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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

今度は妻の番・・・

2016年09月20日(Tue) 08:04:54

ひとつだけ、思惑ちがいがあった。
きょうは、妻を吸血鬼に襲わせる初めての夜――
長い夜になるはずだから、娘は祖父母のところに、預かってもらっていた。
PTAの会合に遅れまいとして、妻は早めに家を出た。
よそ行きの緑のワンピースが、永井夫人としての死に装束になるとも知らないで。
わたしはおもむろに携帯を手に取って、青山さんにメールを入れる。

「家内の典子はいま、家を出ました。緑のワンピースに肌色のストッキングです。
 後はよろしく頼みます」
「わかりました。ご主人も早くお出かけになってください。希望者は予想以上に集まりましたが、驚かないでくださいね。」
すっかりベテランのやり取りだった。
自分の妻が襲われる前、「たっぷり学習したおかげ」と、青山さんはいう。
きっと、そういうものなのだろう。
幸か不幸か、わたしは青山さんのときしか、経験がなかった。
それでもつい、指は携帯のキーをまさぐっている。
「ストッキングの色は、奥さんの時と一緒ですね。よろしくお願いします」
家内を売るという後ろめたさを、家内がヒロインのお祭りに参加する好奇心が塗り消していた。
いちどは咬まれるのを承知で訪れた街。
それが今夜だというだけ。それが不意打ちだというだけ。

思惑違いといったのは、今回は会合の「帰り」ではなくて「行き」だということ。
まだ明るいではないですか。
幸いその日は曇っていて、普段でも人通りの少ない街は、さらに人けが感じられなかった。
わたしが妻のあとをだいぶ離れて尾(つ)けていくと、
あちらから2,3人。こちらの路地から2,3人と、「お仲間」がさりげなく尾行の列に加わって、
獲物に群がる獣のように、妻のあとを尾けてゆく。
だれもが狙いは、妻ひとり。
この状況、なぜかちょっとわくわくするな。

大勢の人の輪に囲まれて。
妻は慌てふためき、なん度も輪から抜け出そうとしてそのたびにはじき返されて。
とうとう黒衣の男に後ろから羽交い絞めにされると、首すじをがぶりとやられてしまっていた。
青山夫人のときと、まったく同じ経緯だった。
妻が路上に倒れてしまうと、わたしの存在を意識した人たちは、それとなく間をあけて、視界を確保してくれている。
かなり遠くからだったけど、いちぶしじゅうを視てしまった。
妻が、緑のワンピースをくしゃくしゃにたくし上げられながら、太い肉棒を股間に突き込まれてしまうのを。
肉棒をなん度も出入りさせてしまっていくうちに、その味をしたたかに味わわされて、
とうとう自分から、腰を振りはじめてしまうのを。

夢中になった輪の中に、いつかわたし自身も交じっていた。
妻もそれと知りながら、わたし相手に金切り声をあげていた。
こんなに交付したセックスは、何年ぶりだろう?
娘が生まれてからは、こんなにおおっぴらなセックスは、なかったと思う。
自分の頭のなかのもやもやがスッと晴れたとき。
ほかのメンバーもきっと、おなじ爽快感を覚えているとわたしにもわかった。

地元のおっさんたちが代わる代わる、妻を犯してしまうと。
「お疲れさまでした」の立ち去りぎわ、そのうちひとりが妻ににじり寄って、おねだりをした。
「ストッキング、もらって行ってもいいかね?」
脱げ落ちて片方だけを脚にまとっていた妻は、ちょっとびっくりしたように、
「ああ・・・・エエ。どうぞ」
そういってあいまいに返事をすると。
ひざ小僧の下までずり落ちた肌色のストッキングを、男は手早く抜き取っていく。
慣れた手つきだった。
「だいじにしますよ。うひひ」
妻からせしめたストッキングを手にぶら提げて起ちあがると、それをむぞうさにポケットにねじ込んだ。
「じゃあわしは、スリップを」
「わし、ブラがええな」
いったん立ち去りかけた男どもは、われもわれもと妻の下着を奪ってゆく。
下着だけではなく、ワンピースまで奪われて、さすがに妻は半泣きになった。
「これを羽織って帰れ」
吸血鬼は親切にも、身にまとった黒い衣装を渡してくれた。
「こういうときのために、羽織っているのさ」
妻の貞操を奪う特権を遠慮会釈なく行使した男に、わたしは鄭重に頭を下げる。

そのあとは、もはや恒例化した「お披露目」だった。
輪姦の輪のなかに加わらなかった勤め先の同僚たちが。
妻を校庭に引きずり込んで、われもわれもと折り重なってゆく。
地面のうえで素足をばたつかせながら、それでも妻は腰の動きをひとつにしていった。
「ふつつかですが、どうぞよろしくお願いします」
妻と並んで地べたに正座をして、わたしが率先して皆に頭を下げると。
妻もわたしと並んで全裸のまま正座をして、「お願いします」と声を合わせた。

別れぎわ、なん人かが妻に、「またね」と囁いていく。
それを、「いつでもどうぞ」と見送るわたし――
わたしたち夫婦の歴史が、その夜を境に塗り替わった。
妻は今夜もいそいそと、身ぎれいにして出かけてゆく。
ハンドバックのなかに、穿き替えのパンストはなん足仕舞われているのだろう?

奥さんを襲うので、ご協力を。^^

2016年09月20日(Tue) 07:38:40

青山さんの奥さんを襲って血を吸う。協力してくれ。
そんな囁きを耳にして、わたしが素直に肯いてしまったのは。
もう、なん回も、彼に血を吸われてしまっていたから。

青山さんは、勤め先の同僚で、奥さんはしっかり者で有名だった。
この街は、吸血鬼と共存が許された場所。
そんな街の事務所に転勤してくるのは、だれもが事情を抱えた者たちだった。もちろん、わたしを含めて。
青山さんがどういう事情で此処に流れてきたのか。それはわたしも知らない。

夜まで長引いたPTAの会合の帰り道を襲う。
そんな手はずにドキドキしながら、現場に向かう。
待ち合わせ場所は、人通りの少ない路上。
学校の校舎の真裏と廃屋に挟まれた、狭い道での出来事だった。

無言で立っているだけで良い。奥さんの周りを取り囲んで、抜け出せないようにするだけだ。
奥さんのこと、知っているんだろう?それ以上の手出しはしにくいだろうからな。
ほかになん人か、協力者を頼んである。あんたの顔見知りもいると思うな――吸血鬼は、そういった。
たしかに・・・それとなく周囲に佇むのは、男ばかり。そのうち約半数が勤め先の同僚だった。
あとの半分は・・・きっと地元の人なのだろう。彼らはほとんどが、わたしよりも十も二十も上にみえる年配者だった。

来た、来た。
だれからともなく、そんな低いつぶやきが洩れる。
青山夫人は濃い紫のスーツ姿で、現場に現れた。
肌色のストッキングに包まれたふくよかな脚が、
白いエナメルのパンプスをテカテカとさせて、街灯に照らされる。

ひくっ。
奥さんは声にならないうめきをあげて、立ちすくむ。
正面には、黒づくめの衣装の吸血鬼。
改まったときにはいつも、やつはこういう恰好をする。
後ずさりしようとする退路を、数名の男たちが遮った。
――わしが何者か、きいているね?
奥さんは蛇に魅入られたカエルのよう。ただひたすらに、頷くばかり。
――わしがあんたに、なにをしたがっているか、わかってくれるね?
奥さんはまたも・・・頷いてしまった。
つぎの瞬間。
ひくぅ・・・
うたたびうめいた奥さんは、もう吸血鬼の腕のなかにいた。
黒のブラウスのえり首から覗く首すじを、たちまちガブリとやられてしまっていた。

ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
圧し殺すような吸血の音を、その場に居合わせただれもが、固唾をのんで聞き入っていた。
めいっぱい、自分の血をご馳走してしまうと。
奥さんは力なく、路上にひざを突いてしまった。
男は奥さんを抱き支えるようにして転倒の衝撃から守り、
その代わりさいごに、荒々しく路上に転がしていた。
スーツのすそから覗くふくらはぎに、男は卑猥な唇を、吸いつけてゆく。
上品に透ける肌色のストッキングが、奥さんのふくらはぎの周りで、くしゃっと引きつれを走らせていた。

あぁあぁぁぁ・・・
悲嘆にくれる奥さんをしり目に、男は足許からの吸血を重ねてゆく。
男の唇の下、ストッキングに浮いた伝線は、スカートの奥までじりじりとせりあがってゆく。
ほかの男たちは、立ちすくんだまま無言。
儀式のような厳粛な空気が、現場に流れた。
むらむらとした得体のしれない熱気だけが、あたりを支配する。

あとは、お決まりの流れだった。
奥さんは観念したように頷くと、濃い紫のジャケットを脱ぎ捨てた。
それが合図だった。
男は奥さんの肩を後ろから羽交い絞めにすると、漆黒のブラウスに手をかけて――
ベリッ・・・と、音をたてて引き裂いた。
黒のスリップもむざんに引き破られて・・・白い素肌が街灯の下にさらけ出される。
奥さんは両手で顔を覆い、あらわになった豊かな乳房を、まさぐりに委ねている。
周囲の空気に帯びた熱気が、にわかに熱度をあげていった。

男はスカートの奥に手を突っ込んで、ショーツをメリメリとむしり取ると、
奥さんの脚の爪先から抜き取って、皆に見せびらかすようにぱあっと放り投げた。
それから彼女を路上に引き倒し、がつがつと貪った。
女ひでりの浮浪者が、通りかかった貴婦人を草むらに引きずり込むときのような、荒々しさで――

片方脱げたパンプス。
ひざ小僧の下までずり落ちたストッキング。
腰に着けたままお尻が見えるほどたくし上げられた、濃い紫のタイトスカート。
首に巻いたままのネックレス。
振り乱された栗色の髪。
それらすべてが、むき出しの性欲のまえに、踏みにじられてゆく。

ふと傍らをふり返ると。
そこにいたのは、青山さんだった。
目のまえで奥さんを凌辱されてさすがに蒼ざめてはいるものの。
彼もまた、熱気を共有する一人だった。
目はギラギラと輝いていて、いちぶしじゅうを見つめていた。
永年連れ添った妻が、ひとり、またひとりと相手を変えてまぐわいつづけ、
甲斐甲斐しく守り抜いてきた貞操を、不特定多数のおおぜいに気前よく振る舞ってしまうのを。
青山家の名誉を泥まみれにさせてしまうのを。
じっとじっと、見つめていた。
昂ぶりのこもった視線は、明らかに周囲の男たちとおなじ、共犯者のものだった。

奥さんがご主人に支えられて起ちあがると。
じわりとした陰湿な空気は一変して、打って変わって和やかなものになっている。
じゃあ今夜はこれで、解散です。皆さん、お疲れさまでした。
町内会長が明朗な声色でそう告げると、
一同声を合わせて、「お疲れさまでした」と、お辞儀を交し合った。
被害者の青山夫妻ですら、皆と同じように、「お疲れさまでした」と、深々と頭を下げていた。

パンプスが片方脱げたままの奥さんは、あらわになった二の腕や脛に擦り傷をあちこち作っていたが、
気丈にもちゃんと自力で立っていた。
片方だけ残ったストッキングがひざ小僧の下までずり落ちているようすに、いやでも目が泳いでしまう。
もう片方の脚はむき出しの白さを、街灯に照らし出されていて、むざんなくらいに眩しかった。

誰もが互いにあいさつを交わしながら、散っていく。
青山夫妻に「おめでとうございます」と、鄭重に頭を下げてゆく地元の人もいた。
地元の人は全員、青山夫人を犯していた。
わたしたち勤め先同僚組も、吸血鬼に奥さんとの交接を勧められたが、
だれもがさすがに、「それはちょっと・・・」と、遠慮していた。
同僚である夫がいる前だということも、意識していた。
残ったのは、社内の同僚だけだった。

ふと見ると、校庭に通じる通用門が開けっ放しになっている。
「よかったらこのあと、どうですか?」
そう言い出したのは、なんと青山さんご本人だった。
まるで二次会に誘導するような自然さに、一同は黙って学校の敷地に入り、歩みを進める。

一同が選んだのは、校庭の隅の雑木林だった。
「ここらでいいね?」
青山さんは、奥さんをふり返る。
「いいんですか?」
奥さんは許しを請うような上目づかいをご主人に送るが、
「せっかくなんだから」
青山さんはそういって妻を諭した。
なにが「せっかく」なのだろう?けれどもたしかに、「堰を切ってしまう」としたら、いまこの時しかないのだろう。
「きみも愉しんじゃって、構わないからね」
そういう青山さんに、
「あなたも愉しそうね」
そういって、奥さんは拗ねてみせた。
だれかがだしぬけに、奥さんを後ろから抱きすくめる。
キャッ!とちいさな叫び声をあげた奥さんは、べつのだれかに両足をすくい取られた。
そのまま雑木林の奥へとかつぎ込まれた奥さんは――
居合わせた夫の同僚全員をあいてに、懇親を深めていった。

PTAの会合が終わったのは8時だったが、ことが果てたのは午前2時をまわっていた。
「マサオはだいじょうぶ?」
母親の顔に戻った奥さんは息子のことを案じたが、
「おばあちゃんが寝かしつけてくれるって」
そういうご主人に「だったらいいけど」と、言っていた。

青山夫人がその後、地元の禿げ親父さん2~3人と交際を開始したと、風のうわさにきいたのは、それからすぐのことだった。
同時に勤め先の同僚もひとりふたり、青山家に出入りするようになったという。
「こういうことは、相性だからね」
青山さんは、のんびりという。
彼自身も、同じように堕とされた同僚の妻や地元のおかみさんのところに、通うこともあるという。
「ねぐらがないときもあるからね」
青山さんはやっぱり、のんびりという。
同じのんびりとした口調で、青山さんはさらにつづけた。

今度さ、きみの奥さんを襲って血を吸うことになったから。協力してくれるよね?

こういう行事を、地元では「お祭り」と呼んでいるという。
次は、奥さんの番だから・・・きみ、もちろん協力するだろう?
なに、今度のPTAの会合のとき、奥さんが家を出たら携帯で連絡をください。
「家内が今家を出ました」というだけで、OKだから。
あとはうちの家内のときみたいに、あなたも潔く出てくるんだよ。
時間に遅れないようにね。

青山夫人を襲う誘いを受けたときにそうしたように、
わたしはまたも、素直に肯いてしまっていた・・・

だから実家に戻りたくなかったのに。

2016年09月03日(Sat) 12:12:20

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
そういって、妻は嘆いた。
妻の実家のある村は、夜這いの風習が残っていて。
新婚妻はもちろん、村の男衆にとっては格好の餌食。
もともと見知った顔が、都会ふうのスーツなんか着込んで戻ってきたものだから、
村の衆の騒ぐまいことか・・・

なにも聞かされていなかったわたしはその晩、男衆に酒を飲まされ酔いつぶされて、
気がついたときには荒縄でぐるぐる巻きにふん縛られて、
部屋の隅っこで小さくなっているハメに陥った。
妻はもう、都会ふうのスーツを半裸に剥かれ、スカートを穿いたままお尻にモノを突き入れられて、
もう五人めの男衆を相手にしながら、ウンウンうめき声をあげていた。


だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
いつしか妻の痴態に反応してしまったわたし――
妻におおいかぶさっていく男衆の手助けをして、ひたすら妻の脚を抑えつけていた。
あらぬ昂奮に支配されて、輪姦の渦のなかに加わって。
嵐が通り過ぎるとこんどは、も少しご縁を深め合おうと、
妻がもっとも反応していた男の家を聞き出すと、ふたり連れだって訪れていた。
もっと愉しんでもらえませんか?
わたしの申し出を、嫁入り前から妻となじんでいたらしいその男は、
顔をくしゃくしゃにして笑いながら、打ち解けてくれた。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
男の下には、妻が。
わたしの下には、男の妻が。
服をはだけながら、はぁはぁと淫らな喘ぎ声を洩らしていた。
互いの妻に精を注ぎ合うことで、
兄弟のような仲間意識を深めながら、
わたしは来年もまた来ると男に約束し、
男はそんなに待てないから秋祭りにまたおいでと、誘ってくれた。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
嘆いてはみせるくせに、秋祭りにはふたりで里帰りしたし、年始のあいさつでも里帰りしたし、
泊まりの出張や単身赴任、そんなとき・・・わたしの知らないところでも、時々里帰りしているらしい。

だから実家になんか、戻ってきたくなかったのに。
妻は嘆いた。
嘆きつづけて、十数年が経過した。
年頃になった娘には、まだなにも聞かせていない。
いきなりサプライズしてびっくりさせたいという、あの男のいけない誘いを好意的にかなえることにした。
なにも知らない娘は、都会の学校の制服のミニスカートのすそから、
発育の佳い太ももをむっちりとさらけ出して、
紺のハイソックスの脚を、退屈そうにぶらぶらさせている。
だいじょうぶ。この村では、退屈なんかしないはず。
ちょっと寝不足になるかもしれないけれど・・・

街に棲む吸血鬼のための教本

2016年06月21日(Tue) 05:52:56

吸血鬼と人間とが共存するこの街に、新たに棲みつくようになった者のために編まれた教本の一部が、このほど入手された。
内容は断片化されているが、その一部をここに掲載する。


血が欲しくなったのに提供相手が手近にいないときには、それが午後9時以降であれば街に出て、道行く婦人を襲っても良い。
その時間帯に外出する婦人たちは、途中で吸血鬼に遭遇する可能性を正しく認識している。

彼女たちは、自らの体面を守るため一応の抵抗を試みるはずだが、優しくねじ伏せて飲血に耽るがいい。
個人差はあるが、三口半で相手の婦人は理性を喪失するという。
抵抗が止んだら、それは自分の体内をめぐる血液を気のすむまで摂取されても差し支えないという意思表示と見なしてよい。

ただし、どれほどひどい渇きを覚えていても、一人の婦人から摂取する血液は致死量を超えてはならない。
この街の住人たちは、我々の存在に対して寛容であり、共存しようとしている。その好意を無にしてはならないし、
好意的な血液供給者を失うことは我々にとっても不利益となる。

血液を提供した婦人に対して性欲を覚えた場合、彼女がセックス経験者であれば、その場で犯してもよい。
この街の夫たちは、自分の妻が吸血鬼を浮気相手に選び自分を裏切ることを承知している。
人間と吸血鬼両者が友好裡に共存するために、こうした関係を結ぶのはむしろ適切な行動とみなされよう。
妻を凌辱されたくない夫なら、みすみす彼女に夜道を歩かせたりはしないだろうから。

