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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻と結婚していただけませんか?

2015年11月17日(Tue) 08:02:37

妻と結婚していただけませんか?
青葉さんの申し出は唐突だったが、
置かれた状況を考えると、さほど乱暴なものではないともいえた。
ここは病院の個室。
青葉さんはベッドのうえで、死病を相手に、もうじき決着のついてしまう戦いをつづけていた。

申し出を受けたとき。
奥さんの鵜紀乃さんも同席していた。
思い詰めた大きな瞳が、わたしのことをまっすぐに見つめている。
美人というものは、悲嘆さえも魅力にすり替えてしまうらしい。
看病疲れのやつれさえもが、かえってなまめかしかった。

断ってくれてもいいんですよ。
あなたは信用できる方のようだから申し上げるが、
妻には吸血鬼の愛人がいます。
それは夫のわたしにしか見えないが――
妻と結婚してくださるのなら、彼のことも引き受けていただくことになるのだから。

ほんとうに、よろしいのですか?
思い詰めた大きな瞳は、先刻の病室でと同じくらい、ひたむきにわたしに向けて注がれている。
ここは二人きりのホテルの一室。
ひんやりとした畳の感触が、薄暗い室内のなかで、かえって身体のほてりを伝えてくる。
初婚でいらっしゃるんですよね?
女の口調は念を押すような気づかわしさを漂わせていた。
それはわたしのことを値踏みするとか、
婚前から続いているほかの男との不倫関係を認めてほしいというようなあざとさとかとは、遠いものがあった。
はい、だいじょうぶです。
わたしは彼女の懸念を押しのけるように、自分でもびっくりするほどはっきりとした声で、こたえを返していた。

では・・・
鵜紀乃さんは起ちあがると、ブラウスの胸元に手をやって、ボタンをひとつづつ、はずしてゆく。
それからストッキングを片方脱いで、ショーツをつま先まで滑らせると、丁寧に部屋の隅へと脱ぎ捨てていった。
はずませ合う呼気が、部屋の冷ややかな空気を熱く染めた――

すべてを吐き出して、仰向けに横たわるわたしのかたわらで。
鵜紀乃さんのうえに、影が舞い降りた。
影は鵜紀乃さんを包むように覆いかぶさると、ミイラのように痩せこけた猿臂で、彼女を抱きすくめてゆく。
わたしはどうすることもできなかった。金縛りにあって痺れた身体は、わたしのいうことをきかなかった。
どうすることもできないでいるあいだに、鵜紀乃さんは抱擁を受け入れて、
さっきよりもいっそう熱っぽく、息をはずませ始めた。

はぁ・・・はぁ・・・
ぁう・・・うぅん・・・っ

悩ましい声色にわたしの股間は逆立ち、鎌首をもたげ、畳の上におびただしい粘液をまき散らす。
そのあいだじゅう鵜紀乃さんは、わたしの傍らで乱れ、身に着けたままのスカートの裏側を、わたし以外の男の粘液に染めていった。
影が去ったあと。
しなやかな腕がスッと伸びてきて、鵜紀乃さんはわたしの掌を握りしめた。
わたしも彼女の掌を、ぎゅっと握り返していた。

翌日、ふたりで病室を訪れると。
青葉さんはにこりと笑って、「お似合いですね」とだけ、いった。
少し寂しげな、けれども満足そうな笑みだった。
それからしばらくのあいだ、わたしたちはホテルで密会を続け、その足で鵜紀乃さんの夫の看病に通っていた。
青葉さんは満ち足りた静けさのなかで、永遠に目を瞑った。

鵜紀乃さんとの新婚生活は、幸せそのものだった。
新居の壁のシミが浮き上がるようにして、夜中に彼女の肩をひっそりと抱く影を、
わたしはもう、妨げようとはしなかった。
夫にだけ見える吸血鬼。
そいつは鵜紀乃さんをうっとりとさせ、新調したブラウスを惜しげもなく持ち主の血潮で彩らせてゆき、
わたしの目のまえで、わたしを裏切る淫靡な舞いをくり広げさせてゆく。
そのあいだじゅう。
わたしは股間を逆立てて・・・恥ずかしい熱情を、新居のじゅうたんのうえに吐露していった。
青葉さんもかつては、きっとそんなふうに振る舞っていたのだろう。
重病人の研ぎ澄まされた勘がわたしの本性を見抜き、生前に妻の婚外性交を受け入れてまで、自分のあとがまを確保したのだ。
わたしの妻となった鵜紀乃さんは、満足そうに、淫靡な吐息を吐き散らしながら、
わたしだけに見せる淫蕩な振る舞いを、それは愉し気にくり返していった。


あとがき
重病人の夫の承諾付きで、つぎの夫となる男と性交をくり返す妻。
吸血鬼の愛人がいると知りながら、彼との共存を受け入れて、女を受け入れる夫。
そんなところを描きたかったみたいです。 ^^;

美味しいようなら、それがなにより。

2015年09月09日(Wed) 07:52:46

男の血に目覚めたことなんて、いままでなかったんですがね・・・
彼はそう言いながら、わたしの両肩にしがみついて。
首すじにあてた唇に力を込めて、血を飲み耽ってゆく。

いや、旨い。じつに、旨い。
そんな呟きをうわごとのようにくり返しながら、彼はわたしの肩を放そうとはしなかった。
失血に脳天を痺れさせながら、わたしもうわごとを折り返してゆく。
わたしの血、そんなに美味しいんですか。それはなによりですね・・・
他人事のようにそういってしまうと、いっそ潔い気分になれた。
ほんとうは、家内の生き血がお目当てなんでしょう・・・?
あれほど避けていた話題を、自分のほうから切り出していた。

わたしの血なんかを美味しがってくれる、あなたがいい。
家内の相手は、あなたがいい。
わたしはそういうと、傍らに落ちていた携帯を手に取って、妻のナンバーを指先ではじいていた。
――よそ行きの服に着替えて、待っていなさい。そうそう、ストッキングを穿くのを忘れないように・・・
彼の趣味に合わせて脚に通していた薄々の長靴下は、しゃぶるようにいたぶられてチリチリに咬み破かれていた。


痛ーッ!
首すじに牙を埋め込まれた妻は、
半袖のワンピースの両肩をつかまれたまま、うめき声をあげた。
ワンピースの半袖は、彼の掌の下でくしゃくしゃになっていた。
傾きかけた身を支えようと突っ張っていた、むき出しの二の腕が力を喪って、くたりと折れた。
彼はしんそこ嬉しそうににんまりと笑って、肌色のストッキングを穿いた妻の足許ににじり寄った。
わたしのときよりも、しつように。
妻の穿いている肌色のストッキングはしゃぶるようにいたぶられ、よだれに濡れて、引きずりおろされてゆく。
吸血劇の第二幕は、凌辱――
お手本を見せるために生き血を抜かれた身体は重く、身じろぎひとつできないでいる。
妻を魔手から救い出すどころか、わたしの下半身は、恥ずかしい昂ぶりに染まっていた。
謝罪の一瞥をくれた妻は、わたしのほうから視線をそらし、敗れ堕ちたストッキングを穿いたままの足を、ゆっくりと開いていった・・・

妻の身体、そんなに気に入っていただけましたか。
美味しいようなら、それがなによりですね・・・

結婚式場の控えの間

2015年07月16日(Thu) 07:30:29

ここは、某結婚式場の控えの間。
クリーム色の壁や淡いピンクのじゅうたんは、ほかのフロアと共通のもので、結婚式場らしい華やぎを醸し出してはいるものの、
およそ十畳ばかりの狭い部屋のなかは、テーブルひとつにいすがふたつしつらえてあるだけの、簡素というよりはむしろ殺風景なたたずまい。
そこには一対の男女が、にらみ合うような面相で向き合っていた。
ふたりが夫婦でないのは、間に流れる他人行儀な雰囲気でそれと知れる。
女は真っ赤なスーツに黒のブラウス、足許を染める薄手の黒のストッキングが、肉づきのよいふくらはぎを蒼白く透き通らせていた。
男は漆黒の――時代がかった黒マントまで羽織っている。マントの裏地は、真紅――男が欲する生き血の色だった。

女は妍のある上目づかいで、男を睨み、そして言った。
咬むなら早くしてくださる?主人、私があなたに咬まれていること、まだ知らないんですのよ。
男はククク・・・と、獣じみた嗤いを洩らしただけだった。
けれどもこの化け物にも人間の言葉が通じるのは確かなようで、くぐもるような低くスローモーな声色で、こう言った。
いつも、すまんねぇ。あんたには、迷惑をかける。これでもうひと晩、長生きができるというものだ。
女は毒づいた。
いけすかない。長生きなんかしてもらいたくもない。あんたが長生きしたって、そのぶんこううして迷惑をこうむる女が増えるだけなのよ。
そう言いながらも女は、テーブルの上にお尻を乗せ、片方のいすをハイヒールの脚で自堕落に踏まえていった。
咬むんだったら、早くなさい。あの子のカクテルドレス見たいんだから。
まったくだ――男はほくそ笑んで、女のひざ小僧を抑えると、差しのべられたふくらはぎにかがみ込んでゆく。
ちゅっ。
唾液のはぜるなまなましい音が、狭い空間のなか卑猥に洩れた。
圧しつけられた唇の下。
墨色のストッキングにひとすじ、細い裂け目が白く、ツツーッと伸びた。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
女の脚に咬みついた男は、喉を鳴らして血を吸い取ってゆく。
ストッキングの裂け目はじわじわと拡がって、女の脛の白さを露呈させた。
ったく・・・っ。もう・・・っ。
女は忌々しそうに歯噛みをしながら、自分の足許に加えられる恥辱に憤ってみせた。
ひとしきり血を吸うと、男は女の血潮に濡れた唇をもういちど甘えるように、女の脚に擦りつけた。
緊張の緩んだ薄手のナイロン生地が、男の唇の動きに合わせて、ふしだらなしわを寄せた。
破いただけじゃ、気が済まないのね?お行儀悪い。
男が濡れた唇をぬぐったのを見抜いて、すかさず女が悪態をつく。
男は澄ました顔をして、もう片方の脚も頂戴しようか?と、ニヤニヤしながら応じた。

じゅうたんの上は、凌辱の場になった。
新調のスーツを汚すまいと、女は四つん這いになって丈の短いタイトスカートをたくし上げられていった。
ストッキングをひざの下までずり降ろされて、むき出しになった太ももが眩しい。
女のうら若い生気をめでるように、男は女の首すじを吸い、ブラウスに血潮をしたたらせながら、血を啜った。
マントの合間から覗く青白い腰は意外に逞しい筋肉を持っていて、怒張した一物をスカートの奥に忍び込ませると、何度も何度も吶喊をくり返し、礼装の裏地に汚液を吐き散らしてゆく。
そのいくばくかが点々と、ピンクのじゅうたんにシミをつくった。

出てってちょうだい。着替えるんだから。
女はぷんぷん怒って、男を追い出した。
満足しきった男は口許を拭いながら、出がけに鄭重なお辞儀を忘れなかった。
女はそれをわざと無視して、身づくろいにかかった。
破れたストッキングを脱ぐと、しつように咬まれた脚をハンカチで拭い、首周りもおなじようにたんねんに拭った。
拭ったハンカチは丁寧に折りたたんで胸ポケットに差し、傍らの姿見に向かい合って、セットした髪が乱れていないかたんねんに点検した。
ひととおり満足するのに、かなりの時間を費やした。
新郎新婦の入場は、とうに終わったことだろう。
女がバッグを手に部屋をあとにすると、ひと呼吸おいて男がもう一度、部屋を覗き込んだ。
そして、部屋の灯りを消すと、小声で囁いた。

ご主人、もう出てきてもいいよ。
女房が襲われているところを覗きたいなんて、あんたいい趣味しているね。
その趣味に、わしはおおいに敬服するよ。
今夜は、ご夫婦で睦みあうがいい。
人妻を独りにしておくには、危ない夜だ。
披露宴の広間は夜中じゅう貸切で、招び出された女どもがわしの仲間の相手をする場になるでの。
もっともわしは、そちらのほうは遠慮するつもりだが。
代わりにあんたのお嬢さんを、いただくことになっているのでね。
きょうのカクテルドレスを取り寄せて、わしのためにわざわざお召くださるそうぢゃ。
お婿さんには、とうに話をつけてある。
お嬢さんは、正真正銘の処女だ。
前もって、生き血の味で確かめておる。
花嫁の処女喪失を覗きたければ、新床の部屋まで来るがいい。
留守ちゅう、新婦の母親が広間に出向いて、招待客の接待をするのを承知の上ならね。
それともご夫婦で、花嫁が一人前になるのを見届けるかね?
わしとしては、気の強い奥方が参戦されないことを希望するがね・・・

イイ気なヤツ・・・

2015年05月07日(Thu) 07:26:38

家の近くを歩いていると、妻の彼氏と行き会った。
「悪りィです。〈^人^) これから奥さんに逢うんですけど、〇ンドーム切らしちゃってて・・・」
ふつうこういうときに、そういうものを、ダンナに買わせるものかいな・・・
家を目指して背を向けるアイツのために。
当時街なかでもひっそりと佇んでいた「明るい家族計画」と銘打たれた自動販売機を前にする。

「悪りィです。(^人^) ガマンできなくなって、先ヤッちゃいました。。。(^^ゞ 」
照れ笑いするアイツに、ふくれ面の妻。
「せっかくですから、これ・・・ダンナさん使うと良いですよ」
そんなよけいなお世話まで、やかれるものかいな・・・
彼氏の代わりに〇ンドームを使いはじめた私。

妻の妊娠が発覚したのは、その数か月後のことだった。
(-_-;)


あとがき
こういうまぬけなお話、時々描いてみたくなるんです・・・

【ニュータウン情報】 花嫁一人に、二人の夫――急増する”重婚式”

2015年04月11日(Sat) 17:41:08

市内最大の結婚式場、「寿ホール」で、新婦1人、新郎2人という、いっぷう変わった結婚式が行われた。
新郎は花田貴之さん(28)と熊石勝平さん(57)、新婦は貴之さんの妻、美穂子さん(26)。
(いずれも仮名)
もともと夫婦であった花田夫妻の家に、熊石さんが同居するという。
「重婚式」とよばれるこうした結婚式は、近年急増しているといわれる。
市には正式なデータは存在しないが、「寿ホール」だけでも、平成××年度以前には平均して2~3件だったものが、一昨年度は8件、昨年度は15件。今年度になってからは早くも、花田夫妻と熊石さんのケースで7件を数えている。

過疎化が進むこの街では、かねてから嫁不足が問題となっている。
特に高齢化の進む職人町では、問題は深刻だ。
「跡取りがいなければ技が絶える」という危機感のもと生まれたのが、この「重婚式」。
もともと夫婦であったカップルの奥さんと独身男性とが性交渉を持つことで、二世の誕生を期待することができるという。
もちろん当初の夫婦と独身男性との間には信頼関係や愛情関係がなければならず、普通の夫婦以上に相互の信頼や愛情が重視されるといわれている。

花田さんは三年前、仕事の関係で都会から美穂子さんを伴って転入。その年に参加した懇親パーティーで熊石さんと出会い意気投合、夫婦での交際はその三か月後にスタートした。
「最初は戸惑ったんですよ。ボクだって妻を奪われたら困りますからね」
いまではにこやかに語る花田さんにも、悩みはあった。毎晩のように繰り返される夜這いに、とうとう美穂子さんが”陥落”。
「最初はすごく強引で、暴力的で・・・ほんとうにどうしよう?って思ったのですが」
と語る美穂子さんはある時、熊石さんにこう訴える。
「主人は弱虫かもしれないですが、私にとって大切な人なんです」
「このひと言が、三人の関係を変えましたね」というのは、熊石さん。「なんとかご主人とも共存できないものか」。
熊石さんの提案した”重婚式”には、むしろ貴之さんのほうが積極的だったという。
「お互い相手を立てるというところで、和解が可能かなって思ったんです」
夫から彼を受け入れるよう説得を受けた美穂子さんも、決心を固めた。翌日の夜熊石さんが現れたとき、貴之さんは目のまえで美穂子さんと愛情行為を交わしてほしいと申し出た。
「一発・・・でしたね。はい、文字通り」美穂子さんはその夜の記憶を、あっけらかんと笑いながら回想する。
「主人、いえ、貴之が昂奮しちゃったんです。熊石もいつも以上に張り切ってくれて・・・これなら三人でやっていけるかなって感じました」
二人が愛し合うところを目の当たりにすることになった貴之さんも、最愛の妻を熊石さんと共有することに同意。
親族の一部には反対するものもあったが、二人は強引に押し切ったという。
「熊石さんが美穂子を押し倒した時の強引さに比べれば、どうということもないんですよ」
重婚式に出席した貴之さんの母美恵子さんもまた、一人息子の嫁が息子以外の男性を受け入れるというこの宴席の席上で、地元の男性に見初められ、いまでは夫の同意を得て、地元の老齢男性の”老いらくの恋”を受け入れているという。
「三人が三様に幸せになる。こういう男女関係のあり方が、もう少し公認されてもいいのではないかと思いますね」

地元でも格式の高い家では、「どちらの男性が父親なのか確定できなければ、うちの後継ぎとは認められない」というところもあるが、「子作りをするセックスをする時期を意識している重婚家族もあり、共存は可能」とする専門家もいる。
そうした家のあるじが重婚を望んだ場合には、最初の結婚で生まれた子供が大きくなった夫婦がターゲットになると言われている。
花田さんの家では、そのあたりはむしろ達観しているという。
「どちらの種だったとしても、美穂子の子供であることには変わりはない。愛情をもって育てます」
貴之さんの返事はきっぱりとしていて、むしろ清々しささえ漂わせる。

二度目の装いとなるウェディングドレス姿の花嫁と両側から支える二人の花婿は、嬉々として家路をたどった。
今は夜這いを受け入れているだけの夫たちもやがて、妻の恋人との共存をこうした形で容認する人々が、今年も多く生まれそうである。

注意:登場人物の氏名は、いずれも仮名です。

愛情。

2015年04月05日(Sun) 06:50:02

ただたんに、「喉が渇いた」と言われただけならば。
きっと断っていただろう。
わたしが彼に妻の生き血を吸うのを許したのは。
「奥さんを愛している」って、言われたからだ。
彼らといえども、愛する人の生命を奪うことはしないだろうから――

渇いた喉を抱えながら、なん人もの愛人をも抱え、かわるがわる訪う男。
最愛の妻を、彼の愛人の一人として捧げたことを。
わたしはたぶん、後悔しない。
今夜も妻は、夜だというのに着飾って。
真夜中のデートに、出かけてゆく。

仇敵にあらず。

2015年03月27日(Fri) 08:18:20

懇意になった吸血鬼に、妻を誘惑してほしいと依頼した時には、声が震えた。
どんなふうにして妻を堕とすか・・・という相談を受けたときにも、震えが止まらなかった。

わたしもすでに、嗜血癖を植えつけられていたから
首すじに咬みつかれて喘ぐ妻を目の当たりにし、
その妻の生き血を美味しそうに吸い上げる吸血鬼を視て、
美味しい血にありつくことができた彼のことを、羨ましいと思った。
妻の生き血を気に入ってもらえてうれしかったし、誇らしかった。
吸わせてあげられてよかった・・・心からそう思った。

襲った女性がセックス経験者の場合、ほぼ例外なく性的関係を結ぶときいていたし、
妻もまた、例外ではあり得なかった。
人並み程度には、魅力的で、女らしかったから・・・
若い日には、彼女の口づけを勝ち得るためだけに、情熱を燃やしたこともあった。
その彼女が羞いらいながら脚をゆっくりと開いてゆくのを、
固唾を呑んで、見守っていた。

夫の仇敵に生き血を吸わせ、身体まで開いていった妻・・・
もはやわたしを裏切ることに、罪悪感はない。
奉仕活動に献身することは、夫の名誉を守ることよりも、彼女のなかでは重要だったから。
そんなふうに踏みにじられてしまうことが、むしろ快感――
夫婦ながら堕落した夜。
わたしは妻と彼とのあいだの、新しい関係を独り祝う。

理恵子の血を吸わせてあげることができて、よかった。

2015年03月26日(Thu) 08:08:48

幼いころからの悪友が。
吸血鬼に襲われて、吸血鬼になってしまった――
蒼い顔をして、わたしのまえに現れたとき。
わたしは躊躇なく自分の血を吸わせ、そして妻の理恵子を差し出していた・・・

理恵子の血を吸わせてあげることができて、よかった。
わたしはしんそこ、そう感じている。

吸血鬼があふれるようになった、この街で。
生命を落とす危険と裏腹な日常で、暮らしていて。
けれどもやつが独身を通したのは。
ほんとうは、理恵子が好きだったから。
好きな女を吸血相手に選んだのなら。
相手を死なせることは決してするまい・・・そんなふうに考えたのだ。

わたしの姑息なかけ引きは、どうやら間違いではなかったらしい。
やつはわたしの血を全部吸い尽して、わたしを墓場送りにし、
そして理恵子の夫におさまった。
旨そうだな。嬉しそうだな。
窓の外からふたりを覗き込んでいる、わたし――

