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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

強制デート  ~妻と吸血鬼との交際録~

2016年05月06日(Fri) 08:02:12

めまいとまどろみが去って、開けた視界の向こうにはあの男がいた。
さっきまでわたしの首すじから啜り取っていた血が、男の頬をまだ濡らしている。
服従することが安堵を生むことを、この男に血を吸われることによって初めて知った。
「気分はどうかね」
男はいった。
「最高ですよ」
わたしはこたえた。

この街では、吸血鬼と人間とが共存していた。
遠くの都会から越してきたわたしたちも例外ではなく、
この街の住人として受け入れられるためには、彼らのために血液を提供しなければならなかった。
わたしはそれを受け容れ、事前に相談した妻も、反対しようとはしなかった。
血を吸われた人妻は、例外なく犯される。
そんなルールさえ、知りながら。
もう――わたしたちを受け容れてくれる場所は、ほかのどこにもなかったから。

「あんたの奥さん、手ごわいな。3回めのデートで、やっとキスした」
男はぬけぬけと、そんなことを口にする。
「うちの仲間うちでも、評判になってきたよ。あんたの奥さんの身持ちの堅さ。亭主としては、自慢してもいいんじゃないかな」
男の目には、思うようにならない苛立ちではなく、むしろ称賛の色が込められている。
さいしょにわたしが襲われて、理性をなくしたわたしは妻も襲わせるため、男を自宅に招いていた。
その場で――妻は犯される・・・はずだった。
彼らの流儀では、モノにした人妻は必ずその場で犯すことになっていたから。
「待って!それはやめて!」
生真面目な妻は、頑なな性格をそのまま顔に出して抗い、ついに男を振り切った。
というか、男のほうからあっさりと、手を引いた。
「嫌なら無理にとはいわないがね」
男は妻から吸い取った血が口許に散ったのを手の甲で拭いながら、いった。
「でも、血は時々めぐんでもらうよ。さしあたってはあさって、俺の家に来てもらう」
救いを求めるようにわたしを見つめる妻に、わたしは言った。
「行ってお出で。ぼくは我慢するから。なにが起きても、許してあげるから」
妻は押し黙ったまま――それでもしっかりと、頷き返してきた。

それが最初の、妻と男とのデートだった。
訪問先の男の家で、妻がむざんに犯されるのを予期して・・・わたしは昂奮を感じていた。
抑えても抑えても、勃ってくる股間を、どうすることもできなくなっていた。
なんでだろう?
どうして昂奮なんか、するんだろう?
妻が今ごろ、犯されているというのに?
疑問符でいっぱいのなか、それでもパンツのなかの一物は、苦しくなるくらいに膨張を止めなかった。

その日も妻は、犯されなかった。
噛まれて血を吸われる行為は、目をつぶって許したけれど。
いざことに及ぼうとされたとき、嫌悪感が全身を走って、必死で抵抗したのだという。
妻の強い意志が通じたのか、男はまたも妻を力づくで犯すことを断念した。
それどころか、貧血でふらつく足取りの妻を、玄関のまえまで送ってくれたのだという。
妻が寝(やす)んでしまうとわたしは、彼のところに電話をかけた。
「すまなかったね。またもご意向に沿えなかったみたいで」
すんでのこと、妻を犯されるはずが、必死の抵抗ですり抜けてきた――そんなことのあったすぐあとに、夫が口にするべき言葉ではないことが、すらすらと口から出てきた。
胸の奥をチクリと、針を刺されたような刺激が走る。
男は受話器の向こうで、ちょっと笑ったようだった。
かすかな好意的な響きが、耳元に伝わってくる。
「きみが謝ることはないさ。でも、楽しかったよ。ストッキングを穿いた脚に咬みついて、ストッキングをビリビリ破りながら上目づかいに彼女の顔見たらさ、悔しそうに睨みつけているんだよ。ついつい興が乗って、ひざがまる見えになるまで咬み破っちまった」
男の言いぐさが、ひどく鼓膜に沁みついた。情景をありありと、想像してしまったのだ。

2度目のデートは、それから中2日置いた後だった。
毎日吸ったら、彼女が身体を壊すから。
といって、あまり日を置くとせっかく身体のなかに埋め込んだ毒液が消えてしまう。
せっかくここまでなじんだのだから、また一からやり直しはめんどうだからね。
めんどう――男の言いぐさはわざと真剣味を欠いたものだった。
けれどもその裏側にある想いは本気なのだ――と、夫であるわたしは直感した。
こんどこそ。こんどこそ・・・妻はあの男の女にされてしまうに違いない。
けれどもその日も、妻は無事に帰ってきた。
もちろ ん、したたか血を吸い取られて、顔色は真っ蒼になっていたけれど。
お礼の電話に出た男は、「かけてくると思ったよ」と半ばわたしを揶揄しながらも、語ってくれた。
「今回も、一歩前進。穿いてきてくれた黒のストッキング、自分から咬ませてくれた。びりびり破いてそれから外の公園をおデート。黒だと裂け目が目だつからね。すれ違う人がみんな、彼女の足許見るんだ。彼女、ずーっと俯いていたけれど、とうとういちども自分から帰ろうって言い出さなかったんだ」
義務感の強い妻だった。
吸血鬼に血液を提供するのが義務だと知らされると、首すじを咬まれても、脚を咬まれても、必死で耐えていた。
血液を良くするための食物を熱心に研究して、わたしにも食べさせ、自分も食べた。
中には、嫌いな食べ物もあったはずなのに。妻は、好き嫌いの多いほうだった。
デートの相手がストッキングを破ることを望んだから、彼女のなかでは非礼極まりない行為でも許したのだろう。
派手に破けたストッキングの脚を外気に曝して歩くことを強制されたときにも、自分を制してそれを受け容れたのだろう。

3度目のデートで初めてキスを済ませた。
そういう男に、わたしはいった。
「おめでとう。というか、頑なな妻ですまないね」
「いや、あんたに迷惑がられなくって、感謝している」
「きょうは妻のことを襲わないの?」
わたしはきいた。
デートの翌日、わたしの家に来た彼は、応対に出た妻に「ご主人に会いたい」といった。
あくまで他人行儀で、あくまで知人の家を訪れたときのその家の主婦に対する態度を、一歩も出なかった。
そして、妻をではなく、わたしの血を真っ先に望んだのだった。
彼らは女の生き血を好む習性を持っていた。
だからこそ、真っ先に夫を襲うのだ。
人妻をモノにするのに最大の障害である夫を手なずけてしまうことで、あとがどれほど有利に運ぶのかを、よく知っていたから。
それなのに、彼は妻ではなくわたしを真っ先に選んだことが、なぜか誇らしかった。
働き盛りの血液は、彼の血管をじゅうぶんに潤したに違いない。
わたしの問いに、彼はこたえた。
「もちろんね」

階下におりた男は、台所にいた妻をリビングに呼んで、ソファに座らせた。
わたしはベッドのうえであお向けになりながら、階下でのふたりの行動を、伝わる気配で察していた。
勃ってきた。またしても。
けんめいにこらえたけれど、パンツのなかが窮屈に張りつめてくるのを、どうすることもできなかった。
長い長い沈黙があった。
けれども、わたしが予期したような、ものが倒れる音や妻の悲鳴などは、とうとう聞かれなかった。
「お帰りになりました」
2階にあがってきた妻は、なにごともなかったようにそういって、テーブルに並べられたお皿や茶わんを片づけ始めた。

4回目のデートの帰りは、遅かった。
ドアを開けたわたしは、アッと声を出して息をのんだ。
荒々しく強姦された女が、目の前にいた。
髪を振り乱し、目じりには泣いた痕があった。
ブラウスはボタンが飛んで胸がはだけ、ストッキングは破れ、スカートの裏にはじわじわと、異臭を放つ粘液がからみついていた。
輪姦されたのだという。
さいしょは男が、いつものように妻の血を吸い、キスを重ね、抵抗の意思を奪うとブラウスのタイをほどいていった。
ストッキングを片方脱がされずり降ろされたふしだらなかっこうで、妻は男を受け容れた。
2度、3度・・・くり返される吶喊は、ひどくて慣れていて、いままでなん人もの女たちを手なずけてきたであろうことが、容易に想像できるほどだった。
自分が冷静なのを自分で訝りながら、けれども妻も、不覚にも耽ってしまった。
それくらい、よかったのだという。
それからだった。
男は別室に妻を連れ込んだ。そこには、彼の仲間が5人いた。
その全員に、吸血とセックスとを強要されたのだ。
わたしは妻の手を引いて、玄関からあがらせて、なおも手を引きつづけて――寝室に引きずり込んだ。
我に返ったのは、夜明けだった。
新婚以来、こんなにしつように二人で身体を重ねたことは、かつてなかった。
太陽が黄色く見える朝だった。

やっぱり私、大勢は無理。
妻は男に、そう語ったのだという。
あなたがどうしてもって望むのなら、でもその時はお相手します。
でも、愛人として認識できるのは、あなただけ。
そういうことにしてもらえませんか――?
彼女の意思は、すべて尊重された。

眩暈とまどろみからさめたとき。
開けた視界には、ふたりがいた。
わたしの身体のうえには、男が。
傍らのベッドには、妻が。
わたしたちは床を転げまわったあげく、部屋のまん中で身体を重ね合っていて。
妻はよそ行きのスーツを着て、夫婦のベッドのうえにいた。
「視ちゃったわ。男どうしって、思ったほど不潔じゃないのね」
股間には男の粘液が、生温かくまとわりついていた。
妻の身体の奥深くそそぎ込まれる粘液とおなじものを、わたし自身も愉しむようになっていた。
フフフ・・・と笑う妻は、男の好みに合わせて、ソバージュをかけている。
もはや、公然とした男の愛人だった。夫の公認で交際していることも、周囲のものはみな知っている。
じゃあ、奥さんをいただくよ。あんたの前で。
男はそういうと、夫婦のベッドのうえで妻におおいかぶさってゆく。
「あッ、イヤだわ。主人のまえで・・・そんなのいけない、いけないわ・・・」
妻はそう言いながらも、行為そのものは拒んでいない。
ブラウスを脱がされ、ブラジャーをはぎ取られ、わたしだけのものだったはずの乳房のあいだに顔を埋められ・・・
「ああっ、やらしい・・・やらしい・・・いや・・・あ・・・ん」
媚態もあらわに、小さくかぶりを振りつづける。
ずり降ろされたストッキング。目のまえに脱ぎ捨てられたショーツ。
それらのひとつひとつが、服従の愉悦になって、わたしの網膜を彩った。
彼は、わたしの血も好んでいた。
しつような吸血だった。
歓びのひとときだった。
失血で身じろぎひとつできないほどに血をあさり取られてしまいながら。
むき出しになった股間の昂ぶりを、抑えることができなかった。
「あ、勃ってる。勃ってる・・・」
妻のからかう声色さえもが、わたしをよけいに昂らせていた。

目覚めた主婦

2016年04月24日(Sun) 09:11:47

鏡台のまえ、寺崎千代は念入りの化粧を整えると、新調のスーツをまとった身をもたげ、リビングに向かった。
リビングには夫がいた。
夫は千代の淹れたコーヒーカップを片手に、テレビを観ていた。
騒々しい、バラエティ番組だった。
けれども夫の注意はテレビになどちっとも集中していなくて、
じつは夫婦の寝室で身づくろいをしている千代にいっしんに注がれていたらしい。
夫の顔色ですぐにそれと察すると。
千代はつとめて明るい声で、いった。
「どう?似合うかしら?このスーツ」
夫は妻の明るさに合わせて、かろうじて笑みを交えながら、
「うん、良く似合っているよ。さすが瀬藤さんだ。きみの良さをよくわかっていらっしゃる」
瀬藤さんの好みがちょうど、きみに似合っているのかもね・・・
ぽつりとつぶやく夫の言いぐさを軽く流して、千代は「じゃあ行ってくるわね」とだけ言って、夫に背を向ける。
夫はもちろん、何もかも知っている。
新調してもらったスーツを、瀬藤さんに見せに行くだけじゃない。
このスーツを着たまま血を吸われ、ついでに抱かれてしまうために出かけるのだ――

千鳥格子のスーツを仕立ててもらうとき、瀬藤は自ら千代を同伴して知り合いの洋品店に採寸に付き合ってくれた。
そのとき夫はいなかった。
「今回は記念じゃから」
瀬藤は年配者の塩から声で、口数少なくそういうと、
「わしの好みの柄じゃから」
そういって、千鳥格子のスーツを店主に持ってこさせていた。
記念だといわれて初めて、気がついた。
初めて瀬藤に抱かれて、ちょうど一年が経とうとしていた。

瀬藤が千代に服をプレゼントすることは、よくあった。
いつもあんたの血で汚してしまうから・・・と、妙な心遣いをするのだった。
服を汚すのを気にするくらいなら、血を吸わなければいいだろう・・・って?
そうはいかんのだな。わしは吸血鬼なんじゃから。
瀬藤は自慢とも自嘲ともとれない声で、千代にそういっていた。

一年前のきょう――
千代は友人の婚礼に招かれて、夫とともに初めてこの街を訪れた。
吸血鬼が棲んでいるのよ、この街。
新婦となる友人はそういって笑ったが、千代はただの冗談だと思って受け流した。
それが、彼女に許された精いっぱいの警告だなどとは、思いもしないで。
この街での婚礼は、三日続く。
初日の披露宴の、仲人のあいさつや乾杯の発声、
そのほかにもウェディングケーキの入刀やら、キャンドルサービスなどなど・・・が一段落すると、宴席の雰囲気は改まる。
都会ではそこまでの披露宴が、淫らな風習の息づくこの街では、これからが本番だった。
それまでに女たちの目星をつけていた婚礼の客たちが、それとなく目あての女性の近くに席を移していって、
やがて宴席は淫らな乱交の場に変わり果てる。
それまでに、女性たちを守るべき夫や息子、父親たちは、一人残らず血を吸い取られてじゅうたんの上に転がされていた。

そのとき、初めて千代を犯したのが、瀬藤だった。
父娘ほども齢の離れた相手が、赤ら顔をぎらつかせ、息をはずませて、欲情もあらわにのしかかってくる。
千代のか弱い腕はすぐに、ほかの何人もの男たちに抑えつけられて、
こぎれいなブラウスは、花びらが散るように胸からはぎ取られていった。
夫は千代の傍らに、血を吸い取られて転がっていた。
幸か不幸か、夫にはまだ意識が残っていて、うつろな目はすべてを見届けてしまっていた。
そう、不覚にも千代が、股間をくり返す襲う衝撃に耐えきれず、なん度も声をあげ、行為に応じてしまったのも。

嵐が過ぎ去ったあと、千代のなかでなにかが塗り替えられていた。
正気づいた夫もまた、なにかを塗り替えられていた。
血を吸われたせいだ。引き抜かれた血液と引き替えに、なにか淫らな毒液をそそぎ込まれていた。
まして千代は、ストッキングを穿いた脚をばたつかせ、視られてはならないショーツを裂き取られて、
股間の奥に、淫らな粘液まで、それも5人も6人もの粘液を、念入りにたっぷりと、そそぎ込まれてしまっていた。
もういちど、お逢いしようよ。
夫がそういうと。
エエ、ごあいさつしなくちゃね。
妻も即座に、応じていた。
妻を犯した最初の男のことを、あてがわれた宿のあるじに尋ねると、
シャワーを浴び、よそ行きの服に着替えて、夫婦連れだって、出かけていった。
それが瀬藤だった。
瀬藤の家には、こうなると察して待ち構えていたその時の男衆たちまで、顔をそろえていて。
夫は気前よく、最愛の妻の肉体を、自分の父親ほどの年配の男たちに与えたのだった。

感染力が強かったんだな。
瀬藤が夫にそう語るのを、半裸に剥かれた身体をけだるく横たえながら、千代は聞いていた。
婚礼の席で蹂躙を受けたあと、その晩のうちに来てくれる夫婦は、そう多くはないのだという。
しかしあんたたちは、来てくれた。嬉しいね。
けだものだとばかり思い込んでいた男が初めてみせた笑いは、ひどく人懐こかった。

妻の貞操をプレゼントするという行為は、この街では最良の厚誼の証しなのだと。
それを、妻を輪姦されたその日のうちに許すことは、夫としては理想の振る舞いとされていた。
千代たちは、この街に受け入れられた。


幸か不幸か、夫は失業していた。
だからそのまま、この街に棲みついてしまっていた。
そのあいだにも。
男たちは千代の新居に昼夜とわずあがりこんできて。
夫の血を吸い取り、酔い酔いにしてしまうと、
わざとその目線のまえで、千代を犯した。
夫もどうやら、そうしたあしらいを歓んでいるらしい――そう気づくのに、時間はかからなかった。

血管を干からびさせてしまった夫は。
新しい友人たちの干からびた血管を、若い女の血で潤してやるのを生きがいにするようになっていた。
若い血液を少しでも多く確保するために、
まだ独身の妹を招び、
兄や友人を妻同伴で招び、
両親までも街に呼び寄せてしまっていた。
同じ不幸を背負わせてやろうという意図ではなかった。
同じ歓びを分かち合いたいと、本気で思っていたのだった。
夫のひたむきな想いに、妹は結婚を控える身にもかかわらず嬉々として処女を喪い、
兄は渋々ながら兄嫁を差し出し、友人たちも同じように、愛妻を街の男たちと共有するようになっていった。
母親は街の顔役にひと目惚れをされ、ロマンスが芽生え、
長年連れ添った妻のそんな様子を視つづけた父親は、
自分より年上の男の、妻に対する老いらくの恋を、寛大に受け容れてしまっていた。

そういうわけで。
千代は始終彼らの訪問を受けていたし、
とくに瀬藤に対しては、服を買ってもらったときには必ず、出向いてお礼を言いに行っていた。
もちろん、お礼の対価は具体的だった。
夫はそれを、しいて歓迎しないまでも、決して拒もうとはしなかった。

道すがら、路上に伸びる自分の影に、千代は問いかけている。
私は本当に、愛されているの?
私に求められているのは、たぶん身体だけ。その身体に流れている、若い血液だけ。
ええもちろん、それでも満足よ。
私だって、楽しいもの。
夫以外の男と不倫するのを、夫は理解してくれて。
おうちでテレビ観ながら、待っててくれるの。
でもほんとうに、それだけなの?
たぶん私は、子供を産めない。
産んでみたところで、それは夫の子供ではないかもしれない。
三年前、結婚したときには、愛情に満ちた家庭をって言っていた。
ほんとうのところは、どうなのかな・・・

瀬藤の家に着いた。
瀬藤は一人だった。
ほかには招ばなかったの?って訊くと、
きょうはわしだけに独り占めさせてくれるって、みんな言うんじゃよ。
そんな返事が、返ってきた。

女たちを押し倒し、着衣を乱しながら血を吸い凌辱していく彼らなのに。
仲間内には、不思議な連帯感と思いやりの行き来があるのを、千代は知っている。
こういう街のことだから。
彼らはお互いの妻を交換して、血を吸ったり犯し合ったりしていた。
そうした、妻を共有するもの同士の関係だろうか――もっとも瀬藤は、独り暮らしだったけれど。
そういえば夫も必ず、千代を送り出すときには必ず玄関まで出てきて、
「瀬藤さんによろしくね」
そんなふうに、声をかけてくる。
あれは、少なくとも半分は本音だったのか。

「千鳥格子のスーツ着た女のひとを、襲いたかったんですよね?」
あからさまにそんなふうに言われないまでも、瀬藤の気分はじかに伝わってくる。
図星を言われて、瀬藤は無言の肯定を返していた。
「じゃあわたし、家の片づけをしますから。その間にお気が向いたらいつでも、襲ってくださいね」
何気ない家事をしている女性を、背後から羽交い絞めにして、首すじを咬むのが好みだと。
この街に身を落ち着けて初めてこの家を訪問したときに、露骨に言われたものだった。
以来、独り暮らしのこの家にくると、千代は必ず、瀬藤の身の回りの世話から入るのだった。

化粧はひときわ、念入りだった。いつもよりきっと、若く見えるだろう。
新調したスーツは完璧だったし、髪もきのう、わざわざ美容院に行ってセットするほどの気の入れようだった。
脚に通した肌色のストッキングは、もちろん新品。穿き替えももちろん、3足まで用意している。
そういえば、彼に逢うときには、ストッキングの着用は義務づけだった。

いそいそと台所に向かい、洗っていない食器を片づけて、
リビングでは散らかった新聞を折りたたんで積み重ね、郵便物までチェックする。
ひととおり、さしあたって必要なことを済ませたあたりが、要注意の瞬間だ。
瀬藤には、千代の器用さを頼りにしているところがあって、
こまごまとしたことは、わざと放置しているらしかった。
それらが片付いたあたりが、潮時、というわけだ。
きょうはいやにため込んでいるんだな。
いつもなら襲いかかってくるタイミングに、背中越しに彼の気配がしないのを感じながら、
千代はいつも手を伸ばさないところまで、整理整頓していった。

・・・?
ソファからいっこうに腰をあげない瀬藤の様子を窺うと、いつになく沈んでいるようだった。
もしかすると、荒々しいお遊びのできる体調ではないのかも。
彼の相手をする女性は何人かいたが、千代がいちばん若かった。
その千代が、この一週間ほどご無沙汰だった。
いけない、早く血をあげないと。
千代はいそいそと、瀬藤の隣に腰かける。
「ご遠慮なく、吸っていただいてよろしいんですよ。千代の血は、あなたに吸われるためにあるんですから」
「ああ、すまないね」
タイトスカートのうえに組んだ掌に置かれた瀬藤の掌は、意外に暖かだった。
「血は足りていらっしゃるの?」
「吸いたいが、飢えてはいない」
「そう、じゃあ私、ここにいますね」
「そうしてくれ」
20代の人妻の匂やかな色香が隣の男にどう作用するのか、じゅうぶんに心得ていた。
「なにかして欲しいことがあったら、遠慮なく仰ってくださいね」
夫も同意してくれていますから、と、わざと耳もとで囁いてみせる。

じゃあ、そのままそばにいてくれ。

え・・・?

