FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ブレンドされて。

2007年01月30日(Tue) 07:23:48

広いお屋敷に住むその美しい娘には、求婚者があまたいた。
われこそはと思うものは、ひと晩一室に集められ、
娘の父親主催の酒宴が、盛大に催される。
泊りがけの宴に、さいごまで目覚めつづけたものは、だれもいない。
どうやら、だめだったようだね。
数日たつと、誰いうともなく、そんな会話が囁かれる。
ひそかにお邸の出入りを許された限られたものたちだけは。
夜更けに訪れ、夜明けに家へと戻ってゆく。
首筋の痕を、けだるうそうに掻きながら。

まるで就職の面接みたいだね。
連れの友人が、苦笑した。
詳細に書かされた、過去の経歴。
生年月日や学歴職歴はもちろんのこと、血液型や家族構成、おまけに家族一人一人の全身撮影の写真まで求められていた。
すでに書類の段階ではねられているものも相当いるはずなのだが。
酒は平等に、振舞われる。

娘をひと目、見たときに。
胸がときめくのを、抑えることができなかった。
いまだから、いうのだが。
とりたてての美人、というわけではないのだ。
身にまとっている霞のような、幻のような、
なにかが惹きつけて、自分に吸いついた視線を、放そうとしないのだった。
ところがその夜の主役であるはずの娘はとうとう、席に姿を見せることはなかった。

娘のあいては、きみにした。
数日後呼び出されたわたしは、父親に重々しくそう告げられた。
室内では暑苦しいほど着込んだ黒衣の下。
目のまえの男が身に帯びる若々しさに嫉妬するように、苦々しい顔をして。
わかっているね・・・?
体を添わせてきたときに。
宴はてたあと、のしかかってきた重圧感が、ふたたびよみがえった。
数分後。
すべてを、察していた。
黒衣の父親の正体を告げられたあと。
娘のまとうオーラの意味が、初めてわかったのだった。
わかっているね・・・?
彼はもういちど、念を押す。
厳粛な威厳のなかに、すこしばかり卑しげなもの欲しそうな笑みを含めて。
若い女の血が、要りようなのだよ。

わたしは意思を喪ったように。
ゆっくりと、うなずいている。
母と妹を・・・
そうそう。そうだ。
男は深々と、うなずいている。
母のほうは・・・もう若いとはいえませんが。
よいのだ。じゅうぶん、お若くお察し申し上げる。
どうやらモノとして、ただの食物として扱うわけではないらしい。
いま帯びている気品と礼節をそのままに、母や妹の足許にひれ伏していって。
彼女たちの秘める若々しさを、心地よげにたんのうするつもりなのだろう。
安堵と共感と、男への不可思議な同情が、胸の奥にまで侵入してくる。
この男の乾いた血管を、家族の女たちの血で充たしてやりたい。
不思議な欲望。
ひと言でいってしまえば、まさにそのとおりなのだが。
自らの渇きを潤したいと願うほど、せつじつに。
男の飢えを救ってやりたくなっていた。

母は、未亡人です。
存じておる。
一日でもよけい、若いうちに、吸っていただきたいのです。
もっともな言い分だ。
妹は、まだ女学生です。
周りには、危ない男どもに取り巻かれています。
一刻もはやく、救っていただきたい。
もっともな望みである。
男は一週間以内に、汝の希いをかなえよう、そう約束してくれた。