けれどもそんなわたしも、孤独感は感じていない。
弟が、もらったばかりの嫁を紹介してくれたのは、吸血鬼になって間もなくのことだった。

義妹と元妻とは、かわりばんこにわたしのまえに現れて。
肌色のストッキングに彩った、自慢の脚線美をさらしてゆく――
悪友は、もともとあんたの女房だからと、わたしの夜這いを大目に見るし
弟は兄譲りの性癖まる出しにして、情事に耽る新妻に見とれていた。


あとがき
完全に奪ってしまうお話は、ここではマレなような気がしています。。

赦すけど、忘れない・・・

2015年03月26日(Thu) 07:24:12

赦すけど、忘れないです。
謝罪をする男に、わたしはそういった。
それは、忘れられないですよ・・・
目のまえで妻を、犯されてしまったんですからね。

赦すけど、忘れないです。
謝罪をする男に、理恵子も同じことをこたえていた。
それは、忘れられないわ・・・
激しすぎるんだもの。
理恵子が口にした「忘れない」の内容は、わたしとはすこしトーンが違っていた。

いや、俺も奥さんのことは忘れられないです。
男も同じようなことを、呟いた。
ほんとうに、いい身体してますよね。ご主人が羨ましいです。
男の目の色あいに、嘲りも蔑みも浮かんでいないのを観てとると。
わたしは思わず、口にしてしまっていた――

たまにだったら、いいですよ・・・

語尾の震えに、いびつな昂ぶりが込められていることを。
ふたりはきっと、気づいている。
男はすみません、と、頭をさげて。
理恵子はありがとう、って、心からの感謝のまなざしを投げてくる。

あ~ん、お洋服、台無し・・・
和解が成立すると、理恵子はふつうの主婦の顔に戻っていた。
こんど弁償しますから、という男に。
高級ブティックに連れてって、家内の好みの服を買ってやってください。
わたしもそんなことを、口にしてしまっている。
俺好みの服を着せて、街を歩いてもいいですか?という男に
あんまりおおっぴらにされるのは・・・照れますねぇ、と、つい本音を漏らしてしまって。
そんな男どうしのやり取りを、「やらしいわね」って、妻も、笑いながら受け流している。

このワンピース、わたしの見立てなんですよ、というわたしに。
ご主人センスいいですねえと男は呟いて、
奥さんをデートに誘うとき、ご主人のセンスの服っていうのも、いいですよね・・・なんて言い出した。
わたし好みの服を着た理恵子が、服を破かれながらモノにされてゆく――
そんな光景が、わたしをふたたび、昂ぶらせた――

このひとの妻のまま、貴男に抱かれるわ。
そう宣言する妻に。
奪うのはよくないからね。夫婦関係はだいじにしてくださいね。
男のほうもまた、そんなふうに包みかけてくる。
じゃあわたしはせいぜい、家内の着る服代を工面するために、稼ぐかな。
というわたしに、
ご主人マゾですね・・・
男はにやりと笑って、そういった。

赦すけど、忘れない。
忘れられない。
妻を犯される体験は、それくらいに深く、夫婦の間柄を塗り替えていた。

目のまえで。

2015年03月20日(Fri) 08:47:03

【妻の独白】
愉しんじゃっていた。夫のまえで。
強引に迫ってきたのは、ここに赴任してからずっと相談相手になってくれていた、年配の男。
縛られた夫を見せられ、ブラウスを破かれた私は――本能的に従順になっていた。
夫から目をそむけながら。視ないで・・・視ないで・・・と、くり返しながら。
それでもからみついてくる、しつような熱い視線に、身を晒しながら。
あたしは髪振り乱し、股間に激しく突き刺さってくる一物に、腰を揺すりつづけていた。

視ないで・・・視ないで・・・の懇願は。
離れないで・・・離れないで・・・に変わっていって。
もっとあからさまに。
もっとして・・・主人のより、大きいッ!
って、エスカレートしていった。
あたしがうめくたび、夫は激しい射精をくり返していた。

目のまえで。支配されてしまうということが。これほど快感だったとは・・・
塗り替えられた日常に、いまは気分が浮きたつ想いです・・・

【夫の独白】
見せつけられてしまうということが、これほど快感だったとは・・・
視ないで・・・視ないで・・・が。
もっとして・・・もっとして・・・に、塗り替わっていって。
反射的に反応しているだけだった腰の動きが、別種の熱を帯びていって。
妻が恥ずかしい言葉を口走るたび、不覚にも射精をくり返してしまっていた。
男ふたりで交わりをしていた布団のうえで、夫しか識らない身体が汚されてゆくのを。
むしろウキウキとしながら、見守りつづけてしまっていた。

愉しんでしまっていた。妻の目のまえで。
男の一物をしゃぶることに、目覚めてしまったわたし――
きょうの味は、格別だった。
目のまえに迫らせられた一物は、ついさっき、妻を犯し抜いたものだったから。

根元まで、口に含んで。
どろどろとした粘液を、喉を鳴らしてのみ込んでゆく。
妻を犯したペ〇スを咥える・・・という行為は。
完全な服従を誓ったしるし。

妻の目のまえで、支配を受け容れてしまうということが、これほど快感だったとは・・・
塗り替えられた日常は、恥まみれのわたしにはひどく居心地のよいところだった。

火事場から救い出す

2015年03月20日(Fri) 08:10:30

1.
うそ。死んじゃうかも・・・
気がついたときには、あたりには煙が充満していた。
昏倒していたのは、ほんのわずかな時間だったはず。
見回しても、出口は一か所。そして煙はその方角から、流れ込んでくる。
涼子は首すじにつけられた傷に、触れてみた。
ヒリヒリする。ジンジンする。
咬まれて血を吸われた・・・?
微かに残る、異様な感覚。
そのあと気を失って倒れて・・・いま気がついたけれど、着衣が乱れていた。
股間にはありありと、恥ずかしい衝撃の余韻すら残っていた。
そのまま置き捨てられて・・・置き捨てられた場所が、火事場になっていた。
もう、このまま死んじゃおうか?
そんな想いもチラリとよぎったけれど。
夫の顔が思い浮かんだとき、そんな衝動は意識的に掻き消していた。

どうやら起ちあがることはできた。
眩暈がするのは、煙のせい?それとも、失血のせい?
たとえ逃げ道があったとしても、満足に逃げられるような状態ではない。
もう選択の余地はないのか?
意識が死ぬ方へと転化しかかったそのとき――
「こっちだ!」
叫ぶ声がして、声の方角から伸びてきた力強い腕が、涼子を強引に引っ張っていた。

「ありがとうございます。おかげで家内が助かりました」
現場まで駈けつけてくれていた夫は、服を焦がした涼子を両腕で抱き留めながら、涼子を救った男にお礼を叫んでいた。
「いやいや、なによりでしたね」
男はおだやかにそう言い残して、「お名前を・・・」といいかけた夫を振り切って、人ごみのなかに身を隠していった。
夫の腕に抱かれながら涼子は、自分の生命の恩人はつい今しがた、彼女の血を吸って犯した男と同一人物だということを、はっきりと感じていた。


2.
吸血鬼がこの街に入り込んでいます。
知っているだけでも数人、犠牲者が出ています。
犠牲者が既婚の婦人の場合には、必ずと言っていいほど性的暴行まで受けています。
幸い死亡者はまだ確認されておりませんが、街としてはゆゆしい事態です。
当局への相談も含めて、早期に対処するべきです。

夫は町内会長に、性急な声色でまくしたて、決断を迫った。
そうですねえ・・・たしかに深刻な問題ではありますねえ・・・早急に、対応しましょう。
さいしょはなぜかひとごとのような態度だった年配の町内会長は、いい加減な態度では相手が立ち去らないであろう様子を感じ取ると、締めくくりの言葉だけを確約にすり替えていた。
しっかり頼みますね、と、夫は念を押すように言い、涼子を促して公民館の打ち合わせテーブルの席から起ちあがった。
夫の同僚二人が、吸血鬼に襲われたのだという。
そんな夫も――妻の首すじに着けられた咬み痕には、まだ気がついていないらしい。
涼子は咬まれた痕を、髪の毛の下に入念に隠していた。

じゃああたし、ちょっと用事あるから・・・
あ、そう。帰りは何時ころ?
そうね、夕方までには。晩ご飯作る時間までには、戻ってくるね。
小手をかざしてバイバイをして、
夫がなんの疑いも示さずにきびすを返すのを確かめると。
涼子は安堵に肩を落とした。
膚の奥深く、血管のなかから声がする・・・そんな気がしていた。
声は涼子に命じていた。午後に時間を空けて、公民館に戻るように――と。


3.
さいしょの一回は強いられたものだったけれど。
二度目の逢う瀬は、自分から応じたものだった。
男は息荒く涼子に迫り、着衣のまま求めてきた。
性急な欲求のせいばかりではない。
服を着た女性を襲うのが好みなのだ。
ブラウスの襟首を汚さないよう、用心深く咬み入れられてくる牙に、涼子は首すじを伸べて応じていった。
血を吸った相手の女性を気遣って、わざわざ現場に舞い戻り、火事から救ってくれた男。
そのお礼を、したかっただけ――
お礼をしたい気持ちだけは、夫も同じなはず――
でもまさか、こんな形での恩恵を妻が相手に施しているとは、夫はまだ夢にも知らない。

男は、脚にも咬みついてきた。
派手に破けた肌色のストッキングの裂け目がじりじりと拡がってゆくのを、
老け顔の目じりをしわくちゃに歪ませて、目を細めて愉しんでいる。
ほんとうは、服を破いたり汚したりするのも、好きなのだろう。
変態――毒づこうとしながらも涼子は、相手の言いなりになっていく自分を、どうすることもできずにいた。
ストッキング越しに圧しつけられた唇が、ぬるぬるとうねり、薄いナイロン生地に唾液をたっぷりとしみ込ませてきたときに。
男が自分の脛を吸いやすいようにと、脚をくねらせて応えてしまっていた。
ストッキングの脚をくまなく愉しんだすえ、男は牙を突き立てて、薄手のナイロン生地をぱちぱちと音を立てて咬み破っていった。


4.
家に戻ったのは、昏くなってからだった。
無言で唇を引き結んだ涼子の後ろには、涼子が自分で選んだ浮気相手が、ひっそりと佇んでいた。
驚く夫が犠牲者の仲間に加わるのに、ものの数分と要しなかった。
涼子の血で力を得た吸血鬼は、自分より20歳は若い夫をやすやすと組み伏せると、
涼子のときと同じ経緯で、夫の首すじを咬んでいた。

いったいこんなことを、予想することができただろうか?
夫の前で、ほかの男に犯されるなんて――
けれどもそれは、現実のものになっていた。
夫はぐるぐる巻きに縛られて、猿ぐつわまでされている。
そのまえで、わざわざ見せつけるように――男は涼子のブラウスを剥ぎ取っていった。

ほんとうは、あの場でこんなふうにしたかったんだ。
襟首汚しちまったし、クリーニングにも出せないだろう?
男はそう言いながら、にまにまとした笑みを泛べて、涼子のブラウスを引き裂いてゆく。
むしり取られたブラジャーの吊り紐がはじけて、あらわな肩先を鞭のように打った。
へへへ・・・だんなさん、悪いね。ちぃとばかし、愉しませていただくでの。
男は舌なめずりをしながら涼子に迫って、乳首を含んでゆく。
「あぁあ・・・っ」
静止を求める夫の叫び声は、猿ぐつわに阻まれて、くぐもった呻きにしかならなかった。

ノーストッキングに引き剥かれた脚を大の字にしたまま、
のしかかってくる男を相手に、涼子は夫婦でしかしたことのない行為に、耽っていった――


5.
いけない・・・いけない・・・
でもあたし、愉しんじゃってる。

髪をユサユサと、揺らしながら。
客をとる娼婦のように、腰を振りながら。
喘ぎ声をあらわに、洩らしながら。

あたしは主人の前での行為に、いつしか熱中してしまっている。
かまわないでしょう?
男同士がキスを交わし、肌を合わせ、股間まで交わらせていくのを。
完全に相手のペースとはいえ、主人がそれを受け入れてしまったのを。
あたしはどちらに手を貸すでもなく、茫然と佇みながら、いちぶしじゅうを見守っていた。
主人は唯々諾々と男に縛られていって、
「奥さん借りるね。すまないね。でもよかったら、だんなさんも愉しんでね」
そんな相手の囁きに、どんよりとだが頷き返してしまっていた。


涼子をあんたから奪うつもりはない。
だから時々、逢いに来るのを許してほしい。
見て見ぬふりをするのでも、かまわないから。

まじめな交際を希望してます。
奥さんくらいの年代の女が、好みなんです。
身体つきもいいし、血も美味い。わしにとっては、好い女です。
なに、ご夫婦でいままでどおり、ふつうに暮らしておればエエんです。

たまにわしが、忍んでいったら。
だんなさんはそんなとき、さりげなく座を外してもらってもいいし、
きょうみたいな感じでも愉しめるというなら、荒縄持参でうかがいますよ。
わしと仲良くしたいというなら、奥さん抜きで逢ってもいいです。
奥さんも、だんな抜きで逢いたくなったら、連絡待ってます。
秘密は厳守する・・・っていいたいのですが。この街では無理だな。
あんたが町内会長に言ってたみたいに、犠牲者のことってどういうわけか、すぐ広まっちゃうんだよね。
町内会長が奥さんと娘を、わしらの仲間に喰われちゃってるの、まだあんたは知らなかったかね。
まあこんなふうに、犠牲者同士は分かり合っちゃうことになるのでね・・・
その内輪のなかでの、秘密厳守ということで。

男がいいように申し渡しをしていると。
猿ぐつわを外された主人が、おずおずと口を開いた。
「涼子は、どうなんだ・・・?」
あたし?あたしはもちろん、このひとにぞっこんよ。
だって、上手なんだもの。あなたとは最近、なんにもないし。
だから首すじの傷のことも、気がつかなかったんでしょう?
そんな想いを凝縮させて、あたしはたったひと言、応えていた。
「あたし、このひととおつきあいします。よろこんで・・・」
そうか、と夫は、一瞬寂しそうに目を伏せる。
ちょっとかわいそうだったかな・・・さすがにあたしはそう思ったけど。
つぎの夫のひと言が、あたしを安堵させ、そして満足させた――
「せめて、俺から交際をお願いしたってことに、してもらえないかな」
嬉しいねえ・・・あたしの思惑など眼中にないその男は、夫の提案を即座に受け入れていた。


6.
血を吸った相手の女性が火事に巻き込まれたとみてとって、躊躇なく引き返して火の中から相手を救い出す。
そこまでやる吸血鬼など、きいたこともなかった。
けれどもあのひとは、そこまでのことをしてくれた。
涼子に対する愛情を、夫であるわたしですら、感じざるを得なかった。
「涼子への愛情と、あんたへの誠意を示したかっただけ」
そんなあのひとの言葉も、嬉しく響いた。
わたしが火事場に飛んでいったのも、ぐうぜんではない。
そこで涼子が襲われるであろうことを、まえもって告げられていたから。
けれども火事までは、予想外だった。
ばちが当たったんだ、と思った。とっさに火の中に駈けこもうと思った。けれども不覚にも、躊躇してしまった。
いつの間にかわたしの傍らに立ったあのひとは、わたしを制すると、自分から日の中に駈けこんでいった。

恥ずべきなのは、日常的に浮気に耽るようになった妻ではない。
妻をすすんで吸血鬼に引き合わせた、わたしのほうだった。
勤務中に血を吸われたわたしは、男同士の関係を迫られて――不覚にも受け入れて、目覚めさせられていた。
たいがいのことは、目ざめさせちまうことができるんだ。わし。
そういいながらキスをねだるあのひとに、わたしは自然な態度で、応じてしまっていた。
三十代の人妻の生き血をご馳走したい。貞操をプレゼントしたい。
そんなわたしの申し出を、あのひとはくすぐったそうに受け止めてくれて。
雑居ビルの一隅にわたしが呼び出した涼子を、気に入りのワンピースもろとも汚していった。
手慣れたようすで、むぞうさに――
涼子を征服した男は、余勢をおさめるためにわたしとの関係を望んで、向かいにあるラブホテルで刻を過ごした。
涼子のいたビルの火災を知ったのは、そのときのことだった。

きょうも涼子は、休みの日のわたしを置いて、あのひとに逢いに出かけて――
ホテルから戻ってくるのに、三時間は経っていた。
羞ずかしそうに、誇らしそうに。
ドアをひっそりとあけて、舞い戻ってくる。
はずれかかったブラジャーがはみ出たえり首には、血のりが沁みて。
きちんとセットしていた栗色の髪はぼさぼさに乱れて。
脚に通していった真新しいストッキングは、見るかげもなく咬み剥がれて。
わたしは自分の妻を迎え入れると、キスをしてやる。妻もわたしに、応じ返してくる。
途絶えていた夫婦関係は、みごとに復活していた。


涼子をあんたから、奪うつもりはない。
けれども奥さんは、わしの気に入りの女の一人に加えさせていただく。
あんたはいままでどおり、ご夫婦仲良く暮らせばいい。
涼子の服代を稼ぐために、あんたは働く。
女房が浮気で使うホテル代を稼ぐために、あんたは働く。
お仕事もそのほうが、張り合いが持てるだろう?

見て見ぬふりをするのなら、ご好意に甘えよう。
覗いて愉しめるなら、見せつけてあげよう。
たまにはあんたのことも、ホテルに誘ってやるよ・・・

あのひとの囁きは甘い毒を含んでいる。
囁かれるままに頷いてしまったわたしに
フフフ・・・と笑う妻。
そんなときの妻のほほ笑みにも、甘い毒が含まれている。
塗り替えられた日常――
わたしはひどく、満足をしている。

和解・・・

2015年03月07日(Sat) 10:50:05

妻の憤慨のしかたは、ハンパじゃなかった。
いや、もちろん親父のやり方が、よくないのだが。
親父とは。
俺が当地に赴任してきて、真っ先に知り合いになった・・・吸血鬼だ。

女房の血を吸わせる約束をしてしまって。
なにも知らない女房を、土地の顔役の息子の結婚式に同伴して。
親父は俺たち夫婦の席のあるテーブルの下に、もぐり込んで。
女房の脚をいきなり、咬んだのだ。

「ちょっとっ!でていらっしゃいッ!」
おろしたてのパンストを破かれた女房のやつ、烈火のごとく怒りまくって。
きまり悪げにテーブルクロスの下から顔を出した親父を罵っていた。
いきなりなんてことをするの?ヘンタイ!ひきょう者!スケベ親父!
ふくらはぎから血を流しながらも、女房は相手を口汚く罵っていた。
そうしているあいだにも親父の咬み入れた牙からしみ込まされた毒液が、身体じゅうにまわっていって・・・
自分がどういうことをされたのが、無言でわかってしまったはずなのに。
それにしても。
テーブルクロスの下から顔だけ出して、自分がいま血を吸った女が毒づくのをぼう然と聞いていた親父の顔は、見ものだった。
ヘンタイでひきょう者でスケベ親父なのは、掛け値なしに正しかったので、反論のしようもない。
親父としてはただ、だまって聞いているしかなかったのだが。
やつだってなかなか、したたかなものだ。
ヘンタイでひきょう者でスケベ親父だと認めてくれたのだから、これからは時で行きゃエエんぢゃな。
翌朝いっしょに風呂を浴びながら、そんなことをのたまわったものだった。


わかった。わかった・・・
わしゃ、わびる。
あんたをここに連れて来てくれただんなのことは、かねがね尊敬している。
喉がカラカラなわしに血を恵んでくれたあんたには、感謝している。
これからもだんなを尊敬するし、あんたには感謝しつづける。
けっして、おろそかには心得ない。
ぢゃから、ぢゃからのお・・・

性懲りもなくにじり寄ってくる親父をまえに、女房は口をへの字に曲げて、悔しそうに睨みつけている。
ふたりのためにしつらえられたこの畳部屋からは、一歩も出ようがないのだ。
なにしろここに連れてこられてから、改めて首すじを咬まれてたっぷりと血を吸われ、
そのうえブラウスを破かれて、俺の前で犯されちまったのだから。

だんなのまえで、というのが、基本らしい。
そうすることで、相手の夫婦は劇的に気分を変えるのだから・・・という。
いや、ここで不覚にも、ゾクゾクと興奮を覚えてしまった俺は・・・
たしかにうちの会社の恥部と言われるこの片田舎の事務所に赴任させられる適性をもっていたのだろうけれど。

あなた、ブラウスとってきて。お願い。
命令口調の女房に、もちろんそうするさ、と答える俺。
けれども、俺がホテルの寝室からブラウスを取ってくるまでに。
お前、なん回射精されちまうんだ?