吸血行為に応じた婦人たちが着用しているストッキングやソックスは、欲望のおもむくままに自由に噛み剥いでしまって差し支えない。相手が厭がっても、手をゆるめることなく、容赦のないあしらいをするべきである。
貴殿の支配に屈したあとは、むしろ貴殿の熱烈なる求愛の行為に、むしろ感謝するはずである。

彼女たちが着用していたストッキングを脱がせて持ち帰る行為は、貴殿がその婦人と継続的に交際することを欲していると受け取られる。
また、彼女を襲った場所に放置せずに自宅まで送り届けた場合、妻を迎え入れた夫に感謝を表明されることがある。
夫のなかには、妻を襲った吸血鬼との末長い交際を望むものもいる。
特定の吸血鬼と交際する婦人は、ほかの吸血鬼からの凌辱を免れるという、我々のルールを知っているからである。
夫たちの希望をかなえた場合、彼は貴殿が自分の妻を相手に欲望を成就させることに理解と協力を惜しまないであろう。

20年ぶりの帰郷。

2016年06月07日(Tue) 07:42:49

暗がりの支配する小部屋のなか。
13歳の瀬藤怜奈は、老婆に抱きすくめられて、
すんなりと伸びた首すじを、いまは惜しげもなく飢えた唇にあてがってしまっている。
キュウキュウ・・・キュウキュウ・・・
うら若い血潮を刻一刻と吸い出されてゆくというのに、
少女の白い頬は怜悧な輝きを秘めていて、
自分の体内から血液を吸い出されてゆく音を、耳で愉しんでいるかのようにさえみえた。

老婆が唇を少女の首すじから放すと、
少女はちょっぴり残り惜し気に眉を顰めて、老婆のことをじっと見つめた。
「あたしの血、美味しい・・・?」
頷く老婆の唇には、吸い取った血がチラチラと光っている。
怜奈は魅入られたように、老婆の唇を自分の指でなぞり、自分の血の付いた指をそのまま、唇で吸った。
錆びた香りが、少女のピンク色の鼻腔に満ちた。
「ククク。まだそなたには、きつい味わいぢゃろうえ」
老婆はしんそこ嬉し気に、薄闇に輝く少女の黒髪を撫でた。
少女には、自分の血の味が苦かったらしい。
「わからない~」
といって、顔をしかめて老婆を見返った。
「いま少し、エエかの?」
老婆のもの欲しげな目線がハイソックスを履いた足許に注がれるのを感じると、
「好きにして」
少女は頬ぺたをふくらませ口を尖らせながらも、素直にその場にうつ伏せになって老婆の目のまえにハイソックスのふくらはぎをさらした。
ククク・・・
老婆の含み笑いはいっそう卑猥さを帯びた。
そのまま白のハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけると、
クチュ・・・クチュ・・・と、いやらしい音を立てて、少女の脚を舐めはじめた。
しなやかなふくらはぎに帯びられたナイロン生地の舌触りを愉しむように、
くまなく少女の足許に唾液をよぎらせると。
こんどは牙をむき出して、そのままグッと咬み入れた。
真っ白なハイソックスに、バラ色のほとびが不規則に散った――


怜奈はこれでよかったのでしょうか?
妻の淑恵(としえ)の囁きにまだ母親の情愛のぬくもりがよぎるのを、袴田は後ろめたそうに目を背けた。
だからこの村には、連れて来たくなかったのだ。
生まれ育った村は、捨てたつもりだった。
親兄弟も結婚式には招ばず、以来いちども足踏みをしようとしなかった村――
よんどころなく訪れることになったのは、娘の怜奈にくり返しせがまれたからだった。
「あたし、お父さんの生まれ故郷を見てみたい。できればずっと、棲んでみたい」
小娘の無邪気なさえずりと聞き過ごしていたのに、それが度重なるにつれ、妻からも同じ言葉が漏れてきた。
妻のそれは、世間体に対する申し訳なさからくるものだった。
「いちどもお邪魔していないんですよ。私気が咎めてしょうがないの」
挙式の相談をして以来、夫婦の間での唯一のわだかまりが、袴田の実家についてのことだったのだ。
けれども、怜奈の願望はそうした大人の計算とは無縁の、というか、次元のちがうものだった。
ふたりに責めたてられるように帰郷を迫られた袴田は、とうとう実家への電話をかけるため受話器をとった。
受話器をとったのが妻と娘の留守中だったことに、ふたりはなんの不審感も抱かなかったようだが――そこで交わされたやり取りは、ただならないものだった。

「こんどそちらに帰るから」
「そう?ずいぶんだし抜けなんだね」
「迷惑かな?」
「そんなことあるわけないだろう。村をあげて歓迎さ。淑恵さんいくつになった?怜奈ちゃんは?」
袴田は、悪魔に魂を売り渡すような気分で、妻と娘の年齢を告げる。
「淑恵は三十六で、怜奈は十三だ」
「十三歳かね。縁起のいい数字だね。婆さん悦ぶよ」
いちばん聞きたくない科白だった。
けれども、怜奈があれほど言いつのるのだ。もう逃れようはない――袴田は観念した。
自分から受け継いだ血を秘めた少女は、やはりもとのさやに収まろうとするのだと。
狂った本能に違いはなかったが、きっとそれは正しいのだと、袴田は観念した。
妻は・・・そう、なにも知らない妻はどうなのだ?
娘がそれとは知らず本能で覚っていることさえ、都会育ちの妻は夢にも思わぬこと。
けれどもあの村にひと晩でも宿をとれば・・・都会人の理性など一夜の夢のように虚しく消えうせてしまうことも袴田はわかり抜いていた。
村に着いた怜奈は、かつて袴田自身の血を吸った老婆を目にすると、「お婆ちゃん♪」と親しく懐いた。
ところどころ赤黒いシミの浮いたみすぼらしい着物をまとう老婆は、
よそ行きのスーツに身を包んだ都会の少女とひどく不つり合いにみえたのに。
そんなことなど意にも介さずに、少女は老婆の手を引かんばかりにして、母親の隣からいなくなった。
母親が止めるのも聞かないで。
広い実家の片隅の小部屋に連れ込まれた少女が、どんな目に遭うのか。
けれども彼女は、それをとうぜんのことのように迎え入れ、きっと許すのだろう。
世間並みのあいさつを嬉々として交し合う、なにも知らない妻を横目に、
袴田は独り、じりじりとしながら刻の移るのを耐えた。


つぎはお前の番だよ。
さすがに淑恵の頬は、引きつっていた。
ふすまひとつへだてた向こう側にいるのは、まな娘の血を吸った老婆。
それが、いまは自分の生き血を目あてに息をひそめているという。
身にまとう薄汚れた着物を、娘を咬んだときに浴びた血しぶきに濡らしたまま――
もう、どうすることもできないのですね・・・?
助けを求めるような妻の瞳をまともに見返して、袴田は囁き返す。
こうするよりないのだよ。
怜奈はまだ、老婆といっしょにいる。
とうに気を喪って、その身をめぐるうら若い血液を、がつがつと喰らわれながら。
娘を救うには、自身が身代わりになるしかない。
さっきは、兄嫁が身代わりになってくれた。
けれども彼女もまた、怜奈を連れ出すことはできず、真っ蒼な顔をして部屋からさ迷い出てきたのだった。
義兄や義父母の厳しい視線から無責任に逃れるには、淑恵は世間体に縛られすぎた女だった。
怜奈は自分の血が教えてここに来た。
だがこの女もまた、世間体という化け物にそそのかされて、この村に引きずり込まれたのだ。
袴田は妻を愛していた。けれどもこのときばかりは、無同情に妻の背中を押していた。
「行きなさい」
袴田自身も久しぶりにつけられた首すじの痕に、えも言われない衝動を疼かせていた。
老婆の干からびた血管を満たすために、妻を行かせたい――そんな異常な熱望が、袴田を支配していたのだった。
そうすることで、妻もたぶんすんなりと、自分たちの同類になり果ててくれる・・・

おっ、お許しを・・・ッ!
部屋の隅に追い詰められた淑恵は、とっさにブラウスのえり首を掻きよせた。
そのしぐさが、さらに老婆の劣情をそそっていた。
くひひひひひひひっ。早ぅ、血をよこせぇ・・・
そううめいて化け猫のようにとびかかる老婆のまえ、都会育ちの人妻はひたすらに無力だった。
がぶっ。
ふすま越し、妻が咬まれる音が聞こえたような気がした。
袴田はふすまを細目に開けた。
抱きすくめられた妻のまとっている空色のブラウスが、首すじから噴き出る血潮に、みるみる赤黒く染まってゆく――――
異形の光景に、袴田は老婆の行いを妨げようとする手を凍りつかせた。
かつて――老婆が母親の首すじにかぶりついた光景を目の当たりにした記憶が、ありありとよみがえっていた。

ああーッ!
ぎゅうぎゅうと強引に血を吸いあげられて、絶望的な叫びをあげる妻。
20年まえ、母もまた、首っ玉にしがみついてくる老婆を拒み切ることができずに、おなじ色の悲鳴をあげていた。

めくれあがった濃紺のスカートのすそから覗く、肌色のストッキングに包まれたひざ小僧。
老婆の皺くちゃの手の甲が、ギュッと閉ざされたひざ小僧を割って、さらに奥へと忍び込む。
母のときもそうだった。あのとき母は、スリップを着けていた。いまの妻には、それがない。
すそにレエスもようのついたスリップをたくし上げながら、老婆は母を犯しにかかるように、卑猥なまさぐりを股間に擦り込んでいった。

はうっ。
太ももに食いつかれ、ストッキングをびりびりと咬み破かれながら、妻は歯噛みをしながら吸血に耐えている。
はやく、いまのうちに、怜奈を連れ出して・・・!
妻の想いはそこにあるはずなのだが。
当の怜奈は首すじにつけられた咬み痕を指先でもてあそびながら、母親の受難をじいっと見つめている。
怜悧な視線。しかしその冷たい観察の奥に、小気味よげな満足感がわだかまっているのを、袴田は見逃さない。
それは、目のまえで自分の母親が吸われたときに自分が感じたものと、同じだったから。
自分の体内をめぐる血潮とおなじ血が。
お婆ちゃんを、愉しませている。気に入ってくれている。
やっぱり引き合わせてよかった。母さんの血は、お婆ちゃんに吸わせてあげるために、母さんの身体のなかをめぐっているのだ――おなじ思いをきっと、怜奈は共有しているに違いない。女らしい、もっと冷血な想いを秘めて。

ママったら、とても楽しそう・・・
そうよ、血を吸われるのって、愉しいわ。
身体じゅうが、むず痒くなっちゃうの。
だからママも、ガマンできなくなっちゃったのね。
あたしには厳しいしつけをするくせに、自分はこんなにはしゃいじゃったりするのね?
そうよ、もっとはしゃいで、はしゃぎ過ぎて血を全部、抜き取られちゃうといいわ。
それから、あたしも知らないようなやりかたで、うんと辱められるの。
パパがかわいそうな気もするけれど・・・でもパパもきっと、愉しんじゃってるに違いないから。
恥知らずなのよ、あのひとだって・・・

いつの間にか、部屋には男どもの呼気が満ちていた。
父に兄、そして子供のころ袴田を弟ぶんにしていた、年上のあんちゃんたち。
それらがいっせいに、服をはぎ取られ太ももや乳房までもあらわにして乱れ狂う妻の肢体に、いっしんに目線を注いでいる。
老婆がその場を譲るように女を放すと、入れ替わりに男たちが半裸の淑恵に群がった。
ひとりが淑恵の頬に平手打ちをくれ、べつのひとりが肩を抑えつけ、さらにひとりが脚を抑えつけ、ついでにストッキングのふくらはぎに唇をねぶりつける。
いちばん最初に妻が相手をしたのは、父だった。
そうだね。母さんが襲われるのを手伝ったのは僕だったから。
父さんがいちばんさいしょに淑恵のうえに馬乗りになるのは、理に適っているよね・・・

妻が犯される――なのに勃ってしまっている。
恥ずかしいはずの欲情が、かえってすべてを忘れさせた。
鎌首をもたげる茎の剛(つよ)さに満足を覚えながら。
それ以上に怒張をあらわにした父の一物が、妻のまとうスカートの奥に侵入するのを、袴田はドキドキしながら見入っていた。
身体じゅうから抜き取れたはずの血が戻ってきて、心臓の鼓動をドクンドクンと痛いほど伝えてくる。
あうううう・・・っ。
股間に受け入れた吶喊の激しさに。
恥知らずな粘液を目いっぱい嫁の奥深く吐き散らす魔羅の硬さに。
断末魔のようなうめきをあげつづける妻。
食いしばった歯のすき間から洩れる吐息に、淫らなものが混じるのを、袴田はみた。
歯並びの良い白い歯も、嫁を飼いならそうと躍起になった父の舌になぞられて、淫らな輝きを帯びていた。

入れ代わり。立ち代わり。
だれもかれもが、淑恵のうえにまたがった。
袴田が提供した都会育ちの人妻の肢体は、すみずみまであますところなく、たんのうされた。
ふと見ると、かたわらに怜奈がいた。
秀でた眉を寄せて、強いられた乱交に本能で応えはじめる母親の肢体を、冷たく輝く瞳で見つめつづけている。
ママ、楽しそうだね。
そうだね。
パパも、愉しんでいるのね?
そうだね・・・
やっぱ、里帰りにはお土産がいるよね。
だね。
怜奈もママも、いいお土産なんだね。

わたしと淑恵の娘は、もの分かりのよい子に育っていた。
その母親も、男たちの腕のなか、もの分かりのよい人妻になり下がっていった。
帰郷した初めての夜。
わたしは家族の一員として再び迎えられ、
彼らを家族の一員として、新たに受け容れることになる・・・

公開処刑。

2016年06月07日(Tue) 06:32:33

ひい―――ッ!
妻の金切り声が、あたりに響き渡った。
ここは街の中心街に位置する広場。
頭の上は雲ひとつない空。真昼間だった。
広場に拡がる石畳の上には六畳ほどの畳が敷かれ、
妻はその狭い空間のなかで、立ちすくんでいる。
怯える目線の真向かいにいるのは、薄汚れた老婆。
みすぼらしい着物は、もとの色すらよくわからないほどに垢じみていて、
そのうえあちこちに、かつては血しぶきだった赤黒いシミを点々と散らしている。
そう、この老婆は、吸血老婆。街を支配する長老のひとり。
それがいま、意地悪げな目つきに底知れない欲情をあらわにたたえ、
ヨタ、ヨタ・・・とおぼつかない足取りで、一歩一歩、妻を追い詰めてゆく。
先に血を抜かれたわたしは、解放されきったその六畳間からすこし離れた場所で、
きつい縛(いまし)めの荒縄にぐるぐる巻きにされて、転がされていた。
択ぶほうを間違えた――夫婦ながら後悔した現実を、目の当たりにしていた。

「面白―いっ!」
「奥さん、美味しそ~」
「ダンナも哀れでいいねぇ」
周囲には、群れ集う見物人。吸血鬼の支配に狎れた、この街の住人たち。
それらが皆、吸血老婆の味方になって。
無責任な好奇心をむき出しに、これから妻の身に降りかかる受難を予想して視線を集中させる。
それらのなかには、着任したばかりの事務所に勤める上司や同僚の姿も交じっていた。
もしかするときょう、妻を輪姦する権利を手にしたかもしれない、男たち。
そう。
わたしたちは、この街の住人として認めてもらうための、二者択一を迫られたのだ。
吸血鬼に支配されて半吸血鬼に堕ちた男たちに弄ばれながら血を吸われるか。
それとも、街を支配する長老の誰かに身をゆだねるか。
吸血鬼が人妻の血を吸うとき、相手をした女は必ず、抱かれてしまうという――
せめて、もうひとつの恥辱は避けたい。
そんな想いから、夫婦一致で老婆を選んだのだった。
相手が女だったら、もういっぽうの恥辱だけは回避できるのだろうと。
その結果が、きょうの“公開処刑”だった。
六畳ぶん置かれた畳の傍らには、見世物小屋のような下品なたたずまいの立て看板。
そこには、雑な字ででかでかと、こうあった。

清楚な人妻、公開処刑! 街のみんなで見守ろう。


一週間前。
都会のビル街の一角にある、勤務先の本社。
わたしたち夫婦は、表情が見えないほど分厚いメガネをかけた人事担当者のまえ、恐縮し切っていた。
「で・・・借金がかさんで、日常生活が困難になったと?」
「あ・・・はい・・・わたしのギャンブル癖と、家内の浪費癖が重なりまして・・・」
「それで、なんとか会社の力で借金を棒引きにできないか?というわけですね」
「・・・」
「ずいぶんと、ムシの良いご希望ですね」
表情を消した人事担当者の口調が淡々としているぶん、
自分たちの身勝手さが、よけいにありありとあぶり出されるようで。
それでも「会社が何とかしてくれそう」という想いだけで、わたしたちはうわべの恐縮を取り繕っていた。
「性格検査は、ご夫婦ともに適格と判断されました」
1000問にも及ぶ問診と、血液検査。あれが性格検査だったのか。
「あとは、柳原さんと奥さん、ご本人の意思だけです」
「ええ、それはもう・・・」
「追い詰められているだけで、苦し紛れの選択をしないほうがいいですよ」
メガネの向こうの目が、初めて同情をたたえてわたしたちを覗き込んだ。
「いえ、それはもう、会社には迷惑をかけるわけですので、どんなことでも」
会社が迷惑をすべてひっかぶってくれる。こちらはなんの犠牲も払わずに。
そんなムシの良いことを夫婦ともに肚にわだかまらせながら、
わたしたちは酔ったように理性の抜けた耳で、相手が淡々と言い連ねる条件に聞き入っていた。

これから、遠方の街に赴任してもらいます。
あなたがたは行方不明になって、連絡が取れない――周囲のかたがたには、そういう連絡をします。
ですからいちど赴任されたら、街を出ることは禁じられます。
失踪宣告がされれば、戸籍も消えるでしょう。そのあたりの手続きは、会社に一任してください。
赴任先では家も与えられ、給与も支払われます。
通常の給与体系からはずれますので、今までの五割増です。
業務はとくにこれといって、ありません。出社して、事務所で一日過ごして居ればそれでよろしい。
事務所の抱える得意先のところで暇をつぶしても良いし、その気があれば帰宅も自由です。
「じゃあさいしょから、勤務しなければいいじゃないか」――ふとそう思ったわたしの気持ちを見透かすように、人事担当者は言った。

