からからに渇いた喉から、なぜかせり上がるようにあふれ出し、
唇は嬉しげに、かすかなわななきに震えている。
心の中の葛藤を見通すように、彼はわたしをじっと見つめて、
そしてちょっと気の毒そうに微笑んできた。
奪われる夫と、獲る男。
そんなふたりの視線がからみ合って。
しかしお互いの関係はそう殺伐としたものではないのだと。
なにかが心のなかに囁きかけてきた。
そう。
ふたりは同じひとりの女性を愛するもの同士。
わたしは妻を促して、彼の前へと導いていた。

ストッキングのふくらはぎに唇を当てながら、
―――いつもよりも、高価なもののようだね。
気持ちよさそうに唇を這わせてゆく彼。
「アラ恥ずかしい」
そういってちょっと脚をひきながら、
踊るような軽やかな足取りで身をかわしながらも、
さいごには清楚な脚にぬめぬめとした唇を許してしまっているきみ。
「ガーターストッキング、ですの。たまにはちょっと、おしゃれして」
明るく振舞おうとする彼女の声色も、やはりわくわくとした震えを帯びていた。
わたし以外の男性は初めて、というのは、本当のようだった。

ぴちゃぴちゃ。
くちゅっ。
夫のまえで衣裳ごしに加えられる、戯れに似た辱め。
ぞんぶんに興じはじめたかれに聞えるように。
―――この部屋から出るまでは、妻としての義務を忘れてもらってかまわない。
―――なにが起きても、きみのことを咎めたりはしないよ。
そういうわたしに、きみはハッとしたような顔になり、そしてすぐに深々と頭を下げた。
扉に向かう背中に感じる視線には、深い感謝がこめられている。

べつの男の刻印を押された妻はどのように変わっているのだろうか。
それとも、いつもとかわらない冷静さで受け止めて、衣裳の乱れひとつみせないで出てくるのだろうか。
冷たく無機質な壁におおわれた廊下を行き来しながら。
愛器を焼いている窯の前に佇む陶芸家のような心境で。
扉の向こうを見通すようにして、妻を気遣うわたし。
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