聞き違えたのかとおもうくらい、ハードルの低さ。
千代は瀬藤の顔をまじまじと見つめた。

血も足りている。
女にもいまは、飢えていない。
ただ、そばにいてもらいたくて、お前を招んだ。

そうだったんだ。
千代は、ほっと身体の力を抜いた。
もう一年になるのに、やはり構えてしまうのは。
血を吸い取られるという行為が、生命の危機に直結していることを、本能で識っているからなのだろう。
そういえばいつも、この家にくるときには、心と身体のどこかが、こわばっていた。

物心ついたころにはお袋が、毎日吸血鬼の相手をしていた。
親父の幼馴染だった。
そのお袋がよく、相手の家に着ていったのが、千鳥格子のスーツだった。
あのときのお袋の後ろ姿を、いまでも忘れていないから。
たぶんあんたに、同じ服をきてもらいたかったんだろう。
あんたをご主人から、取り上げようとはおもわない。
ただほんの少しの時間でいいから、いっしょにいてもらいたいのだ。

――それは、千代がこの街に来て以来、もっとも欲していた言葉だった。

いいひとなんですね。
千代は瀬藤をまっすぐ見つめて、そういった。
そうして、瀬藤の両頬を両手で抑えると、真正面から口づけをした。
長い長い口づけだった。
姉が弟をあやすような、口づけだった。

あなた?ごめんなさい。今夜はお泊りさせていただくことにしたわ。
寂しくっても、泣かないでね。え?だいじょうぶ?
でもどうしても気になったら、覗きに来ても構わないって。瀬藤さん仰ってくださっているわ。
それから、たまに、たまーにでいいから。
これからも、瀬藤さんのお宅に、お泊りしたいの。
ううん、離婚なんかしない。あなたを愛しているから。
でも、約束して。私子供産むから。
その子の父親がだれであっても、あなたと一緒に育てたいの。
えっ?いつもの私らしくないって?今夜は、いやにはっきり言うんだね、ですって?
そう・・・ほんとうはもっと、私の本音をききたかったんだ。
だいじょうぶよ。あなたに売られたなんて思っていない。
私の浮気をあなたが許してくださるのを、心から感謝しているわ。
この街では、妻をほかの男に抱かせるのは、最上級の礼儀作法なんでしょう?もう、常識よ。
だから私たち、いちばんよくしてくださっている瀬藤さんに、
血を吸っていただいたり、夫婦同然に親しくして差し上げたりして、ご恩返しをしているの。
美穂子の披露宴のときには、もちろんびっくりしたけど。
いまではこういうの、いい関係だと思っているわ。
あなたの愉しみかたも、愛情の裏返しだと思っているから・・・恥ずかしがることなんか、ちっともありはしないわ。
披露宴のとき、おおぜいの方たちにエッチされて。
さすがにあのあとは、気まずかったけど・・・
でもあなたがその気になってくれて、その晩のうちに同じメンバーの方たちとお逢いして。
あなたはどこまでも気前のよいご主人で。
皆さんも私と、とても仲良くなってくれて。
きっちり、輪姦(まわ)していただいたあとは、私けっこうスッキリしてたの。
え?淫乱ですって?失礼ね。街の天使って呼んでくださいな。無理?
じゃあ、そろそろ切るわね。
あのひとさっきから、私のスーツのジャケットによだれを垂らして、迫ってくるの。
気になったら、いつでもこちらにいらしてね。
気になるわよね。妻の貞操の危機なんだから。
じゃ、おやすみなさい・・・

調和 2

2016年03月31日(Thu) 07:45:26

理不尽だと思いこんでいた。
いくら全財産を失ったからと言って。
いくら社会的信用のすべてを失ったからと言って。
かろうじて与えられた生存の場で、献血を強いられるとは。
いや・・・其処で風習として行われている献血は、ふつうのやり方の献血ではなかったから。
新天地でわたしは、妻の貞操まで喪うはめに陥っていた。

新しい勤め先から帰宅した晩。
妻は見知らぬ男たち3人に、手籠めにされていた。
取引先の工場主に血を吸われて帰った夜。
わたしはその光景を、ただ茫然と眺めているだけだった。
ひそかな昂ぶりさえ、股間に滾らせながら。
妻はそれ以来、慣れ初めた男たち3人の餌食に、進んでわが身を提供するようになっていた。

勤めに出ている間。
男を取りつづける妻。
男たちは妻の肢体に群がって、
吸い取った血潮をブラウスにしたたらせ、
はぎ取ったブラジャーを奪い合い、
めくれ上がったスカートの奥に秘めた処を、深々と愉しんでゆく。
その情景を。
勤めに出たはずのわたしは、昂ぶりながら見つめていて。
やがて侵入する男たちもまた、吸血鬼に支配されていて、
自分の妻子を提供している事実を知ると、
同じ昂ぶりを共有するものとして、
留守宅を彼らにすすんで、明け渡すようになっていた。

いまでは・・・
新たな転入者の新居に通い詰めているわたし。
これを彼らは、”調和”と呼ぶ。

転入、おめでとう。
きょう、あなたのお宅に伺って奥さんを犯すのは・・・もしかしたら、私 かもしれないですね。

大丈夫だよ。

2016年02月22日(Mon) 07:50:10

大丈夫だよ。
妻はいつものように笑って、ドアの向こうに消えた。
真っ赤な口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から覗いた白い歯だけが、記憶に落ちた。
急いで駆け寄ったドアには、早くも錠がかけられていた。

耳を当てたドア越しに、ヒッ・・・と息をのむ妻の声。
重なり合ったふたつの身体がかもし出す、気配、音。
鮮明な想像のなかで抱き合ったふたりはじょじょに姿勢を崩していって、
尻もちを突き、横たえられて、ブラウスをはぎ取られていった。
それ以上はもう、聞く勇気がなかった。
脳裏にわだかまる貧血に鈍麻されたわたしは、のろのろとソファへと向かい、身をゆだねた。
さっきまで咬みつかれていた首すじには、痺れるような鈍痛がしみ込んでいた。
あの貪欲さで、いままさに妻の血を貪られている――
嫉妬とも怒りともつかぬ感情と、それからわけのわからない帰属感とが、わたしを支配した。
帰属感?
そう。妻はわたしと同じ体験をくり返そうとしている。
そして、やつの体内でわたしと妻の身体から吸い取られた血液は、ひとつになる――

2人が部屋から出てきたのは、2時間後だった。
さいしょに男が。それから妻が。
半開きのドアの向こうから、男につき従うようにして姿を見せた妻は、
きまり悪そうな伏し目がちになって、
男とドアとのすき間をすり抜けるようにして、わたしのほうへと歩み寄る。

血を吸われちゃった。
イタズラを見つかった子供のように、彼女はへへへ・・・と笑う。
白目が瞳の黒さにひきたって、いっそう怜悧に輝いている。
指さされたうなじの一角に、視線が吸い寄せられる。
ショートカットの黒髪の生え際のあたりに二つ、紅い咬み痕が綺麗に並んでいた。
吸い残された血潮が、チラチラと妖しい輝きをたたえている。

姦(や)られちゃったけど、大丈夫だよ。
あなたのことを一番、愛しているから。

妻は瞳に怜悧な輝きをたたえたまま、巧みに感情を隠していた。

立てるかね?

気づかわし気に身をかがませてきた吸血鬼に、妻はほっそりとした手を預けた。
そうして、引っ張り上げられる力よりもしっかりと、自分の脚で起ちあがった。
スカートから覗くひざ小僧から下は、まとわれた肌色のストッキングがみるかげもなく破れている。

知ってる?脚からも吸うのよ、このひと。
パンスト代がばかにならないわ。

妻は主婦の顔に戻って、自分の身に狼藉をはたらいた男に、苦情を言った。
パンスト代もばかにならない。
咬み破られるパンストは、一足だけでは終わらない――ということか。
妻も、暗にそれをわたしに告げたかったのだろう。

このひととお付き合いするたびに、こういう目に遭うんだわ。
あなた、私のパンスト代しっかり稼いでね。

ドSなことを言うなあ・・・
わたしはとぼけた苦笑を作って、妻に応じた。
三人三様のそらぞらしい笑いが、リビングに満ちた。
これで和解が成立した・・・ということなのだろう。
わたしはふたたび吸血鬼に首すじを与え、
朦朧となって横たわったソファのまえ、
妻は娼婦と化して、淫らな舞いを見せつけてくれた。

こんどは、主人のいないときにしてくださいね。
私連絡しますから――

吸血鬼と、携帯のアドレスを交換し合う妻。
相手の男はわたしたちよりも10歳以上年上の、さえない男やもめだった。
もちろん、黒マントなんか来ていない。
よそ行きのスーツ姿の妻とは明らかに釣り合いの取れていない、ラフなふだん着姿。
はだけたブラウス、吊り紐の切れたブラジャーのすき間から乳房をチラチラと覗かせながら、妻は吸血鬼相手に、和気あいあいと言葉のやり取りを愉しんでいる。
男は自分の情婦にした人妻のスカートのなかに手を突っ込んで、さぐりはじめた。
なにを始めるのか?そう思ったら。
パンストのゴムに手をかけて、ひきおろそうとしているらしい。

あいつらね、モノにした人妻のパンストを欲しがるんですよ。

同僚のひとりは、事前にそんなことを教えてくれた。
いまにして思うと、彼もきっと、目のまえで妻のパンストをまんまとせしめられてしまったのだろう。

やらしい。絶対!やらしい。
そういうの主人のまえでやらない約束でしょう!?

妻の悪罵は、吸血鬼の頭上にさえ、容赦なく浴びせかけられた。


以後も、やつの訪問は継続しているらしい。
妻はそんなことはおくびにも出さず、
今までのように、何ごともなかったかのように、
家を切り盛りし、出勤するわたしをにこやかに送り出す。
夫を送り出した後は、きっと娼婦の顔になる。
化粧を厚く塗りなおし、携帯をとって、男を呼び寄せる。
血に飢えた男は、夫婦の寝室で妻をつかまえ、首すじを咬んで血を啜り、
それからベッドに押し倒し、パンストをむしり取ってゆく――

男やもめをかこっていた吸血鬼は、欲望の対象を手に入れたし、
妻は主婦の座を維持したまま、夫が黙認する不倫を、公然と愉しんでいる。
わたしはといえば――
面子を保たれ、だれにも嘲られることもなく。
行為の継続とともにしみ込まされた、いびつな感情に支配をされて。
妻の貞操をほかの男に譲り渡す快感に目覚めてしまい、
勤務時間中に職場を抜け出しては、わざと施錠のされていない自宅に戻り、
半開きのドア越しに、息をはずませ合うふたりを見つめ、
よそ行きのスーツの奥深く突き入れられる股間の牙に妻が我を失うさまを、見届けていく。

妻は不倫を自分の身体で愉しみ、わたしは目で愉しんでいた。

わたしの前では、しっかり女房。
情夫の前では、娼婦。
女はやはり、魔物なのか・・・
魔物の本性を覗かせる妻は、自らの欲望を人知れず満たしながら、きょうも貞淑妻を演じ続ける。

3人の浮気相手。

2016年02月05日(Fri) 03:56:09

お隣の庄輔さんが、お洋服を買ってくださるの。
ご近所の鉄治さんのところに、お手伝いに行くの。
ご町内の富蔵さんと、仲良くしてくるわ。

出勤まぎわ、めかしこんだ妻はそんなふうに言って、きょうの浮気相手と行き先を告げてくる。
お互いに秘密は作らない。
彼らのルールは、そういうことになっているようだ。

3人の中で、結婚しているのは庄輔さんだけ。
わたしたちがこの村に移って来るまでは、その庄輔さんの奥さんのところに、ほかの2人が夜這いをかけていたらしい。
そんなふうにして、庄輔さん宅がふさがっているときに。
気を利かして座をはずした庄輔さんが、我が家にさいしょに迷い込んできた。
男の身体といえばわたししか識らなかった妻を、初めて堕とす権利を得たのは。
自分の奥さんをほかの2人に提供してきたご褒美だったらしい。
妻が庄輔さんと御馴染みになると。
やがて庄輔さんは、ほかの2人に妻を引き合わせるようになった。
3人の話を綜合すると、どうも、そういう順序になるらしかった。

わたしを含めた男4人で、2人の人妻を共有する日常――けれども夫たちにとって、思ったほど居心地はわるくなかった。
そもそもわたしは、ふだんの昼間は出勤してしまって家にはいない。
3人の男たちの訪問を、妻は代わる代わる受けることになる。
唯一の妻帯者の庄輔さんは、3Pがお好きならしく――奥さんを求めてほかのだれかが家に来ると、ふたりして自分の奥さんを愉しむことにしているらしい。
あぶれたほうのもうひとりが、わたしの妻を犯しに来るのだ。
おかげで頭数が、ちょうどよい割り振りになりました――と。
庄輔さんは時折、身もふたもないような感謝の仕方をしてくる。

わたしより7歳年上なだけの鉄治さんは3人の中ではいちばん若く、
もっともパワフルに女たちを求めてくる。
彼の力強さはね、ちょっと閉口ものだよね。
立場がもっとも近い庄輔さんも、さすがにそんなふうに苦笑いをするけれど。
求め方もいちばんせっかちで、あいさつ抜きで腕を引かれることもあるという。
隣の敷地の納屋のなかにいきなり引きずり込まれて、入り口から脚だけにょっきりと覗かせて・・・そのままの様子で2時間ほどもたわむれあっているのを、視て見ぬふりをしたことがある。

還暦をとうに過ぎたはずの富蔵さんなどは、まだまだお盛んで・・・
わたしが帰宅した後ですら、わたしに直接、「奥さん貸してくれ」と・・・素朴すぎるほど正直に、女ひでりを訴えてくる。

そんな勝手な男どもを。
妻は苦笑しながら応接し、夫の前で胸をまさぐられ、スカートをたくし上げられて、押し倒されてゆく。

あなた、ごめんなさいね。きょうもあなたを、裏切ってしまうわ。
あしたもお2人ほど、予定があるの。
ちょっとだけ・・・娼婦してくるわね。
すみません。むこう向いていらして――感じちゃってるの。

彼らが立ち去ったあと、さいごに訪れる嵐を期待しながら。
わざと挑発的な呟きだけを、わたしに与える妻――
今夜もまた・・・彼らはわざと、わたしが帰宅するのを見はからって我が家を訪れる。
夜更けにドアをたたく音。
わたしの背中で、いそいそとよそ行きのスーツに着替える妻。
女日照りの男衆たちを家に招き入れるため、わたしは夜這いを受け容れるために扉の鍵を開ける。
長くて熱い夜になりそうな予感に、うち震えながら――

もしもし・・・?

2016年02月04日(Thu) 07:43:25

もしもし・・・?
受話器のむこうから伝わってくる声は、勤め先の同僚のもの。
ふと違和感を感じたのは、電話のかかって来た、午前二時という刻限のせいだった。
どうしましたか?緊急の連絡でしょうか?
怪訝そうなわたしの態度が、すぐ先方にも伝わったようだ。
どうもすみません。こんなお時間に。もうお寝(やす)みでしたよね?
素直に謝る声色は、本人の人柄まで伝えてきて、声を尖らせたこちらを恐縮させた。
いや失礼――こちらもまだ、起きてましたから・・・どうしたんですか?
あわてて声色を改めると。
彼はちょっと言いにくそうに、ことばをついだ。
いや・・・ちょっと眠れなくって。だれかと話したかったものです~。
ご迷惑ですよね?と、たたみかける声に、そんなことはありませんよ、と、相手を受話器の向こうに落ち着かせようとしていた。
いったいどうしたんですか?
いやぁ・・・
彼は言いにくそうに、ふたたびことばをついで。そして言った。
嫁が夜這いを受けてる真っ最中でしてね・・・

この村は、社のオーナー社長の出身地。
さして仕事があるとは思えないこんな山奥に事務所が作られたのには、理由があった。
故郷に錦を飾りたい。
そんな社長の願いをこめて立ち上げられたこの事務所には、
都会にいられない理由を抱えた者たちだけが、選ばれて転任してくる。
そう、厳密な性格検査を経て、守秘義務付きで。申し分のない待遇と、引き換えに――
ろくに仕事らしい仕事のないこの村の事務所での、ほぼ唯一の業務。
それは、妻や娘の肉体を、好色な村の男衆たちに提供すること  だった。

どうやら彼は、就寝直後に訪問を受けて、
あんたの嫁を抱きたい。女ひでりでね・・・
そんな勝手なことを、なんの悪気もなく口にする男を家にあげて、夫婦の寝室を明け渡したようだ。

パジャマ一枚で、風邪ひかないか・・・?
そうしたわたしの気遣いは、どうやら無用のものらしい。
だいじょうぶ――ガウン羽織っているから。
そのガウンは、夜這いの相手の手土産だという。
風邪ひいたらいけないでしょ?
彼の奥さんもまた、そこは主婦らしく。
夫の健康管理には、気遣いをしているようだった。
ガウンまで渡されちゃあね、気を利かしてやるより、しようがないじゃないか――

こういう夜は、たいがい朝までいるんだよな。今夜は寝不足だな。明日俺が会社にいなかったら、休暇届けよろしくな。
妙なことまでたのまれながら、わたしはただ、うんうんと相槌を打つだけだった。
ところで、そちらもそろそろ、寝るんだろう?
同僚の問いに、わたしも待ってました、とばかりに、応えていた。
うちも同じような状況でね・・・相手、3人なんだ。

ウチの女房、モテるからさ・・・
まんざら、負け惜しみではない。
素直なもので、若いほど、見てくれが良いほど、男はつくものだ。
それがいま、上がり込んできた男3人を相手に、太くそそり立ったものを代わる代わる、スカートの奥へと受け入れている。
ウチは子供がいるから、寝静まってからが本番なんだ。
子供たちは彼らに、なついていた。
機嫌よく遊んでくれるのは、早く疲れさせて寝かしつけるため・・・そんなことまではむろんあの子たちには、まだわかるまい。
覗いたらダメよ。
そんな妻の言いぐさに素直に従うには、わたしは誘惑に弱すぎた。
充血した目と火照った頬とをもてあましながら、受話器を片手に天井を見あげる。
ウフフ。3人ですか。いいですね。うらやましい・・・
立場が同じと知った同僚は、少し気持ちを落ち着けたらしい。
お互いの妻たちがベッドをきしませる、隣の部屋で。
長い長いやり取りが、始まっていた――

法事は情事?

2016年01月24日(Sun) 09:34:28

法事の手伝いに来てくれないか?奥さんだけでも。
この村でそんな誘いを受けたなら。
奥さんを姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

妻だけを行かせる夫は、
いいから俺の視ていないところでやってくれ。
という、ちょっとむっつりな黙認派。
ふたりで出かけていく夫は、
ふたりのアツいところ、のぞき見させてもらってもいいかな?
という、ちょっと助平な公認派。

今週の法事なんだけど・・・ぜひご主人も!
この村でそんな誘いを受けたなら。
お前のまえで女房を姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

奥さんは股間を疼かせながら。
だんなまで股間をおっ勃たてながら。
お互い言葉もろくに交わさずに、いそいそ寺へと出かけてゆく。

法事は情事――そんな陰口さえたたかれるこの村で。
法事はどこかの家で持ち回りで、毎週のように・・・愉しまれる。

嫁の身代わりに姑が・・・

2015年12月30日(Wed) 07:23:27

(姑の告白)
吸血鬼に囚われた息子の嫁を救い出すために、身代わりになる――
そんなただならぬ気持ちを抱いて訪れた、山里の大きな屋敷は。
そんなまがまがしいことが行われているとはとても思えない、瀟洒な風情でした。
夫に送り出されて独り、訪いを入れると。
すぐに、奥へ通されました。
ええ、独りでお伺いしたんです。
夫は随(つ)いてきたいと申したのですが。
わたくしのほうから、堪忍してほしいとお願いしたんです。
だって。
この村の吸血鬼に、人妻が血を吸われるときには。
肌身も許さなければならない と伺ったので・・・
さすがに主人のいるまえで、そのようなことをお許しできるほど。
わたくし、破廉恥にはなれませんでしたから。

そのかたは、お屋敷の一番奥の広間にいらっしゃいました。
傍らには、息子の嫁が、気のせいかひどく毒々しい微笑みを泛べています。
嫁はわたくしの姿を認めると、すぐにその毒々しい笑みを消して、しおらしく謝罪するように、お辞儀をしました。
けれどもわたくしには、彼女が瞬間見せたあの笑みを、忘れることができませんでした。
むしろ、わたくしの血をご所望だという老吸血鬼のほうが、紳士に映ったくらいです。

このひとを(そう言ってあの方は、嫁のことを少しだけ、自分のほうへと引き寄せました)放す代わりに、
あんたがわしに血を下さるとお言いなのかね?
男の瞳は、むしろ悲し気に輝いていました。
わしだって、好きこのんでこのようなことをしているのではない。
そう言っているように見えたのは、わたくしの気のせいだったのでしょうか。
ハイ、そのつもりでお伺いしました。嫁をどうか、家に帰してくださいませ。
お応えの後半、気力を取り戻したわたくしの語気は、いつもの気丈さを取り戻していて、
そのことにわたくしは、寸分の安堵を感じました。

承知しました。美香さんをお返ししましょう。
男は意外なくらいにあっさりと、嫁の手を離しました。
嫁は男の傍らから、自分の足で歩いてきて、わたくしにそっと会釈をしました。
やはり謝罪するように、しおらしく。
けれども、なにかを言いたげにちょっとだけ開かれたその口許に、かすかに邪悪なものが漂うのを感じたのは。
果たして、わたくしの気のせいだったのでしょうか。
嫁は、「ごゆっくり」とだけ、わたくしに囁いて、そのまままっすぐにわたくしの傍らを通り過ぎて、広間の出口へと向かったのです。

安心されよ。嫁ごはご自分の足で、ご夫君のもとに戻られる。
老紳士の言葉は、信用して良いように直感しました。
こちらへ。
手招きに応じて一歩まえに出るのには、勇気が要りました。
立ちすくむわたくしを前に、老紳士は「ああ、そうですね」と、わたくしの気持ちを察したらしく。
ご自分から座を起って・・・気づいたらもう、間近に立ちはだかっていました。
失礼。
有無を言わせない瞬間でした。
男はわたくしの背後にまわり、わたくしの両肩を掴まえると・・・あっという間に首すじを咬んでいたのです。

あ・・・
声をあげるいとまもありませんでした。
刺し込まれた二本の牙は、皮膚の奥深く、根元までずぶりと埋め込まれて・・・
ちゅうっ。
血を吸い取る音に、わたくしは魂を消して、ただひたすらに立ちすくんでいました。


(息子の呟き)
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
母の生き血を啜る音を隣室のドア越しに聞きながら。
ぼくはいたたまれない気分だった。
傍らには妻の美香が、毒々しい笑みを浮かべながら、ぼくの掌を握りしめている。
力づけてくれているように見えながら。
その実、血迷って室内に踏み込み、老紳士の行為を制止しようとするのを防いだのだと。
掌に置かれた妻の手の力の入れようで、それが伝わってきた。

お義母さまの血を、あのかたに吸わせてあげましょうよ。すこしでもまだ、お若いうちに。
あたしがお義父さまを、誘惑するわ。
そして、お義母さまの血を吸わせることに、ご納得いただくの。
あなたはただ、視て見ぬふりをするだけで良い。
吸血鬼さんに、少しでも多く、生き血を分けてあげたいのよ。

吸血鬼の棲むこの村に赴任して。
妻はすぐに、村の長老格でもあるその男に、目をつけられていた。
上司は彼を自宅に招待することをすすめ、
薄々相手の正体のわかっていたぼくは、それでもそのすすめを断ることはできなかった。
事情を抱えて都会を逃げ出さざるを得なくなったぼくと妻とは。
このひなびた村にとぐろを巻くそうした欲望に応じることを条件に、安住の地を得たのだから。
移り住んだ週の週末に、ぼくたちは初めて血を吸われ、
貧血で身動きできなくなったぼくの傍らで、妻は犯されていった――
理性まで奪われたぼくは。
その光景を、ただの男として、愉しんでしまっていた・・・

いま目の前で、妻をモノにした同じ男が、母さえも堕としてゆこうとしている。
ひそかにあとを尾(つ)けてきた父さえもが、なにも手出しをしようとせずに。
永年連れ添った母の受難を、つぶさに見守りつづけていた。


(舅の証言)
嫁の誘惑を拒むことはできませんでした。
お見合いの時に一目ぼれしてしまったのは、むしろわたしのほうでしたから。
だからこそ、従順だが優柔不断でもある息子の背中を押すようにして、この縁談をまとめたくらいです。
黒のスリップに黒のストッキング姿で迫ってくる嫁は、蛇のようにしなやかに身体をくねらせて、
独り寝の床に、入り込んできて。
ツタが巻きつくように、その白くて細いかいなをわたしの背中に回していったのです。
息子の目を意識しながら。
嫁の細腰を抱いて、何度も射精をくり返してしまっていました。

お義父さま。
声を落とした嫁は、おそろしいことを口にしました。
嫁の血を吸っている吸血鬼が、妻の生き血も欲しがっている。
だから私たちに協力して、呼び寄せてほしい。
そうじゃないと私、貧血になって身体を壊してしまう・・・
わかった。そうしよう。
妻には事の成り行きを半分しか告げずに、
それでも妻がすぐ行く、と応じてくれた時には、
共犯者たちと安堵と満足の笑みを交し合っていたのでした。
田舎に移り住んだ息子夫婦に、異変が起きている。
ひとり田舎に赴いた主人からの、そんな連絡。
くわしいことはお前もこちらに来てから・・・と。ただそうあるだけだった。

半開きになったドアの向こう。
妻はもう、酔い酔いにされていて。
もはや立ちすくむ余力さえなくなって、じゅうたんのうえにうつ伏していました。
男はなおも容赦なく、妻の脚に咬みついていました。
黒のストッキングをチリチリに咬み破られながら、血を吸い取られてゆく妻は、白目になってすでに気絶していました。
けれども、知らず知らずのうちに、自分の礼装を不埒な愉しみに供してゆく妻の気前のよい振る舞いに、
わたし自身がドキドキと胸を震わせていました。
息子夫婦にも悟られないようにと、無表情を装いながら。

侵されてしまったときには・・・
さすがに声がありませんでした。
嫁は残酷な微笑みを泛べて、わたしの傍らにそっと寄り添いました。
息子はただかたまって、固唾をのんで事の成り行きを見守っていました。
生みの母親の濡れ場を初めて目にすることに、異様な昂奮を覚えたのでしょう。
でも彼が性的に昂奮していることは、遠目にもそれと見て取ることができたのです。
あさましい・・・などとは、言えた義理ではありません。
わたし自身が、そういうことに歓びを自覚してしまっていたのですから・・・

嫁は、だまってわたしの手を握ると、言いました。
ふたりだけにして差し上げましょうよ。
ああ、そうするよ。
やっとの思いでわたしはそう応えると、嫁に手を引かれるまま、隣室へといざなわれてゆきました。
息子はまだ見ているつもりでしょうか。
「ごゆっくり」と、ひどく気の利いたことを言って、
早くもブラウスの胸をはだけ始めた新妻のようすを、ごくあたりまえのように見つめて、
わたしがもう自分から、嫁を密室に引き込むのを、止めようとはしませんでした。

お母様のを視て、あのひと愉しむおつもりよ。いやらしいわね。
ふたりきりになった嫁が、そういって白い歯をみせます。
わたしはその歯をふさぐようにして、力ずくの唇を重ねていったのでした・・・