その場の成り行きで、貴男も身の処しかたがわかるはずです。

どういうことですか――?
わたしは訊いた。
男は冷ややかに横を向いて、口にした。

業務はないと言いましたが、厳密にはひとつあります。
でも、なにもしないで良いのです。
献血を要求されたときに応じていただく。これだけです。
貴方が赴任される街には、吸血鬼が棲んでいるんです。

吸血鬼などという文句は、追い詰められたわたしたちには、絵空事にしか聞こえなかった。
まさかそれが、公開処刑につながるなどと――


かん高い歓声と嬌声。
そのなかに、わたしたち夫婦は、離れ離れに置かれていた。
わたしは、血を抜かれて冷え切った身体を、靴下一枚以外一糸まとわぬなりにされて。
妻は、清楚に装うその身を、老婆の卑猥な視線にさらされつづけて。
純白のブラウスに真っ赤なフレアスカート。
見覚えのあるその衣装は、ユリともバラとも独身時代に讃えられたその魅力に、ピッタリと寄り添っている。
けれども、妻の品格を引きたてているはずの衣装は、老婆の劣情をそそるだけだった。

ウォ――ッ!!
獣じみたうなり声をあげて、老婆は妻にとびかかる。
とっさに飛びのこうとした脚は恐怖にひきつって、畳のうえに吸いついたままだった。
老婆は妻を羽交い絞めにすると、容赦なく首すじに牙を突き立てて、
突き立てた牙をガブリ!と喰い入れたのだ。

ジュッ!
鈍くて重たい音が血しぶきとともにあがり、
撥ねた血しぶきは純白のブラウスをみるもむざんに点々と染めた。
ああああッ!
恐怖のうめき声さえ引きつらせ、妻は羽交い絞めにされたまま、生き血をぎゅうぎゅうとむしり取られてゆく。
じゅるっ・・・じゅるっ・・・
クチャ・・・クチャ・・・
汚らしい音とともに啜り取られる、妻の血潮――
グレーのストッキングに包まれた脚を踏ん張り、畳のうえでわが身を支えるだけで精いっぱいの妻――
時折随喜のうめきをあげながら、三十六歳の人妻の生き血に酔い痴れる、醜い老婆。
なんという光景だろう!
それらを目の当たりに・・・わたしはいつか絶頂を自覚した。
そう、夫婦のベッドのなかでしか覚えたことのないあの歓びを、
不覚にも妻を目のまえで虐げられることで、あらわにしてしまったのだった。

「あッ、ご主人、勃ってる!勃ってるッ!」
無責任な群衆がわたしの不始末に気づいて、それを容赦なく暴露する。
「おおっ、ほんとだ、昂奮しちゃってるよ。ばかだねー」
「でも俺、ダンナの気分わかるわー」
「なに抜かすんだ、このド変態!」
無責任な声はさらに無責任な声を呼んで、理性と誇りを壊されたものを渦に巻き込む。

わたしに浴びせられる嘲罵すら、妻の耳には届かない。
グフッ・・・グフッ・・・
血にまみれた白ブラウスごし、老婆は妻の胸を揉みしだきながら、
大の字に倒れてしまった妻のうえにおおいかぶさり、
まるで淫したように、妻の生き血を飲み耽る。
首すじだけではない。
胸元にも、二の腕にも、わき腹にも。
着衣のうえからいたるところに、老婆の牙はあてがわれた。
男が女を弄ぶように、くまなくしつように、
飢えた唇がヒルのように妻の五体を弄ぶ。

白のブラウスはユリの花が踏み躙られるようにして引き裂かれて、
ブラジャーの吊り紐は引きちぎられて、
あらわになった乳首をしゃぶられて。

あーれー・・・

大昔の映画のヒロインのような叫びをあげて、
妻は自分の血で血浸しになりながら、畳のうえを転げまわる。
しっかりとした肉づきのふくらはぎが、目のまえでグレーのストッキングになまめかしく染まっている。
疲れ切ったわたしの目にさえ一瞬欲情をよぎらせた足許が、老婆の目に触れないわけはなかった。
ククククククッ。
ふくらはぎに吸いつけられた唇が、けしからぬ意図を帯びているのを、妻は本能的に悟ったらしい。
アッ、やめてください・・・ッ!そんな・・・ッ!
必死の懇願を無視して、老婆は唇に力を籠めた。
ストッキングがパチパチと音を立てて裂け目を拡げ、
擦りつけられた唇が、チュウッと圧し殺したような音をあげる。
「ああああああっ・・・」
妻は両手で顔を覆い、失血と恥辱に耐えつづけた。
わたしは目が眩み、その場で仰向けに倒れ伏した。
横目にかすかに視界に入った妻も、大の字になって。
ただひたすらに、老婆の食欲を満たしつづけていた。

血を抜かれて干からびた血管が、身体の奥で唸り声を洩らしていた。
血が・・・欲しい。身体を潤す血が・・・欲しい。
目のまえで老婆は、生きた餌にありついている。
豊かな肢体から、むしり取られてゆく血潮。
清楚な衣装のうえに、ふんだんに撥ね散らかされてゆく血潮。
なんという絶景。至福の光景・・・
そう、わたしはいつの間にか、老婆と気持ちをひとつにしていた。
もっと飲んでほしい。
妻の若々しい血潮を、想いぞんぶん賞玩してもらいたい。
心の奥底からあふれ出てくる衝動を、わたしはもう、どうすることもできなくなった。
昏い衝動が、わたしの理性を闇に堕とした―――


もう、よろしいでしょうか・・・?
柳原瑞恵は、自分のうえにのしかかる老婆に、上目づかいで問いかけた。
可愛い目をするのう。
老婆は組み敷いた生き餌と目を合わせ、ほくそ笑んで応えた。
まだまだじゃあ。
老婆の言いぐさに、瑞枝は「あらぁ・・・」と照れた。
ヒッヒッヒッ。久しぶりにありつく、都会育ちの人妻ぢゃ。
たっぷり可愛がってやるぞぃ。
老婆の言いぐさに、瑞枝はくすぐったそうに身体を揺らす。
あい。
瑞枝はうっとりと老婆を見あげ、裂けのこったブラウスをさらに揉みくちゃにされるのを、小気味よげに受け入れた。


周囲の男たちは見境なく、手近な女に襲いかかっていた。
吸血鬼もいれば、そうでないものもいる。

髪を振り乱し随喜の声をあげながら生き血を吸い取られる妻のかたわらで、
妻を襲っているのが勤め先の同僚だと知りながら、
夫は自分が組み敷いた女学生の、セーラー服の襟首から覗く白い肌に夢中になっている。

べつの青年は、親友と婚約者が戯れ合うすぐ傍らで、
かねて目をつけていた妹を犯していた。

自他ともに認める愛妻家といわれた柳原の同僚は、
自分の妻に息荒く迫る男たちのため、妻の肩を抑えつけてその劣情に応えさせ、
自らも妻に加えられる輪姦の渦のなかに交わっていた。


皆さん、すごいんですのね・・・
瑞枝は相変わらずうっとりと、老婆を見つめる。
老婆は瑞枝を広場の隅に引きずっていって壁に背中をもたれかけさせ、
さっきからしきりに瑞枝の脚に唇を這わせ、
グレーのストッキングを咬み破るのに熱中している。
瑞枝は自分の穿いているストッキングにふしだらな伝線が走り無造作に拡げられるのを、
面白そうに見つめながら、老婆の吸いやすいように脚の角度を変えてやっている。
主人、正気を喪っちゃいましたね~。
自らも理性を喪失していることに気づかないでいるくせに、
遠くから自分を見つめる夫の視線に宿る黒い歓びを見抜いてしまっている。
あたし・・・どうなるのかしら・・・?
もちろん、男どもの餌食ぢゃわい。
老婆は遠慮ないことをいう。
いずれもいずれ、お前の亭主の勤務先のやつらぢゃ。
仲良う相手するがええ。
なに?さいしょの約束?
そたらもん、いまの状態の旦那が、覚えておるはずはなかろうが。
愉しんじまえ。よがってしまえ。

老婆にそそのかされるまま。
つい先日、他人行儀なあいさつを交わしたばかりの夫の同僚たちが目の色を変えてのしかかってくるのを、
瑞枝は平然と受け止めていた。
裂けたストッキングを穿いた脚をこじ開けられて。
せり上げられるスカートの奥、恥知らずな性欲が鎌首もたげて迫ってくる。
主人以外のひと、初めてなんですよ・・・
そんな瑞枝のつぶやきに耳も貸さずに、最初の男はたけり狂った自分の一物を、瑞枝の奥深く埋め込んでいた。


妻が・・・妻が、堕ちてゆく。
わたしの目のまえで、瑞枝がわたしの同僚たちを相手に許しはじめてゆくのを、
わたしはどうすることもできずに、見守るばかりだった。
大の字にされて、奪い尽されて、
それから四つん這いにされて、飼い慣らされて。
しまいに泥まみれにされて、隷属させられてゆく――
そんな一連の儀式を、この街では「懇親の交わり」と呼んでいる。
そう。この場は男と女が慣れ親しみ睦みあう場。
妻の生き血を提供し、おおぜいの男に睦まれてしまった夫は、ほかの人妻を襲う資格を勝ち得るという。
妻のうえに群がっている男たちもきっと、自分の妻や娘を提供させられ狂わされた、わたしの同類――
狂った光景を灼きつけられたわたしの狂った瞳は、ただいっしんに、
わたしの同類たちが妻とひとつになってゆくのを、ただひたすらに熱っぽく、
劣情にまみれたただの男として、たんのうし切ってしまっていた。

つぎにこの街に現れる夫婦は、どこのだれなのか。
その人妻の貞操を共有する権利は、わたしにももたらされている。
けれどもいまは・・・ただひたすらに、妻への受難を愉しみたい。悦びたい。
空しい抵抗をくり返していた妻の手足が、いまは悦楽を帯びて、
自分に恥辱を与える男どもの背中を恥知らずに抱きとめてゆくのを、
夫婦関係が崩壊したことさえ小気味よく感じてしまっている私は、網膜に鮮やかに刻みつけてゆく――

強制デート  ~妻と吸血鬼との交際録~

2016年05月06日(Fri) 08:02:12

めまいとまどろみが去って、開けた視界の向こうにはあの男がいた。
さっきまでわたしの首すじから啜り取っていた血が、男の頬をまだ濡らしている。
服従することが安堵を生むことを、この男に血を吸われることによって初めて知った。
「気分はどうかね」
男はいった。
「最高ですよ」
わたしはこたえた。

この街では、吸血鬼と人間とが共存していた。
遠くの都会から越してきたわたしたちも例外ではなく、
この街の住人として受け入れられるためには、彼らのために血液を提供しなければならなかった。
わたしはそれを受け容れ、事前に相談した妻も、反対しようとはしなかった。
血を吸われた人妻は、例外なく犯される。
そんなルールさえ、知りながら。
もう――わたしたちを受け容れてくれる場所は、ほかのどこにもなかったから。

「あんたの奥さん、手ごわいな。3回めのデートで、やっとキスした」
男はぬけぬけと、そんなことを口にする。
「うちの仲間うちでも、評判になってきたよ。あんたの奥さんの身持ちの堅さ。亭主としては、自慢してもいいんじゃないかな」
男の目には、思うようにならない苛立ちではなく、むしろ称賛の色が込められている。
さいしょにわたしが襲われて、理性をなくしたわたしは妻も襲わせるため、男を自宅に招いていた。
その場で――妻は犯される・・・はずだった。
彼らの流儀では、モノにした人妻は必ずその場で犯すことになっていたから。
「待って!それはやめて!」
生真面目な妻は、頑なな性格をそのまま顔に出して抗い、ついに男を振り切った。
というか、男のほうからあっさりと、手を引いた。
「嫌なら無理にとはいわないがね」
男は妻から吸い取った血が口許に散ったのを手の甲で拭いながら、いった。
「でも、血は時々めぐんでもらうよ。さしあたってはあさって、俺の家に来てもらう」
救いを求めるようにわたしを見つめる妻に、わたしは言った。
「行ってお出で。ぼくは我慢するから。なにが起きても、許してあげるから」
妻は押し黙ったまま――それでもしっかりと、頷き返してきた。

それが最初の、妻と男とのデートだった。
訪問先の男の家で、妻がむざんに犯されるのを予期して・・・わたしは昂奮を感じていた。
抑えても抑えても、勃ってくる股間を、どうすることもできなくなっていた。
なんでだろう?
どうして昂奮なんか、するんだろう?
妻が今ごろ、犯されているというのに?
疑問符でいっぱいのなか、それでもパンツのなかの一物は、苦しくなるくらいに膨張を止めなかった。

その日も妻は、犯されなかった。
噛まれて血を吸われる行為は、目をつぶって許したけれど。
いざことに及ぼうとされたとき、嫌悪感が全身を走って、必死で抵抗したのだという。
妻の強い意志が通じたのか、男はまたも妻を力づくで犯すことを断念した。
それどころか、貧血でふらつく足取りの妻を、玄関のまえまで送ってくれたのだという。
妻が寝(やす)んでしまうとわたしは、彼のところに電話をかけた。
「すまなかったね。またもご意向に沿えなかったみたいで」
すんでのこと、妻を犯されるはずが、必死の抵抗ですり抜けてきた――そんなことのあったすぐあとに、夫が口にするべき言葉ではないことが、すらすらと口から出てきた。
胸の奥をチクリと、針を刺されたような刺激が走る。
男は受話器の向こうで、ちょっと笑ったようだった。
かすかな好意的な響きが、耳元に伝わってくる。
「きみが謝ることはないさ。でも、楽しかったよ。ストッキングを穿いた脚に咬みついて、ストッキングをビリビリ破りながら上目づかいに彼女の顔見たらさ、悔しそうに睨みつけているんだよ。ついつい興が乗って、ひざがまる見えになるまで咬み破っちまった」
男の言いぐさが、ひどく鼓膜に沁みついた。情景をありありと、想像してしまったのだ。

2度目のデートは、それから中2日置いた後だった。
毎日吸ったら、彼女が身体を壊すから。
といって、あまり日を置くとせっかく身体のなかに埋め込んだ毒液が消えてしまう。
せっかくここまでなじんだのだから、また一からやり直しはめんどうだからね。
めんどう――男の言いぐさはわざと真剣味を欠いたものだった。
けれどもその裏側にある想いは本気なのだ――と、夫であるわたしは直感した。
こんどこそ。こんどこそ・・・妻はあの男の女にされてしまうに違いない。
けれどもその日も、妻は無事に帰ってきた。
もちろ ん、したたか血を吸い取られて、顔色は真っ蒼になっていたけれど。
お礼の電話に出た男は、「かけてくると思ったよ」と半ばわたしを揶揄しながらも、語ってくれた。
「今回も、一歩前進。穿いてきてくれた黒のストッキング、自分から咬ませてくれた。びりびり破いてそれから外の公園をおデート。黒だと裂け目が目だつからね。すれ違う人がみんな、彼女の足許見るんだ。彼女、ずーっと俯いていたけれど、とうとういちども自分から帰ろうって言い出さなかったんだ」
義務感の強い妻だった。
吸血鬼に血液を提供するのが義務だと知らされると、首すじを咬まれても、脚を咬まれても、必死で耐えていた。
血液を良くするための食物を熱心に研究して、わたしにも食べさせ、自分も食べた。
中には、嫌いな食べ物もあったはずなのに。妻は、好き嫌いの多いほうだった。
デートの相手がストッキングを破ることを望んだから、彼女のなかでは非礼極まりない行為でも許したのだろう。
派手に破けたストッキングの脚を外気に曝して歩くことを強制されたときにも、自分を制してそれを受け容れたのだろう。

3度目のデートで初めてキスを済ませた。
そういう男に、わたしはいった。
「おめでとう。というか、頑なな妻ですまないね」
「いや、あんたに迷惑がられなくって、感謝している」
「きょうは妻のことを襲わないの?」
わたしはきいた。
デートの翌日、わたしの家に来た彼は、応対に出た妻に「ご主人に会いたい」といった。
あくまで他人行儀で、あくまで知人の家を訪れたときのその家の主婦に対する態度を、一歩も出なかった。
そして、妻をではなく、わたしの血を真っ先に望んだのだった。
彼らは女の生き血を好む習性を持っていた。
だからこそ、真っ先に夫を襲うのだ。
人妻をモノにするのに最大の障害である夫を手なずけてしまうことで、あとがどれほど有利に運ぶのかを、よく知っていたから。
それなのに、彼は妻ではなくわたしを真っ先に選んだことが、なぜか誇らしかった。
働き盛りの血液は、彼の血管をじゅうぶんに潤したに違いない。
わたしの問いに、彼はこたえた。
「もちろんね」

階下におりた男は、台所にいた妻をリビングに呼んで、ソファに座らせた。
わたしはベッドのうえであお向けになりながら、階下でのふたりの行動を、伝わる気配で察していた。
勃ってきた。またしても。
けんめいにこらえたけれど、パンツのなかが窮屈に張りつめてくるのを、どうすることもできなかった。
長い長い沈黙があった。
けれども、わたしが予期したような、ものが倒れる音や妻の悲鳴などは、とうとう聞かれなかった。
「お帰りになりました」
2階にあがってきた妻は、なにごともなかったようにそういって、テーブルに並べられたお皿や茶わんを片づけ始めた。

4回目のデートの帰りは、遅かった。
ドアを開けたわたしは、アッと声を出して息をのんだ。
荒々しく強姦された女が、目の前にいた。
髪を振り乱し、目じりには泣いた痕があった。
ブラウスはボタンが飛んで胸がはだけ、ストッキングは破れ、スカートの裏にはじわじわと、異臭を放つ粘液がからみついていた。
輪姦されたのだという。
さいしょは男が、いつものように妻の血を吸い、キスを重ね、抵抗の意思を奪うとブラウスのタイをほどいていった。
ストッキングを片方脱がされずり降ろされたふしだらなかっこうで、妻は男を受け容れた。
2度、3度・・・くり返される吶喊は、ひどくて慣れていて、いままでなん人もの女たちを手なずけてきたであろうことが、容易に想像できるほどだった。
自分が冷静なのを自分で訝りながら、けれども妻も、不覚にも耽ってしまった。
それくらい、よかったのだという。
それからだった。
男は別室に妻を連れ込んだ。そこには、彼の仲間が5人いた。
その全員に、吸血とセックスとを強要されたのだ。
わたしは妻の手を引いて、玄関からあがらせて、なおも手を引きつづけて――寝室に引きずり込んだ。
我に返ったのは、夜明けだった。
新婚以来、こんなにしつように二人で身体を重ねたことは、かつてなかった。
太陽が黄色く見える朝だった。