つぎの日になっても、女房の御機嫌はうるわしくなかった。
見栄っ張りなんだよ。あいつ。結婚式で恥かかされたって、気にしてやがるんだ
いきなりあんたも、ひどいな。
おおぜいの前でスーツ破かれて犯されたりしたら、そりゃあ立ち直れないだろ・・・

俺はいかにもお手上げ、というていで、親父を睨む。

すまん、すまん、以後気を付けるで・・・
親父は片手をあげて降参、といったが、なにどうして、決して参った景色はさらさらない。

しつらえられた畳部屋は、人妻と彼女を狙う吸血鬼の、お見合いの場。
仲良くなるまでここで対面しつづけることになるのだが。
仲良くなってからも密会の場として使用するカップルも、少なくないらしい。
さて、うちの女房殿の場合には、どんなことに相成るやら・・・

千鳥格子のスーツに、肌色のストッキング。
だんなの俺が見てもゾクッとするイデタチに、親父はさっきから魔羅をおっ勃たてているのがありありとわかる。

すまん、すまん。
だんなのことは、尊敬している。これからも、尊敬しつづける。
あんたに対しても、感謝している。これからも、感謝しつづける。
ご夫婦には絶対、恥などかかせない。秘密は厳守する。
ぢゃから、わしの渇きを救うてくれい。わしの恥ずかしい本能を、許してくれい。

ごま塩頭を振り振り、親父は壮絶?な謝罪をくり返す。
いっぽう、身体じゅうに毒の回った女房殿は・・・

ほんとうに、反省してる?
ほんとうに、感謝してる?
ほんとうに、だんなのこと尊敬する?
ほんとうに、秘密守れるの?

ぽつりぽつりと、妙なことを言い出して。
そのうち、おずおずと――
肌色のパンストを穿いた脚を、親父のほうへと伸べていった。

ちゃんと約束できるなら、少しなら咬んでもいい。


ふ、ふ、ふ、ふ・・・


親父がいつもこういう手で人妻を堕とすのを、赴任してからなん度見てきたことだろう?
キュッとしまった足首を抑えつけると。やつはふっくらと柔らかそうな女房のふくらはぎに、そろそろと唇を近寄せて――咬んでしまった。

ちゅうっ。

あ・・・

女房の横顔が、はっとこわばる。
けれどももう、問答無用というものだろう?

ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・

吸血の音は狭い室内に蔓延して、
気丈に背すじをピンとさせていた千鳥格子のスーツ姿は、じょじょに、ゆっくりと、傾いていった・・・

畳の上に仰向けに倒れたのと。
男がのしかかって、スーツのジャケットの前を拡げるのとが、同時だった。
ぶちぶちっ。
やおらブラウスを剥ぎ取ると。
がぶり。
首すじに咬みついた。
びゅっ。
赤黒い血のりが、あたりにばらばらと散らばった。
男は顔をあげ、血のりにまみれた口許を、女に見せつけた。
それから剥き出しになった肩先に張り詰める、ブラジャーの吊り紐をつかまえて。
ぶちぶちっ。
はじけた吊り紐がムチのように、白い膚を直撃した。
にゅるん。
分厚く赤黒い唇が、妻の乳首を飲み込んでいく。
右、左、右、左、右、左・・・
交互にかわるがわる、熱っぽく吸われる乳首を振り立てながら、
女房はもう、無言になって相手を始めている。

女は発情させちまや、ただの娼婦になり下がるのさ。
なん度も親父が呟いていた呪文。
それがうちの女房の身にも、ふりかかっていった。

伝線の走ったパンストを片方だけ穿いたまま。
女房はなん度も、犯されてゆく。
千鳥格子のスカートのすそを、ぬらぬらとした半透明の粘液に浸しながら。
おなじ粘液を、きちんとセットした黒髪に、なすりつけられながら。
おなじ粘液を、口に突っ込まれた逸物から、びゅうびゅうと注がれながら。

どういうわけか。
女房の喘ぎ声も。
主人のより大きいわあとかいう、叫び声よりも。
さいしょは見ないで見ないでって言っていたのが、あなた視て視てっ!と態度を180度変更したことよりも。
突っ張ったふくらはぎに走るストッキングの伝線のほうが。
俺の記憶にはまざまざと、残っていた。

大雪で半休

2015年03月07日(Sat) 10:14:56

1.

事務所の外は、真っ白だった。
大粒のボタ雪が、ガラスにまだらになって貼りついている。
季節外れの大雪に、そのガラス窓の向こうに切れ切れに覗く街なみも、雪に埋もれたかのようだった。

これでは、仕事にならんな。
窓の向こうをいっしんに見つめていた営業所長が、分厚い眼鏡の奥から目を光らせた。
はい、一同集合。
軽くあげた両手に動きを合わせるようにして。
わたしたちは全員、所長のまえで起立した。

きょうは大雪で、仕事になりません。帰り道も危ないので、所長の判断により半日休業とします。
なるべく早く帰宅して、家の雪おろしなどに精出すように。

営業所長は簡潔にそういうと、自分も帰り支度を始めていた。
そのまえに、電話を一本、かけていたっけ。
相手はどうやら、この街の顔役の一人のところのようだった。

あ~、もしもし、〇〇物産ですが。ええ、はい。はい。きょうはこの大雪でしょう・・・それで、半日休業させてもらいますので。

どこの会社でもありがちな、ごあいさつ。
しかしそのあとのひと言だけは、よその会社とは決定的に違っていた。

はい、はい・・・人の生き血をご希望のかたは、社員の自宅にご照会ください。個別に対応いたしますので・・・


2.

人はいろいろな理由で、それまで自分が日常を過ごしてきた世界から、逃れざるを得ない立場に追い込まれる。
そうした人たちが口コミを頼りに、集まる会社。
そうはいっても、「社長がひと目で見抜く」という奇妙な適性検査の合格者でなければ、入社することはできなかった。
たしかに、適性のあるなしは、うちで勤めるにはかなり重要な要素のはずだ。
業務らしい業務は、なにひとつない。おまけに高給。
ただし、ここは吸血鬼と共存する街。
訪ねてきた吸血鬼に求められたら、血液を提供しなければならない。それも妻子もろともに――
この地に赴任してくるものはだれもが、50前後までの夫人か30前の娘か息子の嫁を、帯同してきていた。


3.

会社が半休になるという現象は、どうしてこうも勤め人という人種をウキウキとさせてしまうのだろう?
わたしはそそくさと会社を出ると、雪だまりを避けながら、足早に家路をたどる。
あたりはいちめんの、白、白、白。
路上も、屋根の上も、電信柱の半分も。
なにもかもが、白にうずもれている。
寒さに身を縮こまらせながらたどり着いた我が家の玄関先は、すでに雪かきが行き届いていた。


4.

ただいまあ。
ドアを開けると、むっとするほどの暖気にくるまれた。
寒い外から帰宅して、暖気に迎えられるというほど、安堵を誘うものはない。
はぁい・・・
妻の友里恵の声が、遠くからした。
わたしはコートを脱ぎ捨て、マフラーを取り去ると、まっすぐ茶の間に向かう。
こたつには、もうすっかりなじみになってしまった初老のごま塩頭。
よお、お帰りんさい。
顔をもたげてこちらを振り向いたのは。
農作業で夏場にたっぷりと陽灼けした赤ら顔――
わたしも妻も、彼のことを名前では呼ばず、「おっさん」とか「おじ様」とか呼んでいた。

ちょうどお茶が入ったとこだよ。
どてらを羽織ったおっさんは準備が良くて、
急須を取り上げると、わたしの分まで用意していた湯呑みになみなみとお茶をそそいだ。
ほれ、干し柿喰うかい?わしんとこで取れたやつ。
ぽんとほうられた干し柿を片手で受け取ると、もう片方の手にとっていた湯呑みに口をつけ、
それから干し柿をひと口かじる。
素朴な濃い味が、口のなかに広がった。

おっさんは飾り気なしに、思い切りストレートに本題に入った。
喉渇いたで、あんたらの血を飲ませてくれんかの?


5.

えっ?わたしの血もですか?
戸惑うわたしににじり寄って、おっさんは首すじに生臭い吐息を吹きかけてくる。
あ~、わりいの。
今朝はの、朝っぱらから魔羅が勃ってしょうがないで、友里恵さんさ抱きに来たで。
んだがおなごの身体さ愉しむ前にゃ、精をつけねばの、そんで、あんたの帰りさ待ち焦がれとったで・・・
化け猫みたいな息吹きはわたしの理性を痺れさせて。
わたしはいつもの癖で、つい小首を傾げてしまっている。彼が咬みやすいようにと。


6.

ちゅー。こっくん、こっくん・・・
男同士で抱き合って、なにしてんのよ。
友里恵は苦笑いしながらも、洗濯物を畳む手を休めようとしない。
痺れた首のつけ根から、生温かい血をぞんぶんに引き抜かれるのをありありと感じながら、
わたしはどうすることもできなくなって、おっさんに身体を預け切ってしまっていた。

ふー。

お互い同時にひと息ついて。
ぷははははっ。
おっさんはあっけらかんと、笑っていた。
眩暈が、ひどい。
事務所にやって来る吸血鬼のうち、もっとも多くの量を吸われるのがわたしだと、職場ではもっぱら評判になっていた。
さして若いわけでもないというのに、時には翌日休まなければならないほどに、わたしは多くの量を吸われていた。

風見さんの血は、きっと美味いんですよ。
後輩の重瀬が、もの分かりよさそうにそういった。
まんざらでもなかったのは・・・いったいどういう心理なのだろう?

わたしがこたつに脚を突っ込んだままぶっ倒れたのと。
友里恵が洗濯物をたたみ終わったのと。
ほぼ同時だった。

風見さん、悪りぃね。奥さんいただくよ。
あんたもう、わしの相手はようし切らんじゃろ?
おっさんは行儀悪くズボンの股ぐらを抑えながら、友里恵のほうへと迫っていった。

逞しいむき出しの腕を背中に廻されながら、友里恵がいった。
あっちでしてくるからね。
両手を合わせてごめんなさいポーズを取りながら、苦笑いをしていた。
気になったら、覗いてもいいからね。
羽交い絞めされて隣の寝室に引きずり込まれながら。
友里恵はこちらを振り向き、イタズラっぽく片目をつぶってみせていた。

ああッ・・・ずたん。ばたん・・・っ。

始まった。ああ、始まった。
妻がヒロイン演じる、真っ昼間のポルノビデオが。
そう、人妻の生き血を愉しむときは、性欲処理もしてしまうのが、彼らの礼儀とされていた。
あ~、たまらんな・・・
わたしも股間の疼きをこらえきれなくなって。
さっきまで貧血を起こしていたくせに、頭にムラムラと血をのぼせてしまって。
こたつから起ちあがり、夫婦の寝室を――四つん這いになって、覗き込んでいる。

汚されて、染められる。

2015年03月03日(Tue) 08:15:15

初めて吸血鬼の棲む邸に伴った妻は、純白のスーツ姿。
結婚記念日に新調したスーツを、初めて生き血を吸われ犯されるその日の衣装に選んだ妻は。
クリーム色のタイつきブラウスを惜しげもなく真っ赤に染めながら。
生き血を吸われ、犯されていった。

それからひと月かけて。
妻の持っているよそ行きの服は、一着また一着と、真紅に染められていって。
入れ替わりに、男の選んだ服を、身にまとうようになった。

ふた月後。
傍らに寄り添う妻が身にまとうのは、きんきらきんのミニのワンピース。
そのまえは、真っ赤なミニスカートだったっけ。
汚された妻は。衣装もろとも塗り替えられて。
男の色に、染められていた・・・

お礼なのかな・・・?

2015年03月02日(Mon) 07:54:50

紹介されたばかりの妻を。
やつは穴のあくほど見つめていた。
妻は気づかなかったけれど。
肌色のストッキングに包まれたふくらはぎを。
じとーっとした目で、見つめていた。

きっと、あの肌色のストッキングをブチブチと破きながら。
妻の生き血を吸いたがっているのだろう。
なにしろ、サッカーストッキングを履いた、男のわたしの血さえ、愉しそうに吸ったのだから。

わたしがおずおずと、彼に訊くと。まさに図星。。。
彼は手を合わせて、わたしに懇願する。
奥さんを襲わせてくれないか。
お礼は必ずするから。 と。
断り切れるわけはなかった。
だって・・・もう彼に血を吸い取られたあとだったから。

ちゅーっ。

いきなり首すじを咬まれ、白目を剥いて、他愛なくぶっ倒れた妻。
やつは得意満面、のしかかって、肌色のストッキングを穿いた妻のふくらはぎに咬みついていく。
そればかりではなくて。
ただ、ヲロヲロとするわたしの前。
やつは妻のことを、犯していった。。。

恩に着る。お礼は必ずするから。
やつはそんなことを言いながら、きょうもわたしを拝み倒して。
妻を誘惑し、誘蛾灯に引っかかったように妻は、今夜も黒のストッキングを、びりびりと咬み破かれてゆく。
恩に着る。お礼は必ずするから。
それにしても、奥さんいい身体しているんだね。。。

わたしの身体的欠陥のせいで、授かることのなかった子宝。
妊娠したと告げた妻は、その日もやつの誘いを断らなかった。

これは、ほんとうにお礼なのかな・・・?

妻を伴い、女装をして・・・妻の浮気相手に逢う。

2015年03月02日(Mon) 05:54:48

細いロープのように肩先に食い込む、スリップの吊り紐。
そのうえから、ふぁさっと覆うようにタイつきのブラウスを着込むと、妻は胸もとのリボンを器用に結んでくれた。
取り上げたフレアスカートは羽毛のように軽く、腰に巻きつけるとひざ小僧のあたりを頼りなく撫でた。
脚に通した黒のストッキングは、淡い脛毛を視界から遮って、なまめかしい翳りで足許を彩った。

上出来じゃない。

妻はわたしを頭のてっぺんから脚のつま先まで見つめると、そういった。
いままでの蔑むような感じは、どこにもなかった。
夫の女装趣味を知るや、嫌悪感もあらわに虫唾を走らせていたはずなのに。

ウィッグかぶると、けっこう女っぽくなるものね。
さあ行きましょ。いまさらあなたも、恥ずかしいことなんかないんでしょ?

妻はサバサバとそういうと、お気に入りの黒革のショルダーバッグを翻すようにして、肩に提げた。
もう三十分近く前から玄関先に到着していた迎えの車は、鈍いエンジン音を響かせている。


着いたのは、街はずれの大きな邸だった。
ここに来るのは、わたしは二度目。妻はなん度も・・・

妻が浮気をしている。
そんな匿名の告げ口をたよりに踏み込んだとき。
いつもよりずっと若やいだ雰囲気をまとった妻は、スリップ一枚でベッドにいた。
男もほとんど全裸だったが、その皮膚の色を見てわたしはぼう然とした。
死人のように蒼い、見たこともないような色だったから。
男はスッとわたしに近寄ると、いきなり首すじを咬んでいた―――


夫婦で奴隷になるわ。それしかないもの。
貴方も女になって、このひとに咬まれればいい―――

どちらに言うともなく毒づいた妻の言に、男は頷いて見せた。
男の口許には、わたしの身体から吸い取った血が、まだ濡れを帯びていて。
妻はそっと近寄ると、それをハンカチで拭って笑った。
記念に取っとけば?
謡うような口調には微かな嘲りを帯びていたが、わたしが吸い取られた血がしみ込んだハンカチをポケットにしまうと、ひと言だけ「それでいいのよ」と、真顔でいった。
最愛の妻を、吸血鬼の交際相手として受け容れる見返りに、わたしも女になることを許された。
ただし、妻の浮気相手に血を提供するためにという条件が附せられていたけれど。


死人のような顔色の吸血鬼は、物腰は柔らかで、応対も紳士的だった。

きれいな脚をしていらっしゃるね。

そんなことを言われて胸をときめかせてしまったのは・・・夫としては不覚であることに違いはなかった。

あなた、このお邸では女でいるんですものね。
この邸にいる女は、だれもがこのひとに服従しなければならないの。
血が欲しいと言われたら、生き血を吸われて。
身体が欲しいと言われたら、操なんか投げ出すの。
わたくし、このひとに抱いてもらったこと、後悔しないわ。
愛人に選ばれたことに、誇りを感じる。
あなたの奥さんが性欲のはけ口にされちゃうのも、なんだか小気味よくってよ。

妻の言い草のいちいちが棘になって、わたしの胸に突き刺さる。
棘の一本一本には毒が含まれていて、
その毒はわたしの身体をめぐる血液をも妖しく染めて、狂おしい衝動をかきたててくる。

縛らせてもらいますよ、マダム。

吸血鬼の手によって自分の身体に巻かれてゆく紅いロープが、網膜に妖しく灼きついた。
ギュッと縛られる感触に、どす黒いときめきを覚えて・・・わたしは思わず「うっ」と声をあげる。
食い込むロープに添ってしわ寄せられる純白のブラウスに。
反らせた足の甲に映える黒のストッキングに。
わたしの目線は惑いながらからみついてゆく。

吸血は、あっという間だった。
ストッキングを破りながらふくらはぎに咬みついた男は、そのあと首すじにも喰いついてきて・・・
獰猛に、わたしのことをむさぼっていった。
激しい貧血に眩暈を起こしてその場に倒れ込むと。
わたしは思わず、口走っている。
「やっぱり本当のお目当ては、家内なんですね・・・」
むらむらと湧き上がった嫉妬は、
妻を抱かれてしまうため?
それとも相手の男の寵愛が、別の女にあると知ったため・・・?

ホホホ・・・
妻は嬌声をあげながら、男に組み敷かれてゆく。
脚をじたばたさせながら、花柄のワンピースを自分からたくし上げていって。

やめろ。やめなさい。はしたないだろう・・・?
いやよ。やめないわ。あなたの奥さん、侵されちゃうの。嬉しいでしょう・・・?
いけない、いけない。そんなことは・・・
あらあ。なに仰るの?あなただって、昂奮しているくせにい。

せめぎ合う夫婦のやり取りが、いっそう昂ぶりを呼んでいた。
いつか、妻の身体に折り重なる身体は、ひとつだけではなくなっていた。
吸血鬼のつぎには、わたし自身が。
それから、どこからともなく現れた男たちが――ー

わしの気前のよいのを、恨まないで下されよ。
この連中は、あんたの同類でね。
わしに奥方を吸われたり寝取られたりした連中なのじゃ。
じゃから、多少のことは多めに見るがよい。
なに?知った顔がおるって?
安心せい。この場での出来事は、口外ご法度になっておるでの。
しかも、お互いさまじゃ。
こんどはあやつらの女房を、あんたが抱くことだってできるのじゃから。
もっともあんたの場合・・・どうやら人の女房を抱くよりは、自分の女房が抱かれるのを視ているほうが、ご満足のようじゃがの。

なにひとつ、否定できないまま。
わたしはその場に居合わせた男性全員に、妻を分かち合うことを強いられていった。
いままで経験したことのない、どす黒い歓びに身を震わせながら―――

木乃伊―ミイラ―のような人妻

2015年03月02日(Mon) 05:24:59

木乃伊(ミイラ)のように、痩せこけた女だった。
濃い茶褐色の皮膚は、常人のものではない。
そいつがゆっくりと、俺のほうへと向かって這い寄ってくる。
四つん這いのまま伝い歩きするような腕もひどく痩せこけていて、まるでコオロギの四肢のようだった。
その場を逃れようにも、ロープでぐるぐる巻きにされた身体は、身じろぎひとつできない。
むき出しの二の腕をグイッと引かれ、女は俺の首すじに唇を寄せてくる。
カサカサの掌だった。
まるで爬虫類に喰いものにされるような、かすかな恐怖がよぎる。
ぬるりと首すじに這った唇は思いのほか、柔らかかった。

女は、俺の首すじに圧しつけた唇に力を籠めた。
唇の両端から、尖った異物がにじみ出た。
そいつは強く咬みついてきて・・・鈍い痛みとともに、生温かな血潮が肩先にこぼれるのを感じた。

ずず・・・っ。じゅるう・・・っ。

女はナマナマしい音を洩らしながら、俺の血を吸い取っていった―――


ものの十分ほどの間だろうか。三十分は経っただろうか。それとも、もっと?
女は見違えるほど眩い、白い皮膚に包まれていた。
胸と二の腕は豊かな柔肌におおわれて、腰のくびれはキュッとセクシーだ。
さいしょに見た通りの女が、そこにいた。
女は裸体の男のうえにまたがり、腰と腰とを結び合わせている。

はあっ、はあっ、はあ・・・ん。

切ない上下動を、時には激しく、時にはしつように腰をくねらせながらつづけていって。
男は寝そべりながら女の身体を支配して、欲情のほとびをなん度も吐き出しているらしかった。
なんの因果で、こんなモノを見せつけられるのか。
全裸で縛られたままの俺は、強烈な貧血にあえぎながらも、ただげんなりとなって、そのいちぶしじゅうを見届ける羽目になっている。

うちの女房と寝ませんか?お代なんか要りませんよ。
私、特殊な欲求の持ち主なので・・・女房がほかの男に抱かれるのを見ないと、昂奮できないんですよ。

女房の裸です、と、男が見せてくれた写真は、いま目の当たりにする蠱惑的なプロポーションそのものだった。

うちのやつ、縛りが好きなんですよ。
しょうしょう不自由でしょうが、縛らせてもらいますよ。

男の言うなりに体を任せたのが、すべてのことの始まりだった。

こんどはあなたが、奥さんを紹介してくれる番ですね。

男はいい気なことをいいながら、俺の前でベッドをきしませ続けていて。
俺は俺で、二日酔いのようにけだるい貧血から立ち直ることができないで、ただげんなりと床に転がっていた。


ぱしぃん!
ほうほうの態で帰宅した俺を見舞ったのは、妻の平手打ちだった。

ひと晩、どこにいたって言うのよ?
親切なかたがいらしてね。
あなたが人妻と逢っていた・・・って、教えてくれたわ。
あたし今から、その人と会って来ますから!