(嫁の独白)
気高く厳しいお母様に、お行儀よくしつけられてきた和夫さん。
あなたの一家の誇りを汚すことが、あたしの隠れた欲望なのだと。
この村に来てつくづく、わかったわ。
あなたの目のまえで、初めてほかの男に抱かれたときの、
あなたの顔は、見ものだったわ。
ああ、とても、すっきりした。
都会でのあんなことやこんなことが、全部吹っ飛んじゃうくらいに。
あそこで出会った人たちには、もう二度と会わなくてもかまわない。
あたしはこの村で、吸血鬼の娼婦として生きていく。
その手始めに、あなたのお母様を狙ったの。
でも本当は。
おなじ女として、仰ぎ見るほどの存在であるお義母様に。
あたしのレベルまで、降りてきていただきたかった。
落差が大きすぎて、「降りる」じゃなくて「堕ちる」だったかもしれないけれど。
うふふ♪
でも、いいでしょ?
自分の母親が堕ちるところなんて、めったに見れるものじゃないわ。
あたしが犯されるときよりも、あなた昂奮していたわよね?ちょっぴり嫉妬♪
これからは。
あたし好きなように生きていく。
ええ、ずっとあなたの奥さんでいてあげるわ。
あなたの家名を汚すため。
笹部夫人のまま、あのひとたちに抱かれていくの。
どうぞ末永く、よろしくね・・・


(再び姑の告白)
それからというものは。
あのかたは毎晩のように、わたくしのところにお見えになりました。
真相を知ってしまうのに、半日とかかりませんでした。
いびつに歪んでしまったわたくしのベッドには、長年連れ添った夫はさいごまで順番を譲らされて、
ほかの男性たちの御用が済むのを、夜明けまで待っていてくれました。
ええ、村の衆の全員と契ってしまうまで。
それは続けられたのです。
わたくしは、身体の相性の良い男性を5人、選ぶことを命じられて。
その方たちと、交際することになったのです。
そのなかには、おぞましいことに、息子も含まれていたのです。
でも、理性を奪われてしまったわたくしには、むしろそんなことさえ、いまでは誇りに感じるのです。

毎日おめかしをして、きりっとした都会ふうのスーツに装って。
日ごとに入れ替わる恋人たちと交し合う、齢不相応の猥雑すぎる逢う瀬。
それは村はずれの荒れ寺や、ときには納屋で行われて、
わらや、泥や、どろどろとした精液や
吸い取られ辱められて、わざとほとび散らされたわたくし自身の血潮で、
わたくしはブラウスやスカートを、汚されていったのです。
ストッキングを一ダースほども、いたぶり抜かれ破かれたころには。
もうすっかり、娼婦になり切っていました。

息子とも、デートするんですよ。それも主人のまえで。
そういう夜は、主人は美香さんと、一夜を過ごします。
息子はわたくしを抱くときとおなじくらい、わたくしが凌辱される刻を歓びます。
ええ、息子に同伴されて、男たちと逢いにいくこともあるんです。
母を手引きしました。どうぞ気の済むまで辱めてください――
その日のわたくしのお相手にそう告げるときの息子の声は、昂ぶりに震え、上ずっていました。
居心地のよいおぞましさ。
そんな想いをかみしめながら。
わたくしは夫や、息子や、嫁のまえでさえも。
薄汚れた納屋の奥や陽射しの降りそそぐ休耕地の真ん中で、
新調したばかりのスーツを泥と男たちの精液にまみれさせながら。
見る影もなく破けてひざまでずり落ちたストッキングを、時折引き伸ばしながら。
あ、はあ~ん・・って、いやらしく下品な声をあげながら。
守り通してきた貞操を、きょうも惜しげもなく振る舞いつづけるのです。

わたくしの血は、嫁を救い出すために、費えとなることをお許ししたつもりだったのですが。
嫁を抱き、わたくしが犯されることを心の奥で希望していた主人をも、
妻と母親を吸血鬼にプレゼントしたがっていた息子をも、
我が家の家名に泥を塗り、わたくしを自分と同じ娼婦にしたがっていた嫁をも、
そして――都会の婦人の生き血や肉体を欲する村の多くの男性たちをも。
意図せざることではありましたものの、彼らすべてをわたくしの血が救ったのかと思うと、
わたくし自身も救われたような気がいたします。
きょうも辱め抜かれ、そして愛でられるために。
主人や息子が盗み見るなか、わたくしは鏡台に向かうのでした。

気を利かせ過ぎた夫

2015年12月26日(Sat) 04:23:22

オイ、帰るぞ。
貢田(みつだ)博はふすまの向こうに、声を投げた。
法事のあとの宴も尽きて、皆が三々五々、家路につき始めたころだった。
はぁい、今すぐ。
ふすまの向こうからは、妻の声。
いつになくウキウキとした声色に、貢田の声の語尾が震えた。
ふすまの向こうでなにが起きているかは、先刻ご承知。
この村では、法事のあとにはきまって、人妻相手の濡れ場が展開する。
席に紛れ込んだ村の衆は、都会育ちの人妻を物色して、
法事のあとの宴が始まると、思い思いに夫婦の間に割り込んで、妻のほうだけを、別室へと連れ込んでゆく。
どうしてそんなことが許されるのかって?
この村を訪れる都会育ちの男女はだれもが、いわくつきの過去を持っていて。
世間から身を隠すのと引き換えに、妻の貞操を犠牲にする――――そんな取引が成り立っていたから。

ふすまの向こう側。
貢田加絵は背中に両腕を回して、ブラジャーをつけ始めていた。
それでも相手の男はなおも未練がましく、加絵の下肢にまとわりついて、
ひざ下までずり落ちた加絵のストッキングを、舌でいたぶって皺寄せてゆく。
もう、しょうがないわねえ。
加絵は甘い声で情夫を咎めると。
主人が行こうって言ったら、帰してくれるお約束よ。
そういって、相手をたしなめた。
男は案外と素直に、加絵を離した。
ふすまが細目に開いて、有無を言わせぬ語気が、そそぎ込まれた。
――――どうしても気が済まないのなら、夜の10時ころうちに来なさい。私はもう、寝ちゃっているから。
どこまでももの分かりの良い旦那だった。

またねぇ。
加絵が後ろを振り向いて、男に手を振る。
男は慇懃に、ふたりの後ろ姿に最敬礼をする。
そして、周囲を睨みつける。
あの夫婦をこばかにするやつは、ぶっ殺すぞ。そんな顔つきをして。

夜10時半。
やっぱり――――
失敗した・・・と、貢田は何度目かの寝返りを打った。
10時ころに、妻の情夫が家に来る。
そうわかっていたから、いつもより多めに酒を飲んで、早くに床に就いたつもりだったのに――――
あらかじめそんなことがあるとわかっていたら、とても眠れるものじゃない。
隣のリビングから洩れてくる物音を、彼はあまさず聞き洩らすまいと、知らず知らず聞き耳を立ててしまっていて。
そのために、睡魔はとうとう、訪れなかった。
男の訪問は、明け方までつづいて。
くたくたに疲れ果てた妻が、隣に延べた布団にもぐり込むや否や、貢田はその妻の身体に、のしかかっていた。

都会にいるころよりも。
夫婦の営みは活発になった。
ほかの男を識ってしまった妻の身体は別人のように若返り、貢田の求めに敏感に反応するようになっている。
これは災厄なのか。ご利益なのか。
貢田はいまだに、決めかねている。

若いひとじゃなくって、よかったの?

2015年12月23日(Wed) 11:46:09

ずん胴のおばさんスカートの下に
履き心地の柔らかな、昔ふうのストッキングを穿いて
息子の嫁と娘とを連れてやってきた、淫らな山村。

結婚三年目にして夫以外の男の味を覚えた嫁と
息荒く群がる何人もの男の前、セーラー服を脱いじゃった娘。
訪ねていった公民館は、真っ昼間から乱交のるつぼになっていて
若い女ふたりにも、不自由しないほどの数の男どもが、群がっていった。

若いひとたちのほうじゃなくて、よかったの?
ただひとり、わたしのまえに現れたごま塩頭に
わたしはからかうように、声を投げる。
男はゆっくりとかぶりを結って、わたしのほうへと歩み寄ると
やおら両手を床について四つん這いになって
ストッキングに包まれたあたしの脚を、舐めはじめた。

麗しの大根足・・・って
あんまり嬉しい気のしないほめ言葉に
わたしは薄茶のパンプスを穿いたままの爪先を、男のほうへと差し伸べてやって
ねちねちといやらしく這わされる舌にみなぎる劣情に、
しぐさだけで、応えてやった。

しつような舐めに、しわくちゃにされて
じわじわとよじれてゆく、肌色のストッキング。
やっぱりストッキングはエエなあ。気品を感じるなあ。
気品のかけらも感じさせない男のやり口に、わたしは「いけすかない」と口を尖らせる。

隣室からは、きゃあきゃあとはじける、嫁と娘のはしゃぎ声。
ビリビリ、ブチブチと、服の裂ける音まできこえる。
母親として、姑として、女の手本を示すべきわたしまで
男に肩を捕まえて、床にひざを突かせられる。

そう。このひとは。
わたしひとすじと決めているらしい。
主人の遠縁の法事だといわれ 初めて訪れたこの村で
主人以外の男性の身体を、初めて思い知らされたとき
主人にあらかじめ話をつけていた・・・というこのひとは
いの一番に、わたしのうえに覆いかぶさってきた。
都会の奥さんの脚は、エエなあ。
薄々のストッキング破くの、たまんねえなあ。
きょうとおなじ、そんな言葉を口にしながら
夫にしか許したことのなかった股間を、剛い肉棒を埋め込んだ彼は
いまでもわたしを抱くたびごとに、あの”感動の夜”を、思い出すのだという。

お父さん、ごめんなさい。
有一、、ごめんね。
ひろ子さん、いっぱい愉しんでね。
佑香、うんと可愛がってもらうんだよ。
家族に対するいろんな想いをよぎらせながら、
わたしもブラウスのリボンを解かれ、スリップを引き裂かれる。
ストッキングを穿いたままの女と姦りたいという男の望みのままに
太もも丈のストッキングに、ノーパンティの腰から下は
丈長のおばさんスカートをたくしあげられてしまって
そらぞらしい外気が、すーすーと肌寒かった。

アラ都会の奥様、いいお日和で。
通りがかりの顔見知りの村の奥さんが
わざとのように、声かけてくる。
三人の女たちの先頭を歩くわたしは
しばらくごやっかいになりますねえ。
悪びれずにそうあいさつをする。
剥がれた服をまとい、素肌をちらちらと覗かせながら歩いているわたしたちの身に
なにが起きたのかなど、おくびにも出さず
村の奥さんは「ゆっくりしてってくださいね」とだけいって、すれ違ってゆく。
たしか、彼女の旦那もさっきまで
娘や嫁に覆いかぶさっていったはず。
「ゆっくりしてってくださいね」。
「ウチの旦那の面倒も、よろしくね」
きっと本音は、そういう意味なんだろう。

背中ごし、わたしのすぐ後ろを歩く二人も、
村の奥さんに礼儀正しく会釈を投げるのを感じながら
早く宿について、お着替えしなくちゃね
そう、この村では夜は早々と訪れて
若い女目当ての男どもが、わたしたちの宿に乗り込んでくるはずだから。
「やですわ、義母さまったら」
嫁のひろ子さんが、笑いをはじけさせる。
「そのまえにあたしたち、宿のかたたちと仲良くならなくちゃいけないじゃないですか」
図星を刺した嫁は、息子を裏切った時のイタズラっぽい笑いを、
整った横顔にそのまま残していた。

そうね。あのひとたちは、全裸がお好きだから。
好みに合わせなくちゃならないわね。
そういうわたしに
ママ、その手間省けちゃうみたい
娘の佑香が囁いた。
なるほど。
破けた女の服をほしがる、変態男どもが
あたしたちの行く手を、阻もうとしていた。
夏でよかったわね。
ほんとうにね。
全裸にヒールやローファーだけになったわたしたちは
宿まであともう少しの道のりを
降りそそぐお陽さまの下、恥ずかしさをかなぐりすてて、歩いてゆく。

姦の村 4  二度目のお嫁入り

2015年12月14日(Mon) 04:21:40

さいしょはまるで強姦だったと、いまでも思う。
あなた!あなたあっ。助けて~っ!
肌色のパンストを履いた脚を、思い切りじたばたさせて、
薄い唇から覗いた白い歯を、思い切り歯ぎしりさせて。
冷や汗の浮いた白いうなじを、思い切りのけ反らせ、激しくかぶりを振りながら――
股間を突き抜かれてしまうと、
ぎゃあーっ!
と。断末魔のような絶叫をあげたのだった。

いまでもそのときのことは。
逐一ビデオに、残されている。
こんなのを表ざたにされたら、あんたがた夫婦もお困りだろう。
そういってほくそ笑む長老は、そのビデオを気前よく、無償でわたしに手渡してくれて。
心ばかりのお礼にと、妻を残して夫婦の寝室を明け渡してやって。
そうとは察しながらも、相手の思うつぼにはまっていった夜――

そのビデオはいまでも、三人の間での宝物。
必死になって操を立てようとしてくれた妻に、わたしは感謝をくり返して。
貞淑な妻を明け渡してやったわたしに、長老も感謝をくり返して。
主人のまえで女の歓びを教えてくれたと、妻は長老に感謝をくり返す。
長老は妻に、いい身体と声をしとると賞賛し、
妻はわたしに、不倫を許してくれたわたしの度量を賞賛し、
わたしは長老に、妻をイカレさせた男っぷりを、同じ男として賞賛する。
屈辱まみれだったはずの凌辱場面は、いまは記念すべき三人のなれ初めの記憶。

赴任期間が切れて、村を出て行かなければならなくなったとき。
長老は妻に、求婚をした。
わたしのまえでの告白だった。
だんなを独りで行かして、わしと暮らしてもらえんか?
妻は言下に、そうします、と、応えていた――

この村から、単身赴任してね。
私――この方のところにお嫁入りしますから。
エエ、法的にはずっと、あなたの妻。
あなたがこの家に戻ってくるときも、あなたの妻。
でもあなたは、妻である私を、このかたに寝取らせ続ける義務を負うの。
私のこと犯されて嬉しいあなたが受ける、当然の罰よ。
甘美な毒を含んだ妻の非難は、半ばは本音。半ばはからかい。
転勤を控えたわたしは、妻と長老とを結びつけるため、
自宅を祝言の場にして、皆を招いた。
そう、妻が初めて犯された座敷を――わたしは妻を公的に開放する場に選んだのだ。

妻が脚に通していたパンスト一足だけを手に、わたしは村を出る。
そのパンストは、あの夜妻が穿いていたもの。
むざんに破けたパンストのすき間から覗いた白い脛は。
いまでも記憶のなかに鮮やかだった。
都会育ちの婦人が帯びた気品のシンボルだったパンストを。
いまでは劣情滾るよだれにまみれさせ、愉しませるために脚に通す妻。
そう――きみと、きみをそこまで堕とした彼とは、たしかにお似合いだ。
そして――きみと、きみがそこまで堕ちるのを視て愉しんでしまったわたしも、やはりお似合いのはずだ。

長老が妻のために用意した妾宅に、妻を伴うとき。
わたしは手を取って、彼女を助手席に乗せた。
夫婦としては、最後のドライブだった。
二度目のお嫁入りね。
妻は目を細めて、ノーブルに笑う。
白のパンプスにお行儀よくおさまった足の甲は、真新しい肌色のパンストに包まれて、
この村に来るまでと変わらぬ気品を帯びていた。


あとがき
前作までの主人公・嘉藤の上司である、長柄次長が主人公となったお話です。
公認不倫の末夫婦が分かれてしまうのは、柏木のなかではバッド・エンドなのですが。
ここまではギリギリでアリかな と思います。
ほとんど奪い尽されてしまっているはずなのですが、夫婦は夫婦の余地を残しています。
その部分が、独り都会に帰ってゆく長柄次長の活力になっているようです。

姦の村 3  村から離れても。

2015年12月14日(Mon) 03:47:53

毎晩のように列をなす、夜這いの男たち――
そのなかに、職場の上司を見出したのは。
ひと月と経たないころのことだった。

妻を差し出したものはだれでも、その村の女を抱くことができる。
男衆のひとりが教えてくれた村の掟そのままに、行動した結果に過ぎなかった。
「すまないね、嘉藤くん。奥さんには以前から、執心だったのだよ」
長柄次長はそういって、すこしだけ申し訳なさそうな顔をしたけれど。
村の掟のなかではもちろん、そうしたことも受け入れなければならないと、
妻をさいしょに犯した男から、告げられていた。

もちろんわたしも、そうした資格を与えられた一人だったけれど。
妻以外の女性を抱くことは、ついになかった。
妻がほかの男に犯される。
見慣れたスーツを着たまま犯される。
着飾った衣装をはぎ取られながら、凌辱されてゆく・・・
そんな光景にゾクッと感じてしまった以後、わたしは別人のようになっていた。
いや、そうではなかったのかも。
性格検査が見通した知り得なかった本能が。
異常な風習がまかり通るこの村で、初めて開花しただけなのかも知れなかった。
「気にしなさんな。そういう人もたんと居るから」
妻をさいしょに犯したその男は、わたしをかばうようにそう囁いた。
「わしらにとって、あんたのような旦那は、とても都合がエエもんでのう」
目じりを好色そうに皺寄せながら、男は上目遣いにわたしを見た。

そんなわたしのことだから。
日常職場で上司として顔を合わせている長柄次長が、妻を抱きに訪れたとしても。
日常を踏み破る昂ぶりを、いっそう強く感じただけだった。
長柄次長と妻との交情は、ほかの男どもと同じように、2~3日に一度くらいの頻度で、つづけられていった。

3年後。
長柄次長は転勤になった。
奥さんを村において、単身赴任するということだった。
お互いの家同士、家族ぐるみの交際が始まっていたこともあって。
妻は長柄夫人と連れ立って、法事の手伝いなどに呼び込まれては。
左右に並べられて仰向けに押し倒されて、
「奥様っ!?」「おくさまあ・・・っ!」
と、呼び合いながら。
ブラックフォーマルの装いもろとも、
輪姦される都会妻を、演じつづけていた。

長柄夫人が、村の長老のひとりと再婚したのは、それからしばらくしてのことだった。
法的には、長柄夫人のままだった彼女は、夫の臨席のもとで長老と祝言をあげると。
長柄の家を出て、長老の用意した妾宅へと、移っていった。
たまに長柄が村の家へと帰宅すると。
そのときだけは、ひとつ屋根の下で時を過ごすのだったが。
迎えた夜の半分以上は、夜這いをかけてきた長老が、
長柄のまえで己の男っぷりのよさを披露することで過ぎてゆくという。
「それがたまらんのだよ」
淡々と語る長柄次長は、立ち戻った都会で吹き溜められたストレスを、
村での非日常の体験で、散らしているようだった。

5年間の村での生活を終えたわたしたちが転任した先は、都会の事務所。
事務所の責任者は、長柄次長だった。
職場では、謹直そのもの。
仕事の運びようも、依然と変わらず堅実そのものだった。
村においた妻がまさかその土地の長老に奪られてしまい、
その奪られたことを快感にしているなどとは、おくびにも出さずに・・・

そんな日々が始まって、一週間と経たない頃に。
帰宅したわたしを、妻はウキウキと迎え入れていた。
「お誘いを受けているの。長柄次長に」
え?と訊き返すわたしに、
妻は携帯の画面を見せつけた。
「ご主人に内緒で、いちどお逢いしませんか?」
アドレスは、まごうことなく彼のものだった。

次長が待つという、ホテルの一室に。
わたしたちは夫婦で、お伺いをした。
ときならぬわたしの来訪を、ふしんそうに迎え入れた彼のまえ。
わたしはきちんとあいさつをして、告げている。
「妻を犯していただけませんか?わたしのまえで・・・」

妻が用意したロープで、ぐるぐる巻きに縛られたわたしのまえで。
妻はなにかから解き放たれたように、長柄次長のほうへと軽やかに身を移していって。
ウキウキとした笑みをたたえ、にこやかに言った。
「ふつつかですが、どうぞよろしく」

こうして、村での風習が生んだ婚外性交は、都会での公認不倫に塗り替えられた。
夫婦の風景がふたたび替えられた、記念すべき夜。
きちんと装われたスーツはしどけなく乱されてゆき・・・
都会の一隅で、村の光景が再現されてゆく――

姦の村 2 父娘ほどの年齢差。

2015年12月14日(Mon) 03:22:27

妻が総てを体験してしまうまで、さほどの日数はかからなかった。
村の男衆の数は、知れたものだったから。
そのわずかの間に妻は、十代から七十代まで、あらゆる男どもとセックスをした。
毎晩、よそ行きのスーツに着飾って
納屋に引きずり込まれた都会育ちのスーツ姿は、泥とわらとにまみれながら、
飢えた唇のまえ、白い裸身をさらけ出していった。

ひと通り、男たちと身を重ねてしまうと。
妻を気に入ったものだけが、わたしの家に夜這いをかけるようになった。
庭先から雨戸をほとほとと叩く音がすると。
わたしは男たちを居間へとあげてやり、
妻はいそいそと、都会仕立ての服へと着替えてゆく。
洗練された衣装や、すべすべとしたスリップ、それになまめかしいストッキング。
そんな装いに、泥臭い彼らは無性に焦がれ、むやみと汚したがるのだった。
そんな彼らの感情も、わからないではなかったのだ。
なにしろ、わたしにしてからが、
着飾った妻が泥まみれにされ辱められてゆくのを目の当たりにすることに、
不覚にも歓びを見出してしまっていたのだから。

どちらかというと、妻は年配の男性に好まれるようだった。
そのほとんどが、父親くらいに年齢差のある連中だった。
彼らは息荒く妻にのしかかって、ごま塩頭を乳房の間に埋め込みながら、
鍛え抜かれた浅黒い臀部を、たくし上げられたスカートの奥へと肉薄させてゆく。
ほんとうに、還暦を過ぎたほどの連中なのか?そう疑うほどに、彼らの精力は凄まじく、
妻を犯されながらも、同じ男として賞賛を禁じえなくなっていた――

「親孝行をしているみたい」
父親を早くになくした妻は、そういいながら。
劣情もあらわに迫ってくる男どもに甲斐甲斐しく接していって。
突き出される鎌首を唇で受け、舌で撫でまわしては、吐き出される粘液を呑み込んでゆく。
そんな奉仕ぶりがまた、気に入られていって。
男どもは引きも切らず、我が家への夜這いをくり返してゆく。

「服を破かれると感じちゃう。日常じゃなくなるみたいな気がするの」
きちんとした服装をしつけられてきた妻は、そういいながら。
衣装もろとも踏みにじろうとする男どものまえ、着飾ることをやめようとはしない。
どこまでも取り澄まして。
夫がいるんです。失礼です。やめてください・・・
制止の言葉をわざとのように口にしながら、押し倒されてゆき、
都会妻の衣装を引き裂かれながら、欲望に屈してゆく――

姦の村

2015年12月14日(Mon) 03:05:50

あの村から離れた安ど感と寂寥感とは、体験したものでなければわからない。
あの村に戻る緊張感と開放感とは、やはり体験したものでなければわからない。

赴任すれば夫婦もろとも、乱交の渦に巻き込まれるといわれるその村に。
綿密な性格検査や素行調査の上選ばれた者だけが、赴任を許される。
もちろん、そんな切羽詰まった場所に吹き溜まるのは、
いろいろな事情を抱えた、訳ありのものばかり。
お互い顔を突き合わせても、話題にする場合そうしない場合・・・
それらをことごとくわきまえ合いながら暮らしていけるのは、
抱えた労苦がただならないものだったからに違いなかった。

女とみれば見境なく抱きたがる男衆であふれたこの村に。
わたしが妻を伴って赴任したのは、5年前。
妻にとっては、30代の最後の夏だった。

「なにも感じないから」そう誓ったはずの妻は。
ぐるぐる巻きに縛られて、畳の上に転がされたわたしの目のまえで――
はぁはぁ、ぜーぜーと、よがり狂いながら、犯されていった。
あなたがМだっていうのは、ほんとうなのね。
振り乱したままの髪を、帰り道の夜風に流しながら、妻はフフッと笑っていた。
蔑むような笑いではなかったことに、わずかな救いを認めながら。
わたしは来た道を戻ろうと、妻を誘っていた。
底知れない欲情のとぐろを巻いた男たちの影が澱む、その座敷へと。