やっぱり私、大勢は無理。
妻は男に、そう語ったのだという。
あなたがどうしてもって望むのなら、でもその時はお相手します。
でも、愛人として認識できるのは、あなただけ。
そういうことにしてもらえませんか――?
彼女の意思は、すべて尊重された。

眩暈とまどろみからさめたとき。
開けた視界には、ふたりがいた。
わたしの身体のうえには、男が。
傍らのベッドには、妻が。
わたしたちは床を転げまわったあげく、部屋のまん中で身体を重ね合っていて。
妻はよそ行きのスーツを着て、夫婦のベッドのうえにいた。
「視ちゃったわ。男どうしって、思ったほど不潔じゃないのね」
股間には男の粘液が、生温かくまとわりついていた。
妻の身体の奥深くそそぎ込まれる粘液とおなじものを、わたし自身も愉しむようになっていた。
フフフ・・・と笑う妻は、男の好みに合わせて、ソバージュをかけている。
もはや、公然とした男の愛人だった。夫の公認で交際していることも、周囲のものはみな知っている。
じゃあ、奥さんをいただくよ。あんたの前で。
男はそういうと、夫婦のベッドのうえで妻におおいかぶさってゆく。
「あッ、イヤだわ。主人のまえで・・・そんなのいけない、いけないわ・・・」
妻はそう言いながらも、行為そのものは拒んでいない。
ブラウスを脱がされ、ブラジャーをはぎ取られ、わたしだけのものだったはずの乳房のあいだに顔を埋められ・・・
「ああっ、やらしい・・・やらしい・・・いや・・・あ・・・ん」
媚態もあらわに、小さくかぶりを振りつづける。
ずり降ろされたストッキング。目のまえに脱ぎ捨てられたショーツ。
それらのひとつひとつが、服従の愉悦になって、わたしの網膜を彩った。
彼は、わたしの血も好んでいた。
しつような吸血だった。
歓びのひとときだった。
失血で身じろぎひとつできないほどに血をあさり取られてしまいながら。
むき出しになった股間の昂ぶりを、抑えることができなかった。
「あ、勃ってる。勃ってる・・・」
妻のからかう声色さえもが、わたしをよけいに昂らせていた。

目覚めた主婦

2016年04月24日(Sun) 09:11:47

鏡台のまえ、寺崎千代は念入りの化粧を整えると、新調のスーツをまとった身をもたげ、リビングに向かった。
リビングには夫がいた。
夫は千代の淹れたコーヒーカップを片手に、テレビを観ていた。
騒々しい、バラエティ番組だった。
けれども夫の注意はテレビになどちっとも集中していなくて、
じつは夫婦の寝室で身づくろいをしている千代にいっしんに注がれていたらしい。
夫の顔色ですぐにそれと察すると。
千代はつとめて明るい声で、いった。
「どう?似合うかしら?このスーツ」
夫は妻の明るさに合わせて、かろうじて笑みを交えながら、
「うん、良く似合っているよ。さすが瀬藤さんだ。きみの良さをよくわかっていらっしゃる」
瀬藤さんの好みがちょうど、きみに似合っているのかもね・・・
ぽつりとつぶやく夫の言いぐさを軽く流して、千代は「じゃあ行ってくるわね」とだけ言って、夫に背を向ける。
夫はもちろん、何もかも知っている。
新調してもらったスーツを、瀬藤さんに見せに行くだけじゃない。
このスーツを着たまま血を吸われ、ついでに抱かれてしまうために出かけるのだ――

千鳥格子のスーツを仕立ててもらうとき、瀬藤は自ら千代を同伴して知り合いの洋品店に採寸に付き合ってくれた。
そのとき夫はいなかった。
「今回は記念じゃから」
瀬藤は年配者の塩から声で、口数少なくそういうと、
「わしの好みの柄じゃから」
そういって、千鳥格子のスーツを店主に持ってこさせていた。
記念だといわれて初めて、気がついた。
初めて瀬藤に抱かれて、ちょうど一年が経とうとしていた。

瀬藤が千代に服をプレゼントすることは、よくあった。
いつもあんたの血で汚してしまうから・・・と、妙な心遣いをするのだった。
服を汚すのを気にするくらいなら、血を吸わなければいいだろう・・・って?
そうはいかんのだな。わしは吸血鬼なんじゃから。
瀬藤は自慢とも自嘲ともとれない声で、千代にそういっていた。

一年前のきょう――
千代は友人の婚礼に招かれて、夫とともに初めてこの街を訪れた。
吸血鬼が棲んでいるのよ、この街。
新婦となる友人はそういって笑ったが、千代はただの冗談だと思って受け流した。
それが、彼女に許された精いっぱいの警告だなどとは、思いもしないで。
この街での婚礼は、三日続く。
初日の披露宴の、仲人のあいさつや乾杯の発声、
そのほかにもウェディングケーキの入刀やら、キャンドルサービスなどなど・・・が一段落すると、宴席の雰囲気は改まる。
都会ではそこまでの披露宴が、淫らな風習の息づくこの街では、これからが本番だった。
それまでに女たちの目星をつけていた婚礼の客たちが、それとなく目あての女性の近くに席を移していって、
やがて宴席は淫らな乱交の場に変わり果てる。
それまでに、女性たちを守るべき夫や息子、父親たちは、一人残らず血を吸い取られてじゅうたんの上に転がされていた。

そのとき、初めて千代を犯したのが、瀬藤だった。
父娘ほども齢の離れた相手が、赤ら顔をぎらつかせ、息をはずませて、欲情もあらわにのしかかってくる。
千代のか弱い腕はすぐに、ほかの何人もの男たちに抑えつけられて、
こぎれいなブラウスは、花びらが散るように胸からはぎ取られていった。
夫は千代の傍らに、血を吸い取られて転がっていた。
幸か不幸か、夫にはまだ意識が残っていて、うつろな目はすべてを見届けてしまっていた。
そう、不覚にも千代が、股間をくり返す襲う衝撃に耐えきれず、なん度も声をあげ、行為に応じてしまったのも。

嵐が過ぎ去ったあと、千代のなかでなにかが塗り替えられていた。
正気づいた夫もまた、なにかを塗り替えられていた。
血を吸われたせいだ。引き抜かれた血液と引き替えに、なにか淫らな毒液をそそぎ込まれていた。
まして千代は、ストッキングを穿いた脚をばたつかせ、視られてはならないショーツを裂き取られて、
股間の奥に、淫らな粘液まで、それも5人も6人もの粘液を、念入りにたっぷりと、そそぎ込まれてしまっていた。
もういちど、お逢いしようよ。
夫がそういうと。
エエ、ごあいさつしなくちゃね。
妻も即座に、応じていた。
妻を犯した最初の男のことを、あてがわれた宿のあるじに尋ねると、
シャワーを浴び、よそ行きの服に着替えて、夫婦連れだって、出かけていった。
それが瀬藤だった。
瀬藤の家には、こうなると察して待ち構えていたその時の男衆たちまで、顔をそろえていて。
夫は気前よく、最愛の妻の肉体を、自分の父親ほどの年配の男たちに与えたのだった。

感染力が強かったんだな。
瀬藤が夫にそう語るのを、半裸に剥かれた身体をけだるく横たえながら、千代は聞いていた。
婚礼の席で蹂躙を受けたあと、その晩のうちに来てくれる夫婦は、そう多くはないのだという。
しかしあんたたちは、来てくれた。嬉しいね。
けだものだとばかり思い込んでいた男が初めてみせた笑いは、ひどく人懐こかった。

妻の貞操をプレゼントするという行為は、この街では最良の厚誼の証しなのだと。
それを、妻を輪姦されたその日のうちに許すことは、夫としては理想の振る舞いとされていた。
千代たちは、この街に受け入れられた。


幸か不幸か、夫は失業していた。
だからそのまま、この街に棲みついてしまっていた。
そのあいだにも。
男たちは千代の新居に昼夜とわずあがりこんできて。
夫の血を吸い取り、酔い酔いにしてしまうと、
わざとその目線のまえで、千代を犯した。
夫もどうやら、そうしたあしらいを歓んでいるらしい――そう気づくのに、時間はかからなかった。

血管を干からびさせてしまった夫は。
新しい友人たちの干からびた血管を、若い女の血で潤してやるのを生きがいにするようになっていた。
若い血液を少しでも多く確保するために、
まだ独身の妹を招び、
兄や友人を妻同伴で招び、
両親までも街に呼び寄せてしまっていた。
同じ不幸を背負わせてやろうという意図ではなかった。
同じ歓びを分かち合いたいと、本気で思っていたのだった。
夫のひたむきな想いに、妹は結婚を控える身にもかかわらず嬉々として処女を喪い、
兄は渋々ながら兄嫁を差し出し、友人たちも同じように、愛妻を街の男たちと共有するようになっていった。
母親は街の顔役にひと目惚れをされ、ロマンスが芽生え、
長年連れ添った妻のそんな様子を視つづけた父親は、
自分より年上の男の、妻に対する老いらくの恋を、寛大に受け容れてしまっていた。

そういうわけで。
千代は始終彼らの訪問を受けていたし、
とくに瀬藤に対しては、服を買ってもらったときには必ず、出向いてお礼を言いに行っていた。
もちろん、お礼の対価は具体的だった。
夫はそれを、しいて歓迎しないまでも、決して拒もうとはしなかった。

道すがら、路上に伸びる自分の影に、千代は問いかけている。
私は本当に、愛されているの?
私に求められているのは、たぶん身体だけ。その身体に流れている、若い血液だけ。
ええもちろん、それでも満足よ。
私だって、楽しいもの。
夫以外の男と不倫するのを、夫は理解してくれて。
おうちでテレビ観ながら、待っててくれるの。
でもほんとうに、それだけなの?
たぶん私は、子供を産めない。
産んでみたところで、それは夫の子供ではないかもしれない。
三年前、結婚したときには、愛情に満ちた家庭をって言っていた。
ほんとうのところは、どうなのかな・・・

瀬藤の家に着いた。
瀬藤は一人だった。
ほかには招ばなかったの?って訊くと、
きょうはわしだけに独り占めさせてくれるって、みんな言うんじゃよ。
そんな返事が、返ってきた。

女たちを押し倒し、着衣を乱しながら血を吸い凌辱していく彼らなのに。
仲間内には、不思議な連帯感と思いやりの行き来があるのを、千代は知っている。
こういう街のことだから。
彼らはお互いの妻を交換して、血を吸ったり犯し合ったりしていた。
そうした、妻を共有するもの同士の関係だろうか――もっとも瀬藤は、独り暮らしだったけれど。
そういえば夫も必ず、千代を送り出すときには必ず玄関まで出てきて、
「瀬藤さんによろしくね」
そんなふうに、声をかけてくる。
あれは、少なくとも半分は本音だったのか。

「千鳥格子のスーツ着た女のひとを、襲いたかったんですよね?」
あからさまにそんなふうに言われないまでも、瀬藤の気分はじかに伝わってくる。
図星を言われて、瀬藤は無言の肯定を返していた。
「じゃあわたし、家の片づけをしますから。その間にお気が向いたらいつでも、襲ってくださいね」
何気ない家事をしている女性を、背後から羽交い絞めにして、首すじを咬むのが好みだと。
この街に身を落ち着けて初めてこの家を訪問したときに、露骨に言われたものだった。
以来、独り暮らしのこの家にくると、千代は必ず、瀬藤の身の回りの世話から入るのだった。

化粧はひときわ、念入りだった。いつもよりきっと、若く見えるだろう。
新調したスーツは完璧だったし、髪もきのう、わざわざ美容院に行ってセットするほどの気の入れようだった。
脚に通した肌色のストッキングは、もちろん新品。穿き替えももちろん、3足まで用意している。
そういえば、彼に逢うときには、ストッキングの着用は義務づけだった。

いそいそと台所に向かい、洗っていない食器を片づけて、
リビングでは散らかった新聞を折りたたんで積み重ね、郵便物までチェックする。
ひととおり、さしあたって必要なことを済ませたあたりが、要注意の瞬間だ。
瀬藤には、千代の器用さを頼りにしているところがあって、
こまごまとしたことは、わざと放置しているらしかった。
それらが片付いたあたりが、潮時、というわけだ。
きょうはいやにため込んでいるんだな。
いつもなら襲いかかってくるタイミングに、背中越しに彼の気配がしないのを感じながら、
千代はいつも手を伸ばさないところまで、整理整頓していった。

・・・?
ソファからいっこうに腰をあげない瀬藤の様子を窺うと、いつになく沈んでいるようだった。
もしかすると、荒々しいお遊びのできる体調ではないのかも。
彼の相手をする女性は何人かいたが、千代がいちばん若かった。
その千代が、この一週間ほどご無沙汰だった。
いけない、早く血をあげないと。
千代はいそいそと、瀬藤の隣に腰かける。
「ご遠慮なく、吸っていただいてよろしいんですよ。千代の血は、あなたに吸われるためにあるんですから」
「ああ、すまないね」
タイトスカートのうえに組んだ掌に置かれた瀬藤の掌は、意外に暖かだった。
「血は足りていらっしゃるの?」
「吸いたいが、飢えてはいない」
「そう、じゃあ私、ここにいますね」
「そうしてくれ」
20代の人妻の匂やかな色香が隣の男にどう作用するのか、じゅうぶんに心得ていた。
「なにかして欲しいことがあったら、遠慮なく仰ってくださいね」
夫も同意してくれていますから、と、わざと耳もとで囁いてみせる。

じゃあ、そのままそばにいてくれ。

え・・・?

聞き違えたのかとおもうくらい、ハードルの低さ。
千代は瀬藤の顔をまじまじと見つめた。

血も足りている。
女にもいまは、飢えていない。
ただ、そばにいてもらいたくて、お前を招んだ。

そうだったんだ。
千代は、ほっと身体の力を抜いた。
もう一年になるのに、やはり構えてしまうのは。
血を吸い取られるという行為が、生命の危機に直結していることを、本能で識っているからなのだろう。
そういえばいつも、この家にくるときには、心と身体のどこかが、こわばっていた。

物心ついたころにはお袋が、毎日吸血鬼の相手をしていた。
親父の幼馴染だった。
そのお袋がよく、相手の家に着ていったのが、千鳥格子のスーツだった。
あのときのお袋の後ろ姿を、いまでも忘れていないから。
たぶんあんたに、同じ服をきてもらいたかったんだろう。
あんたをご主人から、取り上げようとはおもわない。
ただほんの少しの時間でいいから、いっしょにいてもらいたいのだ。

――それは、千代がこの街に来て以来、もっとも欲していた言葉だった。

いいひとなんですね。
千代は瀬藤をまっすぐ見つめて、そういった。
そうして、瀬藤の両頬を両手で抑えると、真正面から口づけをした。
長い長い口づけだった。
姉が弟をあやすような、口づけだった。

あなた?ごめんなさい。今夜はお泊りさせていただくことにしたわ。
寂しくっても、泣かないでね。え?だいじょうぶ?
でもどうしても気になったら、覗きに来ても構わないって。瀬藤さん仰ってくださっているわ。
それから、たまに、たまーにでいいから。
これからも、瀬藤さんのお宅に、お泊りしたいの。
ううん、離婚なんかしない。あなたを愛しているから。
でも、約束して。私子供産むから。
その子の父親がだれであっても、あなたと一緒に育てたいの。
えっ?いつもの私らしくないって?今夜は、いやにはっきり言うんだね、ですって?
そう・・・ほんとうはもっと、私の本音をききたかったんだ。
だいじょうぶよ。あなたに売られたなんて思っていない。
私の浮気をあなたが許してくださるのを、心から感謝しているわ。
この街では、妻をほかの男に抱かせるのは、最上級の礼儀作法なんでしょう?もう、常識よ。
だから私たち、いちばんよくしてくださっている瀬藤さんに、
血を吸っていただいたり、夫婦同然に親しくして差し上げたりして、ご恩返しをしているの。
美穂子の披露宴のときには、もちろんびっくりしたけど。
いまではこういうの、いい関係だと思っているわ。
あなたの愉しみかたも、愛情の裏返しだと思っているから・・・恥ずかしがることなんか、ちっともありはしないわ。
披露宴のとき、おおぜいの方たちにエッチされて。
さすがにあのあとは、気まずかったけど・・・
でもあなたがその気になってくれて、その晩のうちに同じメンバーの方たちとお逢いして。
あなたはどこまでも気前のよいご主人で。
皆さんも私と、とても仲良くなってくれて。
きっちり、輪姦(まわ)していただいたあとは、私けっこうスッキリしてたの。
え?淫乱ですって?失礼ね。街の天使って呼んでくださいな。無理?
じゃあ、そろそろ切るわね。
あのひとさっきから、私のスーツのジャケットによだれを垂らして、迫ってくるの。
気になったら、いつでもこちらにいらしてね。
気になるわよね。妻の貞操の危機なんだから。
じゃ、おやすみなさい・・・

調和 2

2016年03月31日(Thu) 07:45:26

理不尽だと思いこんでいた。
いくら全財産を失ったからと言って。
いくら社会的信用のすべてを失ったからと言って。
かろうじて与えられた生存の場で、献血を強いられるとは。
いや・・・其処で風習として行われている献血は、ふつうのやり方の献血ではなかったから。
新天地でわたしは、妻の貞操まで喪うはめに陥っていた。

新しい勤め先から帰宅した晩。
妻は見知らぬ男たち3人に、手籠めにされていた。
取引先の工場主に血を吸われて帰った夜。
わたしはその光景を、ただ茫然と眺めているだけだった。
ひそかな昂ぶりさえ、股間に滾らせながら。
妻はそれ以来、慣れ初めた男たち3人の餌食に、進んでわが身を提供するようになっていた。

勤めに出ている間。
男を取りつづける妻。
男たちは妻の肢体に群がって、
吸い取った血潮をブラウスにしたたらせ、
はぎ取ったブラジャーを奪い合い、
めくれ上がったスカートの奥に秘めた処を、深々と愉しんでゆく。
その情景を。
勤めに出たはずのわたしは、昂ぶりながら見つめていて。
やがて侵入する男たちもまた、吸血鬼に支配されていて、
自分の妻子を提供している事実を知ると、
同じ昂ぶりを共有するものとして、
留守宅を彼らにすすんで、明け渡すようになっていた。

いまでは・・・
新たな転入者の新居に通い詰めているわたし。
これを彼らは、”調和”と呼ぶ。

転入、おめでとう。
きょう、あなたのお宅に伺って奥さんを犯すのは・・・もしかしたら、私 かもしれないですね。

大丈夫だよ。

2016年02月22日(Mon) 07:50:10

大丈夫だよ。
妻はいつものように笑って、ドアの向こうに消えた。
真っ赤な口紅を鮮やかに刷いた小ぶりな唇から覗いた白い歯だけが、記憶に落ちた。
急いで駆け寄ったドアには、早くも錠がかけられていた。

耳を当てたドア越しに、ヒッ・・・と息をのむ妻の声。
重なり合ったふたつの身体がかもし出す、気配、音。
鮮明な想像のなかで抱き合ったふたりはじょじょに姿勢を崩していって、
尻もちを突き、横たえられて、ブラウスをはぎ取られていった。
それ以上はもう、聞く勇気がなかった。
脳裏にわだかまる貧血に鈍麻されたわたしは、のろのろとソファへと向かい、身をゆだねた。
さっきまで咬みつかれていた首すじには、痺れるような鈍痛がしみ込んでいた。
あの貪欲さで、いままさに妻の血を貪られている――
嫉妬とも怒りともつかぬ感情と、それからわけのわからない帰属感とが、わたしを支配した。
帰属感?
そう。妻はわたしと同じ体験をくり返そうとしている。
そして、やつの体内でわたしと妻の身体から吸い取られた血液は、ひとつになる――

2人が部屋から出てきたのは、2時間後だった。
さいしょに男が。それから妻が。
半開きのドアの向こうから、男につき従うようにして姿を見せた妻は、
きまり悪そうな伏し目がちになって、
男とドアとのすき間をすり抜けるようにして、わたしのほうへと歩み寄る。

血を吸われちゃった。
イタズラを見つかった子供のように、彼女はへへへ・・・と笑う。
白目が瞳の黒さにひきたって、いっそう怜悧に輝いている。
指さされたうなじの一角に、視線が吸い寄せられる。
ショートカットの黒髪の生え際のあたりに二つ、紅い咬み痕が綺麗に並んでいた。
吸い残された血潮が、チラチラと妖しい輝きをたたえている。

姦(や)られちゃったけど、大丈夫だよ。
あなたのことを一番、愛しているから。

妻は瞳に怜悧な輝きをたたえたまま、巧みに感情を隠していた。

立てるかね?