幻影に、ちがいなかった。
ドアの隙間から覗いているのは、妹の勉強部屋。
仰向けにされたセーラー服のうえ、取りついているのは霧のように糢糊とした黒い影。
齢より稚ないかんじのする妹は、いつになくなまめかしいうめきを洩らしている。
白のラインが三本走った襟首に、かすかなバラ色のしずくを散らしながら。
兄さんの血とおなじくらい、美味なのだよ。
男のささやきに、あえぎながらの頷きをかえしている。
重たい紺のプリーツスカートを、さやさやとまさぐられて。
薄黒いストッキングの太ももを、さらけ出して。
ちゅ、ちゅ・・・っ。
吸われるままに、悪戯を許しつづけていた。
わたしと目が合うと。
イタズラッぽい笑みを、ニッと浮かべて。
どお?すこしはレディに、見えるでしょ?
母さんの血も、吸わせてあげようね。
ドラマのヒロインみたいに、襲ってもらっちゃおうね。
半ば開いた唇の隙間から、悪魔の囁きを洩らしてきた。

幻影は、まだつづいている。
わたしの目線は、庭先から自宅の縁側をのぞんでいた。
夜も更けたころ。
庭を照らすのは、昼間と見まごうほどの月明かり。
夕涼みをするかのように。
母は若やいだ、ワンピース姿。
後ろから寄り添う黒い影に、微苦笑を浮かべながら、応じていった。
首筋にあてがわれる、淫らな唇。
ふたつの影は、せめぎ合うように揺れつづけて。
やがてぴったりと、合わさっている。
音もたてずに・・・
わたしとおなじ血が、母の体内から引き抜かれてゆく。
家族三人ながら、生き血を抜かれて。
おなじ血が、彼の臓腑を愉しませているのを。
寄り添うほどに心地よい昂ぶりの律動で、ひしひしと感じていた。
母は年頃の娘のように、薄っすらとした笑みをたたえていて。
ストッキングがお好きなんですって?娘からうかがいましたよ。
いやらしいですわね・・・
あきらめたように、呟きながら。
差し伸べてゆく脛は、光沢を帯びた肌色のストッキングに包まれていた。
無作法を、許されよ。
黒い影は、まといつくように母の下肢へとその身をつたい落してゆく。
うふふ・・・ふふふ・・・
娼婦のように妖しくくねりる脚は、薄いナイロンの光沢をぞんぶんによぎらせて。
ふしだらなひきつれと、裂け目をひろげていって、むざんに破れ果ててゆく。
母のなかの淑女が、きれいに崩れ去るかのように。
眩暈がするのだろうか。頭に軽く手を添えて。
もう片方の腕は、縁側に突いて、かろうじて身を支えている。
これでは、娘も嫁も・・・いちころですわね。
くすぐったそうに、ころころと笑いこけながら。
解かれた長い黒髪が、ゆさりと縁側に降りかかる。
乱されてゆくワンピースのすそを、苦笑い浮かべて見おろしながら。
母の含み笑いはいつまでも、薄闇の彼方にしみ込んでいった。

処女では、ありませんのよ。
すまなさそうに囁いてくる、わたしのフィアンセ。
寛大に笑み許すことが、深い歓びにつながっていた。
妖しい想像に、胸締めつけられながら。
彼女が処女を捧げた相手は・・・もはや聞くまでもない。
お義父さん。いつでも忍んできてくださいね。
わたしの花嫁が、あなたを心待ちにしているはずですから。
彼はまなざしに深い感謝の色を浮かべながら。
娘ときみの血がほどよく交われば・・・
あとはもう、口にされることはない。
生まれてくるものたちが、年頃になったとき。
娘ならば、処女を捧げて。
息子ならば、かわいい彼女を連れてこさせる。
黙契を交わすと、彼はわたしの首筋から牙を引き抜いて、
足音を遠ざけてゆく。
行く先は、わたしの愛する妻、そして彼の愛する娘のもとか。
処女の生き血をたっぷりと秘めた、妹のところか。
埋み火を燃えたたせてしまった母の処だろうか。
妻は、父親の愛人となり、
妹は、処女の血を吸わせることを、婚約者に承知させていた。
そして母は・・・若い衣装にたち返って、父の写真のまえ深い契りを交わすのだという。


あとがき
前作「伝えられた血」のつづきです。
前の記事
孤高の貴女
次の記事
伝えられた血

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/815-e4b1da71