もう一度、妻を目のまえで犯してほしい。
紙一重の差で仇敵になっていたかもしれない男たちのまえ、
わたしはそんなまがまがしい希望を、頼み込んでいて。
妻は着づくろいもままならないほどに乱された着衣を、どうにか体裁を整えていて。
これだけはと穿き替えた肌色のストッキングが、男たちの毒々しい欲情を、いっそうそそったのだけは、伝わってきた。

はぁはぁ・・・
せぃせぃ・・・
妻は息遣いも切なげに、のしかかってくる男たちをひとりひとり、応接して。
わたしはそんな妻の痴態を前に、独り昂ぶりに身を任せていた。

夫婦の運命を変えた、記念すべき夜。
田舎の空は、満天の星に彩られていた――

娘の制服代。

2015年12月07日(Mon) 03:54:34

自宅のリビングで。
妻は着ていたブラウスをはぎ取られて、犯されたままの姿勢で気絶していた。
かけつけたわたしを待ち受けていたその男は、「おかえりなさい」とぶっきら棒に声をかけてきた。
30分前、勤め先に電話をかけてきた妻の声は、切羽詰まっていた。
「あなた!早く帰って来て!家で男に襲われているの!」
男はその直後、躊躇なく妻を犯し、大胆にもわたしの帰宅まで待ち受けていたというわけだ。
「いったい、どういうことなんですか!?」
わたしの抗議を軽く受け流すと、男はいった。
「時々お邪魔するんで」

この村に赴任するときに、上司に言い含められていた。
「栄転ポストだよ。なにしろあそこは、社長の出身地だから。
 でも土地柄が、特殊でね。女とみれば見境なく抱いてしまう風習があるそうだ。
 奥さんは任地に帯同するのが、赴任の条件になっているから――どうなるかは、わかるだろうね?」
社長は生まれ故郷に報いるために、地元の雇用創出をうたって、この事務所をつくったのだが。
実態は、都会育ちの人妻を提供するために社員を赴任させたのだった。 
赴任の対象となる社員は、厳密な性格検査を経て選抜されていた・・・

覚悟してはいたものの。
いざこうなってみると、あきれてものが言えなかった。
妻はおっぱいをまる出しにして、ぶっ倒れていた。
白い乳房もあらわに、窓から射し込む陽の光に曝していた。
この村に赴任して、まだ一週間と経っていなかった。

「時々って・・・どれくらい?」
思わず口走るわたしに、男はいった。
「気が向いたらいつでも」
と。

翌日家に帰ると、妻は気に入りの紫のワンピースを着たまま、わたしの帰りを待っていた。
「私、浮気してしまいました」
妻は言いにくそうに、そういった。
昼間に紫のワンピースを着て外を歩いていたら、またもあの男に襲われたのだという。
(赴任してきた都会妻たちは、外出するときはよそ行きの服で聞かざることを義務づけられていた)
「この服・・・お気に入りなのに、破こうとするんです。
 ”この服だけはやめて!”っていったら、手を引っ込めてくれて・・・
 それで私、浮気することにしたの・・・その場で服を脱いじゃったんです」
わたしのことを恐る恐る見あげる妻の前には、離婚届が置かれていた。
わたしはなにも言わずに、その忌まわしい紙切れをくしゃくしゃに丸めていた。
「あいつといっしょになりたいのか?」
「イイエ、でも追い出されたら俺のところに来いって言われたわ」
――夫婦の選択は、ひとつしか残されていなかった。

あくる日帰宅すると、妻はまたもブラウスを裂かれて、床のうえで気絶していた。
「おかえりなさい」男はこのまえと同じように、ぶっきら棒にそういった。
「服破くの、趣味だもんで」
男は見当違いのことをいって、きまり悪げに頭を掻いた。
この土地の風習のままに動いているだけで、決して悪気はないのだ。
赴任したその日に、上司がわたしに言った言葉を、いまさらのように思い出していた。
「これ、洋服代。悪りぃから」
男は着崩れしたジャケットの内ポケットから、かねて用意していたらしい封筒をわたしに差し出した。
「いや・・・受け取れない」
受け取ってしまったら、妻に対する強姦同然のセックスを認めたことになってしまうような気がした。
「あー・・・そうだよな。かえって悪いことをした」
男はあっさりと、封筒を引っ込めた。
「こんど奥さん連れて、気に入った服を買うから」
男の言いぐさに、もはやわたしはなにも応えなかった。
妻が身じろぎをした。話し声に気づいて、われに返ったようだった。
「おかえりなさい」
目つきがとろんとしていた。
乱れた髪をけだるげに繕うと、「お茶淹れますね」といって、転がされていたじゅうたんのうえから起き上がった。
「すまない。もう少し、別れを惜しませてくれないか」
男のぶしつけな要求には応えずに、わたしは妻に声をかけた。
「お茶はふたつでいいから。お前と――この人の分」
勤め帰りの夫は、妻の浮気相手のために、そのまま外へと引き返したのだった。

外には出たものの、家から離れることはどういうわけか、できなかった。
庭先にまわり、縁側に腰をおろしたわたしは、隣家の人に気づかれないかと気にかけながらも、
家のなかの物音に耳を澄ませていた。
テーブルの上の茶わんが、ひっくり返る音。
蹴とばされたソファが壁にぶつかる音。
そして、妻の切なげなうめき声――
不覚にも、股間が逆立ち鎌首をもたげるのを、どうすることもできなかった。

それ以来。
妻はあの男と、ブティック通いを始めていた。
わたしが出勤してしまうと、もう自由の身だった。
三十代の人妻はショルダーバッグひとつを提げて、男と腕を組み、堂々と街なかを闊歩する。
裂かれた衣装の代わりを買ってもらうと、そのままラブホテルに直行して、夕方までをいっしょに過ごす。
男は律儀者らしく、わたしの帰宅時間に姿をみせることは、なくなった。

「由佳の制服代出してくれるっていうの」
妻が唐突にそう切り出したのは、日曜の朝のことだった。
だれが、という主語さえ省略しても、夫婦のあいだでそれがあの男のことだという黙契ができあがっている。
春から中学校に進学する娘の由佳は、友達のところに遊びに行っていた。
都会からいっしょに赴任してきた家の、同学年の少女のところだという。
「どうして?そんな筋合いないじゃないか」
口を尖らせるわたしが妬きもちをやいているのだと察した妻は、わたしをしり目に洗濯物の始末を始めながら、
「制服代助かるわぁ」
とだけ、いった。

真新しいセーラー服を着た由佳は、ハイソックスも新調したらしい。
白の無地の真新しいハイソックスが、発育の良い脛を、眩しくひきたてていた。
「制服のお礼に行ってくるわ。あなたにお願いしてもいいんだけど――」
きみとふたりじゃ、彼が目移りするだろう・・・といいかけたのを呑み込むと、
「いや、ぼくが行くほうがすじかな」
そういって、わたしは読みさしの新聞をおいて、起ちあがる。

娘を連れた父親は、あの夜の夫とおなじく、入った家からすぐに出て行った。
男の家は貧しげで、手入れのされていない庭に面した縁側は朽ちかけていた。
隣家に気取られるのを気にかけながら、
娘がじたばたと抗う物音やら、
「痛い!」「痛っっ!」という叫び声やら、
なん度もされてしまって慣れた身体に戸惑いつつも、べそを掻きながらも相手を始める気配やらに、
昂ぶりを抑えかねながら、聞き入ってしまっていた。

制服は入学前に、二着めが必要になっていた。
その二着めを着た由佳が、ラブホテルに誘い出されたと妻からきいたのは、翌日の夜のことだった。
ここの土地は狂っている。
あきらかにそれとわかる未成年が入って来ても、同伴の男が親子だというと、休憩を受け入れてしまうのだった。
もっとも、実の父娘の場合さえ、時としてはあるのだという――

「スカートの裏側がちょっとごわごわしているけど――中学ではみんなそうなんだって。
 授業中に呼ばれることもあるんだって」
無邪気な声できわどいことを口にする由佳は、自分の言っていることの意味をどれほど、心得ているのだろう?
その由佳が、すでになん着めかになった制服姿で、わたしの傍らに寄り添っている。
ふたりが歩みを進めるのは、男と二度目の体験をしたあのラブホテルだった。

村の男に自分の妻を提供した夫には、仲間に入れてもらえるという特権があった。
行使するしないは、もちろん自由意志なのであるが――
「だれがいい?より取り見取りだぜ?もちろん、あんたの会社の同僚の奥さんでも、たいがい平気だぜ?」
妻の仇敵であるはずのあの男は、すでに仲間の目線になっていた。
その男のまえで、わたしは躊躇なく、自分の娘を指名していた。
白いハイソックスに包まれた発育の良いふくらはぎに、魅せられたように――
「いいと思うわ」
妻が即座に、賛成した。
勉強部屋にこもっていた由佳を呼ぶと、
「あした、お父さんといっしょにあのホテルに行きなさい。小父さんにしてあげてること、お父さんにもしてあげて」
娘はわたしを値踏みするような目つきで窺うと、あっさりといった。
「ウン、いいよ。学校終わったらすぐ帰ってくるから」

「親子です」
あのとき、男が見え透いた嘘をいったときとおなじ文句を、わたしもホテルのフロントに告げていた。
ホテルのボーイはふだん通りの業務口調で、「親子連れさま、ご休憩――」とだけ、同僚に伝達していった。
傍らをふり返ると、感情を消した白い頬があった。
目は真っすぐと、前を見つめている。
これから別人のように乱れた吐息を重ね合うのを、はっきりと自覚しながら・・・


追記
服を破りながら荒々しい性交をするのを好む男が、妻の洋服代を払おうとする。
その彼が娘の制服代を持とうとするとしたら、意図はひとつ・・・
そんな話にするつもりでしたけれど、
描いているうちに、奥さんの存在感がグッと出てきて、
妻を相手に強姦同然のセックスに耽る男を咎めながらも、そんな日常を受け容れる夫の姿を描くのに熱中してしまい、
かんじんの後半が短くなってしまいました。
あと、父と娘とをかけ合わせたのは、描いているうちに生じた出来心が総てです。 (^^ゞ

男衆、あります。(貞操喪失のススメ)

2015年11月27日(Fri) 07:51:52

愛人の存在は、奥様の値打ちに華を添えます。
貴男も、都会育ちの奥様を、村の男衆にゆだねてみませんか――?

奥様はいつまでも、若く美しく・・・そんな夫たちの願いをかなえるひとつの方法。
それは、

「奥様に愛人を迎える」

ことです。

村にはやもめ、妻帯者を問わず、都会の奥様のスーツ姿を押し倒したい男衆が大勢おります。
かれらに1人でも多くの女性を提供するのが、当村役場の実施する「既婚女性貞操公開事業」の目的なのです。

ラインナップを紹介します。ぜひいちど、ご夫婦で検討してみてください。

【不特定多数タイプ】

その1 お寺の本堂で輪姦
奥様に、村の法事に出席していただきます。
群がる参列客に迫られて、奥様はやがて輪姦の渦に・・・

奥様には、黒の喪服を着用していただきます。
ご主人の同伴も可能です。
喪服妻の輪姦風景を、とくとご堪能ください。


その2 山奥で、ピクニックのさなかに襲われて
当村自慢の大自然のなか、奥様に鬼ごっこを楽しんでいただきます。
鬼は複数です。
捕まえられてしまうと、その場で服をはぎ取られ、参加者全員とセックスをします。
ご主人の同伴はもちろんOK、お嬢様の参加、息子さんの見学も可能です。


その3 自宅に夜這い
ご自宅のお庭には、奥様目当ての男たちが列を作って順番を待ちます。
ご主人は隣室で、奥様の性技をたっぷりと御覧ください。
勝手のわかった我が家での輪姦は、格別な刺激がありますよ!

【個別交際タイプ】
その1 お見合いから交際へ
奥様の交際相手候補とは、ご夫婦で面会が可能です。
さいしょはお話合いから、やがて映画に誘われ、ドライブに誘われて・・・二人の交際は深まっていきます。
ご主人がどこまで見届けられるか・・・
成立したカップルの数ほど、パターンは分かれます。
末永い交際相手をご希望のご夫婦には、最適のプランです。

その2 長老宅で犯されて・・・
奥様には、村の長老との個別面接を体験していただきます。
ご自宅が、長老の愛人の別宅と化してゆく。
夫婦ともに強い帰属感を味わえるコースです。


あとがき
ふう・・・
時間がなくなりました。 A^^;
このお話は、要翻案かもですね。。。

スラックスの下に秘めた好意

2015年11月19日(Thu) 07:51:50

たくし上げたスラックスから覗いたむき出しの脛は、もともと淡かった体毛をそり落とされて、
薄暗がりの中、射し込むかすかな陽の光を照り返し、三日月のような輝きにつつまれている。
晴夫は封を切ったばかりのパッケージから靴下を取り出して、指先に長々とぶら下げた。
女物のストッキングのように薄い生地が、薄闇に映えて妖しく透ける。
器用にするするとつま先をたぐると、補強のあるつま先の縫い目を自分の足のつま先に合わせていって、
脛の上へと、すべらせてゆく。
じんわりと拡がる薄手のナイロンが、ごつごつとした筋肉に包まれたふくらはぎを、なめらかに染めた――

妻の光枝も、母の菊枝さえも、いまごろは村はずれの荒れ寺に、法事の手伝いと称して招び出されて、
いまでは歓びとなってしまっている凌辱の渦に巻き込まれているはずだった。
村の長老たちは半分以上が、吸血の習慣を持っている。
その彼らの渇きを満たすため、都会育ちの移住者たちは、女たちを提供する――そんな忌まわしい風習に、晴夫の家が家族もろとも巻き込まれていったのは、ごくしぜんな成り行きだった。
セックス経験のある婦人は、好むと好まざるとにかかわらず、生き血ばかりか操までもを、むしり取られていった・・・

出勤を送り出してくれる妻の光枝は、いつもスーツ姿で、夫の外出を見届けると、どこかへ出かけていくようだった。
いまは特定の相手さえいるらしく、それも頻繁に逢っているらしい。
そんな日常に染まりながら・・・いつかその日常の裏側に、えもいわれない歓びを覚えたとき。
晴夫は自らのマゾヒズムを自覚した。

その気になったらいつでも、逢いに来ればいい。
決して恥ずかしいことじゃない。
勤務中に事務所を訪れたその白髪の男は、自ら光枝の情夫だと名乗り出ると、
晴夫にそんな毒液のような囁きを、鼓膜の奥に流し込んでいった。
身体じゅうにまわった毒が、命じるままに。
晴夫は薄手のハイソックスを、身にまとってゆく。
男は、妻や母のふくらはぎを咬んで血を吸うのを好んでいた。
彼女たちが脚に通している黒のストッキングを、思うさま咬み剥ぎながら。

妻の情夫は晴夫を迎え入れると、感情の読めない穏やかな顔つきで、話しかけてきた。
薄い靴下がよく似合いますね。
冷やかしているようすは、みじんも感じられない。
露骨に這わされる足許への視線が、妙にくすぐったい。
ご覧になりたいですか?
晴夫の問いに男が頷くと、彼はちょっとだけ、スラックスをたくし上げて見せた。

「あなたは薄地の靴下をはいた脚を咬むのが、お好きなようですね」
わざとそっけなく口にしたはずの言葉は、語尾がかすかにふるえていた。
妻の生き血を日常的に吸っている吸血鬼と和解するために、彼好みの薄い靴下を履いていく――そんな行動の裏に秘められた屈辱さえもが、なぜかひどく小気味よかった。
「男物の靴下ですから、たいして愉しめはしないだろうけど」
そう呟きながらスラックスをたくし上げる手に、さりげなく力がこもる。
ほほう、これは美しい。
無理して好みに合わせてくれた夫の好意は、すぐに相手に伝わったらしい。
惹かれるように伸ばされた掌が、晴夫の脛をスッと撫でた。
ぞくり、とするような撫で方だった。
この愛撫に、妻は堕ちたのか。
なまなましく湧き上がる感情が、晴夫の自尊心を逆なでにする。
片意地を張るように持ち続けたかすかなプライドが、紅茶の中に放り込んだ角砂糖のように他愛なく崩壊してゆくのが、ひどく心地よい。
俺もまた堕ちてしまう・・・
晴夫はそんな胸騒ぎに、胸をひらめかせながら、屈従を態度に示すように、じゅうたんのうえに手をついて、うつぶせになってゆく。
ふくらはぎを吸いやすいように気遣うその姿勢は、何度となくのぞき見をしてきた光枝の所作に学んだものだった。
ひんやりとした外気にさらした薄い靴下ごしに、にじり寄ってきた男の呼気が、生温かくあてられる。

ぬるっ。

男の舌が、靴下のうえを這いまわった。
晴夫は男が自分の脚を吸いやすいように、さりげなく脚の角度を変え、姿勢を崩し、じゅうたんのうえを転げまわった。
男は、晴夫の妻が情夫のために装ったストッキングをいたぶるときと、寸分たがわぬ態度で。
彼女の夫の、薄く透けたふくらはぎに、濃厚な凌辱を加えていった。
「まじめな家内がどうしてあんなにもかんたんに堕ちたのか、わかるような気がします」
晴夫のつぶやきに男が頷くと。晴夫はなおも口走っていた。
「せっかくですから・・・破く前にたっぷり愉しんでください。男物の靴下でも、お嫌でなければ・・・」
「あんたがいま呟いたこと、奥さんもしょっちゅうそう言ってくれますよ」
そんな囁きに、晴夫がビクリと反応すると。
吸血鬼はにんまりと笑い、その笑みを薄手の長靴下の脚に圧しつけると、容赦なく牙を、埋め込んでいった。

薄闇の中。
夫の血潮がチュウチュウと啜り取られてゆく音だけが、ひそやかに流れていった。

陶然となって、じゅうたんのうえを転げまわる晴夫を、追いかけるように。
吸血鬼は何度も彼のうえにのしかかると、その両脚を代わる代わる、いとおしむようにいたぶり続けた。
やがてどちらからともなく、目線を交えてゆくと。
息の合ったカップルが接吻を交し合うように、片方がもう片方の首すじを、器用に咬んでいた。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
自分の血が吸い取られる音がリズミカルに響くのを、鼓膜に心地よく感じながら。
晴夫はわれ知らず男の唇を求め、男も夢中になって、晴夫の唇を吸っていた。
重ね合わされ、交し合わされる、唇と唇――
自分の身体から吸い取られた血潮の芳香が、息が詰まるほど強烈に、鼻腔を冒した。
けれどももう、かまわなかった。なにも見えなくなっていた。
熱い呼気をはずませ合って、ふたりはしばらくのあいだ、互いに互いの思いをぶつけ合ってゆく。
晴夫は息をはずませながら、言った。
「あなたの唇には、家内の血潮が良く似合うのでしょうね」
男もすぐに、それにこたえた。
「あんたの血だって、わしの唇に似合っておるじゃろう?」
目のまえで囁きかける唇は、自分の血に染まり、ルビーのような赤黒い輝きを帯びている。
晴夫はうっとりとして、その唇を見あげた。
「そうですね。悪い気はしません・・・嬉しいです」
ふたりはもういちど、熱い口づけを交し合った。
長い長い、口づけだった。

じゅうたんのうえ、ふたりは並んで仰向けになって、手をつなぎ合って天井を見つめた。
「あんたの靴下を破くのは、実に楽しい。時々逢ってくださらんか」
「わたしでよければ、いつなりとも・・・でも、これは浮気になりませんかね?」
「奥さんもしていることだから、かまわんでしょう」
妻が浮気をしている。そういえば男の口からあからさまに聞かされたのは、初めてだったはず。
それなのに晴夫は、「そうですね・・・」と、軽く応えてしまっている。
自分でもそんな態度が意外だったし、けれどもそれでいて、嬉しくも感じていた。
男は光枝のことを、しんそこ気に入ってくれている。
その光枝の夫の生き血は、彼にとってもどれほど関心が深かったことか。
さっきまでくり返されたしつような吸血は、彼が今夜勝ち得た、情婦の夫からの贈り物を気に入ったことを態度で示したものなのだろう。
晴夫は満ち足りた気分になり、吸血鬼のほうへと目を向けた。
吸血鬼もまた、晴夫を見つめていた。
視線を結び合わせたふたりは、互いに身を近寄せあった。
再び重ねあわされる、唇と唇。
夫のほうももはや、躊躇いはしていない。
妻ばかりか自分の血潮まで吸い取った唇に、ただ夢中になって応えていった。
「家内を奪った、憎い唇ですね」
晴夫がいうと、吸血鬼はぬけぬけと、「そうですね」とだけ、こたえた。
「いまは、わたしのことも奪おうとしている」
「奪わせてくれますね?」
「家内を捧げると決めたときから、わたしのすべてはもう、貴男のもの同然でしたから・・・」
晴夫はそういいながら、自分のいっていることは事実とすこし違う、と、感じた。
けれども、ほんとうにそうなのだろうか?
いや、そんなことはない。自分は人妻の生き血をほしがる吸血鬼のために、自ら最愛の妻をプレゼントしたのだ。
それならば、夫婦ながらかれのものになるのも、当然のことではないか。

交わされる意思のやり取りの積み重ねは、やがて、生理的欲求だけではないものをもたらした。
夫は妻と情婦の逢瀬を大切に扱い、情夫は夫婦だけで過ごす機会を重んじていた。
あの晩のストッキング地の長靴下は、みるかげもなく破かれてしまったけれど。
夫は彼のために何足も脚に通し、妻もまた自らの礼装に恥辱を受け容れつづける。
スラックスの下に秘めた薄い靴下は、夫の情夫への気遣いを示すものとして、妻のストッキングとおなじくらい、愛好され続けたのだった。


あとがき
ストッキングを履いた脚を咬みたがる吸血鬼のために、
妻をモノにした吸血鬼と和解するために、薄い紳士用の長靴下を脚に通して訪問する夫。
そんな情景を描いてみたくなりました。
どちらかというと寝取られよりも、同性愛的なお話になっちゃいましたね。。 (^^ゞ

都会の奥さん 貞操公開デー

2015年11月17日(Tue) 08:13:41

転任してきたこの村にとけ込むには、自分の妻を差し出して、村の男衆と共有しなければらない――
都会での暮らしを放棄した俺には、もはやその選択肢しか残されていなかった。
潔く?その風習を受け入れると決めたとき、
女房は「なにも感じないからね」と、自分に言い聞かせるように俺にそういった。
きっとその約束は果たされまい・・・お互いにそうと知りつつも、俺はうわべだけの返事を返している「きまってるじゃないか」

女房の貞操が喪失させられる、その記念すべき?日は、
都会の奥さん 貞操公開デー
と、呼ばれていた。
やけにあっけらかんとした呼び方に、俺は救いと絶望とを、同時に感じる。

強い地酒をたっぷりと振る舞われた俺がぶっ倒れると、
スーツ姿の妻に、半裸の男衆が群がっていった。
押し倒された女房は、男たちの下敷きになって、
ばたつかせている脚だけが目の前にみえた。
ねずみ色のストッキングには、チリチリと裂け目が走り拡がって、女房が堕落させられてゆく実感を、俺の胸に焼き付けていった。

そんなに悪いもんじゃないだろう?
まわされてゆく女房をまえに、不覚にも失禁してしまった俺に。
傍らの男は慰めるようにそういった。
男は全裸で、まだ逆立っている一物は、女房の股ぐらを、えぐり抜いたばかりで、粘液を生々しくてからせていた。
俺は夢中で、男の一物を咥え、女房を狂わせた粘液の酸っぱい臭いを喉の奥まで流し込み、むせかえっていった。
なん人もの一物が俺の前に差し出され、俺はそれらを残らず咥え、逆立てていった・・・

公開デーじゃなくって、公開ウィークになっちまったな。
若い人妻には、多くの応募者が集まるという。
ひと晩であしらうには、あまりにも多すぎる希望者のなかには、
同じ勤め先の上司まで混じっていた。
あいつもね、自分の奥さん差し出したから、この特権をもらったんだ。
あんたもどうだね?
傍らの男衆にそういわれたが、俺はゆっくりとかぶりを振った。

そのうち女房は、相性の合う男をなん人か選び出し、俺に隠れて付き合い始めるに違いない。
そんなことにさえ――いまの俺は昂奮を感じようとしていた。

この村にぜひ、赴任してみるといい。
一か月以内に自分の妻が、一ダース以上の男を相手にして、その光景に昂るすべを覚え込むことができるはずだから・・・

靴下を破らせる。

2015年10月26日(Mon) 07:52:12

きょうも吸血鬼に吸われるために、わたしたち夫婦は出かけてゆく。
さいしょに襲われるのは、わたし。
過去になん度もそうしてきたように、わたしは妻を守るため、力いっぱい闘い、首すじを咬まれてゆく。
そのあと妻は、わたしに操を立てるために、力いっぱい抗って、やはり首すじを咬まれてしまう。
やめて・・・よして・・・あなたあっ。
そんなうめき声で、わたしの心をかき乱しながら、
スカートの裾を割られ、ストッキングを引き裂かれて、
あらわにされた潔よい処に、赤黒くただれた淫らな肉を、埋め込まれてしまうのだった。