気づかわし気に身をかがませてきた吸血鬼に、妻はほっそりとした手を預けた。
そうして、引っ張り上げられる力よりもしっかりと、自分の脚で起ちあがった。
スカートから覗くひざ小僧から下は、まとわれた肌色のストッキングがみるかげもなく破れている。

知ってる?脚からも吸うのよ、このひと。
パンスト代がばかにならないわ。

妻は主婦の顔に戻って、自分の身に狼藉をはたらいた男に、苦情を言った。
パンスト代もばかにならない。
咬み破られるパンストは、一足だけでは終わらない――ということか。
妻も、暗にそれをわたしに告げたかったのだろう。

このひととお付き合いするたびに、こういう目に遭うんだわ。
あなた、私のパンスト代しっかり稼いでね。

ドSなことを言うなあ・・・
わたしはとぼけた苦笑を作って、妻に応じた。
三人三様のそらぞらしい笑いが、リビングに満ちた。
これで和解が成立した・・・ということなのだろう。
わたしはふたたび吸血鬼に首すじを与え、
朦朧となって横たわったソファのまえ、
妻は娼婦と化して、淫らな舞いを見せつけてくれた。

こんどは、主人のいないときにしてくださいね。
私連絡しますから――

吸血鬼と、携帯のアドレスを交換し合う妻。
相手の男はわたしたちよりも10歳以上年上の、さえない男やもめだった。
もちろん、黒マントなんか来ていない。
よそ行きのスーツ姿の妻とは明らかに釣り合いの取れていない、ラフなふだん着姿。
はだけたブラウス、吊り紐の切れたブラジャーのすき間から乳房をチラチラと覗かせながら、妻は吸血鬼相手に、和気あいあいと言葉のやり取りを愉しんでいる。
男は自分の情婦にした人妻のスカートのなかに手を突っ込んで、さぐりはじめた。
なにを始めるのか?そう思ったら。
パンストのゴムに手をかけて、ひきおろそうとしているらしい。

あいつらね、モノにした人妻のパンストを欲しがるんですよ。

同僚のひとりは、事前にそんなことを教えてくれた。
いまにして思うと、彼もきっと、目のまえで妻のパンストをまんまとせしめられてしまったのだろう。

やらしい。絶対!やらしい。
そういうの主人のまえでやらない約束でしょう!?

妻の悪罵は、吸血鬼の頭上にさえ、容赦なく浴びせかけられた。


以後も、やつの訪問は継続しているらしい。
妻はそんなことはおくびにも出さず、
今までのように、何ごともなかったかのように、
家を切り盛りし、出勤するわたしをにこやかに送り出す。
夫を送り出した後は、きっと娼婦の顔になる。
化粧を厚く塗りなおし、携帯をとって、男を呼び寄せる。
血に飢えた男は、夫婦の寝室で妻をつかまえ、首すじを咬んで血を啜り、
それからベッドに押し倒し、パンストをむしり取ってゆく――

男やもめをかこっていた吸血鬼は、欲望の対象を手に入れたし、
妻は主婦の座を維持したまま、夫が黙認する不倫を、公然と愉しんでいる。
わたしはといえば――
面子を保たれ、だれにも嘲られることもなく。
行為の継続とともにしみ込まされた、いびつな感情に支配をされて。
妻の貞操をほかの男に譲り渡す快感に目覚めてしまい、
勤務時間中に職場を抜け出しては、わざと施錠のされていない自宅に戻り、
半開きのドア越しに、息をはずませ合うふたりを見つめ、
よそ行きのスーツの奥深く突き入れられる股間の牙に妻が我を失うさまを、見届けていく。

妻は不倫を自分の身体で愉しみ、わたしは目で愉しんでいた。

わたしの前では、しっかり女房。
情夫の前では、娼婦。
女はやはり、魔物なのか・・・
魔物の本性を覗かせる妻は、自らの欲望を人知れず満たしながら、きょうも貞淑妻を演じ続ける。

3人の浮気相手。

2016年02月05日(Fri) 03:56:09

お隣の庄輔さんが、お洋服を買ってくださるの。
ご近所の鉄治さんのところに、お手伝いに行くの。
ご町内の富蔵さんと、仲良くしてくるわ。

出勤まぎわ、めかしこんだ妻はそんなふうに言って、きょうの浮気相手と行き先を告げてくる。
お互いに秘密は作らない。
彼らのルールは、そういうことになっているようだ。

3人の中で、結婚しているのは庄輔さんだけ。
わたしたちがこの村に移って来るまでは、その庄輔さんの奥さんのところに、ほかの2人が夜這いをかけていたらしい。
そんなふうにして、庄輔さん宅がふさがっているときに。
気を利かして座をはずした庄輔さんが、我が家にさいしょに迷い込んできた。
男の身体といえばわたししか識らなかった妻を、初めて堕とす権利を得たのは。
自分の奥さんをほかの2人に提供してきたご褒美だったらしい。
妻が庄輔さんと御馴染みになると。
やがて庄輔さんは、ほかの2人に妻を引き合わせるようになった。
3人の話を綜合すると、どうも、そういう順序になるらしかった。

わたしを含めた男4人で、2人の人妻を共有する日常――けれども夫たちにとって、思ったほど居心地はわるくなかった。
そもそもわたしは、ふだんの昼間は出勤してしまって家にはいない。
3人の男たちの訪問を、妻は代わる代わる受けることになる。
唯一の妻帯者の庄輔さんは、3Pがお好きならしく――奥さんを求めてほかのだれかが家に来ると、ふたりして自分の奥さんを愉しむことにしているらしい。
あぶれたほうのもうひとりが、わたしの妻を犯しに来るのだ。
おかげで頭数が、ちょうどよい割り振りになりました――と。
庄輔さんは時折、身もふたもないような感謝の仕方をしてくる。

わたしより7歳年上なだけの鉄治さんは3人の中ではいちばん若く、
もっともパワフルに女たちを求めてくる。
彼の力強さはね、ちょっと閉口ものだよね。
立場がもっとも近い庄輔さんも、さすがにそんなふうに苦笑いをするけれど。
求め方もいちばんせっかちで、あいさつ抜きで腕を引かれることもあるという。
隣の敷地の納屋のなかにいきなり引きずり込まれて、入り口から脚だけにょっきりと覗かせて・・・そのままの様子で2時間ほどもたわむれあっているのを、視て見ぬふりをしたことがある。

還暦をとうに過ぎたはずの富蔵さんなどは、まだまだお盛んで・・・
わたしが帰宅した後ですら、わたしに直接、「奥さん貸してくれ」と・・・素朴すぎるほど正直に、女ひでりを訴えてくる。

そんな勝手な男どもを。
妻は苦笑しながら応接し、夫の前で胸をまさぐられ、スカートをたくし上げられて、押し倒されてゆく。

あなた、ごめんなさいね。きょうもあなたを、裏切ってしまうわ。
あしたもお2人ほど、予定があるの。
ちょっとだけ・・・娼婦してくるわね。
すみません。むこう向いていらして――感じちゃってるの。

彼らが立ち去ったあと、さいごに訪れる嵐を期待しながら。
わざと挑発的な呟きだけを、わたしに与える妻――
今夜もまた・・・彼らはわざと、わたしが帰宅するのを見はからって我が家を訪れる。
夜更けにドアをたたく音。
わたしの背中で、いそいそとよそ行きのスーツに着替える妻。
女日照りの男衆たちを家に招き入れるため、わたしは夜這いを受け容れるために扉の鍵を開ける。
長くて熱い夜になりそうな予感に、うち震えながら――

もしもし・・・?

2016年02月04日(Thu) 07:43:25

もしもし・・・?
受話器のむこうから伝わってくる声は、勤め先の同僚のもの。
ふと違和感を感じたのは、電話のかかって来た、午前二時という刻限のせいだった。
どうしましたか?緊急の連絡でしょうか?
怪訝そうなわたしの態度が、すぐ先方にも伝わったようだ。
どうもすみません。こんなお時間に。もうお寝(やす)みでしたよね?
素直に謝る声色は、本人の人柄まで伝えてきて、声を尖らせたこちらを恐縮させた。
いや失礼――こちらもまだ、起きてましたから・・・どうしたんですか?
あわてて声色を改めると。
彼はちょっと言いにくそうに、ことばをついだ。
いや・・・ちょっと眠れなくって。だれかと話したかったものです~。
ご迷惑ですよね?と、たたみかける声に、そんなことはありませんよ、と、相手を受話器の向こうに落ち着かせようとしていた。
いったいどうしたんですか?
いやぁ・・・
彼は言いにくそうに、ふたたびことばをついで。そして言った。
嫁が夜這いを受けてる真っ最中でしてね・・・

この村は、社のオーナー社長の出身地。
さして仕事があるとは思えないこんな山奥に事務所が作られたのには、理由があった。
故郷に錦を飾りたい。
そんな社長の願いをこめて立ち上げられたこの事務所には、
都会にいられない理由を抱えた者たちだけが、選ばれて転任してくる。
そう、厳密な性格検査を経て、守秘義務付きで。申し分のない待遇と、引き換えに――
ろくに仕事らしい仕事のないこの村の事務所での、ほぼ唯一の業務。
それは、妻や娘の肉体を、好色な村の男衆たちに提供すること  だった。

どうやら彼は、就寝直後に訪問を受けて、
あんたの嫁を抱きたい。女ひでりでね・・・
そんな勝手なことを、なんの悪気もなく口にする男を家にあげて、夫婦の寝室を明け渡したようだ。

パジャマ一枚で、風邪ひかないか・・・?
そうしたわたしの気遣いは、どうやら無用のものらしい。
だいじょうぶ――ガウン羽織っているから。
そのガウンは、夜這いの相手の手土産だという。
風邪ひいたらいけないでしょ?
彼の奥さんもまた、そこは主婦らしく。
夫の健康管理には、気遣いをしているようだった。
ガウンまで渡されちゃあね、気を利かしてやるより、しようがないじゃないか――

こういう夜は、たいがい朝までいるんだよな。今夜は寝不足だな。明日俺が会社にいなかったら、休暇届けよろしくな。
妙なことまでたのまれながら、わたしはただ、うんうんと相槌を打つだけだった。
ところで、そちらもそろそろ、寝るんだろう?
同僚の問いに、わたしも待ってました、とばかりに、応えていた。
うちも同じような状況でね・・・相手、3人なんだ。

ウチの女房、モテるからさ・・・
まんざら、負け惜しみではない。
素直なもので、若いほど、見てくれが良いほど、男はつくものだ。
それがいま、上がり込んできた男3人を相手に、太くそそり立ったものを代わる代わる、スカートの奥へと受け入れている。
ウチは子供がいるから、寝静まってからが本番なんだ。
子供たちは彼らに、なついていた。
機嫌よく遊んでくれるのは、早く疲れさせて寝かしつけるため・・・そんなことまではむろんあの子たちには、まだわかるまい。
覗いたらダメよ。
そんな妻の言いぐさに素直に従うには、わたしは誘惑に弱すぎた。
充血した目と火照った頬とをもてあましながら、受話器を片手に天井を見あげる。
ウフフ。3人ですか。いいですね。うらやましい・・・
立場が同じと知った同僚は、少し気持ちを落ち着けたらしい。
お互いの妻たちがベッドをきしませる、隣の部屋で。
長い長いやり取りが、始まっていた――

法事は情事?

2016年01月24日(Sun) 09:34:28

法事の手伝いに来てくれないか?奥さんだけでも。
この村でそんな誘いを受けたなら。
奥さんを姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

妻だけを行かせる夫は、
いいから俺の視ていないところでやってくれ。
という、ちょっとむっつりな黙認派。
ふたりで出かけていく夫は、
ふたりのアツいところ、のぞき見させてもらってもいいかな?
という、ちょっと助平な公認派。

今週の法事なんだけど・・・ぜひご主人も!
この村でそんな誘いを受けたなら。
お前のまえで女房を姦らせろ――そう言われているのと、同じこと。
けれどもこの村に棲んでいるもので、そんな誘いをむげにするものはいない。

奥さんは股間を疼かせながら。
だんなまで股間をおっ勃たてながら。
お互い言葉もろくに交わさずに、いそいそ寺へと出かけてゆく。

法事は情事――そんな陰口さえたたかれるこの村で。
法事はどこかの家で持ち回りで、毎週のように・・・愉しまれる。

嫁の身代わりに姑が・・・

2015年12月30日(Wed) 07:23:27

(姑の告白)
吸血鬼に囚われた息子の嫁を救い出すために、身代わりになる――
そんなただならぬ気持ちを抱いて訪れた、山里の大きな屋敷は。
そんなまがまがしいことが行われているとはとても思えない、瀟洒な風情でした。
夫に送り出されて独り、訪いを入れると。
すぐに、奥へ通されました。
ええ、独りでお伺いしたんです。
夫は随(つ)いてきたいと申したのですが。
わたくしのほうから、堪忍してほしいとお願いしたんです。
だって。
この村の吸血鬼に、人妻が血を吸われるときには。
肌身も許さなければならない と伺ったので・・・
さすがに主人のいるまえで、そのようなことをお許しできるほど。
わたくし、破廉恥にはなれませんでしたから。

そのかたは、お屋敷の一番奥の広間にいらっしゃいました。
傍らには、息子の嫁が、気のせいかひどく毒々しい微笑みを泛べています。
嫁はわたくしの姿を認めると、すぐにその毒々しい笑みを消して、しおらしく謝罪するように、お辞儀をしました。
けれどもわたくしには、彼女が瞬間見せたあの笑みを、忘れることができませんでした。
むしろ、わたくしの血をご所望だという老吸血鬼のほうが、紳士に映ったくらいです。

このひとを(そう言ってあの方は、嫁のことを少しだけ、自分のほうへと引き寄せました)放す代わりに、
あんたがわしに血を下さるとお言いなのかね?
男の瞳は、むしろ悲し気に輝いていました。
わしだって、好きこのんでこのようなことをしているのではない。
そう言っているように見えたのは、わたくしの気のせいだったのでしょうか。
ハイ、そのつもりでお伺いしました。嫁をどうか、家に帰してくださいませ。
お応えの後半、気力を取り戻したわたくしの語気は、いつもの気丈さを取り戻していて、
そのことにわたくしは、寸分の安堵を感じました。

承知しました。美香さんをお返ししましょう。
男は意外なくらいにあっさりと、嫁の手を離しました。
嫁は男の傍らから、自分の足で歩いてきて、わたくしにそっと会釈をしました。
やはり謝罪するように、しおらしく。
けれども、なにかを言いたげにちょっとだけ開かれたその口許に、かすかに邪悪なものが漂うのを感じたのは。
果たして、わたくしの気のせいだったのでしょうか。
嫁は、「ごゆっくり」とだけ、わたくしに囁いて、そのまままっすぐにわたくしの傍らを通り過ぎて、広間の出口へと向かったのです。

安心されよ。嫁ごはご自分の足で、ご夫君のもとに戻られる。
老紳士の言葉は、信用して良いように直感しました。
こちらへ。
手招きに応じて一歩まえに出るのには、勇気が要りました。
立ちすくむわたくしを前に、老紳士は「ああ、そうですね」と、わたくしの気持ちを察したらしく。
ご自分から座を起って・・・気づいたらもう、間近に立ちはだかっていました。
失礼。
有無を言わせない瞬間でした。
男はわたくしの背後にまわり、わたくしの両肩を掴まえると・・・あっという間に首すじを咬んでいたのです。

あ・・・
声をあげるいとまもありませんでした。
刺し込まれた二本の牙は、皮膚の奥深く、根元までずぶりと埋め込まれて・・・
ちゅうっ。
血を吸い取る音に、わたくしは魂を消して、ただひたすらに立ちすくんでいました。


(息子の呟き)
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
母の生き血を啜る音を隣室のドア越しに聞きながら。
ぼくはいたたまれない気分だった。
傍らには妻の美香が、毒々しい笑みを浮かべながら、ぼくの掌を握りしめている。
力づけてくれているように見えながら。
その実、血迷って室内に踏み込み、老紳士の行為を制止しようとするのを防いだのだと。
掌に置かれた妻の手の力の入れようで、それが伝わってきた。

お義母さまの血を、あのかたに吸わせてあげましょうよ。すこしでもまだ、お若いうちに。
あたしがお義父さまを、誘惑するわ。
そして、お義母さまの血を吸わせることに、ご納得いただくの。
あなたはただ、視て見ぬふりをするだけで良い。
吸血鬼さんに、少しでも多く、生き血を分けてあげたいのよ。