昔から気の強い女だった。
白いスーツをきちっと着こなした妻は、頬を抑えて見送る俺に尻を向けて、
背すじをキリッとさせて、家から出ていった。


どういうわけか、追いつけなかった。
バス停では間一髪で、妻の乗り込んだバスに乗り遅れ、
やっと追いついた駅のホームでも、電車は一本あとだった。
ようやくたどり着いたのは、夕べ一夜を過ごしたあの街の駅。
白いスーツ姿はスカートのすそを邪慳にさばきながら、前へ前へと進んでいく。
いつになく大またで、シャキシャキと歩く妻。
それにしても、手の届きそうな距離まで詰めながらも追いつけないというのは、どういうことだろう?
夕べのきつい貧血が、まだたたっているのだろうか?
バタンと閉ざされたドアのまえ、俺は所在なく1時間近くも、佇んでいるよりほかなかったのだった。

ドアを開けてくれたのは、ご主人だった。

夕べは、どうも。

ぶっきら棒だったが、どこかうっそりとしたさえない様子だった。
じっさいに、この男の女房を抱いたわけではない。
木乃伊かコオロギみたいに干からびた彼の女房は、俺の生き血を吸い取って白い膚の女に蘇り、
まるでわざと見せつけるように、夫婦のセックスに耽り込んでいた。
だから、べつだん俺はこの男になんの害ももたらしてはいない。
むしろこっちのほうが、文句を言いたいくらいだった。

どうぞ。

男はなおもぶっきら棒に、俺を二階へと促した―――


ふたたび俺は、まる裸にされて―――
夕べと同じように、床に転がされていた。
部屋で出迎えたのは、男の女房だった。
夕べと同じ、きらきらと眩い白い膚をしていて、目には蒼みがかった妖しい輝きを帯びていた。
その眼を見つめた途端、俺は理性を喪っていて。
ただぼう然と立ちすくんだまま、首すじに抱きついてくる女の牙を、自分の膚で受け止めていた。
ちくん、と走る、微かな痛み―――俺は陶然となって、生き血を吸い取られていった・・・
気がついたときには、夕べの再現となっていた。
ただし夕べと違って、セックスに耽る全裸の夫婦の反対側に、意識を喪った妻が横たわっていた。
白のスーツのジャケットは、肩先にべっとりと血のりを光らせていた。

威勢のよろしい奥さんをお持ちだね。
さいしょの平手打ちは、わしもよけ切れなかったよ。
いや、いや。奥さんの非礼をわびることなんて、ないから。
その見返りに、奥さんの身体から・・・
うら若い生き血をたっぷりと、頂戴したからね。

妻のスーツ姿にのしかかっている男は、木乃伊のように痩せこけていて。
まるでツタが絡みつくみたいにして、妻の四肢に手足を絡みつかせていた。
なん度目か、圧しつけられた唇は、真紅の輝きにまみれていて。
男は賞玩するように妻の首すじを舐めながら、トクッ、トクッ・・・とかすかな音を洩らしながら、妻の生き血を吸い取っていた。

心配めさるな。
ご夫婦とも生かしたまま、家に帰してあげよう。
この女(ひと)は、わしにとってもかけがえのない女になるのだから―――

男の言い草に予感した不穏なものは、まさに予感通りの正体をあらわにしてゆく。
意識をもつれさせた妻は、ブラウスを脱がそうとする男の手を振りはらうと・・・
両手でブラウスに爪を立てて、自分で引き裂いていった・・・
ブラジャーの吊り紐がはじける音を。
唇と唇がクチュクチュとせめぎ合う音を。
吐息と吐息とが、重なり合って。
ずり降ろされた肌色のストッキングをふしだらに弛ませた脚が、床を這いずりまわるのを。
俺はただ、呆気に取られて見つめていた。

彼の奥さんは、彼ひとすじのようらしいね。
だから、あちらの奥さんとはセックスを愉しんではいないのだ。
そのかわり、しょうしょう血を吸い過ぎて、あんな身体にしてしまった。
あちらの奥さんの肉体をよみがえらせるには、男の血が必要なのだ。
いい奥さんでね。
浮気相手の奥さんを紹介してあげる・・・って、言ってくれたのさ。
それが、あんたの奥さんというわけ。
あんた・・・自分の女房がほかの男に抱かれると、昂奮する男だろう?

否定することなど、できはしない。
不覚にも昂ぶった股間を、男に抑えつけられて。
生ぬるい唇に、根元まで含み込まれていたのだから。
妻はただぼう然と、男ふたりの葛藤を見つめるばかり。
はっきり視られた―――
そんな実感がなぜか、狂おしい開放感を生み出して。
俺は男の口のなかに、激しく射精してしまっている。
唇に着いた半透明の粘液を手の甲で拭いながら、男は言った。

やっとわかったよ、こんなに仲の良いご夫婦に、子宝が授からないのが。
あんた、種なしだね?

ひたかくしにしていた診断結果を、俺は認めないわけにはいかなかった。

けれども、後継ぎはどうしても、要りようなんだろう?あんた、旧家の一人息子なんだから。

これも、頷くしかなかった・・・

安心しなさい・・・わしが孕ませてやるから・・・・・・

い、いけない!いけない!い・け・な・い・・・っ・・・

ふたたび妻にむしゃぶりついた男への呼びかけは、虚しく壁に吸い込まれてゆく。
放恣に身体を開いた妻は、ひとつ屋根の下執拗なセックスに耽る夫婦と競うように、熱っぽい抱擁を重ねてゆく。
布団のうえ、行く先を失くした俺の一物は、なおも半透明の粘液を布団に散らしつづけていった。


追記
挿絵などを、 ↓ コチラに載せてみました。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=49046838
「吸い取られてゆく妻」

妻と吸血鬼。  ~かつての仇敵は、今夜の友~

2015年01月26日(Mon) 07:34:41

だいじょうぶ。だんなはすっかり、手なずけてあるから。
ああ、もっとも奥さんは、まだ納得してないかもね・・・
先に熟練者の貴方がヤッたほうが、うちの主人も楽に愉しめるかもね。

妻の千佳子は饒舌に、男にそう伝えていた。
口を開くたびに頭の後ろで結わえた黒髪が上下するのを、わたしはぼんやりと見つめている。
相手の男は、吸血鬼。
つい半月ほど前に、夫婦ながら血を吸い取られてしまっていた。

血を欲しがるわたしのために、二人は示し合わせて獲物を見つけてくれている。
もちろん――やつのためでもあるのだが。

わたしの目のまえで、悶えながら血を吸い取られていった妻。
それがいまでは、自分や夫の血を吸い取った男と、打ち解けて言葉を交わし合っている。
それに・・・

あなた、ちょっと失礼するわね。
妻はサバサバと、そう言うと。
吸血鬼を手招きして、部屋の外に出ていった。
そのあとどうするのかは、わかっている。
廊下の月当たりの物陰で。
妻はピチピチとした肢体を男に預け、首すじを吸わせていた。

ちゅう・・・っ。ぐびっ。

ナマナマしい音が、忍びやかに。
廊下のこちらのほうまで、洩れてくる。

・・・・ったく、もう。しつこいんだから。

表向き尖った妻の声色も、語尾は甘く弛められている。
男はなおも飽き足らないらしく、妻の足許にかがみ込んで・・・
肌色のストッキングを穿いたふくらはぎに、意地汚いべろを忍ばせてゆく。

主人来ないうちに、早く済ませちゃって。

そんなことを言いながら。
わたしが陰から盗み見していることを、妻も知っているし、いまいましいことにやつも知っている。
ブチチ・・・ッ。
ストッキングの生地が弾ける、かすかな音。
太い裂け目がスカートのすその奥にまですべり込むのを苦笑いしながら、
妻はピンクのスカートを、抑えつづけていた。

それだけではむろん、済むわけがない。

あ・・・

みじかい叫びを残して、妻はお姫様抱っこされて、夫婦の寝室へと消えていった。

青春の日々には、彼女と膚を接するたびに息弾ませていたはずが。
いまはそのおなじ女が、夫の仇敵であるはずの男を相手に息弾ませているのを、夢中になって聞き入っていた。
恥を忘れて。
ただの男になって。
妻主演のアダルトなドラマを、ただただ昂ぶりながら、見守ってゆく・・・


妻の言っていたお宅にお邪魔をしたのは、その翌日の晩のことだった。
すみません、お邪魔しますね。
すっかり慣れてしまったわたしは、相手のご主人に、悪びれもせずに声をかけている。
ああ・・・ええ・・・
ご主人、どうやら妻を抱かれるのは初めてらしい。
要領を得ない受け答えに、落ち着きなく泳いでいる目線。
すでに奥さんを咬んでしまった口許に散った血のりを、やつはにまにまと笑みながら手の甲で拭っている。

早く行きなよ。
遠慮することはないんだぜ。
なにしろ相手は・・・自分の女房の浮気相手の奥さんなんだから。
女房がたらし込んだのは、パート先の上司だった。

夫婦の寝室と呼ばれる薄闇のなかで、くゆらぐ熟した芳香に。
わたしはわれを忘れて這い寄って、スリップ一枚にひん剥かれた奥さんに、のしかかっていった。

吸血鬼のおっさんは、すでにもっと旨みのある果実を手中にしている。
この家の娘らしい。いやもちろん、さいしょから娘目当てにその父親に対して、妻にモーションをかけさせたのだろう。

安心をし。
いい子にしていれば、すぐ終わるからね。
見え透いた作り声に怯えながら、ブレザー制服の少女は声を失って。
紺のハイソックスのうえに忍ばされた牙を、埋め込まれてしまっていた。

ご主人は侵されてゆく妻と娘を交互に見やりながら、後ろからにじり寄った妻に、頭を撫でられている。
わたしもあんなふうだったのかな・・・
憐憫と共感と、ぎらつき始めた支配欲を抑えかねながら。
息弾ませる奥さんのうえに、わたしは昂ぶる一物を押しつけていった・・・

生き血を吸われた人妻が、着衣を汚されることの意味

2014年09月18日(Thu) 07:56:50

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ああ、それなのに・・・
妻の美しさを褒められて有頂天になったわたしは、
首すじにつけられた傷の疼きに耐えかねて、
妻の自慢のワンピースを汚すことに同意してしまっていた。

みずから脚を差し伸べて、肌色のパンストを咬み破らせていった妻―――。
いまでも苗字を変えずに同居してくれている彼女は、きょうもウキウキと、夫を裏切る逢う瀬に出向いていった。

思いやり?

2014年07月24日(Thu) 08:08:09

勤め先から帰宅したら、妻がほかの男とセックスしていた。
かなり熱中しているみたいで・・・まゆ毛を八の字に寄せて、がんばっていた。
邪魔するのもなんだなあ・・・
視ているのもなんだなあ・・・
ちょっとだけ覗きを愉しんだ後、二人きりにしておこうと、家を出た。

暗い窓の向こう側。
ピンク色の吐息が見えそうだった。

所在無げにタバコをふかしていると。
あの。
後ろからおずおずと、声をかけられた。
はい?ってふり返ったら、さっきまで妻の上にまたがっていた男が、小さくなっている。
これ・・・奥さんから。
手にしているのはほっこりとした、さつまいも。
レンジでチンしたから、渡してくれ・・・って。

悪いですね。
いえ、こちらこそ。

男ふたりで、きまり悪そうに黙りあって。
もぐもぐとさつまいもをほおばっているわたしに、男はなにか言いたそうだった。
ああ、そういうことか。律儀な人だな。
気遣いばかり多そうな、いかにも世渡り下手そうな男の、ぶきっちょそうな作り笑顔に会釈をかえして。

つづき、どうぞ。

すすめてやった。

すんません。も少し奥さん借ります・・・

男は背中を丸めて、わたしの家に入っていった。

にわかに携帯が軽く身震いをして、着信の灯りがホタルのように闇に滲んだ。

嫌じゃなかったら、入って来てくださいな。カゼをひかないように。

はい、はい・・・
施錠された扉をあけて、リビングに上がり込む。
真上は、夫婦の寝室。
ぎしぎしときしむ微かな音は、どう考えても子守唄にはなりようがなかった。

男友達に逢いに行く。

2014年07月20日(Sun) 09:05:19

「亭主にね、言っちゃったんだ。出てくるときに。”男友達に逢いに行く”って。」
紗也香さんはそういうと、イタズラっぽく、くすっと笑った。
僕は仰天して、屈託なくほほ笑む紗也香さんの丸顔を、まじまじと見つめるばかり。
「だってあたしたち、友達でしょ?だからこんなこと、しているんだよね?」
紗也香さんの首すじには、咬み傷がふたつ、綺麗に並んでいる。
さっき彼女を抱きすくめたとき、僕が咬みついた痕―――そこにはまだ、吸い残した血しおが、ほんのりと滲んでいた。

見ず知らずの男に襲われて、生き血を残らず吸い尽されてしまった後。
それでも生きているということがわかって、こみ上げてくる喉の渇きに、自分がこれからどういう生きかたをしなければならないのかをわかってしまって―――そのとき真っ先に狙いをつけたのが、紗也香さんだった。
余暇を利用して参加していた、同好のサークル。
僕を含めさえない年配者がめだつそのなかで、30そこそこの紗也香さんの若さと明るさと才気とは、周囲を圧倒するものがあった。
あの生命力が欲しい―――
そんな渇望が、理性を越えて、紗也香さんの後ろ姿に知らず知らず手を伸ばしていた・・・

吸血鬼になってからも、仕事には出ていたし、サークルにも出席していた。
帰る方角がおなじ紗也香さんと僕は、寄り道をしてよくお茶をしていたけれど―――しいて変わったといえば、そこだけだった。
僕がお茶よりももっと濃い飲み物を必要としていることを知った彼女は、自分が飲むのはあきらめて、僕だけに飲ませるようになっていたから。

「友達だよ―――ね?」
紗也香さんは人懐こい笑みを泛べた顔を近寄せて、僕の顔を覗き込む。
そう。そうとしか言いようのない関係―――血を吸ったり吸われたりしているのに、僕たちは友達。
僕がゆっくりとうなずくと。
もっと吸ってもいいんだよ、と、紗也香さんは血の滴る首すじを指さした。
明日はお仕事休みだから、と、つけ加えて。
ボーダー柄のTシャツに、デニムのスカート。軽々ウェーブした茶髪をなびかせて笑う彼女には、ラフな服装もぴったり決まる。
「女子高生みたいでしょ?」
紗也香さんはそういって、黒のハイソックスの足許を、恥ずかしがってすくめた。
僕はだしぬけに彼女の足首をつかまえて、ふくらはぎを吸っていた。
厚手のナイロン生地のしなやかな感触が、僕の舌先をスッと撫でる。
「あっ、ヤラシイ・・・」
紗也香さんは口を尖らせて抗議をしたけれど、本気で怒ってはいなかった。
逢うたびにふくらはぎに咬みつく僕のために、持っていたストッキングが全部破けてしまった彼女は、代わりに履いてきたハイソックスも、おなじように愉しませてくれるつもりらしかった。

念を入れてもう片方の脚にも咬みついて、黒のハイソックスに穴をあけているあいだ。
彼女は壁に上背をもたれかけて、窓越しに外を見つめていた。
なにか見えるの?
吸い取った彼女の血を手の甲で拭いながら、僕が訊くと。
「うん・・・ダンナ見に来てる」
紗也香さんはこともなげに、そう応えた。
「外は風強いね、寒そう」
ちょっと気の毒そうに呟く紗也香さんに、僕は思わず応えていた。
「寒いから、中入ってもらおうよ」

「奥さんに、お世話になってます」
僕が小さく縮こまってやっとの思いで、そういうと。
「いえ、家内がお世話になってます」
ご主人も僕に劣らず小さくなって、似たようなことを応えてきた。
紗也香さんは笑いをこらえた顔をして、面白そうにご主人と僕とを見比べている。
あの・・・
彼女に声をかけたのは、僕のほうだった。
「・・・面白がってます?」
とたんに彼女は笑いをはじけさせた。
「なんか、お見合いみたいー。二人とも、いつもらしくないー」
開けっ広げに笑う彼女の声が、気づまりな空気を残らず、吹き飛ばしていた。

吸血鬼が結婚している女の人の血を吸うと、その・・・セックスしちゃうって聞いたんですけど・・・
ご主人は言いにくそうに、しどろもどろに切り出した。
そう、きっと彼はそれが気になって、木枯らしのなかここまでやって来たのだろう。

男友達、という以上、相手は男なのだろう。
友達、という以上、そこには敵意は含まれていないのだろう。
どういうきっかけか、妻は自分以外の男と知り合いになって、
その男は吸血鬼なのに、逢っていて。
求められるままに血を吸わせる関係になっている。
そして多分、それ以上のことも・・・・・・・・・・・・
憶測はきっとそこまで延びて、臆病な足取りを止めたに違いなかった。

たしかに、そういうしきたりになっていた。
この街に棲み着く吸血鬼は、人を殺さない。
望んだ者以外、吸血鬼になることもない。
けれどもその代価として、女たちは貞操を要求された。
処女の生き血は尊重されたが、人妻はたいがいの場合、その場で男女の関係を結ぶはめになっていた。
たいがいの人妻たちはしっかり者で、そんな目に遭ったあとでも、びっくりするほどサバサバとしていたけれど。
僕が吸血鬼になったのは―――僕を襲ったやつが、僕の血を吸いながら、僕の心の奥まで読み取ったからに違いない。
吸血鬼になって、紗也香さんの血を吸いたい。
それが僕の、心の奥底に眠っていた強い願望だったから。

すでに彼女の血を吸うようになってから、ひと月が経過していた。
妻の行動がいつもより変わったのがその時期だと、ご主人も分かっているに違いない。
そう、サークルからの帰りが目だって遅くなっていたはずだから。
血を吸われたあと、彼女は身づくろいをして、それからご主人に顔を見られてもなにも起らなかったと言い張ることができるくらい顔色が戻るまで、僕といっしょにいたのだから。

血を吸われた女性は、セックスをすると、吸血鬼の活力を受けてほんの少しだけ、顔色を取り戻す。
彼女ももちろん、それを知っていたけれど―――僕たちのあいだには、そういう関係はまだ存在していなかった。
彼女は手の届かない人、高嶺の花。
四十を過ぎて独り身の僕は、いっしょにお茶をしてもらうだけでもよかった。
血を吸うことで彼女を愛することができるのに、このうえ夫を裏切らせることまで、どうしてすることができるだろう?
この齢になって・・・僕はどこまでも潔癖だった。
きっとこんなやつだから、女たちはだれも、僕に振り向こうとはしなかったのだろう。
けれども彼女の目線は、ほかの女たちとはちょっと、違っていたのかもしれなかった。
ご主人のいるひとに、そんなことを・・・と尻込みする僕を、
吸血鬼になったくせに、遠慮深いのは変わらないんだね。
彼女は笑ってぼくをからかって―――さいごに言った。「感謝するわ」


つまり・・・その・・・貴男は家内と・・・そういう関係に・・・?
しどろもどろの質問は、回答をじれったく待ちかねるように、おろおろと続いていた。
夫の質問を遮ったのは、またしても紗也香さんだった。
「ばっかねえ」
よどみのない、はっきりとした声色だった。
「してるに決まってるじゃない」
えっ?と驚いて振り向く僕に、紗也香さんは厳しい目線を返してきた。「なにも言うな」というように。
「それを知りたくて、ここまで来たんでしょ?だったらふたりとも、男らしくはっきりしなさいよ。
 あたしとしては・・・だんなが彼氏を一発ぶんなぐって、それでおあいこにしてもらいたいんだけど。
 なんならあたしのことも、平手で叩いちゃう?」
屹っとなった横顔が、窓から洩れる陽の光を受けて凛と輝いた。

「なぐってください。たぶんそれだけじゃ、すっきりしないと思うけど」
僕はご主人のまえに進み出て、頭を垂れた。
知らず知らず、平手で叩かれてしまうかもしれない彼女とご主人の間に入った形になっていた。
ご主人は僕よりも年若で、しっかりした目鼻立ちをしていた。
見るからに頭もよく、僕よりも逞しい身体つきをしていた。
決して派手な服ではなかったが、センスの良いものをこざっぱりと着こなしている。収入もたぶん、僕よりも上。
男として、あらゆる点で、僕よりも優位に立っていた。
ただひとつ、妻を寝取られている、ということを覗いては―――
「わかりました」
ご主人はむしろ悲壮な顔をして、僕をなぐろうとするためにこぶしを握り固めた。
けれどもそのこぶしが、僕に向かって振り下ろされることはなかった。
逡巡して宙を迷ったこぶしは、振り下ろされることなく力弱く彼のひざに落ちて、力を喪った。
「残念ですが、なぐれません」
人をなぐったことがないので、と、ご主人は意外なことを言う。
たしかにスポーツで、身体は鍛えましたがね。スポーツは、相手をなぐっちゃだめなんですよ。
なるほど、と、僕は納得した。男ふたりの目線が、初めて交わりを持った。
生命力のみなぎったまなこに、自信をそがれたみじめさはない。
「お友達、そういうことで理解しましょう。わたしは先に帰りますので、あとはごゆっくり」
最後のひと言は、自分の妻に与えたものだった。