血を吸い取られて尻もちをついたわたしは、スラックスを引き上げられて。
やつのために脚に通すようになった、黒のストッキング地の長靴下に染まった脛を外気にさらし、
妻の穿いているストッキングよりも先に、咬み破らせてしまう。
傍らにいる妻の足許を彩るのは、黒のストッキング。
田舎住まいのやつらにとって、都会育ちの大人の女性が身に着けているストッキングは、憧憬の的らしい。
うひひ・・・うひひ・・・
そんな野卑な含み笑いもあらわに、やつはきちんと装われた妻の足許に、きょうも舌を迫らせてゆく。

きょうも黒のストッキングの脚を差し伸べて、やつに咬み破らせてやっている妻は。
こういうときには、優越感を感じるの。
そういって、はばからない。
わたしも――そういう妻の気持ちが、ほんの少しだけ、わかるようになってきた。
もちろん、ストッキングを破きたがるやつの気持ちも、かなりのていど、わかるようになってきた。

お世話さま。

2015年10月26日(Mon) 07:44:37

お疲れさん。
別れぎわ、吸血鬼はいつもそんなふうに、声をかけてくる。
お世話さま。
わたしのほうも、いつもそんなふうに、礼儀正しくお辞儀を返す。
ばかじゃないの。
妻はそんなわたしを肘でつついて、けんつくを食らわせる。
だって、あたしたちのほうが、お世話してるのよ。もっといばってかまわないんだから。

妻の言い分も、もっともではある。
さっきまでふたりして、わたしのまえで息をはずませ合っていたくせに。
こういうときにはどうにも、吸血鬼につれないそぶりをしてみせる。
傍らで笑っている吸血鬼は、わたしたち夫婦の身体から吸い取った血潮を、まだ口もとからしたたらせているのだが。
そんなことはまったく、おかまいないらしかった。
血を吸い取られても、生命までは奪られない。
そういう確証があるからなのだろうし、吸血鬼のIを得ているという確信も、妻を支えているに違いない。
そう――人妻が吸血鬼に血を吸われると、そのまま犯されてしまうのが、当地でのお約束。。

さいしょに襲われたのは、この村に着いて数日後のこと。
まだ引っ越しのあと始末もつかないようなときにかり出された、法事の手伝いのときだった。
読経の終わった本堂は、乱交の場となり果てていた。
慣れている奥さんたちは、それぞれなじみの吸血鬼のもとに走り、
夫たちは気をきかせて座をはずしたり、自分の妻が引きずり込まれた空き部屋をのぞき見したり・・・
もちろん、あいさつ抜きで挑みかかられたわたしたちに、そんなゆとりがあるわけはない。
わたしは妻を守ろうと必死で闘い、
けっきょくはねじ伏せられて、首を噛まれた。
妻は本能的に貞操の危機を感じ、やはり必死で抗って、
けっきょくはねじ伏せられて、首を咬まれた。
わたしは身体の力が抜け切ったまま、ただ腑抜けのように、
妻がみすみす餌食にされてゆくのを、薄ぼんやりと見つめていた。

ちゅーちゅーと美味しそうに妻の生き血を吸い上げる吸血鬼を、恨めし気ににらむと。
やつは嬉し気にVサインを送り、意味深なウィンクをして・・・妻のスカートを、引き剥いでいった・・・

おおぜいの吸血鬼が、なん人も相手を変えて、都会育ちの人妻と交わるのをしり目にして。
やつは「この人がいればもういい」と言って、仲間からの度重なる交換の要請に応じようとしなかった。
それだけが――妻の身に恥辱を重ねさせたくないというわたしの要望と一致した。

家まで送る・・・というやつの申し出を拒む気力は、わたしたちには残されていない。
真昼間、半裸どうぜんに剥かれた喪服をまだ身にまといながら、
わたしたちは意思をなくしたように、とぼとぼと家路をたどる。
家にあげてはいけなかったのだと、あとで聞かされた。
当家として貴男の訪問を歓迎する――そんな意味にとられてしまうというのだ。
”歓迎”を受けた吸血鬼はふたたびその場で妻を抱き、犯していった。
わたしは、意味不明な昂ぶりを感じながら、もうやつの所業を妨げようとはしなかった。

それ以来。
やつの訪問は、ひきもきらなかった。
わたしは大声をあげ、なぐりつけ、ひざ蹴りを食らわせてやつを撃退しようとし、
やつはわたしのあらゆる攻撃に耐えて、最終的にわたしの首を咬むことに成功した。
咬まれてしまうと、あとはもう――麻酔のようなものだった。
その場でへたり込んだわたしのまえで、やつは観念して立ちすくむばかりの妻に迫って首すじを咬んで、
肌色のストッキングのうえから、ふくらはぎにも咬みついていった。
あとはお定まりの、ベッド・シーン・・・

なん度かそういう訪問をくり返し受けたとき。
やつは落花狼藉の最中に、妻の頭をつかんで囁いた。わたしにも聞こえるように――
どうぢゃ、エエぢゃろ?エエぢゃろ?お前の亭主よりもずっとエエぢゃろ?
いっそ亭主と別れて、わしの嫁にならんか?
それは反則だろう――声をあげたかったが、力がなくなっていた。
「エエぢゃろ?」と言われるたびに、妻は無言でうなずき続けていた。
妻はあえぎながら、応えた――
「あなたのものになります。でも――
 セックスはいいけれど、主人と別れるつもりはありません」

そうか・・・
やつはしんそこ、落胆したようだった。
わかった・・・
妻の胸の谷間に顔を埋めたのは、涙を見せないためだった――と。
皮膚に沁み込んだ潤いを感じた妻が、あとでそっとわたしに告げてくれた。

話はすぐに、まとまった。
出かけるのが恥ずかしかったら、来てもらえばいい。
そういうわたしに、小声でそうしますとだけ呟いた妻は。
やがて大胆にも、「私出かけますから。誘われましたから」と、まえの晩に告げるようになった。
妻はわたしの出勤と前後して家を出、やつのところに入り浸る。
スーツに着替えた妻に、「ゆっくりしていらっしゃい」そんなことまで言える余裕が身に着いた。
きっと、やつとの境界線が、きちんと定まったからなのだろう。

視ないで・・・視ないで・・・そう訴えつづけていた妻は。
「あなたのものになります」と誓ってからは、言葉を変えた。
ねぇあなた、視て・・・視て・・・と。

けれども気強い性格は、やつの奴隷に堕ちてからも、変わることはなかった。
「お世話にしてるの、私――」
そう訴えて、やまないのだった。

行ってまいりますね。

2015年07月06日(Mon) 07:54:44

この街に転入してきて、初めての週末。
「行ってまいりますわね」
黒一色のスーツに身を包んだ妻は、わたしにそう声をかけてきた。
その日妻は、ご近所の法事の手伝いに、招ばれていた。
玄関を後にする後ろ姿――黒のストッキングに透けるふくらはぎを、わたしは惜しげに見送った。
ムザムザと、村の衆の淫らな指で弄ばれて、辱められるとわかっている華奢な身体は、あっという間に曲がり角に消えた。
わたしもいそいそと、身支度を始めていた。妻のあとを追うために。

この街に赴任してきた夫たちは、こうして無条件に、妻の貞操を譲り渡す。
それがこの土地のものとして生きていくための、通過儀礼。
法事の手伝いに招(よ)ばれたと告げた彼女に真実を告げず、そのまま行かせたわたしは、明らかに共犯だった。

落花狼藉の有様だった。
招ばれた女たちは、軽く20人を超えていた。
ほとんどが経験済みの女たち――初体験だったのは、妻ともうひとり、わたしと同時に赴任してきた若い社員の奥さんだった。
漆黒のブラウスをはぎ取られた胸に。
薄黒のストッキングを引き裂かれた脛に。
無数の唇が押し当てられていった。
スカートの裏側には、まがまがしい濁った粘液が、なん人分も織り交ざって、礼装を穢していた――


「行ってまいりますわね」
結婚前でさえ身に着けなかったほどの、丈の短いスカートから
網タイツの脚をにょっきりと覗かせた妻は、きょうもにこやかにわたしのことをふり返る。
「ああ、行ってらっしゃい」
わたしもまた、あっけらかんと妻に応えている。
これから輪姦の渦の待ち受ける場所は、あのお寺の本堂か。それとも納屋か。
草むらに引きずり込まれ、陽の光を浴びながら裸体をさらすことだってある。
きょうは妻はどんなふうにして、夫であるわたしを裏切るのだろう?
ゾクゾクっと総身を走る愉悦を、苦笑いで封じながら。
ムザムザと汚される装いを目に焼き付けると、わたしはいつものように、いそいそと身支度を整えていった。

妻に血を吸われる。

2015年07月06日(Mon) 07:23:51

妻が吸血鬼に襲われて、血を吸われた。
吸血鬼と人間とが友好性裡に共存するこの街では、日常的な出来事だった。
都会育ちで都会の会社に勤め、一か月前この街に初めて赴任してきたわたしたちにとって、もちろんそうではなかったとしても。

「あなたの血が吸いたい」
ある休日の夜、面と向かってそう言われるまで、わたしは彼女の変化に気づいていなかった。
妻はいつものハッキリとした口調で、顔色もかえずにそういったのだ。
一瞬で、なにが起きたのかを悟った。
わたしは無条件に、彼女のために自分の首すじを差し出していた。

つねるような感覚がむず痒く、うなじの一角を冒した。
ゴクゴクと喉を鳴らして、妻はわたしの血を飲み耽った。
渇いたものが欲しいだけむしり取るような、容赦のないやり方だった。
ひとしきり血を飲んだ彼女がわたしを放したとき、ひどい眩暈に襲われた。
彼女は自己嫌悪のこもった昏い瞳で、わたしを見ていた。
「私の中に獣がいる」
彼女はそう、口走った。
――離婚してくださらない?とまで、妻はいった。
だいじょうぶだよ。わたしはやっと応えた。
本社の溝田さんだって、あんなふうに言ってたじゃないか。夫婦の長い時間のなかで、それはたししたことじゃない。
――だから、離婚だけは思い止ってほしい。
彼女の身になにが起きたのか、ほぼ正確に気づいたわたしは、彼女の罪悪感を消そうと躍起になった。

溝田は人事課に勤める、数年上の先輩だった。
わたしの前々任としてこの街に赴任した経験を持っていた。
――仕事なんか、やらなくっていい。そもそも、やるに値するような仕事はあの街にはない。
溝田はあけすけに、そういった。
――あの街は、創立者のふるさとだ。あの営業所は、きみやぼくのようなもののために彼が作った、楽園のようなところなのだ。きみは家族ともども、餌になれ。ひたすら、餌としてあそこにいる連中のために奉仕しろ。なに、想像するよりもずっと、ましな世界だ。あいつらには情がある。ぼくも女房を喰われちまったが、女房のやつはいまでも仲良く、あいつらとつき合っているし、ぼくもそれを認めているし、たまにはいっしょについていったりしているくらいなんだぜ。
溝田の言葉は悪魔のもたらした毒液のようにわたしの鼓膜を侵し、世間なみの理性を痺れさせていった・・・

いったいいつからなんだ?
妻の浮気が発覚した夫のように、わたしは訊いた。
「こっちに来て一週間経った頃からよ」
彼女はもう、悪びれてはいなかった。
なん回咬まれたんだ?
「週に2,3回」
聞かれたことに対する答だけが、簡潔にかえってきた。
相手はどんなやつなんだ?
もっとも怖れた問いにも、彼女は平然としていた。
「しかるべき人」とだけ、彼女はこたえた。

そのしかるべき人というのに、逢ってもらいたい。
彼女のほうからの申し出だった。
向こうがぼくに、逢いたがっているの?
「あのひと、男の血は吸わないわよ」
突き放すような口調だった。
「あのひとに私の血をたっぷり召しあがってもらうために、わたしがあなたの血を吸うの」
イタズラを仕掛けてくるときの、意地悪そうな上機嫌。
妻の黒い瞳が、嬉しげに輝いていた。

あなただったんですね・・・?
迎え入れた自宅の客まで、わたしはほとんどぼう然としていた。
相手は赴任の初日にあいさつに出向いた、街はずれの洋館に棲む男だった。
村長の親友で、街では指折りの旧家の当主だという彼は、日本人離れした秀でた目鼻立ちと、蒼白い皮膚とを持っていた。
いつになく赤みを帯びた彼の皮膚。その裏側には妻の身体から吸い取った血がめぐっているというのか・・・
まがまがしい想像に、嫉妬とともにえも言われぬ昂ぶりを感じた。
妻とこの男とは、わたしの知らない時間を共有している・・・
私は男の生き血は好まない、とだけ、男はいった。
妻に言うとも、わたしに言うともいえない態度だった。
妻はさいしょのときにそうしたように、これ見よがしに牙をむき出して、わたしの首すじに咬みついた。
ゴクゴクゴク・・・
あのときと同じ、あからさまに喉を鳴らして、彼女はわたしの血をむさぼった。
わたしは痛痒い疼きと、自覚し始めた恍惚感に身をゆだねた。

口許に撥ねたわたしの血を、妻は行儀悪く指で拭い取り、その指を唇で吸った。
クチュッ・・・と、下品な響きを洩らして、妻は指先についたわたしの血を吸った。
「視ててくださいね。こんどは私ご奉仕する番だから」
妻はわたしのほうをふり返り、得意そうに白い歯をみせると。ツカツカと客人のほうへと歩みを進めた。
家のなかだというのに、彼女はハイヒールを穿いていた。
真新しいハイヒールはピカピカと黒光りをしていて、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎを硬質な耀きで補強している。
ひざから上を覆い隠す花柄のワンピースのすそが、落ち着いた足取りに合わせて静かにそよいだ。
失血で身動きのできないわたしは、客間の冷たい床のうえに転がされたまま、なりゆきを見守るしかなかった。

拡げられた猿臂をまえに、妻はまっすぐに飛び込んでいった。
彼女が身に纏う花柄のワンピースは、去年の結婚記念日にプレゼントしたものだった。
それと知っていて彼女はあの服を選んだのか――なにを訊いても、気の向いたこと以外は軽い含み笑いで受け流してしまう彼女は、いっこうに真相を語ろうとはしない。
猿臂に抱きすくめられた華奢な身体に、男の纏う黒衣が覆いかぶさった。
アップにした髪の生え際に、男は牙をむいて喰いついた。
チクリ、と、音がしたような錯覚を覚えた。
男はそのまま、妻の首すじにあてた牙を、根元まで埋め込んでいた。
赤黒いほとびがぼとぼとと、花柄のワンピースに不規則な水玉もようを拡げていった。

溝田の声が、いまでも耳の奥に響いている。
処女の生き血は貴重とみえて、すぐにどうこうということはないんだけれど。
あの土地の人間が女性をつかまえて血を吸うときにはね。
既婚の女性はたいがい、セックスまでされちゃうことになるんだ。
きみのところも例外じゃないし、ぼくのときだって例外じゃなかった。
だからといってそれ以上、彼らは夫婦の世界に立ち入ってこない。
連中は奥さんのことを、愉川夫人のまま関係しつづけたがるだろうから、きみはもの分かりのよいご主人にならなきゃいけないよ。
ああ、ぼくももちろん、そうしてきたつもりだ。
だからうちの女房が連れ出されるときにだって、ぼくまでお誘いがかかるんだからね。
溝田の言い草は呪縛のようにわたしを縛り、いつか昂ぶらせてさえいた。
行き先を持たない熱い粘液がわたしの股間から迸ってじゅうたんを汚すのを、妻は白い眼で視つづけていた。
引き裂かれたワンピースのすき間から、白い膚をチラチラと覗かせながら。
息荒く迫る男に愛を注がれるために、はずんだ息遣いで応じながら・・・

妻は若返った。
襲われるたびにいままでの服を引き裂かれていって、
そのたびに妻の洋服タンスの中身は、吸血鬼にあてがわれた服に、入れ替わっていった。
だいじょうぶよ。
妻はなんの脈絡もなしに、呟いた。
彼好みの女になったところで、あなたの妻であることに変わりはないわ。
あのひと、人妻を征服するのが好きなの。だから私は、あなたの妻で居つづけるの。
でもそうすることは、あなたの好みに合せていることなんだって、わかってしまった。
あなたも――自分の奥さんが犯されるの、嬉しくて仕方ないんでしょう?

ねえ、今夜も出かけていい?
妻は瞳を輝かせ、わたしの顔を上目づかいで覗き込む。
あなたを裏切りたいの。愉川家の名誉に、たっぷりと泥を塗りたいの。
活き活きとした頬を輝かせ、白い歯をみせつづける彼女のまえに。
送り迎えしてやるよ。
昂ぶりを抑えた声色でわたしはそう告げて、妻は嬉しげによそ行きのワンピースをそよがせる。

躊躇(ためら)う吸血鬼

2015年06月27日(Sat) 09:41:10

第一幕 第一場

勤務先のデスクに腰かけたわたしを、背後から襲いながら、男は聞き取れないほどかすかな声で囁いた。
言葉の響きの妖しさが、鼓膜を衝いた。

さっき、あんたの奥さんを襲ってきた。
奥さんの血は、美味かった。

・・・死なせたのか?
いちばん怖れていた問いを、男は即座に否定した。
・・・犯したのか?
つぎに怖れていた問いに、男はわずかに口ごもった。
・・・肯定するのか?
半ばすべてをあきらめかけたとき、男が口ごもったのがべつの理由だと知れた。
襲った相手がセックス経験のある婦人の場合。
ほぼ例外なく、それも躊躇なく犯すと知っていたのは。
それだけわたしが、彼らと近い立場に身を置きつつあったから。
彼はちょっとだけ口ごもると、こたえてくれた。

犯さなかった。犯せなかった。
両手を合わせて、「それだけは堪忍」って言われた。
ふつうならそれくらいのことで引き下がるようなオレじゃない。
○んちんだって、じゅうぶん勃っていた。あんたの奥さん、いい女だしな。
なのにどういうわけか、見逃してしまった。
まったく、オレらしくもない・・・

男は己が躊躇したことを、心から恥じているようだった。
絶好のエモノを見逃すなど、彼らの中ではあってはならないことなのだろう。
彼を苛んでいる激しい自己嫌悪が、わたしの肩を掴んだがっちりとした掌から、ありありと伝わってくる。
――この掌が、妻のことを抑えつけたというのか。
――この掌からの支配を、妻はかろうじて免れたというのか。
わたしは安堵を覚えながらも、男の様子が気になった。
そのぶんよけいに、吸いなさいよ。それで、あんたの憂さ晴らしになるのなら。
ふたたび差し伸べた首すじに、男は「すまないね」と言いながら、もう一度喰いついた。
濃い眩暈が視界をよぎり、咬まれた痛みを忘れるほどに陶然とした心持ちに堕ちてゆく・・・

「咬んで血を吸わせてもらうんだからな。ちっとは相手に、いい思いさせてやんなくちゃな」
男の口癖だった。
襲った相手を決して殺めようとしないのが、彼らの暗黙のルールらしい。
そのルールゆえに、この街の人間たちは彼らの存在を許し、すすんで献血に応じたり、家族の血を吸わせたりさえしているのだった。

――明日は会社、休んでいいからね。
物分かりの良い上司は、そういってくれていた。
着任してから五年になる彼は、歓迎会の席上夫婦ながら初めて襲われている。
永年連れ添った家内を目のまえでひーひー言わされちゃ、たいがいのことは乗り越えちゃうよね。
初めて咬まれた痕をじんじんさせながら聞かされた打ち明け話は、やけにリアルだった。
ノーブルな顔立ちと優雅なしぐさで知られた夫人からは、想像もつかない有様だったけれど。
おなじことがいま、わたしと妻にも、ふりかかろうとしていた。

目をあければ、着任して一か月、ようやく目になじみ始めた勤め先の風景がいつものようにひろがっている。
なんのへんてつもない風景のなか、息づいている人影はわたしたちだけだった。


帰宅すると、妻は放心したように脚をおっ拡げたまま、壁にもたれて尻もちを突いていた。
やつが出ていったときから、身じろぎひとつしていないようだった。
髪はほつれ、頬は蒼ざめ、半ば唇を開いてぼう然とした様子に、さすがに言葉を喪った。
まるでレイプの後のような生々しさが、部屋じゅうに渦巻いていた。
夫の帰宅をうつろなまなざしで迎えた妻は、おずおずとした低い声で、「おかえりなさい」とだけ、言った。
ワンピースのあちこちには血が撥ねていて、ところどころ破れていた。
妻がまだストッキングを穿いているのをみて、わたしは男の告白が真実だと察した。
脱がされたストッキングを穿きなおす気力を、そのときの妻が持ち合わせているようには見えなかったから。
もっとも・・・しつようにいたぶられたらしい足許には、露骨な裂け目が滲んでいて。
血液とも唾液とも・・・あるいはもっとまがまがしい体液とも見分けのつかない半透明の粘液を、あちこちに粘りつけられてたけれど。
そんなことを気にしているゆとりなど、わたしにはなかった。
わたしは妻に肩を貸して起き上がらせ、そのままよたよたとリビングに連れて行ってソファに腰かけさせた。
やつの食事の場がダイニングだったのは、たんなる偶然だったのだろうか。

小柄な身体を荒い息であえがせながら、彼女はほっとしたようにソファに身を沈めた。
なんにもありませんでしたから、と、彼女はやっとの思いでわたしに告げた。
よくがんばったね、と、わたしは言った。
信じてくれるの?――力のないまなざしが、しんけんな色をたたえた。
直接聞かされたから。淡々と応えるわたしに、彼女は目を瞑った。
彼女はわたしの首すじを見、あっとちいさく叫んで、そのまま口を閉ざした。
いままで見えなかったものが見えた――夫婦ながらおなじ境遇にあることを、彼女は初めて知った。

いつからなの?
こっちに来てすぐさ。
お相手はどんなかた?
取引先の工場主さ。そいつがきみまで欲しがった。
あなたが仕向けたの・・・?
いや、それはない。
でも、男が家に入れたのは、妻のいないときにわたしが彼を家にあげたからだった――いつでも家に入れるように。だからわたしも、しょせんは共犯。
妻もすぐに、それを察したらしかった。
べつべつのひとに咬まれるよりは、よかったかも。
彼女の言葉の選択は、このさいもっとも適切だった・・・と、いまでも思う。
わたしはただ、そうだね、とだけ、応えていた。
ややこしいことは、お互い苦手な質だった。
ややこしいことが苦手なわたしは、やはりややこしいことが苦手な妻に、言った。

きみさえよければ、時々やつと逢って、血を吸わせてあげてくれ。
ぼくに言いにくかったら、なにも言わないでいいし、
言いたかったら、素直に言って。
ぼくは決してきみのことを怒らないし、話も聞いてあげるから。

うつろな瞳は、見据える視線だけがまっすぐだった。
視線の行先は、薄闇の支配する虚空。
目に見えない何かを見据えながら、身体を守り通す自信がない、と、彼女は告げた。
そういうことも、あり得るだろうね、と、わたしは応えた。

すでに奪われていてもおかしくない、いや奪われていて当然だった、女の操――
けれどもやつは、彼女が手を合わせただけで、なぜか見逃してくれた。
私が魅力的じゃなかったから?という妻に、かすかな嫉妬を感じながら、即座に否定する。

やつはきみのこと、いい女だと言っていた、と。
それなら、二度目はなおさら自信がない――それはそうだろう。
彼女も素肌につけられた咬み痕を、ジンジンと疼かせる身になってしまったのだから。
いまわたしを心地よく苛んでいる皮膚の疼きを、同時に彼女も感じているのか。
彼女のうなじには、わたしを咬んだのと同じ牙が残した痕が、赤紫の痣になって、くっきりと刻印されていた。
じりじりとするような危機感と。おなじ異常体験を共有するもの同士の共感と。
どちらがわたしのなかで、色濃いものなのか。

ぼくはきみを、責めないよ。彼とはもう、だいじなものをあげても構わない関係だから――
わたしは彼女の気分を楽にさせるためだけに、そう言った。
あとは大人の男女であるふたりを、信じるしかないのだろう・・・


第一幕 第二場

奥さんが、逢いに来てくれた。
わたしを背後から襲いながら、男はくぐもった声色で囁きかけてきた。
けだるい眩暈にうなされながら、わたしはただ、そうなんですね・・・と応えたきりだった。
あの小柄な身体から、生き血をたっぷりと吸い取らせていただいた。
きっと、目いっぱい吸い取らせてくれたんだと思う。
貧血で頭を抱えているのが痛々しくて、家まで送っていった。
家にあがって、布団を敷いて寝かせてやった。
このまえは、食事のしっ放しでほうり出してしまったからな。わるいことをした。