吸血鬼の棲むこの村に赴任して。
妻はすぐに、村の長老格でもあるその男に、目をつけられていた。
上司は彼を自宅に招待することをすすめ、
薄々相手の正体のわかっていたぼくは、それでもそのすすめを断ることはできなかった。
事情を抱えて都会を逃げ出さざるを得なくなったぼくと妻とは。
このひなびた村にとぐろを巻くそうした欲望に応じることを条件に、安住の地を得たのだから。
移り住んだ週の週末に、ぼくたちは初めて血を吸われ、
貧血で身動きできなくなったぼくの傍らで、妻は犯されていった――
理性まで奪われたぼくは。
その光景を、ただの男として、愉しんでしまっていた・・・

いま目の前で、妻をモノにした同じ男が、母さえも堕としてゆこうとしている。
ひそかにあとを尾(つ)けてきた父さえもが、なにも手出しをしようとせずに。
永年連れ添った母の受難を、つぶさに見守りつづけていた。


(舅の証言)
嫁の誘惑を拒むことはできませんでした。
お見合いの時に一目ぼれしてしまったのは、むしろわたしのほうでしたから。
だからこそ、従順だが優柔不断でもある息子の背中を押すようにして、この縁談をまとめたくらいです。
黒のスリップに黒のストッキング姿で迫ってくる嫁は、蛇のようにしなやかに身体をくねらせて、
独り寝の床に、入り込んできて。
ツタが巻きつくように、その白くて細いかいなをわたしの背中に回していったのです。
息子の目を意識しながら。
嫁の細腰を抱いて、何度も射精をくり返してしまっていました。

お義父さま。
声を落とした嫁は、おそろしいことを口にしました。
嫁の血を吸っている吸血鬼が、妻の生き血も欲しがっている。
だから私たちに協力して、呼び寄せてほしい。
そうじゃないと私、貧血になって身体を壊してしまう・・・
わかった。そうしよう。
妻には事の成り行きを半分しか告げずに、
それでも妻がすぐ行く、と応じてくれた時には、
共犯者たちと安堵と満足の笑みを交し合っていたのでした。
田舎に移り住んだ息子夫婦に、異変が起きている。
ひとり田舎に赴いた主人からの、そんな連絡。
くわしいことはお前もこちらに来てから・・・と。ただそうあるだけだった。

半開きになったドアの向こう。
妻はもう、酔い酔いにされていて。
もはや立ちすくむ余力さえなくなって、じゅうたんのうえにうつ伏していました。
男はなおも容赦なく、妻の脚に咬みついていました。
黒のストッキングをチリチリに咬み破られながら、血を吸い取られてゆく妻は、白目になってすでに気絶していました。
けれども、知らず知らずのうちに、自分の礼装を不埒な愉しみに供してゆく妻の気前のよい振る舞いに、
わたし自身がドキドキと胸を震わせていました。
息子夫婦にも悟られないようにと、無表情を装いながら。

侵されてしまったときには・・・
さすがに声がありませんでした。
嫁は残酷な微笑みを泛べて、わたしの傍らにそっと寄り添いました。
息子はただかたまって、固唾をのんで事の成り行きを見守っていました。
生みの母親の濡れ場を初めて目にすることに、異様な昂奮を覚えたのでしょう。
でも彼が性的に昂奮していることは、遠目にもそれと見て取ることができたのです。
あさましい・・・などとは、言えた義理ではありません。
わたし自身が、そういうことに歓びを自覚してしまっていたのですから・・・

嫁は、だまってわたしの手を握ると、言いました。
ふたりだけにして差し上げましょうよ。
ああ、そうするよ。
やっとの思いでわたしはそう応えると、嫁に手を引かれるまま、隣室へといざなわれてゆきました。
息子はまだ見ているつもりでしょうか。
「ごゆっくり」と、ひどく気の利いたことを言って、
早くもブラウスの胸をはだけ始めた新妻のようすを、ごくあたりまえのように見つめて、
わたしがもう自分から、嫁を密室に引き込むのを、止めようとはしませんでした。

お母様のを視て、あのひと愉しむおつもりよ。いやらしいわね。
ふたりきりになった嫁が、そういって白い歯をみせます。
わたしはその歯をふさぐようにして、力ずくの唇を重ねていったのでした・・・


(嫁の独白)
気高く厳しいお母様に、お行儀よくしつけられてきた和夫さん。
あなたの一家の誇りを汚すことが、あたしの隠れた欲望なのだと。
この村に来てつくづく、わかったわ。
あなたの目のまえで、初めてほかの男に抱かれたときの、
あなたの顔は、見ものだったわ。
ああ、とても、すっきりした。
都会でのあんなことやこんなことが、全部吹っ飛んじゃうくらいに。
あそこで出会った人たちには、もう二度と会わなくてもかまわない。
あたしはこの村で、吸血鬼の娼婦として生きていく。
その手始めに、あなたのお母様を狙ったの。
でも本当は。
おなじ女として、仰ぎ見るほどの存在であるお義母様に。
あたしのレベルまで、降りてきていただきたかった。
落差が大きすぎて、「降りる」じゃなくて「堕ちる」だったかもしれないけれど。
うふふ♪
でも、いいでしょ?
自分の母親が堕ちるところなんて、めったに見れるものじゃないわ。
あたしが犯されるときよりも、あなた昂奮していたわよね?ちょっぴり嫉妬♪
これからは。
あたし好きなように生きていく。
ええ、ずっとあなたの奥さんでいてあげるわ。
あなたの家名を汚すため。
笹部夫人のまま、あのひとたちに抱かれていくの。
どうぞ末永く、よろしくね・・・


(再び姑の告白)
それからというものは。
あのかたは毎晩のように、わたくしのところにお見えになりました。
真相を知ってしまうのに、半日とかかりませんでした。
いびつに歪んでしまったわたくしのベッドには、長年連れ添った夫はさいごまで順番を譲らされて、
ほかの男性たちの御用が済むのを、夜明けまで待っていてくれました。
ええ、村の衆の全員と契ってしまうまで。
それは続けられたのです。
わたくしは、身体の相性の良い男性を5人、選ぶことを命じられて。
その方たちと、交際することになったのです。
そのなかには、おぞましいことに、息子も含まれていたのです。
でも、理性を奪われてしまったわたくしには、むしろそんなことさえ、いまでは誇りに感じるのです。

毎日おめかしをして、きりっとした都会ふうのスーツに装って。
日ごとに入れ替わる恋人たちと交し合う、齢不相応の猥雑すぎる逢う瀬。
それは村はずれの荒れ寺や、ときには納屋で行われて、
わらや、泥や、どろどろとした精液や
吸い取られ辱められて、わざとほとび散らされたわたくし自身の血潮で、
わたくしはブラウスやスカートを、汚されていったのです。
ストッキングを一ダースほども、いたぶり抜かれ破かれたころには。
もうすっかり、娼婦になり切っていました。

息子とも、デートするんですよ。それも主人のまえで。
そういう夜は、主人は美香さんと、一夜を過ごします。
息子はわたくしを抱くときとおなじくらい、わたくしが凌辱される刻を歓びます。
ええ、息子に同伴されて、男たちと逢いにいくこともあるんです。
母を手引きしました。どうぞ気の済むまで辱めてください――
その日のわたくしのお相手にそう告げるときの息子の声は、昂ぶりに震え、上ずっていました。
居心地のよいおぞましさ。
そんな想いをかみしめながら。
わたくしは夫や、息子や、嫁のまえでさえも。
薄汚れた納屋の奥や陽射しの降りそそぐ休耕地の真ん中で、
新調したばかりのスーツを泥と男たちの精液にまみれさせながら。
見る影もなく破けてひざまでずり落ちたストッキングを、時折引き伸ばしながら。
あ、はあ~ん・・って、いやらしく下品な声をあげながら。
守り通してきた貞操を、きょうも惜しげもなく振る舞いつづけるのです。

わたくしの血は、嫁を救い出すために、費えとなることをお許ししたつもりだったのですが。
嫁を抱き、わたくしが犯されることを心の奥で希望していた主人をも、
妻と母親を吸血鬼にプレゼントしたがっていた息子をも、
我が家の家名に泥を塗り、わたくしを自分と同じ娼婦にしたがっていた嫁をも、
そして――都会の婦人の生き血や肉体を欲する村の多くの男性たちをも。
意図せざることではありましたものの、彼らすべてをわたくしの血が救ったのかと思うと、
わたくし自身も救われたような気がいたします。
きょうも辱め抜かれ、そして愛でられるために。
主人や息子が盗み見るなか、わたくしは鏡台に向かうのでした。

気を利かせ過ぎた夫

2015年12月26日(Sat) 04:23:22

オイ、帰るぞ。
貢田(みつだ)博はふすまの向こうに、声を投げた。
法事のあとの宴も尽きて、皆が三々五々、家路につき始めたころだった。
はぁい、今すぐ。
ふすまの向こうからは、妻の声。
いつになくウキウキとした声色に、貢田の声の語尾が震えた。
ふすまの向こうでなにが起きているかは、先刻ご承知。
この村では、法事のあとにはきまって、人妻相手の濡れ場が展開する。
席に紛れ込んだ村の衆は、都会育ちの人妻を物色して、
法事のあとの宴が始まると、思い思いに夫婦の間に割り込んで、妻のほうだけを、別室へと連れ込んでゆく。
どうしてそんなことが許されるのかって?
この村を訪れる都会育ちの男女はだれもが、いわくつきの過去を持っていて。
世間から身を隠すのと引き換えに、妻の貞操を犠牲にする――――そんな取引が成り立っていたから。

ふすまの向こう側。
貢田加絵は背中に両腕を回して、ブラジャーをつけ始めていた。
それでも相手の男はなおも未練がましく、加絵の下肢にまとわりついて、
ひざ下までずり落ちた加絵のストッキングを、舌でいたぶって皺寄せてゆく。
もう、しょうがないわねえ。
加絵は甘い声で情夫を咎めると。
主人が行こうって言ったら、帰してくれるお約束よ。
そういって、相手をたしなめた。
男は案外と素直に、加絵を離した。
ふすまが細目に開いて、有無を言わせぬ語気が、そそぎ込まれた。
――――どうしても気が済まないのなら、夜の10時ころうちに来なさい。私はもう、寝ちゃっているから。
どこまでももの分かりの良い旦那だった。

またねぇ。
加絵が後ろを振り向いて、男に手を振る。
男は慇懃に、ふたりの後ろ姿に最敬礼をする。
そして、周囲を睨みつける。
あの夫婦をこばかにするやつは、ぶっ殺すぞ。そんな顔つきをして。

夜10時半。
やっぱり――――
失敗した・・・と、貢田は何度目かの寝返りを打った。
10時ころに、妻の情夫が家に来る。
そうわかっていたから、いつもより多めに酒を飲んで、早くに床に就いたつもりだったのに――――
あらかじめそんなことがあるとわかっていたら、とても眠れるものじゃない。
隣のリビングから洩れてくる物音を、彼はあまさず聞き洩らすまいと、知らず知らず聞き耳を立ててしまっていて。
そのために、睡魔はとうとう、訪れなかった。
男の訪問は、明け方までつづいて。
くたくたに疲れ果てた妻が、隣に延べた布団にもぐり込むや否や、貢田はその妻の身体に、のしかかっていた。

都会にいるころよりも。
夫婦の営みは活発になった。
ほかの男を識ってしまった妻の身体は別人のように若返り、貢田の求めに敏感に反応するようになっている。
これは災厄なのか。ご利益なのか。
貢田はいまだに、決めかねている。

若いひとじゃなくって、よかったの?

2015年12月23日(Wed) 11:46:09

ずん胴のおばさんスカートの下に
履き心地の柔らかな、昔ふうのストッキングを穿いて
息子の嫁と娘とを連れてやってきた、淫らな山村。

結婚三年目にして夫以外の男の味を覚えた嫁と
息荒く群がる何人もの男の前、セーラー服を脱いじゃった娘。
訪ねていった公民館は、真っ昼間から乱交のるつぼになっていて
若い女ふたりにも、不自由しないほどの数の男どもが、群がっていった。

若いひとたちのほうじゃなくて、よかったの?
ただひとり、わたしのまえに現れたごま塩頭に
わたしはからかうように、声を投げる。
男はゆっくりとかぶりを結って、わたしのほうへと歩み寄ると
やおら両手を床について四つん這いになって
ストッキングに包まれたあたしの脚を、舐めはじめた。

麗しの大根足・・・って
あんまり嬉しい気のしないほめ言葉に
わたしは薄茶のパンプスを穿いたままの爪先を、男のほうへと差し伸べてやって
ねちねちといやらしく這わされる舌にみなぎる劣情に、
しぐさだけで、応えてやった。

しつような舐めに、しわくちゃにされて
じわじわとよじれてゆく、肌色のストッキング。
やっぱりストッキングはエエなあ。気品を感じるなあ。
気品のかけらも感じさせない男のやり口に、わたしは「いけすかない」と口を尖らせる。

隣室からは、きゃあきゃあとはじける、嫁と娘のはしゃぎ声。
ビリビリ、ブチブチと、服の裂ける音まできこえる。
母親として、姑として、女の手本を示すべきわたしまで
男に肩を捕まえて、床にひざを突かせられる。

そう。このひとは。
わたしひとすじと決めているらしい。
主人の遠縁の法事だといわれ 初めて訪れたこの村で
主人以外の男性の身体を、初めて思い知らされたとき
主人にあらかじめ話をつけていた・・・というこのひとは
いの一番に、わたしのうえに覆いかぶさってきた。
都会の奥さんの脚は、エエなあ。
薄々のストッキング破くの、たまんねえなあ。
きょうとおなじ、そんな言葉を口にしながら
夫にしか許したことのなかった股間を、剛い肉棒を埋め込んだ彼は
いまでもわたしを抱くたびごとに、あの”感動の夜”を、思い出すのだという。

お父さん、ごめんなさい。
有一、、ごめんね。
ひろ子さん、いっぱい愉しんでね。
佑香、うんと可愛がってもらうんだよ。
家族に対するいろんな想いをよぎらせながら、
わたしもブラウスのリボンを解かれ、スリップを引き裂かれる。
ストッキングを穿いたままの女と姦りたいという男の望みのままに
太もも丈のストッキングに、ノーパンティの腰から下は
丈長のおばさんスカートをたくしあげられてしまって
そらぞらしい外気が、すーすーと肌寒かった。

アラ都会の奥様、いいお日和で。
通りがかりの顔見知りの村の奥さんが
わざとのように、声かけてくる。
三人の女たちの先頭を歩くわたしは
しばらくごやっかいになりますねえ。
悪びれずにそうあいさつをする。
剥がれた服をまとい、素肌をちらちらと覗かせながら歩いているわたしたちの身に
なにが起きたのかなど、おくびにも出さず
村の奥さんは「ゆっくりしてってくださいね」とだけいって、すれ違ってゆく。
たしか、彼女の旦那もさっきまで
娘や嫁に覆いかぶさっていったはず。
「ゆっくりしてってくださいね」。
「ウチの旦那の面倒も、よろしくね」
きっと本音は、そういう意味なんだろう。

背中ごし、わたしのすぐ後ろを歩く二人も、
村の奥さんに礼儀正しく会釈を投げるのを感じながら
早く宿について、お着替えしなくちゃね
そう、この村では夜は早々と訪れて
若い女目当ての男どもが、わたしたちの宿に乗り込んでくるはずだから。
「やですわ、義母さまったら」
嫁のひろ子さんが、笑いをはじけさせる。
「そのまえにあたしたち、宿のかたたちと仲良くならなくちゃいけないじゃないですか」
図星を刺した嫁は、息子を裏切った時のイタズラっぽい笑いを、
整った横顔にそのまま残していた。

そうね。あのひとたちは、全裸がお好きだから。
好みに合わせなくちゃならないわね。
そういうわたしに
ママ、その手間省けちゃうみたい
娘の佑香が囁いた。
なるほど。
破けた女の服をほしがる、変態男どもが
あたしたちの行く手を、阻もうとしていた。
夏でよかったわね。
ほんとうにね。
全裸にヒールやローファーだけになったわたしたちは
宿まであともう少しの道のりを
降りそそぐお陽さまの下、恥ずかしさをかなぐりすてて、歩いてゆく。

姦の村 4  二度目のお嫁入り

2015年12月14日(Mon) 04:21:40

さいしょはまるで強姦だったと、いまでも思う。
あなた!あなたあっ。助けて~っ!
肌色のパンストを履いた脚を、思い切りじたばたさせて、
薄い唇から覗いた白い歯を、思い切り歯ぎしりさせて。
冷や汗の浮いた白いうなじを、思い切りのけ反らせ、激しくかぶりを振りながら――
股間を突き抜かれてしまうと、
ぎゃあーっ!
と。断末魔のような絶叫をあげたのだった。

いまでもそのときのことは。
逐一ビデオに、残されている。
こんなのを表ざたにされたら、あんたがた夫婦もお困りだろう。
そういってほくそ笑む長老は、そのビデオを気前よく、無償でわたしに手渡してくれて。
心ばかりのお礼にと、妻を残して夫婦の寝室を明け渡してやって。
そうとは察しながらも、相手の思うつぼにはまっていった夜――

そのビデオはいまでも、三人の間での宝物。
必死になって操を立てようとしてくれた妻に、わたしは感謝をくり返して。
貞淑な妻を明け渡してやったわたしに、長老も感謝をくり返して。
主人のまえで女の歓びを教えてくれたと、妻は長老に感謝をくり返す。
長老は妻に、いい身体と声をしとると賞賛し、
妻はわたしに、不倫を許してくれたわたしの度量を賞賛し、
わたしは長老に、妻をイカレさせた男っぷりを、同じ男として賞賛する。
屈辱まみれだったはずの凌辱場面は、いまは記念すべき三人のなれ初めの記憶。

赴任期間が切れて、村を出て行かなければならなくなったとき。
長老は妻に、求婚をした。
わたしのまえでの告白だった。
だんなを独りで行かして、わしと暮らしてもらえんか?
妻は言下に、そうします、と、応えていた――

この村から、単身赴任してね。
私――この方のところにお嫁入りしますから。
エエ、法的にはずっと、あなたの妻。
あなたがこの家に戻ってくるときも、あなたの妻。
でもあなたは、妻である私を、このかたに寝取らせ続ける義務を負うの。
私のこと犯されて嬉しいあなたが受ける、当然の罰よ。
甘美な毒を含んだ妻の非難は、半ばは本音。半ばはからかい。
転勤を控えたわたしは、妻と長老とを結びつけるため、
自宅を祝言の場にして、皆を招いた。
そう、妻が初めて犯された座敷を――わたしは妻を公的に開放する場に選んだのだ。