玄関までご主人を送り出した紗也香さんは、さすがにひと息ついて。
「白けちゃったかな?」
やはり面白そうに、僕の顔を覗き込んだ。
「なんであんなこと言ったの?」
「え?」
ストレートに訊きかえされると、かえってこちらのほうがしどろもどろになってしまう。
「僕とやっている・・・なんて」
「あれでいいのよ」
紗也香さんはみじかくそう応えると。
「きょうこれから・・・ほんとうにしよう」
「えっ!?」
「しちゃおうしちゃおう!逢うときだけは、あたしがあなたのお嫁さんになってあげる」
あのひとのこと気にしなくっていいのよ、うちの亭主だって、外ではもてもてなんだから。
くやしいから浮気してやるんだって、ずうっと思っていた。
親友同士みたいに仲の良い夫婦。一見二人は、そう見えたけど。
案外それは、本音だったのかもしれない。

彼女はゆっくりとTシャツを脱いで、デニムのスカートのすそを、ちょっとだけたくし上げる―――
それが合図だった。
僕は獣のように、彼女を押し倒していて。
熱い呼気をはずませ合って、互いに互いの唇を、むさぼり吸った。
紗也香さんの唇は、尋常のしつこさではなかった。
このひとが吸血鬼になったら、どんな男でもいちころだろうな―――あり得ない想像をしながらも、僕も夢中になっていた。
紗也香は僕の女。紗也香・・・紗也香・・・
甘く匂う茶髪を掻きのけながら、もはや牙で酔わせる必要のなくなった首すじに、なまの唇を這いまわらせる。
ふたりは甘い言葉を囁き交わしながら、それでも紗也香さんは時々、どきりとするような露骨な言葉を口にした。
「あなた、ごめんなさい。紗也香は別の男の性欲処理に夢中なの」
「シンジさんのお〇ん○んって、あなたのよりもおっきいの!」
「あなた、見て、見てえ・・・紗也香、乱れちゃうっ!」
窓辺にたたずむ人影を、男も女も意識しながら。
熱っぽくもしつように絡みつく視線が、ふたりの”友情”を必ずしも厭うていないことを、確かめ合いながら。
帰りが遅いと夫が気をもむ気遣いを忘れて、自分のなすべきことに熱中していった・・・

「奥さんのことは、ご心配なく」by妻の彼氏

2014年05月07日(Wed) 05:38:26

連休も終わって、単身赴任の任地に戻る日が来た。
「気をつけてね」と、妻。
「奥さんのことは、ご心配なく」と、リョウタくん。
リョウタくんは、結婚前からの妻の交際相手。
処女をゲットしたのも、もちろん彼のほう。
「ああ、よろしくね」
ぼくはリョウタくんとハイタッチして、ふたりは白い歯をみせて笑い合った。

閉めたドアの向こう側。
さあ、愉しんじゃおうっ。
妻の声が、はずんでいた。
すべてを容認している関係とはいえ・・・この瞬間だけは、寂しいな―――と思ったとたん。
携帯の着信音が鳴った。
ディスプレーを覗くと、発信人は妻。
「愛しているからね。チュッ」
ですと。
決してからかい文句などではなくて。
これもまた彼女の、真摯なまでの本音であるのは、ぼくもリョウタくんも認めるところ。
「愛しているからね」
妻の声色までがまざまざと、胸の裡によみがえる。

あらかじめ用意していたメッセージを送信したとたん、
妻は携帯を手放して。
さっ、愉しもうっ。って。
息を弾ませていることだろう。
わたしからの返信が届いたランプが点滅するのもお構いなしに。

「彼氏によろしく」
独り取り残されたメッセージを妻が読むのは、あくる朝・・・?

”吸血病”にゆだねられた街 ~六軒の家々の人妻たち~

2014年04月21日(Mon) 07:27:05

“吸血病”の吹き荒れる街で―――
ある住宅街のひと区画が、1人の吸血鬼に割り振られた。
その家の住人たちは、その吸血鬼の自由な訪問にさらされて。
自らの意思とかかわりなく、生き血を吸い取られる憂き目に遭うよう、運命づけられていった。

吸血鬼は男性で、人妻が好みのようだった。
そしてどの家にも、20代から40代の主婦が、必ず一人は住んでいたのだった。

さっそく侵入を受けた一軒目では。
あれよあれよとうろたえる、夫のまえで。
首すじを咥えられた30代の妻が、白目を剥いて。
チュウチュウ音をたてて、生き血を吸われていった。

つぎの日の晩、侵入を受けた二軒目でも。
40代の夫婦が、夫婦ながら血を吸い取られ、
奥さんはご主人のまえで、吸血鬼とセックスをした。
年頃の息子が、視ているまえで。
不健全な性教育が、強制的に施されていった。

三軒目は、新婚家庭だった。
ほかの二軒でそうしたように、地酒をぶら提げて訪れた吸血鬼を、若夫婦はどうすることもできずに、迎え入れていった。
まず若い夫が新婦の前で、血の吸われ方のお手本を見せるはめになり、
薄ぼんやりとなった夫のまえで、若妻も生き血を吸われ、セックスを強いられた。
恋人同士のセックスよりも、グッと濃厚ないやらしさをよぎらせる新妻の肢体に。
夫は激しい憤りと、深い嫉妬と、しまいに妖しいマゾヒズムとに理性を押し流されていって。
思わず覚えた失禁に、妻を苦笑させていたのだった。

四軒目の夫には、女装趣味があった。
妻の身代わりにと女装をして吸血鬼の相手をしたけれど・・・
やはり奥さんも狙われて、セックスされてしまった。
それ以来。
夫婦ながら、女の服を着て、吸血鬼を迎えることが。
この家の習慣になっていた。
妻に隠れて愉しんでいた後ろめたい趣味が。
いまは妻の健康を救うための方便として、妻に認知されるようになったことに。
夫はわずかながらの僥倖を、見出していた。

五軒目には、年頃の娘がいた。
父親のつぎに薄ぼんやりとなった娘の身体から、
処女の生き血を美味そうに啜り取ると。
娘の生き血をしたたらせたままの牙を奥さんに向けて、
娘さんはあんた似だな・・・?とか囁きながら、挑みかかっていった。
気絶した家族が横たわる傍らで、奥さんはスカートをせり上げられていった。
父親は薄ぼんやりとなりながら、自分の妻子がみすみす母娘丼を遂げられてしまうのを。
ひそかな昂ぶりを感じながら、見守っていた。

六軒目。
愛妻家で知られた夫は、「妻だけは襲わないでくれ」と懇願したけれど。
「気の毒だが、お宅だけ例外というわけにはいかないのだよ」
吸血鬼はまず夫の血を吸って、それから奥さんの血を吸い取って。
「奥さんの血は、おいしいね」
薄ぼんやりとなった夫にそう囁くと、うっとりしている妻とセックスをした。
意思を喪った妻が、無抵抗に抱かれていくのを、夫は悔しそうに見守っていた。
「うちは最後だったみたいだから、見逃してくれるのかと思っていた」
「それは甘いよ。ご近所のみんなから、仲間外れにされちゃうよ。」
「どうしてうちが最後だったの」
「おいしい獲物は、さいごまでとっておくものさ」
そう聞いて初めて、夫は納得したようだった。
「お願いだから、妻を奪わないでくれ」
そう懇願する夫に、
「きみの奥さんのまま、犯しつづけるさ」
吸血鬼はそういうと、もういちど奥さんのおっぱいにむしゃぶりついていった。

人妻たちのブラウスははだけられ、ワンピースの襟首には血潮が滲み、スカートの裏地は吸血鬼の淫らな粘液に彩られる。
きちんとセットされた髪は崩されて、栗色の毛先は精液に濡れた。
唇という唇はいたぶりをうけて、むき出された白い歯は、愉悦を滲ませる。
乳首という乳首はしつような唇に呑み込まれ、淫らな唾液を光らせてゆく。
火照った素肌は血を抜かれ、それでもあられもない痴態だけは、飽きることなく営まれ続ける。
女たちの足許を染めていたストッキングは、みるかげもなく引き破られて、名誉が奪い尽されたことを、いっそうきわだたせてゆく。

この街は、いまでも何ごとも起らなかったかのように。
表向きは平穏な生活を、送っている。
一軒目のご主人は、自分の妻が真っ先に狙われたことを誇りに感じていたし、
二軒目のご主人は、性に目覚めた息子が母親に挑みかかるのを、むしろけしかけて愉しんでいた。
三軒目の新婚妻と、四軒目のベテラン主婦とは、吸血鬼との間の子を孕んでいた。
若い夫はそれでも大事に育てると誓っていたし、
女装の夫は妻が妊娠中、自分が妻の代役をすると、張り切っていた。
五軒目では、娘が初体験の儀式を遂げていた。
処女を奪われてゆくまな娘の両側に控えた両親は、娘の手を握りながら、初体験の恐怖におびえる娘を励ましつづけていた。
六軒目の妻は、今朝も朝帰りだった。
スカートの裏地にどっぷりと、情夫の精液を滲ませて。
けれども愛妻家の夫は、以前のような独占欲の塊ではなくなっていて、むしろ妻の浮気を歓迎していた。
最愛の妻の肢体を吸血鬼と分かち合うことが、歓びになってしまっていたから―――

真夜中に勤めに出かける妻。
下校してすぐに勉強部屋に、家庭教師を呼び入れる娘や息子。
リビングで夫がお茶をしているあいだ、夫婦の寝室でひそかな吐息を洩らす妻。
どの家も・・・表向きの平穏に、包まれている・・・



メモ:4月17日構想、21日加筆。

”吸血病”余話  体育館の片隅で ~息子の血を吸った少年の父親と~

2014年01月27日(Mon) 06:34:37

野見山渉(わたる)が体育の授業のさいちゅうに、
吸血鬼化した同級生の力武に初めて咬まれていたとき。
そのようすを物かげから見守る、ふたつの人影があった。
ひとりは血を吸うものの父、もうひとりは血を吸われるものの母だった。

おー。あいつもなかなか、やるじゃない。
同級生たちを組み敷いて、つぎつぎと首すじを咬んでいく息子の姿に、
父親は涼しげな目線をそそいで、息子の奮闘ぶりをたたえていた。
あっ。さいごがお宅の、息子さんか・・・
傍らの女が気にするようなことを、男はあっけらかんと口にする。
思ったことは何でもずけずけと口にするが、悪気はない。
どうやらそういうタイプの男のようだった。

渉の母親の野見山彩夜(さよ)は、そんなふたりの少年たちのようすを、表情を消して見つめつづける。
どうやら観念したらしい息子が自分から体育館の床に寝そべり、目を瞑るのを見て。
ちょっとだけなにかを言いたそうに口を開きかけて、
けれども傍らの男の視線を感じると、いちど開きかけた口を、また噤(つぐ)んでゆく。
目のまえの息子は、身体じゅうのあちこちを咬まれて、生き血を吸い取られていった。
ほかの男子たちと同じように、抵抗のそぶりひとつみせないで。
立て膝をして、すり足をして。そんな動作さえもが、緩慢になっていって。
時おりけだるげに芋虫のように寝返りを打ちながら、
体操服の襟首に赤黒いほとびを散らし、赤いラインの入ったハイソックスにも同じ色のシミを拡げてゆく。
三人居合わせた男子のうち、首すじを咬まれたのも、ハイソックスにシミを拡げたのも、息子がさいごだった。

どうやらあいつ、息子さんの血がいちばんお気に召したようだね。
独りごととも話しかけているともつかない態度で息子の”活躍”を褒めちぎっていた傍らの男は、
初めて正面切って、彩夜に話しかけてきた。
どうやらそのよう・・・ですねぇ。
彩夜は仕方無げに、ほほ笑んでいた。
全くあの子ったら、初手からあんなに大人しく餌食にされちゃって・・・
親の血を引き継いだ息子が、その血を惜しげもなく吸い取らせていってしまうのを、
悔しいともあっけなさ過ぎるとも、なんとも名状のしがたい想いで見守りながら。
自家の血を親子ながら吸い取られてしまうことへの悲哀や切なさと、
その血が相手の親子を愉しませていることへのある種の不思議な誇らしさとを、
彼女は同時に感じていた。

蔓延する”吸血病”に、街ぜんたいが支配される。
行き着く先が明らかになったことが、彼女を諦めへと導いていた。
ほぼ同時に、夫がだれかに咬まれ、会社のOLや同僚の妻を相手に吸血に耽っていることも、彼女の背中を押していた。

うふふ。たまんなくなってきた。
男はちょっぴりだけ、痴愚な顔つきになっている。
女はすぐにそれとさっして、よそ行きのロングスカートのすそを、軽くたくし上げてやった。
彩夜の足許を染めるのは、脛の透けるように生地の薄い、黒のストッキング。
ふだんは肌色しか身に着けない彼女は、男と逢うときだけは、相手の好みに合わせていた。

ふだんから身なりをきちんとすることを心がけていた彼女は、あの日もスーツ姿でPTAの会合に出向いていた。
昨日までは工務店を経営している気さくな同級生の父親が、顔色を蒼ざめさせて変貌していたのを見て。
いっしょに会合場所を訪れた、香坂朋恵の母親とふたり、顔を見合わせて。
男はちゅうちょなく、現れた女ふたりを餌食にしていった。
ふたりの首すじを咬んで、意思を支配してしまうと。
男は尻もちをついた女たちの足許に這いつくばって、ストッキングを穿いたふくらはぎをいやらしく舐めはじめた。
穿いていた肌色のストッキングをブチブチと噛み破かれながら血を吸われて、
彩夜はそのときようやく、血を吸われた女は相手の吸血鬼に征服されるという噂を、思い出していた。

観念し切った顔をして吸血された香坂の母親がぐったりとなると。
自分の血は香坂夫人以上に時間をかけて啜られるのを、彩夜は感じた。
その日ふたりの婦人は貞操を喪ったが、
自分のほうがたしかに、回数が多かった。
彩夜はしっかりと、男の寵愛を実感した。
夫以外は初めてだったはずの身体が躊躇ない反応をすることと、
起きあがった自分が香坂夫人ともども、落ち着き払って身づくろいをしてしまったことに戸惑いつつも。
彩夜は男に向かって、つぎの会合の予定は明日でもかまわないと、よどみなく口にしていた。
もの分かりのよい彩夜の態度に目を見張った香坂夫人もまた、
同じ時でも、二人だけでお逢いしてもいいですと、口にしていた。

息子のクラスの体育の授業は、すでに体育館から校庭に移動していた。
けれども吸血に耽る四人の男子はそのまま体育館に居残っていた。
教師はそれを、注意しなかった。
息子が同級生の少年に生き血を吸い取られてゆくのを目の当たりにしながら、
彩夜は息子の血を吸っている少年の父親に、黒のストッキングの脚を咬まれていった。

ずぶ・・・
ふくらはぎを冒す尖った犬歯が、微妙な痛痒さを伝えてくる。
薄地のナイロン生地がぱりぱりと裂けて、足許を締めつける緩やかな締めつけがほぐれていって、
ひざ小僧が露出するほどに裂け目が拡がるのが、なぜか小気味よく思えてならなかった。
礼儀と常識だらけの日常から解放されるような・・・一種不思議な感覚だった。
女は気前よく、もう片方の脚も差し伸べて、
ご丁寧にもロングスカートをたくし上げて、ストッキングを破らせてゆく。
墨色に染まった女の脚が、男の慾情をくすぐるのも承知のうえで、女は黒をまとってきた。
少年が息子の血を吸い終えるまでのあいだ、彩夜は立ちすくんだまま、少年の父親への供血をつづけた。

少年たちが立ち去ると、ふたりは体育館のなかに入っていって、
彼らが愉しみに耽っていたあたりに、足を踏み入れた。
吸血の現場を隠ぺいするために少年たちが行ったモップがけは、かなり雑なものだった。
彩夜はさっきまで息子がいたあたりにしゃがみ込むと、わずかに残った血のしずくに見入っていた。
息子のものらしい血のしずくは、まだ乾ききっておらず、ひっそりとした輝きをたたえている。
女は指先でそれを掬い、唇へともっていった。
かすかなほろ苦さが、母親の鼻腔を衝いた。
あたりに散っていた息子の血をすべてそのようにして舐め取ってしまえたのは・・・
彼女のなかにも吸血衝動が目ざめてきたからなのだろうか?

彼女がそうしているあいだ、男は体育館の倉庫から、マットを一枚引きずってきた。
なにをしたいのか、よくわかった。
つぎの授業があるのかないのかすら、訊かなかった。
そういうことは日常的に行われていたので、
教師たちは見て見ぬふりをしていたし、生徒たちも教師の指導に大人しく従っていた。
息子が血を吸い取られたその場所で、母親は息子の血を吸った少年の父親に、ブラウスを剥ぎ取られていった。
いけませんわ。主人に悪いわ。
彩夜は口で男を制しながらも、その場で姿勢を崩し、男が自分の素肌を吸いやすい姿勢を取り、唇を重ね合わせてゆく。
自分のセリフが単に、罪滅ぼしや情婦をそそるためのものに過ぎないことを、すでに十分に理解していた。
ロングスカートの奥に荒々しく肉薄してきた逞しい腰が、女の局部を冒したとき。
虐げられる歓びが、女の身体の芯を突き抜けた。

未亡人の身の処しかた。

2014年01月25日(Sat) 06:56:58

左戸崎俊二がなくなったのは、59歳のときだった。
難病の末とはいえ、早すぎる死だった。
彼の死をもっとも悲しんだのはもちろん家族だったが、
おなじくらい悲しんだのは彼の子供たちをたぶらかしていた吸血鬼だった。

左戸崎の息子と娘はそれぞれ成人し、結婚して独立していたが、まだ少年少女のみぎりから、彼の毒牙にかかっていた。
左戸崎はふたりの子供を守ろうとけんめいだったが、彼らが自発的に血を与えるようになったのをみて、子供たちと吸血鬼の間に割って入ることをあきらめるようになった。
吸血鬼が息子や娘に対して自らの欲求を満たすためだけに近づくのではなく、心から打ち解けた関係になったのを知ったからだった。
「あくまで”和解”ですよ。”降伏”ではないですからね」
さいごに観念して自分の首すじを吸血鬼に咬ませるときまで、左戸崎はそう言い張りつづけていたし、
吸血鬼も決して、彼のプライドをないがしろにするような言動をとることはなかった。

やがて左戸崎の娘は吸血鬼を相手に処女を喪い、息子もまた結婚を控えた婚約者を紹介して、挙式前夜に花嫁の純潔をプレゼントした。
娘の夫となった男性も、娘と吸血鬼との交際を知った上でのプロポーズで、結婚後のふたりの交際を淡々と認めていた。
自分たちの最もたいせつなものを与えることで、結婚後も彼との関係をつづけ、深めることができたことに、ふた組の夫婦は満足を感じていた。

けれども左戸崎の妻だけは、やや例外に属していた。

「家内だけは、勘弁してください。お願いですから」

左戸崎はなんといわれても、自分の妻のひろ子だけは、咬ませまいとしたのだった。
ひろ子自身はもちろん、子供たちの血を吸っている男のことを不気味におもい、恐怖に感じ、いとわしい存在として避けていたが、夫と同様の理由から、やがてそういう嫌悪の情を感じなくなっていた。
夫までもが咬まれたときには、つぎは自分の番・・・と密かに覚悟さえ決めていたのだが、夫の懇願を吸血鬼は尊重して、彼女が40を過ぎるまで決して、彼女に近づくことはなかった。

転機は、数年後に訪れた。
ある日左戸崎の血を吸った吸血鬼は、彼の血の味に異変を訴え、病院での受診を強く勧めたのだった。
血を吸うことで相手の病気を予知する能力を持っていることがわかると、左戸崎はしぶしぶではあったが、吸血鬼に彼の妻の血を吸うことを認めたのだった。
彼がそこまで妻に対する吸血を渋ったのは、彼らが既婚の女性を襲うときには必ず、その女性を犯すとしっていたからだった。
「あんたがうちの家内に執心なのは、よくわかっています。けれどもどうかそれだけは、勘弁してもらいたい」
左戸崎は吸血鬼にそう訴えつづけ、吸血鬼は彼の願いを容れつづけていた。
じっさい彼がいちばん執心していたのは、左戸崎の娘でも、息子の新妻でもなく、ずっと年配のはずのひろ子だったのだが。