ここは勤め先の事務所。いまは定時を過ぎてわたしだけの夕刻。
さかのぼって察するのなら、妻が吸血されたのは午後の早い刻限だったのか。
いずれにしても、白昼のことだった。
彼らは昼間でも、活動できるのだ。
いや、そんなことよりも。
妻が吸血鬼と逢って、家まで送ってもらえる間柄なのだと――ご近所という狭い世間ではもう、知られてしまったということだった。
もっとも。
あのときだって、妻は誰か、誰かあっ!と必死に叫んで家じゅうを逃げ回ったというから、すべては筒抜けだったに違いないのだけれど。

――犯さなかったのか?
いちばん怖れていた問いを、男は即座に否定した。
手を合わせられたからな。それだけは堪忍って。
男は身振りで、妻の振る舞いを伝えてくれた。
男のしぐさに、しんけんに手を合わせて憐れみを乞う妻のしぐさが重なった。
――また、見逃してくれたのか?
ああ。オレもまったく、ヤキがまわったものだ。
男は己の情けなさを、しんそこ恥じているようだった。プライドが傷ついてもいるようだった。
――夫としては、感謝するよ。
さり気なく言ったつもりの言葉が、男の胸の奥には鋭く突き刺さったらしかった。
男はかすかに、顔を歪めた。
かすかな狼狽を、わたしはおぼえた。
つぎの瞬間。自分の唇がひとりでに動くのを感じた。
けれども、言ってはならない言葉が洩れるのを、止めようとはしなかった。

ガマンならなくなったら、すこしくらい強引に迫っちゃっても、いいんだぜ。
そうなのか?
うん、あんたなら。

あとはもう、スムーズだった。
言葉に自分の気持ちが重なっていたから。

でも、あんまり手荒にしないでくれよ。かわいそうだから。
わかってる。あんたの奥さんはいいひとだ。オレと逢うのに苦しんでいる。
咬まれたくなっちゃったのかな。ぼくのように。
そうかもしれないけれど、ちがうかもしれない。あのひとは、やさしいひとだから。
きっと、血が足りなくて困っているオレに、血を吸わせてくれようとしたんだろう・・・と、男は言った。
覗きに行こうかな。ふたりが逢っているところ。
思わず漏らした本音に、男は、かまわないさ、と、言った。


第二幕 第一場

切ない吐息の重なりが、半開きのドアのすき間を満たしていた。
よそ行きのワンピースを着た妻が、男と逢っている。
立ったまま抱きすくめられ、もう首すじを咬まれていた。
失血に息を弾ませ肩を揺らしながら、男の抱擁のなかにいた。
白いうなじにぴったりと這わされた唇は、ヒルのように赤黒く膨れあがっていて。
キュウキュウと、ひとをこばかにしたような音を洩らしながら、妻の血を吸い取ってゆく。
あさましいほどあからさまな吸血の音に合わせるように。
妻はけだるげに目を瞑り、華奢な身を左右に揺らしていた。
流れるような黒髪が、身体の動きに合わせてユサユサと揺れていた。

妻は、夫の知人に対する善意の献血だといっていた。
男は、おぞましい吸血行為に過ぎないと自虐していた。
そのどちらでもないように、わたしの目には映った。
そう――それは挿入行為を伴わない情事なのだと。
妻と他の男とに交わされる情事を、わたしは遮りもせず見つめつづけていた。
妻も男も、わたしに覗かれていると薄々知りながら――情事に耽りつづけていた。
いつか・・・わたしは股間が昂ぶりに逆立つのを感じていた。
夫としては感じてはならない、禁断の昂ぶりだった。
世の夫がかなりの割合でその昂ぶりを自覚してしまうのだと――それも上司や同僚の告白から、そうと知らされていた。
わたしの職場に勤める、妻ある同僚たちは全員、その経験を持っていた。
転任してきたこの街は、そういう街だった。
情事に耽るふたりをまえに・・・妻に悟られるのを恥じながらも、自慰に耽ってしまっていた・・・

ふたたび妻と、顔を合わせたとき。
わたしはきっと、このごろ習慣になっている言葉をまた、口にするのだろう。
情事の現場を見たなどとは、おくびにも出さないで。
――よくがんばったね。 と。


第二幕 第二場

わたしを背後から襲いながら、男は囁きかけてきた。
きょうも、奥さんが訪ねてきてくれた。
今週になってから、やつと三回も逢っていることになる。
わたしが勘定するよりも早く、男はいった。
このごろはあんたが勤めに出かけるとすぐにオレのところに来て、身の回りの世話まで焼いてくれるのだ、と。
わたしは初めて、夫としての立場に危機感を抱いた。
そう。妻もわたしも、ややこしいことが苦手な性分だった。

わかっている。いまあんたが考えていること。
やつはわたしの首のつけ根をかじりながら、そう言った。
血がビュッと撥ねて、ワイシャツにシミを作った。
奥さんもこんな感じで、もてなしてくださるんだよな。
やつは、エモノの着衣を持ち主の血で汚すことに、けしからぬ執着を感じているようだった。
きょうは深緑の、ベーズリ柄のワンピース。
きのうは藤色のブラウスに、純白のスカート。
そのまえは――真っ白なブラウスに、赤いスカートだった。
浮気の現場から帰宅した妻を出迎えたわたしのまえ。
真っ白なブラウスに撥ねかる血は、純白のスカートのすそに映えるしたたりは、じつに目に鮮やかだった。
どれも見慣れた、妻の外出着だった。
それらは次々と、葬り去られていった。
手持ちの衣装が入れ替わるたび・・・妻とわたしとの結婚生活じたいが、塗り替えられてゆくような心持がした。

妻の帰宅はしばしばわたしの帰りよりも遅くって。
ほつれた髪に、蒼い顔。
よろけた足どりで、玄関のドアを開けて。
ついさっきまでいっしょだったはずの男(ひと)をうつろな目で追いながら、「ただいま」を告げるのだった。
純白のブラウスの肩先には、真紅のシミがコサアジュのようにあからさまに拡がっていたし、
藤色のブラウスはいちど剥ぎ取られでもしたのか、ブラジャーの肩ひもがあらわになるくらい破かれていたし、
白無地のスカートにもべっとりと、赤黒い血のりが不規則な水玉もようを描いていた。
「よくがんばったね」
そんな凄まじい身なりに内心胸をとどろかせながら、それでも見てみぬふりをして、わたしはそういって妻を迎え入れていた。
自分の身なりを棚に上げて、ワイシャツを紅く汚したわたしに、彼女はからかうような言葉を向けた。「まるで勲章みたいだわね」
勲章――たしかに受章するだけのことはしていたはず。
夫婦ながらに、おなじ吸血鬼を相手に、「善意の献血」に励んでいたのだから。
自分自身の乱れた着衣を気にも留めずに、彼女はわたしの着替えを手伝ってくれ、
わたしはブラウスやワンピースのすそから覗く足許の、肌色のストッキングの伝線に目を留めつづけていた。
いやがるふくらはぎに吸いつけられる、ヒルのように膨れ上がったあの赤黒い唇を思い描きながら・・・

男は去りぎわに、言い残した。

あんたの奥さんだから、よけい愉しいんだろうな。

奥さんを、蔵野夫人のまま犯したい。
やつはきっと、そう言いたかったはず。
果たして妻に、そんな器用なまねができるのだろうか?
妻もわたしも、ややこしいことは苦手な性分だった。


第二幕 第三場

やめて。いけません。主人のまえですっ!
縛られて身じろぎひとつできないわたしの前で。
妻は戸惑いながら、髪を振り乱して抗いつづけた。
男を公式に家に招いたのは、今夜が初めてだった。
三人が公然と席を同じくするのも、じつは今夜が初めてだった――ひそかに同席したことは・・・すでになん度もあったことだけれども。
わたしは妻に男を紹介し、妻ははじめまして、と、男に言った。
そらぞらしいやり取りは、そこまでだった。

わたしは男が吸血鬼なのだと妻に告げ、妻は存じています、とだけ、応えていた。
この街には、吸血鬼がおおぜいいるそうですものね、と。
このひとはぼくの血を気に入ってくれていて、きみの血も吸いたがっている、と、わたしは言った。
そうなんですのね。でも、私怖いわ。妻はそう言った。
ぼくがお手本を見せたら、怖くなくなるんじゃないかな、と、ぼくが言うと、そんな勇気があなたにおありになるの?と、妻はからかうように言った。
和やかに打ち解けた笑みが、そこにあった。
じゃあ試してみよう、ということになって・・・わたしは初めて、彼女のまえで首すじを咬まれ、血を吸い取られ、その場に尻もちを突いた。
いつも以上の素早さに、眩暈がした。
やつは手にしていた鞄のなかからロープを取り出すと、わたしをぐるぐる巻きに縛って、部屋のすみに転がした。
慣れたやり口だった。
このやり口に、なん組の夫婦が、堕ちていったのだろう?と、自分がおかれている立場を忘れてふと思った。
男はこれ見よがしに舌なめずりをすると、
悪りぃな。奥さんいただくぜ。
わざと悪っぽく宣言をして。
そのうえで、妻に迫って、狼藉に及んだ。

いけない!いけないっ!あなた!あなたあっ!
妻は身を揉んで抗い、叫んでいた。声はご近所にも、届いていたはず。
家の外に人の気配がわらわらと群がって、庭先に回り込む。
隣家の異常を察知して、救いの手を伸べようという意図は、感じられなかった。
そんなことをするのなら、もっと前の段階で救いの手は差し伸べられていたはず。
ある段階までは、見て見ぬふりをすること。
そのあとは、じっくり視て愉しみ合ってしまうこと。
救いの手っていうのは、そういうものなんですよ――
隣家のご主人がわたしにそういってくれたのは、だいぶあとのことだった。
庭に面した窓ガラスからは、意図したようにカーテンが取り払われていた。

茂みに隠れながらのあからさまな好奇の視線に、気づかないふりをして。
わたしは無念そうに、歯がみをするばかり。
血を抜き取られた身体は薄ぼんやりと力を喪って、激しい意識だけが火の玉のように、胸の奥をかけめぐる。
嫉妬と狼狽と、悩乱と・・・なにかを飛び越えてしまうときにいつも感じる惧れと後ろめたさ――そして昂奮。
それらがいっしょくたになって、わたしのなかをかけめぐった。

昨日やつと逢ったとき。
やつは妻に本気で迫っていって。
妻は「それだけは堪忍」を、いつものようにくり返して。
無理に唇を奪われてしまうと、たまりかねたように口走っていた。

なさるなら、主人のまえでなさって!と。

それなら不服はないのか?と重ねて問う男に、無言のままうなずくのを。
わたしは半開きのふすまの陰で、心震わせながら、見守っていた。


ビリッ!ビリッ!ブチチ・・・ッ!
悲鳴のような音をたてて引き裂かれてゆく着衣は、去年の結婚記念日に買ったワンピース。
夫婦愛の記念品はそっくり、男への贈り物として、他愛なく慰まれていった。
スリップをくしゃくしゃにされ、するどい爪で真っ二つにされて、
肌色のストッキングを穿いた脚には、唇がヌメヌメと這いまわる。
いやっ!いやっ!あなたっ!視ないで・・・御覧にならないで・・・っ
たまぎるような悲鳴は、半ばは演技、半ばは本気。
じたばた暴れる身体から衣装のすべてを剥ぎ堕とされると。
脱げかかったスカートの奥、どす黒くそそり立った一物が差し入れられてゆくのを、
わたしは目の当たりにする羽目になる。

ずぶ・・・
音がしたように感じたのは、錯覚だったのだろうか?
血を吸った婦人にセックス経験がある場合には、躊躇なく犯す。
彼らのなかでは通り相場な仕打ちが、今はじめて、妻の身に訪れる――

ひくっ。
その瞬間。妻は身体を硬直させて。
喘ぐ唇は求める唇を重ねられて、悲鳴を封じられてゆく。
引きつった立て膝が、じれったそうにうごめいて・・・妻の潔い処は、蹂躙を受けていた。

感じている。
そう受け取らざるを得なかった。
身をしならせて、素肌を密着させ合って。
もっと・・・もっと・・・と、自分から求めはじめていた。
あなた、視て・・・御覧になって・・・とまで、妻は口走っていた。
あなたの奥さん、犯されちゃってるのよ。それだのに、感じちゃってるのよ。
そんなあたしでも、許してくださるの?あなた以外の男に、感じちゃってもいいの?

支配されてしまった。
そう感じざるを得なかった。
男は自分の好みの体位を要求し、逃げることも可能なくらい妻を自由にしていたのに。
妻は四つん這いの姿勢になって、男の器を口に含んで、根元まで唇で賞玩し、愛し抜いてゆく。
それは屈従のポーズ。
蔵野家の主婦としての立場をかなぐり捨てて、男の劣情に屈して、ただひたすら奉仕してゆく。

完敗だ。完膚なきまでの完敗だ。
虚ろな敗北感をゾクゾクとした昂ぶりのなかで受け止めながら、わたしはなぜか妖しく深い歓びに胸をわななかせていた。

幸せなふたりのために・・・乾杯・・・


エピローグ

ややこしいことが苦手なふたりだった。
妻に備わる華奢な身体と生真面目な心とは、多くの男を受け容れるには、ふじゅうぶんだった。
妻はその場で手を突いてわたしに謝罪をくり返し、どうか私をこのかたの愛人として家から追い出してほしい、と言った。
わたしは彼女に、罰を与えた。
ややこしいことが苦手な彼女に、二人の夫を持たせるために。
やつは言っていた――きみの奥さんだから、愉しいのだ――と。
わたしは妻に告げた。
わたしはこの方に、当家の最良のものを差し上げると約束をした。
その約束を果たすため・・・きみは蔵野夫人のまま、このひとに犯されつづけなければならないと。
その夜から・・・妻はふたりの夫に奉仕する身となっていた。
新たな同居人は、わたしが勤めに出てしまうと、ほしいままに妻を、もてあそんだ。
もちろんわたしの在宅中でも、気が向けばわたしの前で妻の血を吸い、犯していった。
妻もそれまで守り通してきた操を、もはや惜しげもなく蕩かせていった。
それだけではなかった。
やつは自分がモノにしてきた人妻の夫たち――ご近所の家々のすべてのご主人たちを含んでいた――をうちに招いて、妻のことをわたしに無断でまた貸しするようになっていた。
夜にもなると、わたしの家の門前は、夜這いをかける男たちの黒い頭が、列をなした。なかにはわたしよりもずっとご年配のごま塩頭や、禿げ頭さえ混じっていた。
それらのすべてを妻は招き入れ、隣室で息をひそめるわたしを憚りながらも、抱かれていった。
情事に耽る妻の気配に欲情するのが、わたしの日常になっていた。

きみの奥さんは、ひとりを守るのが賢明なのだろうね。
あの上司はそういった。うちの家内は、いまじゃおおぜいの男とつるんじゃってるけど。
お宅の奥さんには、無理じゃないかな。
でもきっと、お相手もちゃんとそんなところは見極めて、うまくやってくれるだろうよ――
そんなことを言っている上司さえもが、妻の相手のなかに含まれていた。
けれどもわたしは、何食わぬ顔で出勤し、妻の情夫となっている上司や同僚と言葉を交わし、帰宅してゆく。
これがわたしの得た日常。
きょうも家では、輪姦の果てに放心した妻が、脱げかかった黒のストッキングを片脚だけ穿いた脚を大の字に伸ばして、わたしに「おかえり」を言ってくれるのだろう。

6月19日脱稿 同27日加筆

帰宅。

2015年02月09日(Mon) 08:05:13

ただ~いま。
丸芝が間抜けな声をつくって、玄関口に立つと。
・・・はぁい・・・
インタホンの向こうから、妻の弓枝の声が華やいで響いた。
ふつうの声でインタホンに応えるときは、なにもないとき。
間抜けな声色で戻った時は、吸血鬼つきで帰宅したとき。
夫婦の間でいつの間にか始まったそんな決めごとを、同伴の赤桑もよく心得ていた。
腕の良い職人だった赤桑が、吸血鬼になったのは。
女房の浮気相手がたまたま吸血鬼だったからだった。
都会の事務所から仕事を請け負うことが多かった赤桑は、すでになん人か、社員の妻を襲っている。
仕事の窓口の部署にたまたま居合わせたのが、丸芝とのご縁だった。
十五歳年下の丸芝の女房と睦み合うようになったのは、ごく自然ななりゆきというわけ。
丸芝こそいい迷惑だったが、もうこの年輩になるとあまりそういうことは気にならなくなるものか、
あるいは女房が生き血を吸い取られながらウットリするのを見て昂奮してしまっている丸芝がただの変態なだけなのか。
そんなことはもう、彼らの間ではどうでもいいことになっていた。
いちど汚された貞操は、最早もとには戻らないのである。

あら、あら、まあ、まあ・・・
スラックスを脱いだ夫が履いている靴下の破け具合に目をやった弓枝は、大仰な声をあげて夫を揶揄している。
泥んこで帰ってきた男の子を、「まあしょうがないわねえ」と言って迎える母親のような口調だった。
娘の結花が、二階から降りてきた。
中学二年生の結花は、まだブレザーの制服のままだった。
「こんばんは、小父さん」
生気に満ちた結花の声色に、赤桑は眩しそうに会釈でこたえた。
「母さんね、用意がまだなんだって。父さんもこれからお着替えだし、結花が相手してあげるよ」
早くも濃紺のプリーツスカートの下から、紺のハイソックスの脚を見せびらかしている。
誘惑に弱い赤桑が腰を浮かせるのと、「結花、いいかげんになさい!」と母親の叱声が飛ぶのとが同時だった。
「んもう~、母さんだけズルイ」
ふくれる結花の両肩に、赤桑は手を置いて囁いた。
「母さんには母さんの役目があるのさ」
どういうこと?結花の白目が後ろを仰ぎ見たが、男はその視線をかいくぐるようにして、結花の首すじに顔を埋めた。
リボンで結わえたおさげ髪と白のブラウスのすき間から覗いたうなじに、赤黒い唇がヒルのように吸いついた。

きゃー。
ふすま越しに聞こえる娘の声には耳も貸さずに、弓枝はパンツを脱いだ夫の一物を咥えている。
はずした口許から、白い粘液がぼとぼととこぼれた。
「もう、汚れるじゃない」
奥さんはそつなく夫の処理を済ませると、「はい、貴男も結花の代わりに血を吸われていらっしゃい」
夫の肩をポンとたたいていた。

丸芝が応接間に戻ると、ちょうど、
紺のハイソックスのふくらはぎを侵された娘が、白目を剥いてその場にくずおれるところだった。
あーあー。
丸芝は嘆かわしそうに声をあげ、男は横倒しになった娘の身体になおものしかかって、首すじを吸いつづける。
うちの娘の血は、そんなにいけてますかね?
「だいじょうぶ。あたし保健委員だから。具合が悪くなった子の面倒見るのが役目だから」
寝ぼけた声で呟く娘の髪を、丸芝は優しく撫でてやった。
「将来は世話女房になりそうだねえ。お母さんに似て。」
赤桑は傍らから、揶揄交じりの口調でそういった。
もっともそれが本音からの言葉だと、お互いに通じ合っていたけれど。


首すじの疼きが、じんじんと響く。
事務所の広い応接室で、ストッキング地のハイソックスを咬み破らせてしまったときから。
「女房のパンストもこんなふうに破かれちまうのかなあ・・・」と呟いていた丸芝だった。
予想通り・・・布団の上に寝かされた妻は、肌色のストッキングをチリチリに喰い剥かれてしまっている。
夫婦の寝室の布団のうえでは。
赤桑と丸芝の妻とが素肌を合わせ、セックスに熱中して、急いた息を交わし合っている。
ワンピースを着たまま犯されるのが好き。それも、ダンナのまえで。
そんな不敵なことをうそぶいていた妻は、赤桑の腕のなかで、可愛い女になりきってしまっている。

あーあ。
ため息をつきながらも丸芝は、自分の首すじに咬みつく直前囁かれた赤桑の言葉が忘れられない。
――こぎれいなかっこをしたおなごを襲うのが好きでなあ。あんたも奥さんの服着て、儂の相手してみるかね?


2月12日6:18脱稿。
2月14日0:05あっぷ☆

かえり道。

2015年02月09日(Mon) 07:46:22

家に帰る途中、連れの五十男の仲間に行きあった。
男は竹ノ内よりも少し年上の三十代くらいで、たしか小さな息子が二人いるはずだった。
「よう、宮成さん。久しぶりだね」
三十男は五十男を苗字で呼んで、親しげに手で会釈した。
「このごろうちに寄ってかないって思ったら、この人かい、あんたに若いお嫁さんを世話したのって」
五十男――宮成が「まあ、まあ」とはぐらかしたのは、竹ノ内に気を使ってのことだろう。
あまり気を使わせちゃわるいな・・・と思った竹ノ内は、「どうも」とはっきりした声色で、三十男に挨拶を返した。
「ああ、もう平気なんだね」三十男は初めて、竹ノ内に打ち解けた態度を示した。
「都会から来た人は、こんな習慣ないだろうから、面くらうよね。でもまあ、慣れてくれてよかった。あんたがたのほうからふつうに考えたら、ぞっとしないだろうね――嫁さんを吸血鬼に喰われちまうなんてさ」
さいごのひと言はさすがに露骨だったと思ったのか、三十男はあわてたように言った。
「ああ、うちもお宅といっしょだから。このおやっさんも、うちの女房のお得意さん」
あはは・・・と笑う乾いた声に、邪気はなかった。


妻と宮成との初めての逢瀬も、たしかこんなふうに寒い午後のことだった。
あれはたしか三回目だっただろうか。
社内で上司に呼び出され、奥の会議室で初めて宮成に血を吸われて――それからたしか二度ほど、宮成は竹ノ内を訪ねて来社していた。
別れ際宮成は、「帰り道の途中に、公園あんだろ。奥の雑木林のなかにベンチあるの知ってる?そこで待ってる」
そんなふうに言って、まだ勤務時間が終わらない竹ノ内を残して、悠然と立ち去っていった。
寒気に支配された帰途に寄り道をするのはおっくうだったが、竹ノ内は律儀に公園の雑木林を訪ねていった。
そのときの光景は、忘れない。

白のタートルネックのセーターに、地味なグレーのパンツスタイル。
見慣れた服装に身を包んだ妻の美佳子は、虚ろな表情を凍りつかせて、ベンチにあお向けになっていた。
その顔を覗き込むようにして、宮成は美佳子の首すじに唇をまだ圧しつけたまま、頬に血のりを光らせていた。

悪いですね。
そういって起き上がる宮成の頬を。
竹ノ内は二度、三度と、平手を見舞っていた。
向かってくるかと思った相手は、何事もなかったような顔をしていた。
竹ノ内は初めて、負けた、と、思った。

家に帰りましょう。手伝ってください。
男の言うなりに、男に負ぶわれた妻の背中をさすりながらたどった家路は、いつもと違った景色に見えた。

家に着くころには妻は息を吹き返し、送ってもらったことにしきりに恐縮していたけれど。
始終手を伸べて気にしていた首すじには、もう消すことのできない疼きが、肌の奥深くにまでしみ込んでいるはずだった。
それは、竹ノ内自身が、宮成の牙を通して体験済みのことだった。
そんなに召しあがっていらっしゃらないんでしょう?初めてだとしても、申し訳なよね?
妻はそう言いながらいそいそと寝室の奥に入っていって、箪笥の抽斗からワンピースを取り出してきた。
こちらに赴任する前、よそ行き用に新調したものだった。

まだ袋に入ったままのワンピースを胸にあてて男に見せ、
「こんな服でお相手しますが、よろしいですか?」と訊き、
男が「すみませんね、気を使わせちゃって」というと、
「じゃあちょっと用意してきますので」と、そそくさと座を起っていた。

夫婦の寝室に伸べられた、せんべい布団のうえ。
花柄のワンピース姿を仰向けに横たえた妻は、首すじに迫る唇を目にすると、それに応じるように目を瞑った。
自分が着替えている間相手をしていた夫が、失血で身動きできなくなっているのをみとめると。
伸ばした手で夫の手を握りしめ、大丈夫、というように軽く揺すった。
差し伸べられた掌は、夫の掌のなかでじょじょに力を消していって・・・
やがて夫の掌を払いのけると、のしかかってくる吸血鬼の背中に、腕をまわしていった。

侵入者の太ももは丸太ん棒のように太く、毛むくじゃらだった。
そのごつごつとした脚に、白蛇のように巻きついた妻のすらりとした脚は、チリチリに引き剥かれた肌色のストッキングを、まだひらひらとさせていた。
破けたナイロン生地が虚空に揺らぐ様子が、まだ竹ノ内の網膜から離れない。