妻が脚に通していたパンスト一足だけを手に、わたしは村を出る。
そのパンストは、あの夜妻が穿いていたもの。
むざんに破けたパンストのすき間から覗いた白い脛は。
いまでも記憶のなかに鮮やかだった。
都会育ちの婦人が帯びた気品のシンボルだったパンストを。
いまでは劣情滾るよだれにまみれさせ、愉しませるために脚に通す妻。
そう――きみと、きみをそこまで堕とした彼とは、たしかにお似合いだ。
そして――きみと、きみがそこまで堕ちるのを視て愉しんでしまったわたしも、やはりお似合いのはずだ。

長老が妻のために用意した妾宅に、妻を伴うとき。
わたしは手を取って、彼女を助手席に乗せた。
夫婦としては、最後のドライブだった。
二度目のお嫁入りね。
妻は目を細めて、ノーブルに笑う。
白のパンプスにお行儀よくおさまった足の甲は、真新しい肌色のパンストに包まれて、
この村に来るまでと変わらぬ気品を帯びていた。


あとがき
前作までの主人公・嘉藤の上司である、長柄次長が主人公となったお話です。
公認不倫の末夫婦が分かれてしまうのは、柏木のなかではバッド・エンドなのですが。
ここまではギリギリでアリかな と思います。
ほとんど奪い尽されてしまっているはずなのですが、夫婦は夫婦の余地を残しています。
その部分が、独り都会に帰ってゆく長柄次長の活力になっているようです。

姦の村 3  村から離れても。

2015年12月14日(Mon) 03:47:53

毎晩のように列をなす、夜這いの男たち――
そのなかに、職場の上司を見出したのは。
ひと月と経たないころのことだった。

妻を差し出したものはだれでも、その村の女を抱くことができる。
男衆のひとりが教えてくれた村の掟そのままに、行動した結果に過ぎなかった。
「すまないね、嘉藤くん。奥さんには以前から、執心だったのだよ」
長柄次長はそういって、すこしだけ申し訳なさそうな顔をしたけれど。
村の掟のなかではもちろん、そうしたことも受け入れなければならないと、
妻をさいしょに犯した男から、告げられていた。

もちろんわたしも、そうした資格を与えられた一人だったけれど。
妻以外の女性を抱くことは、ついになかった。
妻がほかの男に犯される。
見慣れたスーツを着たまま犯される。
着飾った衣装をはぎ取られながら、凌辱されてゆく・・・
そんな光景にゾクッと感じてしまった以後、わたしは別人のようになっていた。
いや、そうではなかったのかも。
性格検査が見通した知り得なかった本能が。
異常な風習がまかり通るこの村で、初めて開花しただけなのかも知れなかった。
「気にしなさんな。そういう人もたんと居るから」
妻をさいしょに犯したその男は、わたしをかばうようにそう囁いた。
「わしらにとって、あんたのような旦那は、とても都合がエエもんでのう」
目じりを好色そうに皺寄せながら、男は上目遣いにわたしを見た。

そんなわたしのことだから。
日常職場で上司として顔を合わせている長柄次長が、妻を抱きに訪れたとしても。
日常を踏み破る昂ぶりを、いっそう強く感じただけだった。
長柄次長と妻との交情は、ほかの男どもと同じように、2~3日に一度くらいの頻度で、つづけられていった。

3年後。
長柄次長は転勤になった。
奥さんを村において、単身赴任するということだった。
お互いの家同士、家族ぐるみの交際が始まっていたこともあって。
妻は長柄夫人と連れ立って、法事の手伝いなどに呼び込まれては。
左右に並べられて仰向けに押し倒されて、
「奥様っ!?」「おくさまあ・・・っ!」
と、呼び合いながら。
ブラックフォーマルの装いもろとも、
輪姦される都会妻を、演じつづけていた。

長柄夫人が、村の長老のひとりと再婚したのは、それからしばらくしてのことだった。
法的には、長柄夫人のままだった彼女は、夫の臨席のもとで長老と祝言をあげると。
長柄の家を出て、長老の用意した妾宅へと、移っていった。
たまに長柄が村の家へと帰宅すると。
そのときだけは、ひとつ屋根の下で時を過ごすのだったが。
迎えた夜の半分以上は、夜這いをかけてきた長老が、
長柄のまえで己の男っぷりのよさを披露することで過ぎてゆくという。
「それがたまらんのだよ」
淡々と語る長柄次長は、立ち戻った都会で吹き溜められたストレスを、
村での非日常の体験で、散らしているようだった。

5年間の村での生活を終えたわたしたちが転任した先は、都会の事務所。
事務所の責任者は、長柄次長だった。
職場では、謹直そのもの。
仕事の運びようも、依然と変わらず堅実そのものだった。
村においた妻がまさかその土地の長老に奪られてしまい、
その奪られたことを快感にしているなどとは、おくびにも出さずに・・・

そんな日々が始まって、一週間と経たない頃に。
帰宅したわたしを、妻はウキウキと迎え入れていた。
「お誘いを受けているの。長柄次長に」
え?と訊き返すわたしに、
妻は携帯の画面を見せつけた。
「ご主人に内緒で、いちどお逢いしませんか?」
アドレスは、まごうことなく彼のものだった。

次長が待つという、ホテルの一室に。
わたしたちは夫婦で、お伺いをした。
ときならぬわたしの来訪を、ふしんそうに迎え入れた彼のまえ。
わたしはきちんとあいさつをして、告げている。
「妻を犯していただけませんか?わたしのまえで・・・」

妻が用意したロープで、ぐるぐる巻きに縛られたわたしのまえで。
妻はなにかから解き放たれたように、長柄次長のほうへと軽やかに身を移していって。
ウキウキとした笑みをたたえ、にこやかに言った。
「ふつつかですが、どうぞよろしく」

こうして、村での風習が生んだ婚外性交は、都会での公認不倫に塗り替えられた。
夫婦の風景がふたたび替えられた、記念すべき夜。
きちんと装われたスーツはしどけなく乱されてゆき・・・
都会の一隅で、村の光景が再現されてゆく――

姦の村 2 父娘ほどの年齢差。

2015年12月14日(Mon) 03:22:27

妻が総てを体験してしまうまで、さほどの日数はかからなかった。
村の男衆の数は、知れたものだったから。
そのわずかの間に妻は、十代から七十代まで、あらゆる男どもとセックスをした。
毎晩、よそ行きのスーツに着飾って
納屋に引きずり込まれた都会育ちのスーツ姿は、泥とわらとにまみれながら、
飢えた唇のまえ、白い裸身をさらけ出していった。

ひと通り、男たちと身を重ねてしまうと。
妻を気に入ったものだけが、わたしの家に夜這いをかけるようになった。
庭先から雨戸をほとほとと叩く音がすると。
わたしは男たちを居間へとあげてやり、
妻はいそいそと、都会仕立ての服へと着替えてゆく。
洗練された衣装や、すべすべとしたスリップ、それになまめかしいストッキング。
そんな装いに、泥臭い彼らは無性に焦がれ、むやみと汚したがるのだった。
そんな彼らの感情も、わからないではなかったのだ。
なにしろ、わたしにしてからが、
着飾った妻が泥まみれにされ辱められてゆくのを目の当たりにすることに、
不覚にも歓びを見出してしまっていたのだから。

どちらかというと、妻は年配の男性に好まれるようだった。
そのほとんどが、父親くらいに年齢差のある連中だった。
彼らは息荒く妻にのしかかって、ごま塩頭を乳房の間に埋め込みながら、
鍛え抜かれた浅黒い臀部を、たくし上げられたスカートの奥へと肉薄させてゆく。
ほんとうに、還暦を過ぎたほどの連中なのか?そう疑うほどに、彼らの精力は凄まじく、
妻を犯されながらも、同じ男として賞賛を禁じえなくなっていた――

「親孝行をしているみたい」
父親を早くになくした妻は、そういいながら。
劣情もあらわに迫ってくる男どもに甲斐甲斐しく接していって。
突き出される鎌首を唇で受け、舌で撫でまわしては、吐き出される粘液を呑み込んでゆく。
そんな奉仕ぶりがまた、気に入られていって。
男どもは引きも切らず、我が家への夜這いをくり返してゆく。

「服を破かれると感じちゃう。日常じゃなくなるみたいな気がするの」
きちんとした服装をしつけられてきた妻は、そういいながら。
衣装もろとも踏みにじろうとする男どものまえ、着飾ることをやめようとはしない。
どこまでも取り澄まして。
夫がいるんです。失礼です。やめてください・・・
制止の言葉をわざとのように口にしながら、押し倒されてゆき、
都会妻の衣装を引き裂かれながら、欲望に屈してゆく――

姦の村

2015年12月14日(Mon) 03:05:50

あの村から離れた安ど感と寂寥感とは、体験したものでなければわからない。
あの村に戻る緊張感と開放感とは、やはり体験したものでなければわからない。

赴任すれば夫婦もろとも、乱交の渦に巻き込まれるといわれるその村に。
綿密な性格検査や素行調査の上選ばれた者だけが、赴任を許される。
もちろん、そんな切羽詰まった場所に吹き溜まるのは、
いろいろな事情を抱えた、訳ありのものばかり。
お互い顔を突き合わせても、話題にする場合そうしない場合・・・
それらをことごとくわきまえ合いながら暮らしていけるのは、
抱えた労苦がただならないものだったからに違いなかった。

女とみれば見境なく抱きたがる男衆であふれたこの村に。
わたしが妻を伴って赴任したのは、5年前。
妻にとっては、30代の最後の夏だった。

「なにも感じないから」そう誓ったはずの妻は。
ぐるぐる巻きに縛られて、畳の上に転がされたわたしの目のまえで――
はぁはぁ、ぜーぜーと、よがり狂いながら、犯されていった。
あなたがМだっていうのは、ほんとうなのね。
振り乱したままの髪を、帰り道の夜風に流しながら、妻はフフッと笑っていた。
蔑むような笑いではなかったことに、わずかな救いを認めながら。
わたしは来た道を戻ろうと、妻を誘っていた。
底知れない欲情のとぐろを巻いた男たちの影が澱む、その座敷へと。

もう一度、妻を目のまえで犯してほしい。
紙一重の差で仇敵になっていたかもしれない男たちのまえ、
わたしはそんなまがまがしい希望を、頼み込んでいて。
妻は着づくろいもままならないほどに乱された着衣を、どうにか体裁を整えていて。
これだけはと穿き替えた肌色のストッキングが、男たちの毒々しい欲情を、いっそうそそったのだけは、伝わってきた。

はぁはぁ・・・
せぃせぃ・・・
妻は息遣いも切なげに、のしかかってくる男たちをひとりひとり、応接して。
わたしはそんな妻の痴態を前に、独り昂ぶりに身を任せていた。

夫婦の運命を変えた、記念すべき夜。
田舎の空は、満天の星に彩られていた――

娘の制服代。

2015年12月07日(Mon) 03:54:34

自宅のリビングで。
妻は着ていたブラウスをはぎ取られて、犯されたままの姿勢で気絶していた。
かけつけたわたしを待ち受けていたその男は、「おかえりなさい」とぶっきら棒に声をかけてきた。
30分前、勤め先に電話をかけてきた妻の声は、切羽詰まっていた。
「あなた!早く帰って来て!家で男に襲われているの!」
男はその直後、躊躇なく妻を犯し、大胆にもわたしの帰宅まで待ち受けていたというわけだ。
「いったい、どういうことなんですか!?」
わたしの抗議を軽く受け流すと、男はいった。
「時々お邪魔するんで」

この村に赴任するときに、上司に言い含められていた。
「栄転ポストだよ。なにしろあそこは、社長の出身地だから。
 でも土地柄が、特殊でね。女とみれば見境なく抱いてしまう風習があるそうだ。
 奥さんは任地に帯同するのが、赴任の条件になっているから――どうなるかは、わかるだろうね?」
社長は生まれ故郷に報いるために、地元の雇用創出をうたって、この事務所をつくったのだが。
実態は、都会育ちの人妻を提供するために社員を赴任させたのだった。 
赴任の対象となる社員は、厳密な性格検査を経て選抜されていた・・・

覚悟してはいたものの。
いざこうなってみると、あきれてものが言えなかった。
妻はおっぱいをまる出しにして、ぶっ倒れていた。
白い乳房もあらわに、窓から射し込む陽の光に曝していた。
この村に赴任して、まだ一週間と経っていなかった。

「時々って・・・どれくらい?」
思わず口走るわたしに、男はいった。
「気が向いたらいつでも」
と。

翌日家に帰ると、妻は気に入りの紫のワンピースを着たまま、わたしの帰りを待っていた。
「私、浮気してしまいました」
妻は言いにくそうに、そういった。
昼間に紫のワンピースを着て外を歩いていたら、またもあの男に襲われたのだという。
(赴任してきた都会妻たちは、外出するときはよそ行きの服で聞かざることを義務づけられていた)
「この服・・・お気に入りなのに、破こうとするんです。
 ”この服だけはやめて!”っていったら、手を引っ込めてくれて・・・
 それで私、浮気することにしたの・・・その場で服を脱いじゃったんです」
わたしのことを恐る恐る見あげる妻の前には、離婚届が置かれていた。
わたしはなにも言わずに、その忌まわしい紙切れをくしゃくしゃに丸めていた。
「あいつといっしょになりたいのか?」
「イイエ、でも追い出されたら俺のところに来いって言われたわ」
――夫婦の選択は、ひとつしか残されていなかった。

あくる日帰宅すると、妻はまたもブラウスを裂かれて、床のうえで気絶していた。
「おかえりなさい」男はこのまえと同じように、ぶっきら棒にそういった。
「服破くの、趣味だもんで」
男は見当違いのことをいって、きまり悪げに頭を掻いた。
この土地の風習のままに動いているだけで、決して悪気はないのだ。
赴任したその日に、上司がわたしに言った言葉を、いまさらのように思い出していた。
「これ、洋服代。悪りぃから」
男は着崩れしたジャケットの内ポケットから、かねて用意していたらしい封筒をわたしに差し出した。
「いや・・・受け取れない」
受け取ってしまったら、妻に対する強姦同然のセックスを認めたことになってしまうような気がした。
「あー・・・そうだよな。かえって悪いことをした」
男はあっさりと、封筒を引っ込めた。
「こんど奥さん連れて、気に入った服を買うから」
男の言いぐさに、もはやわたしはなにも応えなかった。
妻が身じろぎをした。話し声に気づいて、われに返ったようだった。
「おかえりなさい」
目つきがとろんとしていた。
乱れた髪をけだるげに繕うと、「お茶淹れますね」といって、転がされていたじゅうたんのうえから起き上がった。
「すまない。もう少し、別れを惜しませてくれないか」
男のぶしつけな要求には応えずに、わたしは妻に声をかけた。
「お茶はふたつでいいから。お前と――この人の分」
勤め帰りの夫は、妻の浮気相手のために、そのまま外へと引き返したのだった。

外には出たものの、家から離れることはどういうわけか、できなかった。
庭先にまわり、縁側に腰をおろしたわたしは、隣家の人に気づかれないかと気にかけながらも、
家のなかの物音に耳を澄ませていた。
テーブルの上の茶わんが、ひっくり返る音。
蹴とばされたソファが壁にぶつかる音。
そして、妻の切なげなうめき声――
不覚にも、股間が逆立ち鎌首をもたげるのを、どうすることもできなかった。

それ以来。
妻はあの男と、ブティック通いを始めていた。
わたしが出勤してしまうと、もう自由の身だった。
三十代の人妻はショルダーバッグひとつを提げて、男と腕を組み、堂々と街なかを闊歩する。
裂かれた衣装の代わりを買ってもらうと、そのままラブホテルに直行して、夕方までをいっしょに過ごす。
男は律儀者らしく、わたしの帰宅時間に姿をみせることは、なくなった。

「由佳の制服代出してくれるっていうの」
妻が唐突にそう切り出したのは、日曜の朝のことだった。
だれが、という主語さえ省略しても、夫婦のあいだでそれがあの男のことだという黙契ができあがっている。
春から中学校に進学する娘の由佳は、友達のところに遊びに行っていた。
都会からいっしょに赴任してきた家の、同学年の少女のところだという。
「どうして?そんな筋合いないじゃないか」
口を尖らせるわたしが妬きもちをやいているのだと察した妻は、わたしをしり目に洗濯物の始末を始めながら、
「制服代助かるわぁ」
とだけ、いった。

真新しいセーラー服を着た由佳は、ハイソックスも新調したらしい。
白の無地の真新しいハイソックスが、発育の良い脛を、眩しくひきたてていた。
「制服のお礼に行ってくるわ。あなたにお願いしてもいいんだけど――」
きみとふたりじゃ、彼が目移りするだろう・・・といいかけたのを呑み込むと、
「いや、ぼくが行くほうがすじかな」
そういって、わたしは読みさしの新聞をおいて、起ちあがる。

娘を連れた父親は、あの夜の夫とおなじく、入った家からすぐに出て行った。
男の家は貧しげで、手入れのされていない庭に面した縁側は朽ちかけていた。
隣家に気取られるのを気にかけながら、
娘がじたばたと抗う物音やら、
「痛い!」「痛っっ!」という叫び声やら、
なん度もされてしまって慣れた身体に戸惑いつつも、べそを掻きながらも相手を始める気配やらに、
昂ぶりを抑えかねながら、聞き入ってしまっていた。

制服は入学前に、二着めが必要になっていた。
その二着めを着た由佳が、ラブホテルに誘い出されたと妻からきいたのは、翌日の夜のことだった。
ここの土地は狂っている。
あきらかにそれとわかる未成年が入って来ても、同伴の男が親子だというと、休憩を受け入れてしまうのだった。
もっとも、実の父娘の場合さえ、時としてはあるのだという――

「スカートの裏側がちょっとごわごわしているけど――中学ではみんなそうなんだって。
 授業中に呼ばれることもあるんだって」
無邪気な声できわどいことを口にする由佳は、自分の言っていることの意味をどれほど、心得ているのだろう?
その由佳が、すでになん着めかになった制服姿で、わたしの傍らに寄り添っている。
ふたりが歩みを進めるのは、男と二度目の体験をしたあのラブホテルだった。

村の男に自分の妻を提供した夫には、仲間に入れてもらえるという特権があった。
行使するしないは、もちろん自由意志なのであるが――
「だれがいい?より取り見取りだぜ?もちろん、あんたの会社の同僚の奥さんでも、たいがい平気だぜ?」
妻の仇敵であるはずのあの男は、すでに仲間の目線になっていた。
その男のまえで、わたしは躊躇なく、自分の娘を指名していた。
白いハイソックスに包まれた発育の良いふくらはぎに、魅せられたように――
「いいと思うわ」
妻が即座に、賛成した。
勉強部屋にこもっていた由佳を呼ぶと、
「あした、お父さんといっしょにあのホテルに行きなさい。小父さんにしてあげてること、お父さんにもしてあげて」
娘はわたしを値踏みするような目つきで窺うと、あっさりといった。
「ウン、いいよ。学校終わったらすぐ帰ってくるから」

「親子です」
あのとき、男が見え透いた嘘をいったときとおなじ文句を、わたしもホテルのフロントに告げていた。
ホテルのボーイはふだん通りの業務口調で、「親子連れさま、ご休憩――」とだけ、同僚に伝達していった。
傍らをふり返ると、感情を消した白い頬があった。
目は真っすぐと、前を見つめている。
これから別人のように乱れた吐息を重ね合うのを、はっきりと自覚しながら・・・


追記
服を破りながら荒々しい性交をするのを好む男が、妻の洋服代を払おうとする。
その彼が娘の制服代を持とうとするとしたら、意図はひとつ・・・
そんな話にするつもりでしたけれど、
描いているうちに、奥さんの存在感がグッと出てきて、
妻を相手に強姦同然のセックスに耽る男を咎めながらも、そんな日常を受け容れる夫の姿を描くのに熱中してしまい、
かんじんの後半が短くなってしまいました。
あと、父と娘とをかけ合わせたのは、描いているうちに生じた出来心が総てです。 (^^ゞ

男衆、あります。(貞操喪失のススメ)

2015年11月27日(Fri) 07:51:52

愛人の存在は、奥様の値打ちに華を添えます。
貴男も、都会育ちの奥様を、村の男衆にゆだねてみませんか――?