初めてひろ子のことを、吸血鬼にゆだねるとき。
左戸崎自身も同席して、妻が血を吸われるのを見守った。
そして、意中のひとを抱きとめた吸血鬼がつい夢中になって過度に吸いつづけそうになったり、妻自身がうっとりとなって血を吸わせつづけそうになると、「そこまで!そこまで!」と、強く制止をかけるのだった。
吸血鬼の妻を守り通すという、ほかのだれにもできないことを、彼はずっとつづけ通したし、
吸血鬼もまた、ひろ子の病気予知に必要な量の血だけで、満足していた。
「健康診断」の名目であっても、彼が最愛の妻の血を許してくれたことに、じゅうぶん満足していたのだった。


弔問客がすべて引き取って、家族だけになると。
吸血鬼は悲しみながらも左戸崎の娘をつかまえて奥の部屋に引きずり込んで、血を吸って抱きしめていった。
表情を消した娘は、一時間ほどして部屋から出てくると、自分の夫に謝罪するように頭を下げ、彼は淡々とそれに応えてゆく。
彼女は首すじの咬まれ痕を掌で抑えながら兄嫁に近づいて、彼女を目で促した。
兄の目のまえのことだった。
兄も無言で妻を促していた。
彼女もやはり謝罪するように夫に黙礼すると、洋装の喪服姿をおずおずと、ふすまの向こうへと沈めてゆく。
女ふたりがふたたび仏前に畏まったときには、それぞれの穿いていた墨色のストッキングには、派手な裂け目が入っていた。
薄墨色のナイロン生地にじわりと浮いた裂け目から露出した脛には、咬み痕が綺麗にふたつ、吸い残した血をチラチラとあやしている。
「お父さん、妬いているわよ」
ひろ子が目で笑うと、二組の夫婦は「ほんとうに」と、含み笑いで返してゆく。

翌日の弔いの席でいちばん号泣したのは、当の吸血鬼だった。
なにも知らない周囲のものたちは、故人と彼との親密さを推し量らないわけにはいかなかったし、彼の悲しみようにもらい泣きするものも少なくなかった。
病気を予知することはできても、死病から救うことまではできない―――けれどもそのことすらが、赦せない、受け入れられない、そんな想いが彼の胸の奥に去来していたのだった。

夫が骨になり、傍らに写真立てを置かれて。
息子夫婦や娘夫婦も立ち去って日常に戻ってゆくと。
ひろ子は毎日喪服を着て、夫のまえで手を合わせる静かな日常に入ることになった。
吸血鬼は隣室から、仏前に向かって頭を垂れていた。
左戸崎への遠慮から、ひろ子と同室することすら、遠慮していたのだった。
生前からのその習慣を、彼は律義に守り通していた。

「いらっしゃい」
ひろ子は男に、声を投げた。
え?とふしんそうに顔をあげる吸血鬼に、ひろ子は手招きをした。
ふたりのあいだに禁域のように横たわるふすまのレールを、彼はためらいながらまたいでゆく。

ひろ子は夫の写真に深々と頭を垂れると、吸血鬼と並んで黙礼をした。
それから彼を促して差し向かいになると、目を瞑っておとがいを仰のけた。
「どうぞ。主人から言いつかっておりますの。貴男への形見分けは、わたし自身―――ということを」

訪れた奇跡に男は驚き、驚喜し、歓喜した。
夫のまえではじめて欲情を込めてその妻を抱きすくめると、彼は激しくうなじを噛んだ。
ほとび出た血潮が喪服を濡らし、漆黒のブラウスやスカートに、撥ね痕を光らせた。
押し倒された未亡人は、自分の唇を唇でふさがれたのを感じ、喉もとに押し寄せる熱い呼気に圧倒された。
いいのかしら。ほんとうに、いいのかしら・・・?
そんな戸惑いも、一瞬のことだった。
荒々しくブラウスを剥ぎ取った掌が、彼女の乳房を揉みしだき、スカートのすそを割ってゆく。
清楚にみえた黒のストッキングは太もも丈で、そのうえを黒のショーツが引き降ろされていった。
ショーツに手をかけた彼のために、女は腰をすぼめて応じてゆき、自らの貞操を守っていたさいごの衣類が取り除かれるのを、目を閉じたまま感じ取っていた。
「これからは貴男のために、喪服を着るわね」
女が囁くと、男は黙って頷いて・・・年来の親友の妻に、心からの愛情を降り注いでいった。
猛り立った一物が股間にもぐり込んでくるのを自覚しながら、彼女は心のなかで呟いていた。
きょうからはわたくし、このひとのために生きるわ。あなた、ごめんなさい。そして、ありがとう・・・

ある若手実業家の回想

2014年01月20日(Mon) 23:54:54

顔をあげると、ずり落ちかけたひし形もようのハイソックスの脚が立て膝をしているのが目に入った。
足首には脱がされたショーツがまだからみついていて、
大きく開いた太ももの間には、逞しい筋肉に覆われたむき出しの臀部がのしかかっていて、激しい上下動をまだくり返している。
そのうごきがようやく熄(や)みかけたのを見計らって、俺は自分の相手をつづけていた女体のうえから身を起こした。
腰が浸かりきるほどのめり込んだ女体は、半開きに弛んだ口許から、歯ならびの良い前歯をむき出していた。
あれほどしつように重ね合わせた唇は、鮮やかに刷いた紅が色落ちもせず、女の口許をむごいほど艶めかしく縁どっている。
別人のように弛みきった目鼻立ちから、取引先の社長夫人の秀でた容貌を見いだすのに、すこしばかり時間がかかった。

気がつくと、俺の相棒は、自分の相手の少女をまだ畳に抑えつけた格好のまま、ニヤニヤしながらこっちを窺っている。
「処女だった。ちょっと動きが硬いが、好い身体しているぜ」
やつは自慢げにそううそぶいたが、俺は応えなかった。
少女は真っ赤な顔をして、畳を背にしたままやつのことを睨みつけていたが、喪ってしまった事実を言葉にされたのがこたえたのか、ぐったりとなって身体から力を抜いた。
「交代するかね?」
男の言いなりに、俺は頷くと、初めて女を放した。
俺たちは即座に身体を入れ替わると、俺は娘のほうに、やつは母親のほうへと、やおらのしかかっていった。

気を抜いて寝そべったままの自分のうえにべつの男がのしかかってくるのをみると、少女は声をあげて制止しようとした。
却ってそのしぐさにそそられた俺は、思わず奮起してしまっている。
獣の昂ぶりは、稚さなすぎる肢体を支配することに対するわずかばかりのためらいを、いっともあっけなく吹き飛ばした。
抵抗しようとするか細い腕を力任せにねじ伏せると、はだけた胸にしゃぶりつくように舌をあてがっていった。
やつに穢された素肌はなま温かく、さっきまでの痴情の余韻を含んでいる。
どうせ汚れた身体―――そんな意識が、かけらほど残っていた俺の良心をかき消して、恥知らずに逆立った逸物を、少女の股間にあてがっていった。

人妻が抱ける。うまくすると、母娘丼ができるんだが―――
やつの怜悧な瞳の輝きから逃れることができずに、ついうかうかとやつの持ちかけてきた話にのってみたら。
獲物は・・・俺の取引先の社長の夫人と娘だった。
若いうちから事業なんて始めるものではない・・・と、今ならつくづくそう思える。
組しやすそうな外見に乗せられて、ひとりの取引先に俺が突っ込んだ資金は、致命的なほど巨額だった。
その金をくわえ込んだまま、相手が倒産寸前にまで追い込まれたという事実を聞かされて、俺は思わず頭に血がのぼっていた。
やつがもっともらしいしたり顔をして、俺の傍らに腰かけたのは。
そんな時分のことだった。


さいしょの相手に選ばれたのは、この母娘ではない。
ほかならぬ俺自身の、叔母夫婦だった。
どんなふうに話をつけたのか、やつは叔父をうまいこと言いくるめて、夫婦でホテルに呼び出した。
俺が部屋に入っていったときにはもう、叔父はぐるぐる巻きに縛られていて、恨めしそうな顔をして俺を見あげた。
けれども叔父はどう丸め込まれたものか、抵抗するつもりも、まして、よからぬくわだてに参加した甥のことを怒鳴りつけるでもなく、ただうっそりと憂鬱そうに、黙りこくっているだけだった。
「さきに姦らせてもらったぜ。遅く来たのがいけないんだぞ」
初めてのことにびびった俺が逡巡したことを、やつはさりげなく咎めると、ズボンのチャックを引上げて、自分のいた場所を俺に譲った。
見慣れたよそ行きのスーツを着崩れさせた、半裸の叔母を目にした瞬間―――俺は自分のなかに、悪魔が入り込んだのを感じた。


俺の腕のなか、少女はほとんど抵抗らしい抵抗もせずに、若い肢体をゆだねきっていた。
初めて通り過ぎた嵐のあと、あろうことか初体験の相手とは別の男の相手までさせられて。
ただでさえ弱い彼女の頭脳は、完全に思考停止してしまったようだった。
太ももにぬるぬるとまとわりついた体液は、きっと紅いのだろう・・・そんなことをチラと思いはしたけれど。
俺はあえて少女の下半身を確かめずに、まだ生硬な股間を、むごいほど容赦なく、えぐり続けていった。
冒した回数は、やつより多かったかもしれなかった。
―――悪いが、娘の処女はおれがもらうよ。初体験だと、抵抗されたりとか、いろいろ不都合があるからな。
役得だ、といわんばかりにほくそ笑んだ横っ面に、勝手にしろよとほざいていた俺がいた。
ちょっとだけもったいなかったかな、という想いは、とっくに消えていた。
処女を奪うことには、さすがにしょうしょう、罪悪感めいたものを感じていたのかもしれない。


悲劇の主人公は、先日の叔父と同じくロープでぐるぐる巻きにされていた。
取引先の社長だった。
ふさふさとした白髪に囲われた、不健康に浅黒い頬は、ほとんど蒼白になりかけていたが。
充血した眼は獣のような輝きを秘めていて、汚されてゆく妻や娘に、いっしんに注がれていて。
抗い、戸惑い、やがて堕ちてゆくふたつの女体のあいだを、交互に行き交っていた。
やつは、すんでのこと俺から巻き上げたカネもろともドボンしようとした社長のまえに、茶封筒を突きつけた。
なかには少なからぬ万札が入っているのが、ほかのふたりの男にも、見て取れた。
「要らん!」
社長は目を剥いたが、強い語気を裏切って、目線は弱々しかった。
「服を破ってしまったのでね」
奪った貞操の見返りではない・・・ということを言外に含ませると、男はがっくりと肩を落とした。
女房と娘の身体を借金のかたに奪られた、という感覚だけは、さすがに受け入れがたかったのだろう。

「あくまでフェアな、男女の交際です。奥さんとお嬢さまにはお断りになる権利もありますが、あなたはよもやそんなことを勧めはしないでしょう。当方もそう信じてやまないものです。あなたはわたしどもの特殊な性癖を理解して、寛大に振る舞ってくださった。まったくありがたいことです。病んだ男ふたりを、ご家族ぐるみで救ってくださった。あくまでそういうことです。あなたはご家族が当方と交際するのを快諾された。交際期間は、この男との約束を履行するまで。そういうことですよね?」

立て板に水を流すような、口調だった。
もの慣れた相手にかなわないとみたのか、それとも自分の中になにか別の性癖を覗き見てしまったのか、男は拍子抜けするほどあっさりと、無言の頷きをかえしてきた。
男はズボンを脱がされ、パンツ一枚にされていた。
むき出しの股間に、透明な粘液がほとび散っているのがちらと見えたが、視てはならないものを視てしまったような気がして、わざと見ないふりをした。
ズボンを脱がされた理由を、男はじゅうぶん察知したのだろう。
裂かれたブラウスや精液でまだらもようのシミをつくったスカートは、父親が運転する高級車のおかげで衆目にさらされることはないはずだが、ズボンを台無しにしたらフロントから出ることもままならなかっただろうから。
男は最終的に、金を受け取った。
「全額、妻と娘の服代にする」
とまで、不思議と強い語気で、確約までしていた。

決着がついたのを見届けると、やつは俺のほうに向きなおって、言った。
「つぎは、きみの奥さんの番だね」
まるで、行きつけの飲み屋をもう一軒はしごするような、こともなげな調子だった。
緩慢な仕種で身づくろいを始めた女どものほうには、目もくれていなかった。



忌々しいほどスッキリしてしまった脳裡に、やつの言葉が刻印されるように灼きついていった。
さっきの社長夫婦と同じようにやるから。
自分の奥さんがイクのを見ると、始末に負えなくなるものらしいな。夫という人種は。
もしもどうしても気が進まないのなら・・・そうだな、借金のかたに奥さんに夜伽をさせる。そういうことにしようじゃないか。

俺はやつの車で自宅に乗りつけると、一目散に玄関に向かった。
借金で建てた豪邸のデラックスなたたずまいなど、当然目に入りはしなかった。

妻の美智子は、旧家の令嬢だった。
世間知らずでは人後に落ちないところがあったが、それでも俺の事業の状況が抜き差しならぬものになっていることは知っていたし、事業が破たんした場合、その家族にどういう運命が訪れるのか・・・ということについても、ある程度は覚悟していたようだった。
それでもそれは、あくまで頭のなかでの理解にすぎないのであって、実際そういう境地に陥った場合、どういうことになるのかはきっと、そのころの美智子には実感できてなかったに違いない。
新婚初夜のそのときまで、美智子は男を識らない身体だった。


「あの男と、ホテルまでいっしょに来てくれ。え?俺は部屋には入らない。送り迎えだけだから」
息せき切ってかいつまんだ話を、美智子は驚くべき理解力で洞察した。
俺の顔つきを見てはっと息を呑み、すこしうろたえたような戸惑いを見せ、サッと顔色を蒼ざめさせたが、ほとんど口も利かずに身支度をはじめ、小ぎれいなスーツに身を包むと、俺より先に男の車の後部座席へと乗り込んでいった。
隣に腰かけた俺は、なにも知らないような態度で傍らに座り背すじを伸ばす美智子のいでたちを盗み見て、はっとした。
白いジャケットを羽織ってわからないようにしていたけれど、漆黒のワンピースと黒のストッキングは・・・喪服だった。


ホテルのフロントでチェック・インをして。
そろそろここで・・・という目色をしたやつの顔つきなどまるで無視して。
俺は往生際わるく、部屋の廊下までいっしょだった。
やつはいやな顔ひとつせずに俺の同行を許し、美智子もまた感情を消した顔で、俺とつかず離れずの距離を保っていた。

初体験だと、いろいろ不都合があるからね。

いつかどこかで耳にした記憶のあるやつの囁きが、なぜか耳の奥によみがえった。


部屋に美智子を引き入れると、やつは俺を通せんぼするようにちょっとのあいだ、俺とドアのまえに立ちはだかった。
「紳士協定」
やつがひと言そういうと、俺はなにも言えなくなっていた。
「きみのために」
みじかく言葉を切って、やつはその場にちょっとかがんで、ドアストッパーをかけた。
「気が済んだら、これを外してドアを閉めてくれますね?」


部屋のなか、美智子は神妙に、背もたれのない椅子に腰を掛け、うつむいている。
やつは俺に背を向けて美智子のほうへと歩み寄ると、
背後から両肩を抑えて、おもむろに首すじを吸った。
左右に代わる代わる、熱っぽく重ねられる口づけに、妻は身を固くして、うつむき続けていた。
男はなおも美智子ににじり寄ると、足許にかがみ込んで、黒のストッキングのふくらはぎを吸った。
俺はジリジリしてくるのをこらえかねながら、それでも部屋のなかに踏み込むような無法をしてはいけないのだと、自分に言い聞かせていた。
やつの唇が、にゅるにゅる、にゅるにゅると、清楚な薄墨色に染まった妻のふくらはぎを、撫でつづける。
ヘビの生殺しのようだった。
これと同じ想いを、叔父やあの社長もしたというのか・・・
人妻をふたり、生娘をひとり、やつのために往生させた。
その手助けをした俺が、こんどは自分の妻を狙われる。
因果応報・・・そういわれても、おれはきっと「むごい!」と、自分勝手なことを口にしたに違いない。
そう、俺の美智子は、あの女たちとは、別格なのだ。
けれども、ああ、美智子は諦めきった表情をして、男のなすがまま、ワンピースの襟首をほどかれて、胸元に手を指し入れられてゆく。
ふと振り返った美智子の唇を、やつの唇がとらえた。
偶発的なものではない。お互いの息が合っていないと、ああはうまくいかないだろう。
ふたりは、唇をぶっつけ合うようにして、口づけを交わして・・・深くむさぼり合っていった。

ベッドに投げ込まれた美智子のうえに、やつの身体がなだれこんだのをしおに、俺はドアストッパーを外した。
バタンと音を立てて閉ざされたドアは、もう開かれることはなかった。
視たらきっと、興ざめする。そんな直感が脳裏をかすめた。たぶんその直感は、ただしいものなのだろう。
それでもちょっとのあいだ、俺はドア越しの気配を窺おうとして、硬いスチールドアとにらめっこをしていたが、なんの気配も伝わってこないのがわかると、肩をそびやかして立ち去った。
俺が紹介した三人目の人妻に、やつは大いに満足を覚えるだろう。


一時間の約束が、二時間半にもなっていた。
フロントに控えるホテル従業員たちの怪訝そうな視線を無視して長時間、ホテルのロビーでで待ちかねていた俺は、エレベーターが開くたびに腰を浮かして降りてくる人間を確かめつづけていたが、何十回目かに開扉されたドアの向こうにふたりの姿をみとめて、ほっと安堵を覚えた。
ふたりの距離は、あからさまに縮まっていた。
心細げに佇む美智子のすぐ傍らに、護るように寄り添うやつの姿があった。
小柄な美智子に覆いかぶさるような巨躯は、きっと俺よりも逞しいに違いない。

やつは俺に余裕たっぷりに会釈を投げて来、俺も負けずに余裕をとりつくろって、顔を上向けて応えてやった。
ひと呼吸おくれて、美智子が謝罪するように深々と、俺のまえに頭を垂れた。
頭を垂れなければいけないのは、俺のほうだったかも知れないのに。
「お約束どおり、美智子さんをお返ししますよ。早くうちに帰って、奥さんにおれのことを忘れさせてあげてください」
やつが俺の妻を名前で呼んだのは、この時が初めてだったが。
美智子はそのことにさして違和感も不審感も持たなかったらしく、ひと言「すみませんでした」と、もういちど俺に頭を垂れた。
後ろめたさがつよかったのだろう。いつも控えめな美智子の声は、いっそうくぐもって耳に響いた。
後ろめたい?本来後ろめたいのは、俺のほうのはずなのに。
ではなにがいったい、後ろめたい?もしかしてお前は、俺以外の男に感じてしまったのか?
かたくなに表情を消した横顔からは、なにもうかがい知ることはできなかった。
「ご苦労さま」
どうこたえていいかわからない俺は、ひと言そういうと、「帰ろうか」そう言葉を継いだ。
帰る・・・そうはいっても、ここは自宅から車で30分も離れたところだった。
「行きましょう」
当然のように男の車に乗ろうとする美智子に、逆に促されていた。
先頭に立ったやつの足許を視て、ぎょっとした。
スラックスから覗いた足首が、透けて見える。
やつが穿いていたのは、女もののストッキングだった。
ふと美智子の足許をみると、おなじ色合いのストッキングが、彼女の足許を染めている。
美智子がまとっていた黒のストッキングは、情夫の手で脚から引き抜かれて、情夫のごつごつとした脚を包んでいて。
美智子はそれとおそろいのストッキングで、自身の足許を染めている。
おそろいということなのか。
俺はやつの悪趣味をなじる以前に、妻のストッキングを脚に通しているのを認めることによって、美智子を完全にモノにされてしまったことをいやというほど思い知らされていた。

「ちょっと、見せつけ過ぎたかな?」
後日そんなふうに持ちかけてきたやつに。
「そんなことはない。あれでいいのじゃないか」
俺はそう、応えてやっていた。


車内ではお互い、ほとんど無言だった。
それぞれがそれぞれの胸の奥に抱いた想いを、反芻するのに余念がなかったのだろう。
ものの30分もそうしていたはずなのに、不思議なことに、気詰まりな沈黙では、決してなかった。
遠くからもよく見える俺の家の大造りなたたずまいは、どこか作り物めいて見えた。

車を降りるとき。
やつは後部座席にいる俺を振り返っていった。
「おれとの友情の証しに、きみは自慢の愛妻である美智子さんを、俺にプレゼントしてくれた。もちろん無償でね。おれは美智子さんの身体だけが目的の男だから、きみの家庭を壊すつもりはない。あとはふたりで、うまくやってくれ。交際期間は・・・どうしようか?無期限というのは、虫が良すぎるかな」
「それでもよろしいんじゃないですか?」
俺よりもさきに、美智子が応えていた。
美智子は行きとは違って、帰り道はやつの隣の助手席に腰を下ろしていた。
「そのたびに、俺がお前の間違いを忘れさせてやるよ」
俺はいったい、なにを言っているのだろう?
美智子は俺のほうを振り返ると、いった。
「そうね。早く忘れさせてくださいね」
え?
美智子の顔をもういちど見返すと、口許だけに泛べた含み笑いに、はっとするほどの華やぎがよぎった。
いやな予感がした。