帰宅した竹ノ内にかわって、宮成が訪いをいれると、美佳子はおずおずと家のドアを開けて顔を出す。
すでに訪問が予告されていたのか、きょうは紺のスーツに黒のストッキング姿だった。
運動部出身で上背のある美佳子は、夫とさして背丈がかわらない。
もともとしぐさも言葉遣いも男っぽかった美佳子は、日ごろパンツスタイルで通していたが、
この街に来て吸血鬼に襲われるようになってからは、スカートで脚をさらすことが多くなった。
しなやかな筋肉に覆われたふくらはぎは薄手の墨色のナイロン生地に覆われて、充実したシルエットをきわだてている。
いちど奥さんが、黒のストッキングを穿いているところを襲ってみたくてね。
宮成はにんまりと、人のわるい笑みを泛べた。
どうぞ・・・
人目をはばかるように妻は声を潜めて、ふたりを家のなかに入れた。

あ~・・・
白のブラウスの肩を真っ赤に染めて、妻は顔をしかめていた。
巻かれた逞しい腕はわが物顔に妻を抱きすくめ、猛禽類が獲物を貪るように、その首筋を咬んでいる。
黒のストッキングに透けたつま先の周囲の床に、赤い斑点がぽたぽたとしたたった。
「へへへ・・・」
宮成のなかでは、骨抜きになっただんなのまえでは、なんでもありらしい。
美佳子をソファに投げ入れると、すくめた脚を抑えつけ、黒のストッキングのうえから露骨に舌を這わせてゆく。
思い切り血を抜かれてじゅうたんの上にころがされた竹ノ内はただ、なりゆきを見守るしかなかった。
二人の熱いところ、たっぷりお見せしますよ。
宮成は竹ノ内にニヤッと笑いかけると、素早くシャツを脱いだ。
下着を着けない逞しい胸が、黒々とした剛毛に覆われている。
宮成は、美佳子のブラウスをこともなげに引き裂いた。
チャッ、チャッ・・・
ブラウスの裂ける音が、女の悲鳴のように、部屋に響いた。

胸もとの歯形が、痛々しい。
かすかに血をあやし、その周りには唾液が光っていた。
熱病にうかされたように悶えながら、美佳子は足許をいたぶられてゆく。
しなやかな墨色のナイロン生地は、男の舌のいたぶりに耐えかねたように、じわじわと裂け目を拡げていった・・・


うふーん、似合うじゃないの♪
いつも出勤前には、スーツを着るのを手伝ってくれる美佳子だったが。
今朝はとりわけ、ウキウキとしている。
竹ノ内が身にまとっているのは、美佳子自身の服――
濃いピンクのジャケットに、黒のスカート。足許は、黒のストッキング。
しっかりとした肉づきのふくらはぎは、男らしいごつごつとした輪郭をまだ保っていたが、
柔らかなナイロンに縁取られて、不思議ななまめかしさをかもし出している。
背丈がほとんど変わらないことが、幸いしたのか、不幸だったのか。
女のかっこうで、初出勤ね。
悪戯っぽく笑う美佳子は、会社で宮成の面会を受ける夫のことを想像しているらしい。
貴男の顔をしたわたしが、会社で宮成さんに襲われているみたい。
妻の奇妙な言い草が、なぜかしっくりと胸に響く。
外気に初めてさらした、女の姿。
いってらっしゃい♪
妻の声を背中に受けて踏み出した足取りを、ナイロンストッキングのゆるやかな肌触りがぬらりと滑らかに包んでいた。


あとがき
カテゴリは、「女装」でもよかったのかもしれないですね。^^;

ストッキング地の靴下。

2015年02月09日(Mon) 06:42:23

丸芝ちゃん、竹ノ内さん。お客さんだよ。もてなし部屋・・・いや、応接室。
分厚い眼鏡がなおさら無表情にみえる重光次長が、向こうの扉を開けて部屋に入って来るなり、いつもの手短でてきぱきとした口調でそう告げた。
竹ノ内は、やれやれ・・・と思った。
斜め向かいの席の丸芝は、いつものことだといわんばかりにすぐ席を起つ。
一瞬もたもたした竹ノ内に重光は畳みかけるように、「竹ノ内さんもだよ」って、声をかけてくる。
高飛車な口調のわりに、重光は人懐こそうにニマニマと笑いかけてきた。
自分もさっきまで、その応接室・・・いや「もてなし部屋」にいたのだろう。ちょっと蒼い顔をしていた。
「もてなし部屋」。
社員のあいだではもっとストレートに、「吸血部屋」と、呼ばれていた。

ひと足さきに部屋に入った丸芝は、ソファのまん中に腰をくつろげていた。
ソファは四つ。
部屋のまん中の低いテーブルを四方から囲むように、しつらえられてあって、竹ノ内は丸芝の向かいに腰を下ろした。
客人はどこにいるのか、まだ姿をみせなかった。
部屋のドアから重光次長が顔をのぞかせて、
「きょうはお客さん、多いから。会議室は満杯なんで、きょうは会議は無しね」
そういって、ドアを閉めた。
さっき通ってきた打ち合わせ用の個別ルームも満室のようだった。
そこはきっと、女子社員の応接用に使われているのだろう。
この部屋もそういう用途に供されることもあるらしく、背の高い衝立がいくつも、部屋の隅に並んでいた。
そういえばきょうの事務所には、やけに女子社員が少なかったな・・・竹之内はぼんやりと思った。

「竹ノ内さんとこは、もう済んだの?こっち来てもうひと月になるよね?」
四十男の丸芝が、さえない顔色をしながら、話しかけてきた。
「ええ、もう、とっくですよ」
竹ノ内は苦笑しながら答えた。
「そうだよねえ。お宅の奥さん若いもんねえ」
丸芝は露骨な言い方をしたが、竹ノ内は腹が立たなかった。

みんな同類項だもの・・・
初めて訪れた夜が明けて、腫れぼったい顔をして出社した時に。
あの無表情で謹厳そうな重光次長はそんなふうに言って、彼に対して初めてにまっと笑った。
いかつい顔に似合わない、人懐こい笑みだった。
竹ノ内持ついつり込まれて、笑い返してしまったくらいだった。
さっきまで。
夫婦ながら畳にころがされて、吸血鬼に生き血を吸われて。
あまつさえ妻などは、凌辱まで受けてしまっていたというのに。
丸芝が「もう済んだの?」と訊いたのは、街に棲み着いている吸血鬼の訪問をもう受けたのか?という問いだったのだ。

ドアがあわただしく開け放たれると、男がふたり、なだれ込むような勢いで入り込んできた。
一見してどちらも、社員ではない。
特に丸芝のほうに向かっていった男は目が寄っていて、酔っ払ったみたいに千鳥足だった。
薄汚れたコートを着込んだその男は、禿げた頭をてかてかと真っ赤にテカらせていた。
禿げ頭の周囲を取り囲むように、抜け残った白髪がいじましそうにチリチリととぐろを巻いている。
「丸芝ちゃん、いつも悪いね」
男は妙なしゃがれ声でそう呼びかけた。
「ああ、いいからいいから。待ってたよ」
明らかに「ラリっている」感じのその男に、丸芝は手をあげて男に応じた。
いつもの不愛想な態度とは打って変わって親しげな態度だった。
紺のスラックスを片方、予防注射のまえに腕まくりするみたいに、たくし上げている。
黒革の革靴の足首が、薄地の濃紺の靴下に透けてみえた。
ちょっとずり落ちていた丈長の靴下を、丸芝がひざ下まできちっと引き伸ばすと、
禿げ男は自身の千鳥足に耐えかねたように、丸芝の足許にへたり込んだ。
「丸芝ちゃん、ふだんの俺のこと知ってるよね?」
哀願するような口調だった。
いまの自分の異常な風体を、じゅうぶん認識しているらしかった。
きっと本人にとっても、不本意な状態なのだろう。
「知ってる知ってる。朝から晩まで律儀に働く、腕の良い職人さんだ」
丸芝の口調は、とりなすように優しい。
「いったいどうしてそんなになるまでガマンしたの」
「だってサ。いつも世話んなってる高校や中学に通ってる女の子たちが、そろって受験なんだもの」
「ああ、そうだね。いまごろはそういう季節だよね」
「お母さんたちがサ、気ぃ遣ってくれて。ちっとはよけいに吸わせてくれるんだけど、どうしても足りなくって」
「そうかそうか、おっちゃん優しいからな」
吸血の習慣を持つこの禿げ男は、年頃の少女たちをお得意さんに血を吸っていたが、受験シーズンに入って遠慮しているうちに血が足りなくなって、おかしくなってしまったらしい。
「ほれ、早く吸いなよ。俺は構わないからさ」
丸芝は気前よく、スラックスをたくし上げた脚を差し伸べた。噛んでいいということなのだろう。
突き出されたふくらはぎは、ストッキング地の長靴下に染まって、男のそれとは思えないくらいなまめかしく映った。
飢えた唇がヒルのように、薄いナイロン生地のうえを這った。

竹ノ内のほうに寄ってきた男は、顔見知りの五十年輩の男だった。
草色の作業衣はやはり薄汚れていたが、こちらは丸芝の相手の男ほど、おかしな状態ではなかった。
「お仕事ちゅう、すいませんね」
男は尋常に頭を下げると、お向かいの男と同じように竹ノ内の足許にひざをついた。
竹ノ内がたくし上げたスラックスの下は、ひざ下丈の靴下だったが、普通に厚い生地だった。
「薄い靴下のほうが、よかったですかね・・・」
向かい合わせのソファで、女みたいなストッキング地の靴下に嬉しそうに舌をなすりつけている吸血鬼を横目に、竹ノ内はぼそっと言った。
あの見慣れない薄い靴下は会社から支給されていたが、どうにも気色が悪くて履く気になれなかったのだ。
「いや、気にせんでええですよ。女子高生の紺の靴下のつもりでいただきますから」
男は丁寧な言葉つきをのみ込むと、入れ替わりのように口の端から尖った犬歯を覗かせた。
素早くすりよた男がぶつけるように足許に顔を圧しつけてくると、
ふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに、チクッと刺すような微痛が走った。

どれほど時間が経っただろうか?もう30分ほども経ってしまっただろうか?
目のまえがかすんでいるような気がする。
男はまだ竹ノ内の脚に取りついて、血を吸いつづけていた。
咬み傷は浅く、ひと口ごとに吸い取られる血は微量だったが、長いこと許していたのでもうかなりの量を抜き取られてしまっていた。
男は、初めての夜妻を組み伏せていった相手だった。
恐怖の色を泛べる妻の首すじに、やおら牙を突き立てて、
失血で身動きもままならない竹ノ内の目のまえで、生き血を吸い取っていった。
かなり喉が渇いていたんだろうな・・・そんな感想をあとで持ったのは、夫婦でなん人もの吸血鬼の相手をした後のことだった。
妻がわざわざ着込んだ、新調したばかりの花柄のワンピースの胸に、
吸い取ったばかりの血潮をわざとぼとぼととほとび散らせると、
こんどは足許にかがみ込んでいって、
肌色のストッキングがくしゃくしゃになるほどふくらはぎをいたぶって、
挙句は、唾液に濡れたストッキングをむしり取るようにして、咬み破っていったのだった。

セックス経験者の女性は、覚悟しなけりゃいけないよ。
あいつら、血を吸った女のことをその場で好きになって、セックスしたがるんだから。

その晩を迎えるまえ、退勤間際にそんなことを耳打ちしてきた課長補佐は、
「もしそうなっても、気にすんな。うちもそうだし、ほかのもんもみんなそうなんだから」
と、言ってくれた。
あの耳打ちがなかったら、頭がおかしくなっていたかもしれなかった。

向かいの丸芝も、正気を失いかけていた。
「参ったなあ・・・困ったなあ・・・今夜うちの女房のパンストも、あんたにこんなふうに擦り剝かれちまうのかなあ・・・」
スラックスの下の薄い靴下は、幾すじも裂け目を走らせていた。
裂け目からにじみ出た、男にしてはやけに白い膚が、丸芝の妻が今夜受ける恥辱を連想させた。
参った、困った・・・と愚痴りながら、丸芝のなかでもそれはもう、既定路線なのだろう。
一対一だと女房のやつ気づまりだっていうから・・・と。
丸芝が迎えた初めての夜は、乱交の場だった。
経験済みの同僚の奥さんたちと連れだって三人で、同時に三人の吸血鬼に襲われて・・・
申し合わせたように肌色のストッキングをまとった三対の脚が、薄手のナイロンを咬み散らされながら侵されてゆくのを、
丸芝はいまでも鮮やかに記憶している、という。
おおぜいのなかの一人・・・みたいな、取るに足らない存在として。
自分の妻が生き血を吸い取られ、三人の男に同時に犯されてしまうのを目の当たりにして。
以来「頭の中身が入れ替わってしまった」という丸芝は、彼らの催す乱交の宴にしばしば妻を伴ったと言っていた。

とてもそんな勇気はないけれど。
今夜もどうやら、二人の熱いところを見せつけられてしまうんだろうな・・・そんな予感に慣れ始めた自分が、怖い。

貧血でふらつく足取りで、早めの退勤をした。
傍らには妻目当ての五十男が、自分から吸い取った血をまだ口許に光らせている。
事務所の玄関を出るときすれ違った相手に、竹ノ内は危うく声をあげるところだった。
「は~い♪」
胸を大きくはだけた白のブラウスに、黄色と黒の大ぶりなスカーフを巻いて。
真っ赤なミニスカートの下は、濃紺の薄手のパンティストッキング。
どこの飲み屋の女?と思ったその相手は、同僚の吉井だった。
もちろん、男の同僚だった。
「女房が相手の男に買ってもらったやつ。あいつ大柄だから俺も着れるかな?」って。
そういえば。
女装して出勤してくる社員が、毎日きまって数人はいた。
吉井とどんな会話を交わして別れたのかは、よく憶えていない。
ただ記憶しているのは。
男もののストッキング地の靴下が気持ち悪くて履けなくても、
いっそ女の姿になってしまえば、いまの相棒をストッキング地の靴下で愉しませてやることができるのかな・・・って、薄ぼんやりと感じたことだけだった。

特定の彼氏を迎え入れる場合。~法事の夜~

2015年02月06日(Fri) 07:11:20

今夜、わしがこれ以上のことをしなかったのを、あんたは憶えているべきですよ。

男の不思議な言葉を耳にして、一昼夜が経ちました。
夜からの法事というのは妙なものだな・・・と思ってはいたのですが。
夕べ体験してしまったことで、法事のほんとうの意味を知ってしまった私たち夫婦は、
むしろ淡々として、席に臨みました。

集まった男女は、数十人。
街の人が大勢集まる大事な集い・・・という息子の誘い文句に、嘘はなかったようです。
その息子は夫婦連れで、私たちよりもだいぶ遅れて到着し、かなり離れたところに席を択びました。
下の息子も彼女を連れて、兄夫婦のすぐ隣に席を取ります。
息子ふたりがよそよそしく、きまり悪げに目を逸らしがちにするのに対して。
嫁たちのほうは悪びれもせず、尋常に目であいさつを投げてきました。
こういうときには、女のほうがしっかりするものでしょうか。
愚妻もまた、私の隣でそれらの目線に、丁寧に応えてゆきます。

そういえば。
黒一色の喪服のスーツで装うときの愚妻の様子は、
どことなく、娼婦が派手な服に袖を通すときの風情と相通じるものがあったようです。
そう。
法事の夜、女たちの喪服は、獣どもの劣情にまみれてゆくことになるのですから・・・

型通りの読経のあと。
僧侶が退出すると、席が一斉にざわつきました。
街のご夫婦連れらしいひと組の奥さんのほうに、隣の男性が抱きつきます。
あらかじめ目をつけて、わざと隣に座ったのでしょうか。
咬みつかれた首すじからほとび出る真っ赤な血が、黒のブラウスの襟首に滑り込んでいくのが見えました。
ご主人のほうは奥さんをかばおうともせずに、べつの女性の足許に這いつくばって、黒のストッキングの脚を唇で吸い始めています。
そんな光景が、あちらこちらに・・・
みると、息子たち夫婦は互いに相手を交換し合って、唇を合わせているではありませんか。
「あなた、こちらへ」
愚妻の声でわれに返ったわたしは、障子を押しあけて本堂を出、廊下に逃れました。
数歩と歩かないうちに――はち合わせた人影に、愚妻は深々と頭を下げました。
夕べのあの方が、いらしたのです。

どうやって示し合わせたのか、いまとなってもわかりません。
愚妻は自らの意思であの方を今夜のお相手に選んで、本堂の外の廊下で・・・と、約束を交わしていたのです。
墓村さんと仰るそのかたは、私たち夫婦を、本堂に隣接した小部屋へと促します。
いざなわれるままに入ったその部屋は、四畳半ほどの狭いところでした。
まずご主人から。
熱い吐息が否応なく迫り、首のつけ根にあの鈍痛が走ります。
じゅう~っ・・・
一瞬のあいだに、どれほどの量を喪ったものか。
私は意気地なくも、その場にぺたりと尻もちをついてしまいました。
謝罪するような眼差しに応えるように、私はうわ言のように、口走っていました――

家内をどうか、お願いします。ふつつか者ですが、ぞんぶんに愉しまれますよう・・・

承知しました。
墓村さんはそう仰ると、両手で顔を覆って恥じらう愚妻の両肩を掴まえ、首すじをがぶり!とやってしまいます。
赤黒い血潮が、喪服の肩先にほとび散って・・・でもそんなことはお構いなしに、墓村さんは愚妻の生き血をゴクゴクと喉を鳴らして飲み耽っていかれました・・・

いちど血を吸われた人妻は、その場で犯される――

そんな通り相場を身をもって知らされたのは、そのときのことでした。
そう。身をもって。たっぷりと――

わし一人に奥さんをくれるかね?それとも、みんなと分け合うかね?
息子夫婦に投げられたのと同じ問いを投げられたとき。
美枝さんはこたえたそうです。「特定の相手を作るつもりなんか、ありません」と。
まだあのときは、純だったんですね――あとからその話題を振ったら、美枝さんは照れていましたっけ・・・
私はとっさに、愚妻と目を合わせました。
愚妻はうなずき返してきて、私はこたえていました。

どうぞ、貴男ひとりのものになさってください。

それが夫婦別れを意味することではないと知った上での答えでしたが。
妻の血を吸ったり犯したりすることをする権利を持つのは、貴男だけです。
そう告げた・・・ということは。
永年連れ添った最愛の妻を、相手の男の自由にされてしまう。
そんな所有権に似たものを、夫として認めてしまうことにほかなりませんでした。

墓村さんは、私の応えに満足がいったようでした。
「・・・ということは、奥さんとは末永い交際を願えるということですかね?」
服従の意思を、ぞんぶんに私の口から引き出したいのだ。
そして、愚妻もそれを聞きたがっている――なぜかそう直感できた私は・・・問答を続けてしまいました。
想いのことごとくを吐き尽そうとするかのように。

「はい、ふつつか者ですが、長年連れ添った最愛の妻です。あまり多くの恥を見させたくはありません。お察しください」
「そうですね。素晴らしい奥さんですね。だんな以外の身体は、識らなかったようだ」
男は愚妻の首すじから流れ出る血をひと舐めふた舐めしながら、言いました。
「いただいた血の味で、そうとわかったですよ。こりゃあ上玉だってね。守り通した操をいただけるなんて、人妻喰い冥利に尽きるってもんですよ。ご主人としては、無念でしょうけどねえ」
言葉のひとつひとつが、胸の奥に突き刺さり、ササラのように掻きまわすのが・・・不可思議な歓びとなって、稲妻のように閃きます。
昏い閃きの一閃二閃が、私の理性をかき乱し、心の奥を塗り替えてゆくのを、どうすることもできませんでした。
「初枝、良いね?これからはこのかたに、私にしたのと同じようにお尽しなさい」
「は、はい・・・っ」
愚妻は新婚初夜の花嫁のようにカチカチになりながら、それでも墓村さんに応えていこうとしました。
強引に迫ってくる唇のまえに、自分の唇をおずおずと、開いていったのでした。

墓村さんは愚妻の頭を掴まえると、ディープ・キッスを強要しました。
私の目のまえで・・・ねっとりと・・・いやらしく・・・それはそれは、しつように・・・
くり返される口づけは、せめぎ合うように交わり合って。
いつしか愚妻も、積極的に応えはじめていったのです。
それが、初枝の支配された瞬間だと、私は直感しました。
理性もろとも生き血を吸い取られていったときでもなく、
強いられたセックスに激しく応えてしまったときでもなく、
わたしの前でのディープ・キッスには、それだけの意味があったのです。
愚妻は身体の力を抜いて、はだけたブラウスもそのままに、むき出しのおっぱいを震わせながら・・・ふたたびおおいかぶさってくる墓村さんにh、すべてをゆだねていったのでした。

だいじょうぶ。だいじょうぶ。だいじにしますよ。奥さんのこと。もちろん、あんたのこともね・・・
墓村さんは愚妻の身体をすみずみまでいつくしみながら、そんなことを口走っていました。
私を大事にする、ということは。世間体を守ってやるということなのだと。
それなりの地位を築いている私を慮っての言い草だったのでしょうけれど。
都会の大会社の重役夫人を犯す・・・という、その趣きを大切にしたいという下心も、あったに違いありません。
世間体を守りたい、という下心。
貴婦人をレディのまま辱め抜きたい、という下心。
下心には下心・・・そんなことわざは、聞いたことがありませんが。

墓村さんは、ほんとうに愚妻のことを気に入ってくれたようでした。
それからも。
紅葉を見せてやる、とか、封切られたばかりの映画を観に行こう、とか、お誘いはひっきりなしに舞い込みます。
そのたびに愚妻は、よそ行きのワンピースやスーツを淑やかに装いながら、いそいそと出かけてゆきましたし、
私もにこやかに、送り出してやりました。
映画や観劇で愚妻を愉しませた後には、決まって彼自身のお愉しみがあります。
純情な奥さんですね・・・
たまに私までつきあわされて、二人の情事を見せつけられたとき。
なぜか私のまえで肌をさらすことを羞じらう妻を、面白がって。
墓村さんはいつも以上にねっちりと、恥辱まみれにされてゆくのです。
夫である私自身も愉しんでしまっている・・・
口に出さなくとも、三人が三人とも、すでに察してしまっていることでした。

連れ込み宿で失神した愚妻をふたりして病院に担ぎ込んだことも、二度や三度ではありません。
それは失血のせいでもありましたし、刺激の強い濃厚なセックスを強いられた末のことでもあったようです。
吸血鬼に妻を犯された男性は、見返りに他の女性を襲うことが黙認されていました。
墓村さんはなん度か私にそういう誘いを投げても来ましたし、具体的な相手をさりげなく引き合わせることさえありました。
そのなかには墓村さんご自身のお嬢さんや姪御さんも含まれていましたし、
じつは息子たちの嫁さえ先方も納得づくでの話があったのですが・・・
とうとう今に至るまで、愚妻以外のご婦人と交渉を持つことはありませんでした。

そこがあんたのえらいところだね。

墓村さんはそういって、私の純情を決して小馬鹿にはなさいませんでしたが。
愚妻への情愛は一層増したらしいのが、目に見えてそれと分かりました。
それほどの奥さんをいただけるということは、人妻食い冥利につきるのだよ。
のしかかるその身の下で愚妻のことをヒーヒー言わせながら、彼は余裕綽々と片目をつぶって見せるのです。

墓村さんが愚妻を誘うのは、私が勤めに出ている真っ昼間がほとんどでした。
夜は夫婦でお過ごしなさい、という配慮でした。
配慮をされた私が、どうしてそのままでいられるでしょうか?
「夜でもどうしても初枝が欲しくなったら、遠慮せずに訪ねてきなさい」
口走ってしまった私は、しばらくのあいだ、後悔することになります。
―――彼の訪問は、毎晩のように続きましたから。

そんな相性のよい二人(墓村さんと愚妻ですよ)ですが、ひとつだけ破られた約束があります。
彼一人のものにしてほしいと願った愚妻の操が、他の男たちにも分け与えられたことです。
半年ほどの間は、愚妻は彼一人のものでした。
それは、この街では異例な長さなのだと――教えてくれたのは、嫁でした。
やがて墓村さんは、昼間の法事に愚妻を連れ歩くようになり、愚妻はそこで初めての――乱交を体験したのです。
ふた晩、愚妻は家に戻ってきませんでした。
事情のすべてを私に告げた墓村さんは、奥さんの機嫌を取り結びたいのでという言い草で、二泊三日、愚妻をひたすら食い物にしたのです。
帰宅した愚妻は、サバサバとしていました。
「ごめんなさい。わたし、娼婦になってしまいました」
離婚してくださる・・・?とまで、彼女は言いました。
もちろん言うまでもなく、初枝はいまでもちゃんと私の苗字を名乗っています。

いろんな男性を経験して。
墓村さん抜きで逢う男性も、なん人か作りながらも。
それでも愚妻のなかで唯一”愛人”といえるのは、やはり彼一人のようでした。

初めて愚妻が他の男のものになった夜。
私は妻を犯した男性に、「貴男ひとりのものにしてください」と願いました。
やっぱりあなたの仰る通りになったわね。
愚妻は私の傍らで、ひっそりと笑います。
そういうきみも、自分で言った通りの女でいられたね。
私は心のなかで、応じています。
――一生、あなたの妻として添い遂げます。
遠い昔初夜の床で私に誓った言葉を、最愛の妻である初枝は、いまでもきっと憶えているはずですから・・・




あとがき
2月になってから本作まで、一連の続き物になっています。
それぞれが独立したお話なので、単独でも愉しめるように描いたつもりですが。(^^ゞ

吸血鬼の棲む街に、長男が妻を伴って赴任して、夫婦ながらやられてしまう。
兄嫁を兄貴公認でモノにしている弟くんが、婚約者を連れて来て、処女を喰われてしまう。
息子ふたりが示し合わせて母親の血を吸わせようとして、父親の理解のもと欲望成就。
妻の日常的な不倫を許容しながらもフクザツナ長男を、うちも一緒だとたしなめる上司。
永年連れ添った妻に向けられた老吸血鬼の慕情を理解して、乱交に応じるようになった妻を許しつづける夫。

要約すると、こんな展開でしょうか。

若い二組の夫婦について。
兄嫁を公認でモノにしている・・という設定は、第二話のさいごのくだりを描いている時に思いつきました。
弟の婚約者は結婚後犯される設定にしようかと思っていたのですが、
そんなえぐいところのある弟ですんで、話の流れで処女を奪うのは吸血鬼氏にしてしまいました。
いや、愛妻を弟にプレゼントしたお人好しお兄さんが二番目の男で・・・
弟くん、花嫁にとっては三番め以降の男になり果ててしまいました。^^;
この二組の夫婦は息が合うようでして、母親のための法事のさいにも相手を取り換えっこして乱れ合ってしまっております。

初老のご夫婦について。
息子たちが示し合わせて、奥さんを襲われてしまうのですが。
「裏切られた感」はほとんど、ありませんね。
50になる前に吸わせてやろうよ、とたくらむ息子たちのくわだてを。
40代にぎりぎり間に合ってよかったと感じるお父さん。
この親にして・・・という感じもなきにしもあらずですが。
永年連れ添った奥さんを奪われるご主人への老吸血鬼の気遣い。
奥さんに寄せる慕情に対して一定の理解を与え夫人との交際を認める夫。
三者三様の気遣いかたは、やはり年配者のそれなのかと。^^

まあ、例によってそんなイカレたことを考えながら、愉しく描かせてもらいました。
(^^)

味見。

2015年02月06日(Fri) 06:02:56

あなた~あ!

弾けるように明るい声が、わたしを呼んだ。
ふり返ると小高くなっている丘のうえから、妻が大きく手を振っていた。
あ、ちょっと・・・
わたしは同行していた上司を置いて、妻のほうへと小走りをしかけて、
妻の間近まで来ると、立ち止まってしまった。
彼女の背後には、見知った顔の四十男。
男は言った。
「すいませんね、奥さん借りてます」
丘のてっぺんから見おろせる向こう側には、男のものらしき車。
「ドライブしてたら奥さんがご主人のこと見つけましてね。どうしてもっていうもんだから」
ああ、そういうことですね・・・
ちょっと気勢をそがれてたじろぐと、それを見透かしたように妻が言う。
「ばっかねえ、まだ気にしてんのお?」
思いきりどやされた肩をすくめると、三人は三人ながら、声をたてて笑いこけていた。
こうもあからさまにやられてしまうと、暗い嫉妬などする余地もなかった。

セックスだけが夫婦のすべてだったら、とっくにあなたとなんか別れてるわ。

そんなふうに言われたのは、ついこの間だっただろうか。
この街に棲む吸血鬼たちはだいたいが好色で、人妻の血を吸った後は必ず一戦交えてゆく。
それをいちいちこだわっていては、この街では暮らせない。
そうと知りながら、行き詰った都会の生活に見切りをつけて、この街への赴任を願ったのではなかったか。
(じつをいうと、妻を抱かれてしまう・・・とまでわかったのは、赴任してからのことなのだが)

「今夜はお愉しみの法事ですよね?私も行きますから」
男はからりと笑うと、妻を促して車に乗り込んでいった。
さりげなく肩を抱かれたりお尻を触られたりしながら、ほかの男の車に乗り込んでゆく妻――
こんな情景を、新婚のころに果たして想像していただろうか?
その妻のお尻は、この街に来るまでは目にしたこともないほど丈の短いミニ・スカートを着けている。
きっと、きょうの男の趣味なのだろう。
「夜の法事は、ちゃんと行くわね。たっぷり血をあげないといけないから、この人とはセックスだけ♪」
あっけらかんとそう言い残して、妻は車上の人となる。
なんだかなあ。ちょっぴりだけど、やりきれない・・・

二人の車を見送って丘を降りると、父と同年輩の上司は律儀にわたしのことを待っていてくれた。
「奥さんかい?なかなかがんばるねえ」
いえ、いえ、お恥ずかしい限りで・・・
わたしがそう言おうとすると機先を制するようにして、
「いや、ご立派なもんですよ。都会からきてこの街の風習になじむのは、並大抵じゃないからねえ」
・・・といいながら、私も都会もんだけどな。
乾いた声で笑うこの上司も、なにかをサバサバと割り切ってるみたいだった。

この近くに私の家があるんだがね。ちょっと寄っていかないかい?取りに行きたいものがあるんだ。
上司に言われるままに、わたし達はちょっとだけ、寄り道をする。
勤務時間中なのに・・・とはいえ、夫の勤務時間中に情事に耽る妻だっている。

ただいまあ・・・
上司の声は、だれもいない玄関口にうつろに響いた。
いないのかな・・・上司は独り言をつぶやいて、それでもわたしのことを家にあげてくれた。
「あー、やっぱり真っ最中なんですね」
上司は頭に手をやり、情けなさそうにこちらを振り向いて。
洒脱な笑いで、すべてを誤魔化した。
いちばん奥が、夫婦の寝室になっているらしい。
その一隅からは、悩ましい声色――
わが弓岡家とおなじ光景が、この家でもくり広げられていた。

女房のやつ、あのトシで意外にモテるんだよ・・・というか、年寄りの吸血鬼さんからすると、うちの女房あたりでじゅうぶん若いと言ってくれるんだよね。
上司はそんなことをこともなげに口にしながら、手ずからお茶を淹れてくれた。
長い時間外歩きをしてきただけに、お茶の潤いが喉に沁みた。
こういうときのお茶は、渋いねえ・・・さすがに上司殿も、苦笑を隠しきれない。
キミだけじゃないんだよ。
そういいたくて、この人はわざわざ家にあげてくれたのか。

やがて、奥から足音が聞こえてきた。
「まあ、まあ・・・いらっしゃい。」
奥さんが戸惑ったような声をあげる。
「あなたもまあ、部下のかたをお連れになるんだったら、前もって言って下さればよろしいのに。」
器用にも、こちらに申し訳なさそうな目色を使いながら、同時に夫に対して口を尖らせていた。
もっとも、自分の身なりにまでは、手が回らなかったらしい。
寝乱れた黒髪やはだけたブラウス、太い裂け目の浮いた黒のストッキング――上司夫人のそうしたものから目を逸らすのは、オトナの配慮というものだろう。

遅れて出てきたのは、墓村さんだった。
墓村さんは還暦過ぎになる村の長老の一人だった。
白髪の後退した禿げ頭が、好色そうに赤らんで、てかてかと光っている。
人妻喰いで名が通っていて、うちの社員の奥さんも何人となく、布団に引きずり込まれているといううわさだった。
うわさがほんとうであることを、今日見てしまったけれど。
この人が・・・今夜、実家から呼び寄せた母を犯すことになっていた。

居合わせたわたしに気を使うように、
準備運動を、ちょっとね。
墓村さんの照れ笑いは、罪がなくって、憎めない。
弟と二人、母の相手に選んだのは、そんな人柄からもあったけれど。
母の写真をひと目見て、「不覚にもこの齢で、ひと目惚れした・・・」と言ってきたのは、ほかならぬ墓村さんでもあったのだ。
まあ、両想いということにしておこう。
それと、忘れちゃいませんか?
準備運動は弟の彼女やうちの妻ともやりましたよね?
姑さんを堕とすまえに、嫁ふたりをモノにするんじゃ・・・とかなんとか言いながら。

墓村さんと妻とのセックスに対してこうもあっさりできるのは、年齢差だろうか。
さっきの車の持ち主は、わたしより年上だったけど、まだ十歳ほどしか離れてないようにみえる。

そうそう、夕べね。
墓村さんは、上司夫婦の前でも構わず、にんまりとした。
お母さんのこと、味見しちゃったよ。
えっ。
予想できたことだった。夕べから、両親は街はずれのお寺に泊まっている。
でもね、セックスはしていないから。血を吸っただけ。
そういう問題じゃなくて・・・
私が言いかけると。

お母さんの血は、美味しいね。いや、きみからもらった血でなんとなく、予想してたけど。
そういうことだけじゃなくって、あれはご主人しか知らなくて身ぎれいに暮らしていた証拠だ。
嫁入り前の生娘のような、楚々とした味わいだった。

墓村さんは、母の生き血の味を褒めちぎってやまない。
上司さん夫婦も「よかったじゃないか」と言って下さるし・・・こういうときにどういう顔つきをしていれば良いのか、まだわきまえがついていない。

そういうわけで。お父さんもわかってくれたから。
今夜の法事は、なにも気遣いしないで愉しむように。

ああ、それが言いたかったんですね・・・

上司宅を辞去しぎわ、奥さんはラベンダー色のスカートを脱いでしまって、
ご主人に、まだヌラヌラしている粘液を見せつけながら「クリーニングに出すわね」なんて言っているし。
あいまいに頷くご主人を尻目に、墓村さんは破けたパンスト一枚になった奥さんのことを引き倒しにかかるし。
いつか都会から来たばかりのご夫婦に、我が家もこんな風景を見せつけることがあるのだろうか?
ちょっぴり複雑な気分になって、外に出る。
外はまだ、眩しいばかりの晴天・・・
妻はいまごろどこで、「主人のヤツよりおっきいわあ」なんて、のたまわっているのだろう?

特定の彼氏を迎え入れる場合。 ~初夜~

2015年02月06日(Fri) 05:23:48

ええ、うちの場合は・・・愚妻には特定の男性がいるんです。
なにしろ、かなりの年になってからこの世界に来ましたからね。
おおぜいの男性をお迎えするには、愚妻にも負担が大きかろうと思ったのですよ。
息子たち夫婦は、夜ごと好き好きにそつなく相手を取り替えているようですし、
互いに夫婦交換までしているようですから・・・若い人というのは羨ましいですね。
そうです。
私ども夫婦がこの世界に入ったのは、息子たちの紹介が理由なんです。

ふたりとも大した孝行息子で・・・私はともかくとして、自分たちの母親のことを真っ先に考えたそうです。
「母さんのこと、一日でも若いうちに襲わせてあげたいね。せめて五十になる前に」と。
初めて夫婦ながら血を吸われたとき、私は53歳、愚妻は49歳・・・ぎりぎりで間に合ったというわけです。
いまでは私も愚妻も、こちら側の人間ですから・・・
息子たちの配慮には、いまではとても感謝しているんですけどね。

ええ、初めての夜は、街はずれにあるお寺に一泊した時のことでした。
この土地に縁故のない私たちを、どうやって引き込むか・・・息子たち夫婦も、いろいろ考えてくれたようです。
けっきょく、上の息子がお世話になっている土地の長者様の法事だとかで、招ばれて行きました。
こちらには温泉もあるし・・・と誘われましてね。
いや、とんだ温泉旅行でした。

法事のまえの晩は、法事に出るものは全員、お寺に寝泊まりするとかで・・・
私ども夫婦にも、落ち着いた和室がひと部屋あてがわれました。
村のかたがたは、それは暖かく迎え入れてくださいまして・・・
「やって来た奥さんがおきれいだったからねえ」とは、あとで聞かされたものですが。(苦笑)
軽く一杯いただいて、長旅の疲れからかすぐに寝入ってしまいました。
もしかすると、酒の中になにか入っていたのかもしれませんね。

気がついたときにはもう、咬まれちゃっていました。私の場合。
首のつけ根に鈍痛が走って・・・とっさに身じろぎしようとしたけれど、動けない。
布団のうえにだれかがのしかかってきて、抑えつけているんですね。
そのままゴクゴク、クチャクチャと・・・露骨な音をたてながら、血を吸い取られてしまいました。
ぐったり、茫然となっている私の傍らで、そいつはこんどは愚妻にのしかかっていって・・・
ええ、とっさのことで。寝入っている愚妻には、なにも知らせてやることができなかったのです。
愚妻が必死に抵抗しているのが、ありありとわかるのに。
手足には力がまったく入らず、私はただ薄ぼんやりとなって、大の字になっているばかりでした。
そのうちに、力尽きた愚妻もまた、首すじを咬まれてしまいました。
こんどは愚妻のうなじから、ちゅう~っという音が・・・あえなくふたりとも、血を吸われてしまったというわけです。

相手は私より、ひとまわりほど年配の男でした。
迎え酒の一座の隅っこにいたのをなんとなく憶えていました。
そういえば私も愚妻も、一度ずつその方にお酒を注いでもらいましたっけ。
その時点でもう、向こうはすっかりその気だったのですな。
愚妻の写真を見てひと目惚れした・・・そのあと本人の顔を見て、早く逢瀬が遂げたくなった。
そんなことだったようです。
ほんとうは、つぎの日の法事のさいちゅうが”本番”だったようなのですが。
待ち切れなかったんでしょうね。

その場で相手がわかったのは・・・
ふたりの血を吸い取ったあと、彼が部屋の灯りを点けたからです。
古びた黄色い裸電球だったのですが・・・失血のせいか、ひどく眩しく感じました。
愚妻も同じだったようです。
「あなた・・・」
蒼ざめてこちらを覗き込む愚妻のネグリジェの肩先は、飛び散った血のりに濡れていました。
彼女もまた、血を吸い取られた身体を重たげに寝そべらせていて、布団の上からしっかりと起き上がれずにいたのです。

男は「いきなりの訪問、申し訳ない」と、私たちに謝りました。
落ち着いた声色でした。
それから、順を追ってかいつまんで、今までの経緯を話してくれたのです。
この街の住民は、吸血鬼と共存していること。
血を吸われることはあっても、生命に危険は及ばないこと。
上の息子はなにもかも承知のうえで、勤め先の創立者の出身地であるこの街に赴任してきたこと。
赴任してすぐに今夜の私たちのように、夫婦ながら咬まれてしまい・・・
それから吸血鬼たちとのおぞましい交際を受け入れていったこと。
その後下の息子も婚約者もろとも巻き込まれて、血を吸われるようになったこと。
相手選びはある程度自由であること。
つまり、最初に吸われた男にだけ吸血を許すか、特定の相手を作らずに血を提供するかを択べること。
息子たちは自分の妻に特定の相手を持たせずに、入れ代わり立ち代わり、大勢の男たちに妻の血を吸わせていること。
などなど・・・

どれもが驚くべき内容でした。
けれども、すでに血を吸われてしまった私たちもまた、その毒液を知らず知らず、わが身にしみ込まされてしまっていたのです。
「御懇意になれたしるしに・・・今少し奥方の血を頂きたい。よそ行きの服に着替えてくださらんか」
男の言うなりに、愚妻は早くも、身づくろいするために腰を浮かして。
私のほうも、部屋の隅にあった衝立で、自ら視界を遮っていって。
男もまた、ご婦人のお召替えの場にいるのは失敬といって、いったん部屋を出たのでした。

逃げるチャンスだと、思う・・・?
声をひそめる愚妻の顔は、半分影になって表情が良く見えません。
本気で逃げようとしたのか。私の気持ちを試そうとしたのか。たぶん後者であったのでしょう。
街ぐるみでの吸血の儀式から、のがれるすべなどない――そんな計算をするよりもさきに。
「着替えのためにわざわざ出ていかれたんだ。信用を裏切るのも、どんなものかな」
自分でも意外なことを、私は口走っていました。
「そうよね。ちょっとびっくりしたけど・・・子供たちも納得しているようですから、きちんとお相手しましょうね」
いつも控えめな愚妻にしてはひどく思い切りよく、自分自身に言い聞かせるようにそういうと、
そそくさと衝立の陰へと入っていったのでした。

どうぞ。
衝立のなかから、愚妻の声がしました。
声に応えるように、いったん閉ざされた障子がからり・・・と披かれ、男が再び入ってきました。
お邪魔しますよ。
いらっしゃい。
私も頭を下げて、男を迎え入れます。
敵意はない。拒んでもいない。そういう意思を伝える必要を感じたので。
生命の危険はない・・・と言ってくれても、げんにかなりの量の血を吸っています。
兇暴化しそうな様子はなかったのですが、いちおうの用心をしたわけです。

愚妻は昨日着ていた薄茶のスーツを着込んでいました。
髪をきちんと整え、薄く化粧を刷いて・・・
行儀よく畳の上に折りたたんだ脛は、真新しい肌色のストッキングに包んでいました。
――なぜだかわからないけど、きちんとしなくちゃって思ったの。
のちに愚妻は私にそう言いましたが、身ぎれいにした愚妻の様子は男をひどく満足させたようでした。

ではご主人、御免を蒙って…
男は禿げかかった白髪頭を丁寧にさげると、正座して目を瞑る愚妻の背後にまわり―――
髪をあげてあらわになった首すじを、かりり・・・と咬んだのでした。

うっとりするような、献血の風景でした。
男がひと口ひと口、嚥(の)み込むたびに、愚妻は微かに肩を震わせて。
わざと私のほうから逸らした視線を、あらぬかたに向けながら。
声もたてず、失血に萎えかかった身体を懸命に支えつづけていました。
相手の男は、強奪するような荒々しさも、侮辱的なしぐさも微塵も見せないで。
吸い取った愚妻の血を、豊潤なワインでも味わうように、舌で転がし、ゆったりと賞玩してゆくのです。

力なくしなだれかかる愚妻の華奢な上背を、男はなんなく支えながら、
うなじに這わせた唇で、愚妻の素肌をじわじわと冒してゆくのです。
口の端から覗く、2本の牙は。
柔らかなうなじに、深々と咬み入れられていて。
そこだけは酷く貪婪に映るのですが。
白のブラウスに沁みとおる真紅のほとびも、密やかな吐息に似た、愚妻の息遣いも。
鮮やかに朱を刷いた唇がいつしか半開きになって覗かせた、前歯の白い歯並びも。
冷酷に刺し込まれた牙を支点に愚妻がその身を揺らがせて、
かすかな呻き・・・迷った目線。
なにもかもが、愚妻が愉しみ始めていることを、告げているようでした。
なによりも。不覚にも・・・
私自身が、愚妻の受難の光景を、悦びはじめてしまっていたのです。

ひとしきり血を吸い取られてしまうと・・・愚妻は力なくくたりと、くずおれてしまって。
男は愚妻の身体を長々と、布団の取り片づけられた畳のうえに寝そべらせて。
切ない呼吸を楽にしてやろうとしてか、ブラウスの釦をふたつ三つ外して、衣服を弛めていきました。
さりげなく・・・でしたが。
ブラウス越しに乳房の縁をなぞるのを、私は目にしてしまいましたが。
咎めだてひとつせずに、見過ごしにしてしまいました。
彼はきっと、気づいていたと思います。
もういちど。
さきほどよりはあからさまに、愚妻の胸もとをまさぐると。
こんどは愚妻の足許を狙っていったのです。

薄茶のスカートのすそから覗くふくらはぎも、無事では済みませんでした。
赤黒い唇がヒルのように膨れあがって。唾液をヌラヌラと、光らせていて。
欲情を滾らせたその分厚い唇が、肌色のストッキングのうえから愚妻の脚に吸いつけられます。
くちゃ、くちゃ、くちゃ・・・
あからさまな舌なめずりの音を、私は夫として堪えなければなりませんでした。
それはかなり長いこと続けられ、家内の足許を彩る薄手のナイロン生地の舌触りを、男が愉しんでいることに、気づかずにはいられませんでした。
愚妻の穿いているストッキングをくまなく汚してしまうと。
ひときわつよく吸いつけられた唇の下。
淡い色合いのストッキングは、ブチブチと音を立てて咬み破られて・・・
男は再び、愚妻の生き血に酔い痴れていったのです。

部屋を出ぎわに、男は妙なことを言いました。

今夜、わしがこれ以上のことをしなかったのを、あんたは憶えているべきですよ。

男の残した言葉の意味を知るのに、さして時間はかかりませんでした。
私はオロオロと布団を敷き伸べて、そのうえに愚妻をスーツのまま寝かせると、
私自身もまた、失血のけだるさから解放されないままに、その場にぺたりと尻もちをついてしまいました。
こうして長い長い初めての夜は、明け方に向かったのでした。

妻交換。

2015年02月02日(Mon) 08:11:00

肥沼さん、洋子さんにご執心らしいね。
訪ねてきた弟に。わたしにしては露骨な話題をふったとき。
弟はさして嫌そうな顔もせずに、そうみたいだね、って応じてきた。
ひと目ぼれで、ぞっこんだって言われちゃったよ。兄さん、どうしたらいいだろう?
母親譲りの利発そうな目の輝きが、誘いをかけるようにわたしに注がれた。
どうしたら・・・って、この街に来ちゃった以上、しょうがないんじゃないかな?
毒を食らわば皿まで。
吸血鬼の棲むこの街に赴任してきて、妻を襲われて。
妻は従順に吸血に応じ、わたしの姓を名乗りながら悪びれもせず、相手の男とのセックスに耽るようになっている。
彼女の相手の男性でま人間なのは、わたしと――弟だけだった。

洋子のまだ処女なんだ。洋子のもってる処女の生き血、肥沼ちゃんに吸わせちゃおうかな♪
弟は鼻唄交じりに、未来の花嫁の運命に重大な影響をもたらすようなことを口にした。

一週間後。
洋子は弟に連れられて、ピンクのスーツ姿でわたしの家を訪れた。

兄さんの家を借りるよ。義姉さんがうまくやってくれるってさ。
妻が肥沼に逢っているところを洋子に見せて、立ちすくむ洋子はその場で抱きすくめられて首を咬まれ、純白のブラウスを真っ赤に染める――色彩感豊かな想像が現実のものになるのに、たった一時間とかからなかった。

す・・・すんげぇ・・・
弟は腰を抜かしたように惚けてしまって。
首すじにつけられた傷を撫でながら、ひと言呟いた。
兄さんが夢中になった理由が、よくわかったよ。

洋子は肥沼の太い猿臂のなか、きゃあきゃあとはしゃぎながら首すじを咬まれ、念入りに化粧を刷いた頬を、己の血のりでべったりと浸していった。
弟は、ただ、ただ、もう夢中・・・
洋子がねずみ色のストッキングを穿いたふくらはぎを咬まれても。
ストッキングに走る裂け目が、ひざ小僧をまる見えにさせるほど咬み剥がれても。
ピンクのタイトスカートをたくし上げられて、足首から引き抜かれたショーツを部屋の隅に投げ捨てられても。
しまいに調子に乗った肥沼が、褐色に陽灼けした逞しい腰を、洋子の股ぐらの間に沈み込ませて、くり返しくり返し上下動でゆさぶっても。
そのたびに洋子が歓声をあげながら、豊かな黒髪をユサユサとさせても。
弟も、ただ、ただ、もう夢中・・・
わたしさえ、昂ぶりに頬を火照らせて、目も当てられないようす。

わたし代わるわね。
賢明な妻は真っ赤なスカートの腰つきを、弟のすぐ傍らにおろしていって。
弟にぞんぶんに唇を吸わせると、虚ろな声色で呟いた。
これで弓岡家の嫁はふたりとも、肥沼さんに汚されちゃう訳ねぇ・・・
妻の口ぶりにゾクッと来たらしい弟は、わたしが見ているのも返り見ず、妻のことを押し倒した。
わたしはよたよたと、隣室へと這いずり込んでゆく。
肥沼は、待っていた、という顔をして。わたしに手招きをして。
精液まみれの柔らかな股間に、逆立ったわたしのペ〇スを誘導していった。

兄さんの気持ち、よくわかる・・・
弟は妻の胸のはざまに顔を埋めながら、何度も何度も激しく射精をくり返していったという。