社長の娘の塾は、月、水、金だった。
それ以外の火、木、土には、俺たちが社長宅で、帰りを待っていた。
華やいだワンピースの妻に、制服姿の娘。
そのふたりがふたりながら、凌辱されるありさまに、社長は戸惑い、おろおろとして、さいごに惑溺してしまっていた。
叔父の家でも、おなじことだった。
年齢的に子どものできる危険のないはずの老妻が、ひどく若やいだまなざしを若い情夫たちに注いでいって、スカートの裏側を精液まみれにさせてしまうのを、なんども目の当たりにするうちに。
「すっかり若返ったわね」妻にそうからかわれながらも、叔父は彼女に対する凌辱の儀式への招待を、いちども欠かさずに受けつづけたのだった。


愛煙家だったやつの訪問が、重なると。
どちらの家に満ちるようになった、煙草の芳香が。
我が家にもやはり、満ちるようになっていた。
それはたいがい、俺のいないときに行なわれるようだった。
どんなふうに乱れるのか。どんな声で喘ぐのか。
美智子は俺に、聞かれたくなかったらしい。
それでもおおむねその経緯を承知しているのは。
俺自身がやつに頼み込んで、密会の場を垣間見させてもらっているから。

初体験はいろいろ面倒。

やつにそう言われないようになるには、かなりの忍耐と熟練が必要だったけれど。
興ざめなものにちがいない。そう思い込んでいたその光景は・・・いや、それ以上はもう、なにも言うまい。


数年後。
妻と娘を取り戻すべく奮起した社長は、俺への借財を全額返済した。
それ以前に、俺は資産家だった叔父の援助のおかげで、事業の業績を完全に立て直していた。

正確にいえば、社長の借財は数万円だけ、残されていた。
そのわずかに残った“借財”のため、男は自分の妻と娘とを凌辱されつづけていたし、
それと引き替えに、自身もその儀式に招待される権利を獲得していた。
叔父もまた、迷惑だ迷惑だと愚痴をこぼしながら。
なぜか自分の妻目当てに訪れる獣たちのことを、拒み通すことはなかった。
法事帰りの喪服のまま乱れる妻をまえに、老い先短かい自分の供養はこんなふうにやってほしい・・・などと、言い出す始末だった。
俺の所はもちろん、訪問がもっとも頻繁だった。
美智子は時折、やつの出席する結婚式に妻役として同行して、宿泊するときにはやつの苗字で名前を書き入れるようになっていた。
やがて美智子は、妊娠した。
父親がどちらであるのかは・・・想像に任せたい。
やつは、「きみの場合も娘さんを征服したいね。それにはまず、美智子に娘を生んでもらわなければ」と主張していた。
近親相姦がもとより彼のなかでタブーでないことは、今さら言うまでもないだろう。
「家庭を壊さない」そういったやつの公約は、いまのところまだ守られている。
なにかが造り変えられてしまっている・・・そんな想いが度々よぎりはするのだが。
以前にまして尽くしてくれる妻のお腹には、ふたりの愛の結晶―――ということになっていた―――が、日増しにその存在感を高めてくるのだった。


あとがき
朝ざっと描いたものを見直してからあっぷしたのですが・・・
うーん、いままでになく、ダーク?いまいち? ^^;

せっかちなやつ。

2014年01月06日(Mon) 04:44:19

せっかちな奴だなぁ
俺はため息交じりに、やつを見た。
やつの口許から滴っている血は、女房のものだった。
そして生き血を吸い取られた身体は、土気色になって、やつのすぐ下にあお向け大の字になっている。
死なせたわけじゃないだろうな?
変わり果てた女房の顔色に、さすがの俺もそんな気遣いをしたのだが。
俺の心配をよそに、女はかすかに両肩を上下させて、苦しい呼吸をしていた。
まだだいぶ、残っているよ。
やつはにんまりと嗤う。

家のなかに入るまではカサカサに干からびて死にかけた顔つきをしていたのが、現金なものだった。
奥さんの身体のなかには、必要なだけの血を残してある。ほかでもない、あんたの奥さんだからな。全部吸い尽くすようなへまはしないさ。
そう言いながらも、まだもの欲しげな顔つきを隠さないのが、やつの図々しいところだった。
すその短いワンピースの下からにょっきりと伸びた太ももに、舌なめずりをせんばかりなのだ。
肌色のパンストを穿いた女房の脚が、ひどくやつをそそったらしい。
好きにしろよな。
俺がやけっぱちのようにそういうと、やつは抜け抜けと、露骨な要求を突きつけてきた。
女房のパンストを噛み破ってくれ、って、俺に言ってみな。
ちく生。なんてやつだ。
俺は歯噛みしながらも、身体じゅうの血管がドクドクと弾むのを覚えた。
そう、俺の体内には、マゾヒスティックな恥ずかしい血潮がめぐっている。

俺の女房のパンスト、たっぷりいたぶり抜いてみせてくれ。

やつの恥知らずな要求に上乗せをしてやったのが、お気に召したらしい。
お前から言いだしたんだからな。俺は乗り気じゃなかったのに、頼み込まれてしかたなくやったんだからな。
なん度も責任逃れを公認させようとするのも煩わしく、俺は女房のワンピースのすそを思い切りめくりあげてやった。
どうぞ、召し上がれ。
ウフフ。いただきます。
男は嬉しげに、女房の太ももにしゃぶりついていった。

いちど血を吸った女は、必ずモノにすることになっている。親友の妻でも例外はない。いいな?
今さらわかり切った説明を、まるで念押しするようにくどくどと説明をする。
俺はいい加減に頷くと、
大いに不満だが、まぁしょうがない。
努めてどうでもよさそうな口ぶりで、やつが妻の貞操を汚すことを許可してやった。

なん年ぶりかで電話をかけて来て。
家にあがり込むとすぐさま、女房の生き血をねだられた。
血が足りないんだという。
もともとそういう目的で家にあがり込んできたのを、俺は何となく察していたので、ご希望どおりに女房を襲わせてやった。
俺の入浴中に・・・
女房のやつ、なにも知らずにお相手をして、キャーとひと声叫んだだけで、あとは気前よく生き血を振る舞う羽目になっていた。

激しい上下動をくり返すやつの腰の動きに合わせて、女房の身体がユサユサと揺れた。
意思を喪った女体は、弄ばれるままに体位を変え、男の欲望を満たしてゆく。
そのうちに・・・意識の戻った女が、好むと好まざるとに関わらず生き血を吸われ、凌辱されていくのを。
それでも俺は、じっと見つめつづけているだろう。

親友の女房をつかまえて、こともなげに生き血を吸い、凌辱していく男。
自分の女房の生き血を吸われ、目のまえで犯されるのを愉しげに見守る夫。
きっと俺たちは・・・似合いのコンビに違いない。

おかえりなさい。

2013年12月27日(Fri) 07:56:48

この玄関のまえで自分の名前を告げるのは、なん年ぶりになるのだろう?
声に応じてすぐに玄関の扉は内側から開かれて―――姿を現した家のあるじは、見違えるほどの白髪頭になっていた。
「よぅ、ケンちゃん。よく来たな。あがれあがれ」
声の張りだけは、以前のままだったが。
苦み走っていたころの面影は、わずかに目鼻の造作に残っているだけで、もはや彼の人生は枯れようとしている。
こちらの顔色をみてすぐにそれと察したのか、けれども京太の声は柔らかな和みを変えなかった。
「ははは、トシ取っただろ?まあ、あがんなさい。オレの血じゃ、旨くないだろうけどな」
こちらに背を向けて居間へと誘う身のこなしには、案外な素早さがまだ残っていた。

「あらぁ~。お久しぶり」
妻の久枝は、自分の加齢のことなど、思いも及ばないらしい。
こちらもかつての切羽詰まった雰囲気は、微塵も残っていなかった。
あのころは・・・吸血鬼である愛人との密会に生命を賭けるほどの緊迫感を漂わせていた頬は、豊かで穏やかな色合いだけをたたえている。
「すっかりもう、ばーさんだろ?今さらひとの女房を食いものにはしないだろうな?」
おどけてみせる京太を、久枝が脇から小突いた。
かつての二人を知る記憶からは、こんなおどけ合うところなど、想像もつかなかった。

「京ちゃん、今年の夏くらいに病気したね」
噛み痕から洩れる血が止まったのを見届けて診立てを告げると、京太は感心したようにこちらを見返した。
「さすがによくわかるね。ああ、内蔵を悪くして入院してね」
「あとの養生が肝心だぜ。でもまだまだイケる」
「お。そうか!?」
成績の悪い生徒が見込みがあると告げられたときのように、京太は生き返ったような声をあげた。

だらりとした表情になって姿勢を崩した夫の傍らで、久枝はしきりと、黒く染めた髪の毛をいじりまわした。
毛先に撥ねた血のりが、気になるらしい。
まえもそんなだったな。初めて襲ったとき、この女は自分の失血よりも、亭主に対する後ろめたさよりも、新調したばかりのブラウスにつけられた紅いシミのほうを気にかけていた。
夫よりも八つ若い身体は、まだじゅうぶんに潤いを宿していて。
張りのある皮膚と豊かに熟れた血潮の芳香が、かつての陶酔をありありとよみがえらせてくれた。
「ふふふ。奥さんまだまだ若いね」
おどけた口調に本音を忍び込ませてやると、グイと身じろぎした女の身体が、色香をゆらりと漂わせた。
「アラ、そお?」
もっと・・・いいのよ・・・
耳もとに囁かれるひそひそ声は、夫の耳にも届いているはず。
京太はことさら、聞こえないふりをしていた。
ねずみ色のストッキングの上を這う唇に、ふくらはぎの筋肉がキュッとこわばった。
力のこもった足首をさらにギュウッと抑えつけながら。
女の足許を染めているなよなよとしたナイロン生地を、舌をふるっていたぶりつづけるうちに。
ああ・・・
女はため息を漏らして、失血をこらえかねたように姿勢を崩した。

ふたたび這わせた首すじから、チュチュチュッ・・・と音を立てて血潮を啜り取ると。
「いいのよ。好きにして」
女はいつの間にか、ショーツを脱ぎ捨てていた。
導き入れられた掌に、繁みの感触がちくちくとした。
「亭主の前でか?」
「いいじゃないの。いまさら」
女の声はまちがいなく、夫の耳に届いているはずだったが。
京太は知らん顔をして、耳かきをつかっている。
じゃあ、すこしだけお邪魔しようか・・・
夫婦の血を吸って逆立ってきた逸物が、にわかに鎌首をもたげ始めていた。

ずぶ・・・
入り口にあてがっただけで。
女はかすかに、身をのけ反らせた。
感度は昔のままらしい。
火柱のように熱した鎌首は、もはやこらえ切れなくなっている。
そのままずぶずぶと、股間の迷宮の奥底へと、突き進んでいった。
太ももを抱いたとき、白濁した粘液がじゅうたんに散っているのが目に入った。
じゅうたんには脱ぎ捨てられたねずみ色のストッキングが、ふやけたままとぐろを巻いていた。

目のまえで女の髪が、ユサユサと揺れている。
あのころはもっと長い髪をしていたが、色つやが昔のままに見えるのは、ありのままなのか、巧みに染められているにすぎないのか。
そんなことはどうでもいい。
目がかすむほどの色情に身を浸しながら、滾る劣情のほとびを、ひたすら女のなかに吐き出しつづけていた。

痛っ!
京太が突然、うめいた。
耳かきを使い損ねたらしい。
「あらあら」「おいおい」
ふたりはあわてて起きあがり、女は夫の脇に寄り添った。
二度三度まぐわいを重ねた男女は、まださめやらぬ熱情を振り払いかねていたし、
夫は夫で気まずそうに小さくなっている。
「大丈夫だよ。擦っただけ」
夫の耳の穴を覗き込んだ女は、古女房の顔に戻って、傷口に軟膏を塗った。

「小父さん!?」
頓狂な声が、リビングの入り口に響いた。
長男の勇作だった。
あのころはまだ、高校生だったが、すっかり大人になっていた。むしろあのころの彼の父親に、本人以上に似ているかもしれない。
「おぉい、美智子・・・」
勇作が呼んだのは、聞き慣れない名前だった。
「長男の嫁ですよ」
京太はちょっとだけ、他人行儀な言葉遣いをした。
「よく言い聞かせてあるから」
勇作はすぐに、幼馴染の声に戻っていた。

「いいのか・・・ね?」
こちらがためらいを覚えるほどの、急な展開だった。
勇作夫婦の部屋は、二階。
その部屋のなかの、夫婦のベッドのうえ。
美智子という名の勇作の嫁は、神妙な顔をしてあお向けに横たわっていた。
わざわざ着替えてくれたのは、黒地にピンクの花柄のワンピース。
俺の好みをそこまで憶えてくれたのか?と思うほどに色鮮やかな、黒のパンティストッキング。
「うちの嫁の務めだって、言い聞かせてありますから」
勇作はさっき噛まれたばかりの首すじを満足そうにさすりながら、若い妻に言った。
「そんなに痛くないから」
以前のようにすんなりと差し伸べられた首すじに咬みついた瞬間、久しぶりに加えられる衝撃に、男はちょっとだけ身をこわばらせたが、ことさらになんでもなさそうな態度をとりつづけていた。
じゃあ・・・遠慮なく・・・
嫁の緊張を早く解いてやろうという親心と、それ以上にこみ上げてくる若妻への好奇心とが、手足の動きを獣じみたものにした。

ァ・・・・・・!
女はその瞬間、かすかな悲鳴を口にしたが。
開きかけた唇は夫の手に覆われて、初めて体感する吸血に、身体を微かに波打たせつづけていた。
うら若い血潮がほんのりと、干からびかけていた血管を潤してゆく。
老夫婦の生き血とも、幼いころから親しんだ壮年の男の血とも異質ななまめかしさを帯びた血潮が、喉を伝って胃の腑に流れ落ちた。
「いかが、お味は?」
勇作の問いに、「けっこうだ」と手短に応えると。
「二人きりにしてもらえるかな」
いつもの怜悧な声色に、戻っていた。
いちど部屋の外に連れ出して、「いいのか?」と訊いたときとは、別人になっていた。
人妻は必ず犯すことにしていたから。
「ああ、ごゆっくり」
勇作はかるがるとそう応えて、若夫婦は一瞬だけ目線を交し合う。
微かに頷く夫に、微かに頷き返す妻。この夫婦には、それ以上の言葉は無用らしい。
心が通じ合っているのを見届けると、勇作の影が部屋から消えたのを見計らって、女のワンピースの裾を、ゆっくりとたくし上げていった。

若い女はさすがに、タフだった。
さいしょの挿入までは、まるで初夜の花嫁のようだった。
ほとんど身じろぎもせず、ひたすら歯をくいしばって耐えていた。
ところがいったん犯した逸物を引き抜くと、女のほうから「もう少しだけ」と、せがんできた。
もとより、否やはなかった。
それからなん度、夫婦のベッドをきしませたのだろう。
廊下から中の様子を窺っている夫の気配をありありと感じながら、勇作がいつもこの嫁の身体のうえで行なっているだろう所作を、そっくりそのまま、というよりも、夫以上にねちっこく、果たしていく。
ベッドを離れた時、若妻はすっかり主婦の口調に戻っていた。
「シーツ、洗濯しなきゃ」

階下におりると、次男坊の健介が、やはり見知らぬ若い女を連れてきていた。
こちらと目が合うと、健介は以前のように人懐こい笑みを返してきて。
「父さん、部屋借りるよ」
そういって、婚約者を促して席を起った。
「このひと、永村美奈子さん。春に結婚するんです」
美奈子と呼ばれた女性は、まだ幼な顔ののこる紅顔をいっそう赤らめながら、丁寧な会釈を送ってくる。
「言い含めてあるのか?」
美奈子のまえでわざと、健介に訊いた。
「義姉さんももう、お相伴にあずかったんだよね?」
「こちらはまだ、処女だろう?」
「あたりまえじゃん」
「じゃ、血を吸うだけだな」
初々しい所作とは別に、女はよほど肝が据わっているのか、こんな露骨な会話にも眉ひとつ顰めずに、無言であとにつき従ってくる。
両親の寝室の前まで来ると、健介は初めて、俺のことを未来の花嫁に紹介した。
「このひと、いつも話してる仲良しの小父さん。つきあい方は・・・わかっているよね?」

「ふつつかですが」
女は軽く頭を下げて、ためらいもなくベッドに身を横たえた。
健介はとうに、気を利かせて座をはずしている。
伸べられた足許を包む肌色のストッキングの光沢が、なんともなまめかしい。
かつて健介のお袋の足許から、この手のストッキングを何度も咬み剥いだのを、憶えていたんだな。
あのころまだ、健介は中学か、小学校の高学年だったはず。
俺は躊躇なく、女の足許ににじり寄って、薄手のナイロン生地越しに、唇をねっちりと、這わせていった。

生ぬるい唾液がしみ込んでくる気配に、女ははっとして、とっさに脚を引こうとした。
俺はその脚を、大根でも引っこ抜くみたいにむぞうさにグイと引いて、濃くなった唾液をいっそう念入りに、女の足許になすりつけた。
あしもとをくまなく唾液で汚してしまうと、ぱりぱりと音を立てて、ストッキングを噛み破ってゆく。
あ・・・
初対面の男の無作法なやり口を非難するように、女は眉をしかめ声をあげたが、俺は無視をして、ストッキングをみるかげもなく咬み剥いでしまった。
すまないね。
手短かに告げると、俺は女にのしかかって、首すじの一角に牙を埋めにかかった。
とっさに俺の肩を摑んだ掌に、力が込められて、わが身から引き離そうとした。
この女、処女のくせに・・・嗜虐心をあおるのが上手らしい。
俺は首すじにガッと食いつくと、
じゅるう~っ。
ひときわ露骨な音をたてて、女の生き血を喰らいはじめた。
あ、あ、あ・・・
女はぼう然となって。
俺は陶然となって。
ひたすら抱き合い、身体をさすり合いながら、夢幻の境地に堕ちていく。
祝言のまえの晩に、奪ってやる。
俺の囁きに女はかすかに、けれどもしっかりと、頷き返していた。

おかえりなさい。よく戻って来たね。

夜の宴席には、見慣れた四人の、少しずつ刻を重ねた顔。
そして新たに加わった若い女が、二人。
そのだれもが、歓迎の色を浮かべてくれている。
最愛の妻を犯しに来た男のことを、長年の朋友のように迎え入れてくれる夫たち。
夫に命じられるまま、唯々諾々と俺に共有されていきながら、じつはひそかな愉しみを見出している、したたかでしなやかな女たち。
ああ、俺はこの街に戻ってきた。
この家庭に、戻ってきた。



2013.12.27 7:18脱稿

悪友の恋人

2013年12月26日(Thu) 07:31:59

勝田は俺の同期だった。
どことなく冷やかな雰囲気を持っていて、人とは一線を画すタイプだったが、
それでいて人当たりは悪くなく、周囲にも気を遣うほうだったので、
敵にまわる者は少なかったし、目だたないながらも仕事はできるほうだった。
四十を過ぎて、いまだ独身。
その理由を社内で知っているのは、たぶん俺だけだろう―――
ヤツは吸血鬼だった。

ヤツに言わせると、吸血鬼には先天的なやつと後天的なやつがいるそうだが、
勝田の場合は後者だった。
子どもの頃、未亡人だった母親ともども血を吸われ、半吸血鬼になったのだという。
半吸血鬼。
それは、ふだんは人間として暮らしながら、時おりこみあげる吸血衝動だけは自力で何とかしなければならないという、彼によれば「けっこう難しい立場」だという。

どういうわけか俺にだけは、つぎに襲う相手や、いま定期的に血を提供してくれているもののことをヤツは教えてくれていた。
「きみとかち合わないようにするためさ」
ヤツはイタズラっぽく笑いながら、そういった。
俺がおなじ社内の順子と付き合っていることを素直に告白したのは、単に仲が良かったからというだけではなく、そういう理由もあったからだ。
「かち合ってくれるなよ」
俺がまじにそういうと、ヤツは笑いながら、「もちろんだ」と応えてくれた。
以来十数年―――
いちど寿退社をした順子は、いまは俺の口利きで、おなじ会社の別部署で、パートとして働いている。

ヤツが襲う相手は、たいがい独身女だった。
「やっぱり処女の血がいいのか?」
と訊く俺に、
「そういうわけでもないけどね」
ヤツの応えはいつも簡潔で、語調さえも内容と同じくらいサッパリとしている。
「人妻の場合は、亭主に知られないようにヤらないとならないからな」
処女の場合はみだりに犯さない、という彼は、逆に相手の女がセックス経験者の場合には、ちゅうちょなく犯すのだという。
「黙らるため?」
俺が訊くと、ヤツは言ったものだった。
「女とひとつベッドになったら、むしろそのほうがふつうなんじゃないかな」

どうしても相手が見つからないときには、俺のところに来た。
「ほかに頼みようがないから」
頭を掻き掻き頼み込みに来るヤツは、「もともとそんなにもてるわけじゃないからネ」と、つけ加える。
そんなことはあるものか。
気づかいのできる男は、必然的にもてるのだ。
ましてヤツの場合は、目だたないときている。
首すじだけではなく、女の穿いているストッキングやハイソックスを咬み破る趣味をもつこの男のために、
俺は仕方なく、所属しているクラブチーム指定のサッカーストッキングを一足、台無しにすることに同意する。
すね毛の生えた丸太ん棒のように太い脚に巻かれた、鮮やか過ぎる色のストッキングに、
ヤツはそれでも、欲情まじりのよだれをしみ込ませてきた。
「よっぽど好きなんだな」
あきれる俺に、
「そこだけは触れないで」
ヤツにしては珍しく、決まり悪げに口ごもっていた。
以来俺はヤツのために、新品のストッキングを一足よけいに、用意しておくことにしていた。

ヤツが襲う相手のことを俺に告げるときは、必ず写真をもってきて。
「今回の狙いは、この子」
って、その写真を差し出すのだった。
備忘用に取っておけ、というわけだ。
社内で浮いた噂の絶えない俺は、しばしばヤツとかち合った。
本命じゃないので、お互い気軽に考えることができた。
俺が過去につき合った女に、ヤツが手を出したこともあれば、
ヤツが昔血を吸っていた女が、俺といっしょにホテルに行くこともあった。
そんな場合も―――女を相手にヤツのことを話題にすることは、もちろんない。
ベッドのうえで秘密を共有する相手よりも、ヤツとの友情のほうが優先したからだ。
そういうわけで、俺は社内の女たちの裏事情をよく知っていたし、
ヤツのほうでも、狙いをつけるまえに、そうした情報を知りたがっていた。

「こんど狙いをつけたのは、この人」
「ああそう」
「知っているんだろ?」
「知らないわけでもないね」
「意地悪言わんと、教えてくれよ」
「しょうがねぇなあ・・・」
2人の会話はいつもこんなふうにして、始まるのだ。


「こんど狙いをつけたのは、この人」
いつものようにヤツが写真を一枚携えてきたとき、
俺はヤツの態度がいつになく神妙だなとおもった。
そのときにはあまり、ヤツの態度には気を留めないで、何気なくヤツの差し出す写真を見て、
さすがに驚かないわけにはいかなかった。
写真のモデルは、ほかならぬ妻の順子だったのだから。

「これがだれだかは、むろん知っているよね?」
「もちろんだ」
いつもらしく、もっといけしゃあしゃあと言ってみろよ。
思わず心の中で、罵っていた。
俺は狼狽とも怒りともつかない感情を、ちょっとのあいだどうすることもできなかった。
「亭主のまえに女房の写真を持ってきて、この女の血を吸いたいなんて、いつもそんなふうにしているの?」
思わず声色が、尖っていた。
「だからといって、隠しておくわけには、もっといかんだろう」
いかにも仕方がない、というヤツの顔つきに、ちょっとだけいつもの気分が戻ってきた。
「どうして順子なんだ?」
ヤツの応えは、虚を突かれるほどストレートだった。
・・・・・・惚れちまった。

順子の職場は俺の事務所からそれほど遠くない出張所で、
たまに姿を現すのは書類の束を持ち届けするときくらいだった。
家では服を構わない順子は、久しぶりに着るOLの制服に「若返ったみたい」とウキウキしていたが、
それは別な効果も持ってしまったらしい。
「昔の順子に惚れなかったのはどうしてだい?」
「初めて顔を見たときにはもう、あんたの彼女だったからな」
「いまではもっと、順子のことを知っているだろう」
「もちろんだ」
ヤツは下手をすると、夫婦のセックスの回数まで知っている。
うかうかと家にあげてしまっているけれど、
いちど招かれたことのある家には、いつ何時でも、ヤツは入り込むことができるから。
「ケツの毛の本数まで勘定できる女に、いまさら惚れるわけ?」
あきれた声をした俺に、ヤツは言いにくそうに応える。
「きみの奥さんだから、惚れたのかもしれない」

友だちの少なかった子どもの頃、仲良しの小父さんがいて、
母親の血を吸いたがる小父さんのために、家に入る手引きをしたことがあるという。
小父さんの腕の中でうっとりとなる母親を覗き見する日常から、どういうわけか離れがたくなって。
差し伸べられた首すじを撫でまわる唇を、ヤツ自身もうっとりと眺めつづけたという。
「お袋の血を美味いと言われるのが、どういうわけか誇らしくってね。
 おれはいつの間にか、お袋のことを小父さんと共有する歓びに目覚めていた」
男どうしがもっとも仲良くなるには、最愛の女性を共有することだ―――ヤツの言いぐさはひどく風変りだったが、俺はなんとなく腑に落ちたような気がして、頷いていた。
「子供たちにだけは、絶対ばれないようにやるなら、赦してやる」
ことさらムッとした感情を目線に込めてそういうと、
「もちろんだ」
いつものそっけない声色が、返ってきた。
狙いをつけた女のことを口にする吸血鬼の、怜悧な瞳がそこにあった。

きょう、順子さんに声をかけた。さいしょだったから、「久しぶり」って声をかけただけ。
きょう、順子さんをお昼に誘った。ついてきてくれたのは、単に俺がおごるって言ったから。 笑
きょう、順子さんを晩御飯に誘って断られた。下の息子さんの塾の迎えがあるんだってね。
きょう、順子さんの帰り道に出くわしたら、怯えた顔をしていた。ヘンな男にあとを尾(つ)けられたって。俺じゃないよ。 笑
きょう、順子さんを家の近くまで送っていった。無料のボディーガードなんだそうだ。

久しぶりに勝田さんにお目にかかったわ。
妻はさいしょの段階で、俺にそういったけれど。
俺がそんなに話題に乗らないとみると、惜しげもなく話を切り上げていた。
以降、ヘンな男に尾けられた話を含めて、妻は俺にはなんにも言わない。
言う必要のないレベルだからなのだろう。

きょう、順子さんとお昼休みに話し込んだ。彼女の事務所の食堂で。15分くらいだったかな。昔話ばかりだった。
きょう、順子さんは黒のストッキングを穿いていた。珍しいね、といったら、法事と掛持ちだと言っていた。忙しいんだね。

いつまでこんなのが、延々と続くのだろう。ヤツが妻の写真を持ってきてから、すでに半月が経っていた。
ヤツのふだんのペースなら、とっくにモノにして、スカートの奥を精液まみれにしているはずだ。
早いとこ、けりをつけちゃってくれよ。これじゃあ蛇の生殺しだ。
そんな気さえ、してくるのだった。
やつの訪問はいつも一過性だった。
亭主にばれそうになったりとか、女の体調が落ちてきたりとか、女が本気になりかけてきたとか、
いろんな理由から、三月も持てばじゅうぶん、長いほうだった。
それでもヤツのたよりは、延々と続いていった。
ある日携帯メールを開けてみて、俺は「おッ!」と声をあげていた。

きょう、順子さんを晩御飯に誘った。「あしたなら」って言ってくれた。一歩前進!

「どうしたのー?なあんだ携帯メール。。。」
ソファの背中から聞こえてくる妻の声にわれに返って、悪りぃ悪りぃと応えたけれど。
あしたの晩の会食なんて、俺にはひと言も言ってない。
それはやましいところがあるから?それともたんに、言い忘れているだけ?
あしたの俺は、新装オープンの準備で泊まりの仕事が入っていた。
「あしたってさあ・・・なんか予定入ってる?」
さりげなく訊いたはずの声が、本人だけにわかるくらいに語尾を震わせた。
「ええー?あなたの夜勤のこと?」
ちぐはぐな答えは、俺にはなんのヒントも与えてくれなかった。

さっき、順子さんとさよならをした。ホントに食事をしただけだからね。

ヤツのメール、やけに正直すぎていた。
ばかげている。ヤツらしくない。
狙った女と夜二人きりになって、キスも交わさないなんて。
しかし・・・俺はいったい、なにを期待していたんだろう?
そう。長年の友情から、つかの間の浮気には目をつぶり、さっさと終わらせてしまうため・・・

ほんとになんにもしなかったのか?

われながら、ずいぶんぶきっちょな返事だと思ったけれど。
おうむ返しにまた、メールが届く。

もちろんだ。ホテルにも寄っていないし、キスさえも。そういえばお酒も、ビンビール一本だったな。

ふたりして、たった一本のビンビールを分け合ったのか。
どうにもしけたデートだな。
ヤツと順子とが、お互いなにも言い出せないで、決まり悪そうにもじもじし合っているのをありありと想像してしまって、俺は却って噴き出していた。

いつもみたいに血を吸っちゃえば、あとはなんでもありだったんじゃないの?
案外と、相手にこと欠かないいいご身分のようだね。^^

さいごに顔文字をつけたのは、文面だけだと尖った感じになって、ヤツが困るだろうと思ったから。
送信してみて、妙なことに気づいていた。
先週も先々週も。ヤツは俺のクラブチームの試合を、見に来ていた。
そのあときまって、チーム指定のストッキングを真新しいのに履き替えるのは、お互い無言の協定になっている。
飢えているとき以外、男の血なんて、目もくれない筈だった。
その夜、返事はとうとう来なかった。

順子の日常が徐々にではあるが、侵蝕されてきたのは、それからのことだった。

きょう、順子さんとまた、晩御飯をいただくよ。
お子さんは塾帰りに夜食を買って帰るんだって。だからその曜日だけは、なんとなかるって。

―――俺は火曜日と木曜日は、意図的に残業することにした。

きょう、順子さんを家に送る途中で、俺の正体知ってる?って訊いた。
お前、話してなかったんだな。
きょとんとしていたので、初めて俺の正体を告げた。(行動で)
首すじの咬み痕は気にするな・・・って言っても、気になるよな。
今晩の満月と、きみの好意に心から感謝。

―――心から感謝などされても、うれしくもなんともないメール。
けれども俺の指は、本人の感情とは裏腹にひとりでにうごいていた。

順子の血、不味かっただろ?

返事はばかに速く、そして手短かだった。

ばか言え!

なんて返事をかえせばいいんだ?俺の手がまだ携帯の画面のうえで止まっているうちに、ふたたび着信音が鳴った。

時どき吸うから。吸いつづけるから。

え?どうしたんだ、あいつ。俺が戸惑っていると、さらに矢継ぎ早にもう一通。

さっきはすまない。貧血にならないように気をつける。彼女も忙しいみたいだから・・・

こんどは俺が、返事をしない番だった。

晩御飯を食べた後、家の近くまで送ってもらって、近くの公園で首すじを咬まれ血を吸われる。

そんなデートをなん度も重ねながら、順子は俺にはそんなこと、おくびにも出さなかった。
主婦というのはこんなふうにして、亭主に浮気を隠すものなのか。
血を吸われているというだけで、まだ妻としての過ちを犯したわけではない。
けれどもヤツと順子にとって、その行為はセックスに匹敵するものなのだと
ヤツから聞いているいままでのいちぶしじゅうと、何事もなかったという態度をおしとおす順子の態度からそれを感じた。
水曜と金曜の朝ごはんの支度をしているときに。
顔色を悪くしていることが、めっきり増えた。
まだ小学生の息子はなにも感じないらしかったが、すでに中学にあがっている娘の視線は、なにを感じ取っているか、知れたものではないと思った。

子供たちには絶対、ばれるなよ。

こんどは俺の方から、メールをした。
少したって、返事がきた。

あしたの晩、順子さんを俺の部屋に連れ込む。
穿いているストッキングの色が黒だったら、OKだと思って って、言ってくれた。

「ああ・・・」
携帯と向い合せに思わずあげた吐息に、なにもしらない同僚が思わず、ふり返っていた。

「あしたは残業入って、遅くなるから」
「深夜のシフトが入ったの。帰りは送ってくれる人がいるから、心配しないで」
順子はいつも、そういって。
デートの夜はまえもって、俺に伝えてくれた。
子どもの手前も、あるからだろう。
しかし家に帰ったとき、じゅうぶん時間があったはずなのに、順子は明日の夜の残業について、俺になにも告げなかった。
あくる朝いっしょに出勤したとき、俺は思わず自分の女房の足許を盗み見た。
ストッキングの色は、肌色だった。
ほっとしたような、少し失望したような。
失望なんて。
どうして感じる必要があるのだろう?
ヤツのため?
そんな義理はないはずだった。
たまの浮気などさっさとすませて、日常に戻りたいから・・・のはずだった。

いま順子さんと、いつもの店で逢ってる。
彼女のストッキングは、黒。

ヤツと逢う直前に真新しいストッキングに穿き替えるのは、
クラブチームの試合後に、俺もヤツのためにしていることだった。

どうしてひと言、言ってくれなかったのだろう?今夜は残業だからって。
それがきっと、順子なりの女の決意というやつなのだと、自分で自分に納得させてみる。
そういえば家から着て出た私服は、去年の結婚記念日に買ったよそ行きのスーツだった。
―――今夜俺の女房は、俺の稼いだ金で買った勝負服を着て、亭主にいわずに男と逢っている。
なにかどす黒いもおのが、ずきり!と、俺の心の奥を刺した。
お母さん遅いねえという娘には、急な残業が入ったみたいだよって、とっさに応えてしまっていた。

至福の一夜に感謝。

たった一行のメールに、俺はいつまでも、ため息をこらえていた。
メールはすぐに、もう一通届いた。

子どもたちのお母さんを奪ったりしないよ。
でも気の済むまで、今夜は放したくない。

俺の指はひとりでに、携帯をまさぐっている。

おめでとう。帰りは明け方でもOK。


順子が帰ってきたのは、明け方近くだった。
ドアを開け閉めする物音と、低いエンジン音が遠ざかっていくのが、ほぼ同時だった。
「ごめんなさい」
順子は唇を噛んで、俺に頭を垂れる。
「帰りの遅いときには、連絡をくれよな」
俺はわざと、とんちんかんな答えを、用意しておいた。

だんなになぐられるなら、なぐられておけ。
だんながしらばくれてくれるなら、あんたもしらばくれてあげなきゃいけないな。

別れ際のキスのあと、そう囁いたのだと教えてくれたのは、ヤツのほうだった。
「そうねえ・・・ごめんなさい。急だったから」
下手な芝居を打つ順子に、「子供たちにはお母さん残業だからと言ってあるから」と告げた時点で、きっと自分の浮気を怒らないと認識したのだろう。
「シャワー浴びる」
言い捨てて浴室に向かう順子の足許は、黒のストッキングが脛が露出するほどに、擦り剥けていた。
裂けたストッキングが、俺の衝動に火をつけていた。
「その前に・・・お仕置きだ」
俺は順子に囁いて、妻を夫婦の寝室に引きずり込んでいた。
久しぶりに触れた股間は、まだ潤いを帯びていた。
衣裳の裏側に隠された事実に、俺はいっそう昂ぶりを深めながら、
ことの発覚を体で感じた順子を組み敷いたまま、なん度もなん度もイキつづけていた。

勝田さんに、ありがとう、って、伝えて下さる?
ヤツの名前が妻の口から出るのは、退職以来久しぶりに会ったという、あのとき以来のことのはず。
けれども俺はなにも訊きかえさずに、伝える、とだけ答えていた。

順子からあんたに、ありがとう、だってさ。
俺がぶっきら棒にそういうと。
ヤツは眩しげに眼を細めて俺の見あげて、

オレからも、ありがとな。

いつものサバサバとした口調だった。
周囲にだれもいないのを見計らうと、俺はヤツをからかいたくなってきた。
「順子の身体、よかっただろう?」
「なんだ、朝から女房自慢か?」
ヤツの口調はいつもと、まったくかわりがない。
ほかの女をモノにするときも、いつもこんなふうにさっぱりとした口調で語るのだ。
時にはもの足りなくなるくらい、淡々としていた。
太ももをしつこく触ると、感じるみたいだな、きみの奥さん。
「ストッキング穿いたままのほうが効果大きいみたいだから、こんど試してみるんだな。」
・・・・・・まるで夫婦の秘密を覗き込まれたような気がして、俺はひどくドキドキしてしまっていた。
「お前にしちゃ、ずいぶん手こずったじゃないか」
「きみの奥さんは、貞操堅固だからね。落とすのに苦労したよ」
ヤツははじめて、にんまりと笑った。
会心の笑みだった。
まるでサッカーの試合でゴールを決めた相手選手が、「苦労させやがる」と苦笑いするような笑みだった。
「してやったり・・・ってか?」
俺は自分の悔しさも忘れて、新しい女をモノにしたと言って照れるヤツをからかう時の、いつもの調子を取り戻していた。
「ふつうは、三月くらいだよな?」
そのあいだなら、ガマンして貸してやる・・・そういってやろうと思った時。
裏腹な返事が、かえってきた。
「末永く・・・よろしく頼む」
おいおい、最敬礼までしてくれるなよっ。
俺はばかみたいに、あわてていた。

きみの奥さんだから、惚れたんだと思う。

ヤツの言いぐさがありありと、よみがえってきた。
そういうことだったのか。
俺のなかに息づきはじめたどす黒いものが、しきりとヤツの過去を反芻させてくる。

お袋が血を吸われたり犯されたりしていると、むしょうに照れくさくて、誇らしい気分になれるんだよな。
相手の吸血鬼にとっても、お袋が最高の女性なんだって伝わってくるから。

しばらく絶句したあと、俺は傍らの鞄に手をやって、なかから紙包みをひとつ、取り出していた。
「自分で持ち歩くつもりだったんだが」
ため息交じりに、鼻先につき出してやる。
「記念品。ゆうべの」
え?なに?
もの問いたげなヤツのまえで、中身を取り出してぶら提げてやった。
「きみのオンナが夕べ穿いていた、黒のストッキング。ほら、やるよ」
ぞんざいに投げられた順子のストッキングを、勝田は怒りもせずに受け取ると。
「つぎのやつは、必ず順子の脚から抜き取って、きみにあげるからね」
ふたりはハハハ・・・と、声をあげて笑った。
昼休みを終えて戻ってきた女子社員たちは、いちようにヘンな顔をして、オフィスででかい声をあげた俺たちをふり返っている。


あとがき
露骨な場面ほとんどなしの心裡描写におわりましたが、ソチラのほうさえもあまり徹底してなかったような・・・
(^^ゞ
淡々と描けたこと、それ以上にさいごまで描き切れたことがよかったかな。 笑

「純情」だった妻。

2013年10月22日(Tue) 08:03:51

一夜にして・・・
夫婦ながら生き血を吸われて。
一夜にして・・・
妻は自分が娼婦と化したことを悦び、
夫は自分の妻が娼婦と化したことに昂ぶるようになっていた。

奥さん、純情なんだよ。
妻をモノにしたのは、わたしよりも年上の、一見顔色がわるく、風采も上がらずの、冴えない男。
口をついたように、妻のことを称賛していた。
初めて咬まれたその夜のうちに女の操まで捨てちゃうなんて、
ご主人からみたら、さぞかしふしだらな妻に思えるだろうけど。
それだけ俺に、夢中になっちゃたというわけ。
そこは、否定しないよね?
わたしはなぜか、くすぐったそうにうなずくばかりだった。

それにさ、半年ものあいだ、俺ひとりで通したじゃん。
いちどモノにした人間の人妻は、自慢し合うのが俺たちの流儀なんだ。
だから2~3度逢って身も心もモノにしてしまうと、俺たちは征服した人妻を、そういうところについれていく。
女どもはそこで、ほんとうの娼婦になるんだな。
ところがさ、彼女は俺じゃなきゃいやだって言うんだ。
ひと頃は、ご主人であるあんたとも、セックスしなかったんだって?
それはさすがに申し訳なくて、あんたとも寝るように説得したんだがね。
いまはもう、ふつうにつづけているでしょう?夫婦の関係。
以前よりも濃いって?そいつはごちそうさま。

奥さんはやっぱり、純情なんだよ。
いまでもご主人を、愛しているって。
でも俺のことも、なおざりにはしないって。
知人の結婚式に1人で行くのは気がすすまないと言ったら、着飾っていっしょについてきてくれて。
俺の名前の横に、俺の苗字で名前を書いてくれたっけ。
あの晩はたしか、ツインルームを手配してくれていたから。
俺は新婦や新婦のお母さんや妹さん達を襲う恒例の儀式には顔を出さずに、
ひと晩奥さんとセックスしつづけていたんだ。
あの日の朝は、礼服をよれよれに着くずれさせて家に帰ったから、あんたもびっくりしたろうな。
ご近所に視られながら帰宅したいから独りで返るっていうから、したいようにさせたけど。
ほんとうは家の玄関をくぐるまで、俺は見届けていたんだ。
口をあんぐりさせたあんたが、あわててなにごともなかったような顔になって、奥さんをねぎらったのは、とても見ものだったよ。
いやもちろん、いい意味でだけどね。

奥さんやっぱり、純情なんだよ。
ひとの生き血を吸う俺みたいなやつのことも切れないし、
ご主人とのまっとうな日常も、死ぬまで続けたいって言うんだ。
だからこのまま、やっていこうじゃないか。
あんたには、迷惑至極の話だろうけど・・・ね。