奥様はいつまでも、若く美しく・・・そんな夫たちの願いをかなえるひとつの方法。
それは、

「奥様に愛人を迎える」

ことです。

村にはやもめ、妻帯者を問わず、都会の奥様のスーツ姿を押し倒したい男衆が大勢おります。
かれらに1人でも多くの女性を提供するのが、当村役場の実施する「既婚女性貞操公開事業」の目的なのです。

ラインナップを紹介します。ぜひいちど、ご夫婦で検討してみてください。

【不特定多数タイプ】

その1 お寺の本堂で輪姦
奥様に、村の法事に出席していただきます。
群がる参列客に迫られて、奥様はやがて輪姦の渦に・・・

奥様には、黒の喪服を着用していただきます。
ご主人の同伴も可能です。
喪服妻の輪姦風景を、とくとご堪能ください。


その2 山奥で、ピクニックのさなかに襲われて
当村自慢の大自然のなか、奥様に鬼ごっこを楽しんでいただきます。
鬼は複数です。
捕まえられてしまうと、その場で服をはぎ取られ、参加者全員とセックスをします。
ご主人の同伴はもちろんOK、お嬢様の参加、息子さんの見学も可能です。


その3 自宅に夜這い
ご自宅のお庭には、奥様目当ての男たちが列を作って順番を待ちます。
ご主人は隣室で、奥様の性技をたっぷりと御覧ください。
勝手のわかった我が家での輪姦は、格別な刺激がありますよ!

【個別交際タイプ】
その1 お見合いから交際へ
奥様の交際相手候補とは、ご夫婦で面会が可能です。
さいしょはお話合いから、やがて映画に誘われ、ドライブに誘われて・・・二人の交際は深まっていきます。
ご主人がどこまで見届けられるか・・・
成立したカップルの数ほど、パターンは分かれます。
末永い交際相手をご希望のご夫婦には、最適のプランです。

その2 長老宅で犯されて・・・
奥様には、村の長老との個別面接を体験していただきます。
ご自宅が、長老の愛人の別宅と化してゆく。
夫婦ともに強い帰属感を味わえるコースです。


あとがき
ふう・・・
時間がなくなりました。 A^^;
このお話は、要翻案かもですね。。。

スラックスの下に秘めた好意

2015年11月19日(Thu) 07:51:50

たくし上げたスラックスから覗いたむき出しの脛は、もともと淡かった体毛をそり落とされて、
薄暗がりの中、射し込むかすかな陽の光を照り返し、三日月のような輝きにつつまれている。
晴夫は封を切ったばかりのパッケージから靴下を取り出して、指先に長々とぶら下げた。
女物のストッキングのように薄い生地が、薄闇に映えて妖しく透ける。
器用にするするとつま先をたぐると、補強のあるつま先の縫い目を自分の足のつま先に合わせていって、
脛の上へと、すべらせてゆく。
じんわりと拡がる薄手のナイロンが、ごつごつとした筋肉に包まれたふくらはぎを、なめらかに染めた――

妻の光枝も、母の菊枝さえも、いまごろは村はずれの荒れ寺に、法事の手伝いと称して招び出されて、
いまでは歓びとなってしまっている凌辱の渦に巻き込まれているはずだった。
村の長老たちは半分以上が、吸血の習慣を持っている。
その彼らの渇きを満たすため、都会育ちの移住者たちは、女たちを提供する――そんな忌まわしい風習に、晴夫の家が家族もろとも巻き込まれていったのは、ごくしぜんな成り行きだった。
セックス経験のある婦人は、好むと好まざるとにかかわらず、生き血ばかりか操までもを、むしり取られていった・・・

出勤を送り出してくれる妻の光枝は、いつもスーツ姿で、夫の外出を見届けると、どこかへ出かけていくようだった。
いまは特定の相手さえいるらしく、それも頻繁に逢っているらしい。
そんな日常に染まりながら・・・いつかその日常の裏側に、えもいわれない歓びを覚えたとき。
晴夫は自らのマゾヒズムを自覚した。

その気になったらいつでも、逢いに来ればいい。
決して恥ずかしいことじゃない。
勤務中に事務所を訪れたその白髪の男は、自ら光枝の情夫だと名乗り出ると、
晴夫にそんな毒液のような囁きを、鼓膜の奥に流し込んでいった。
身体じゅうにまわった毒が、命じるままに。
晴夫は薄手のハイソックスを、身にまとってゆく。
男は、妻や母のふくらはぎを咬んで血を吸うのを好んでいた。
彼女たちが脚に通している黒のストッキングを、思うさま咬み剥ぎながら。

妻の情夫は晴夫を迎え入れると、感情の読めない穏やかな顔つきで、話しかけてきた。
薄い靴下がよく似合いますね。
冷やかしているようすは、みじんも感じられない。
露骨に這わされる足許への視線が、妙にくすぐったい。
ご覧になりたいですか?
晴夫の問いに男が頷くと、彼はちょっとだけ、スラックスをたくし上げて見せた。

「あなたは薄地の靴下をはいた脚を咬むのが、お好きなようですね」
わざとそっけなく口にしたはずの言葉は、語尾がかすかにふるえていた。
妻の生き血を日常的に吸っている吸血鬼と和解するために、彼好みの薄い靴下を履いていく――そんな行動の裏に秘められた屈辱さえもが、なぜかひどく小気味よかった。
「男物の靴下ですから、たいして愉しめはしないだろうけど」
そう呟きながらスラックスをたくし上げる手に、さりげなく力がこもる。
ほほう、これは美しい。
無理して好みに合わせてくれた夫の好意は、すぐに相手に伝わったらしい。
惹かれるように伸ばされた掌が、晴夫の脛をスッと撫でた。
ぞくり、とするような撫で方だった。
この愛撫に、妻は堕ちたのか。
なまなましく湧き上がる感情が、晴夫の自尊心を逆なでにする。
片意地を張るように持ち続けたかすかなプライドが、紅茶の中に放り込んだ角砂糖のように他愛なく崩壊してゆくのが、ひどく心地よい。
俺もまた堕ちてしまう・・・
晴夫はそんな胸騒ぎに、胸をひらめかせながら、屈従を態度に示すように、じゅうたんのうえに手をついて、うつぶせになってゆく。
ふくらはぎを吸いやすいように気遣うその姿勢は、何度となくのぞき見をしてきた光枝の所作に学んだものだった。
ひんやりとした外気にさらした薄い靴下ごしに、にじり寄ってきた男の呼気が、生温かくあてられる。

ぬるっ。

男の舌が、靴下のうえを這いまわった。
晴夫は男が自分の脚を吸いやすいように、さりげなく脚の角度を変え、姿勢を崩し、じゅうたんのうえを転げまわった。
男は、晴夫の妻が情夫のために装ったストッキングをいたぶるときと、寸分たがわぬ態度で。
彼女の夫の、薄く透けたふくらはぎに、濃厚な凌辱を加えていった。
「まじめな家内がどうしてあんなにもかんたんに堕ちたのか、わかるような気がします」
晴夫のつぶやきに男が頷くと。晴夫はなおも口走っていた。
「せっかくですから・・・破く前にたっぷり愉しんでください。男物の靴下でも、お嫌でなければ・・・」
「あんたがいま呟いたこと、奥さんもしょっちゅうそう言ってくれますよ」
そんな囁きに、晴夫がビクリと反応すると。
吸血鬼はにんまりと笑い、その笑みを薄手の長靴下の脚に圧しつけると、容赦なく牙を、埋め込んでいった。

薄闇の中。
夫の血潮がチュウチュウと啜り取られてゆく音だけが、ひそやかに流れていった。

陶然となって、じゅうたんのうえを転げまわる晴夫を、追いかけるように。
吸血鬼は何度も彼のうえにのしかかると、その両脚を代わる代わる、いとおしむようにいたぶり続けた。
やがてどちらからともなく、目線を交えてゆくと。
息の合ったカップルが接吻を交し合うように、片方がもう片方の首すじを、器用に咬んでいた。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
自分の血が吸い取られる音がリズミカルに響くのを、鼓膜に心地よく感じながら。
晴夫はわれ知らず男の唇を求め、男も夢中になって、晴夫の唇を吸っていた。
重ね合わされ、交し合わされる、唇と唇――
自分の身体から吸い取られた血潮の芳香が、息が詰まるほど強烈に、鼻腔を冒した。
けれどももう、かまわなかった。なにも見えなくなっていた。
熱い呼気をはずませ合って、ふたりはしばらくのあいだ、互いに互いの思いをぶつけ合ってゆく。
晴夫は息をはずませながら、言った。
「あなたの唇には、家内の血潮が良く似合うのでしょうね」
男もすぐに、それにこたえた。
「あんたの血だって、わしの唇に似合っておるじゃろう?」
目のまえで囁きかける唇は、自分の血に染まり、ルビーのような赤黒い輝きを帯びている。
晴夫はうっとりとして、その唇を見あげた。
「そうですね。悪い気はしません・・・嬉しいです」
ふたりはもういちど、熱い口づけを交し合った。
長い長い、口づけだった。

じゅうたんのうえ、ふたりは並んで仰向けになって、手をつなぎ合って天井を見つめた。
「あんたの靴下を破くのは、実に楽しい。時々逢ってくださらんか」
「わたしでよければ、いつなりとも・・・でも、これは浮気になりませんかね?」
「奥さんもしていることだから、かまわんでしょう」
妻が浮気をしている。そういえば男の口からあからさまに聞かされたのは、初めてだったはず。
それなのに晴夫は、「そうですね・・・」と、軽く応えてしまっている。
自分でもそんな態度が意外だったし、けれどもそれでいて、嬉しくも感じていた。
男は光枝のことを、しんそこ気に入ってくれている。
その光枝の夫の生き血は、彼にとってもどれほど関心が深かったことか。
さっきまでくり返されたしつような吸血は、彼が今夜勝ち得た、情婦の夫からの贈り物を気に入ったことを態度で示したものなのだろう。
晴夫は満ち足りた気分になり、吸血鬼のほうへと目を向けた。
吸血鬼もまた、晴夫を見つめていた。
視線を結び合わせたふたりは、互いに身を近寄せあった。
再び重ねあわされる、唇と唇。
夫のほうももはや、躊躇いはしていない。
妻ばかりか自分の血潮まで吸い取った唇に、ただ夢中になって応えていった。
「家内を奪った、憎い唇ですね」
晴夫がいうと、吸血鬼はぬけぬけと、「そうですね」とだけ、こたえた。
「いまは、わたしのことも奪おうとしている」
「奪わせてくれますね?」
「家内を捧げると決めたときから、わたしのすべてはもう、貴男のもの同然でしたから・・・」
晴夫はそういいながら、自分のいっていることは事実とすこし違う、と、感じた。
けれども、ほんとうにそうなのだろうか?
いや、そんなことはない。自分は人妻の生き血をほしがる吸血鬼のために、自ら最愛の妻をプレゼントしたのだ。
それならば、夫婦ながらかれのものになるのも、当然のことではないか。

交わされる意思のやり取りの積み重ねは、やがて、生理的欲求だけではないものをもたらした。
夫は妻と情婦の逢瀬を大切に扱い、情夫は夫婦だけで過ごす機会を重んじていた。
あの晩のストッキング地の長靴下は、みるかげもなく破かれてしまったけれど。
夫は彼のために何足も脚に通し、妻もまた自らの礼装に恥辱を受け容れつづける。
スラックスの下に秘めた薄い靴下は、夫の情夫への気遣いを示すものとして、妻のストッキングとおなじくらい、愛好され続けたのだった。


あとがき
ストッキングを履いた脚を咬みたがる吸血鬼のために、
妻をモノにした吸血鬼と和解するために、薄い紳士用の長靴下を脚に通して訪問する夫。
そんな情景を描いてみたくなりました。
どちらかというと寝取られよりも、同性愛的なお話になっちゃいましたね。。 (^^ゞ

都会の奥さん 貞操公開デー

2015年11月17日(Tue) 08:13:41

転任してきたこの村にとけ込むには、自分の妻を差し出して、村の男衆と共有しなければらない――
都会での暮らしを放棄した俺には、もはやその選択肢しか残されていなかった。
潔く?その風習を受け入れると決めたとき、
女房は「なにも感じないからね」と、自分に言い聞かせるように俺にそういった。
きっとその約束は果たされまい・・・お互いにそうと知りつつも、俺はうわべだけの返事を返している「きまってるじゃないか」

女房の貞操が喪失させられる、その記念すべき?日は、
都会の奥さん 貞操公開デー
と、呼ばれていた。
やけにあっけらかんとした呼び方に、俺は救いと絶望とを、同時に感じる。

強い地酒をたっぷりと振る舞われた俺がぶっ倒れると、
スーツ姿の妻に、半裸の男衆が群がっていった。
押し倒された女房は、男たちの下敷きになって、
ばたつかせている脚だけが目の前にみえた。
ねずみ色のストッキングには、チリチリと裂け目が走り拡がって、女房が堕落させられてゆく実感を、俺の胸に焼き付けていった。

そんなに悪いもんじゃないだろう?
まわされてゆく女房をまえに、不覚にも失禁してしまった俺に。
傍らの男は慰めるようにそういった。
男は全裸で、まだ逆立っている一物は、女房の股ぐらを、えぐり抜いたばかりで、粘液を生々しくてからせていた。
俺は夢中で、男の一物を咥え、女房を狂わせた粘液の酸っぱい臭いを喉の奥まで流し込み、むせかえっていった。
なん人もの一物が俺の前に差し出され、俺はそれらを残らず咥え、逆立てていった・・・

公開デーじゃなくって、公開ウィークになっちまったな。
若い人妻には、多くの応募者が集まるという。
ひと晩であしらうには、あまりにも多すぎる希望者のなかには、
同じ勤め先の上司まで混じっていた。
あいつもね、自分の奥さん差し出したから、この特権をもらったんだ。
あんたもどうだね?
傍らの男衆にそういわれたが、俺はゆっくりとかぶりを振った。

そのうち女房は、相性の合う男をなん人か選び出し、俺に隠れて付き合い始めるに違いない。
そんなことにさえ――いまの俺は昂奮を感じようとしていた。

この村にぜひ、赴任してみるといい。
一か月以内に自分の妻が、一ダース以上の男を相手にして、その光景に昂るすべを覚え込むことができるはずだから・・・

靴下を破らせる。

2015年10月26日(Mon) 07:52:12

きょうも吸血鬼に吸われるために、わたしたち夫婦は出かけてゆく。
さいしょに襲われるのは、わたし。
過去になん度もそうしてきたように、わたしは妻を守るため、力いっぱい闘い、首すじを咬まれてゆく。
そのあと妻は、わたしに操を立てるために、力いっぱい抗って、やはり首すじを咬まれてしまう。
やめて・・・よして・・・あなたあっ。
そんなうめき声で、わたしの心をかき乱しながら、
スカートの裾を割られ、ストッキングを引き裂かれて、
あらわにされた潔よい処に、赤黒くただれた淫らな肉を、埋め込まれてしまうのだった。

血を吸い取られて尻もちをついたわたしは、スラックスを引き上げられて。
やつのために脚に通すようになった、黒のストッキング地の長靴下に染まった脛を外気にさらし、
妻の穿いているストッキングよりも先に、咬み破らせてしまう。
傍らにいる妻の足許を彩るのは、黒のストッキング。
田舎住まいのやつらにとって、都会育ちの大人の女性が身に着けているストッキングは、憧憬の的らしい。
うひひ・・・うひひ・・・
そんな野卑な含み笑いもあらわに、やつはきちんと装われた妻の足許に、きょうも舌を迫らせてゆく。

きょうも黒のストッキングの脚を差し伸べて、やつに咬み破らせてやっている妻は。
こういうときには、優越感を感じるの。
そういって、はばからない。
わたしも――そういう妻の気持ちが、ほんの少しだけ、わかるようになってきた。
もちろん、ストッキングを破きたがるやつの気持ちも、かなりのていど、わかるようになってきた。

お世話さま。

2015年10月26日(Mon) 07:44:37

お疲れさん。
別れぎわ、吸血鬼はいつもそんなふうに、声をかけてくる。
お世話さま。
わたしのほうも、いつもそんなふうに、礼儀正しくお辞儀を返す。
ばかじゃないの。
妻はそんなわたしを肘でつついて、けんつくを食らわせる。
だって、あたしたちのほうが、お世話してるのよ。もっといばってかまわないんだから。

妻の言い分も、もっともではある。
さっきまでふたりして、わたしのまえで息をはずませ合っていたくせに。
こういうときにはどうにも、吸血鬼につれないそぶりをしてみせる。
傍らで笑っている吸血鬼は、わたしたち夫婦の身体から吸い取った血潮を、まだ口もとからしたたらせているのだが。
そんなことはまったく、おかまいないらしかった。
血を吸い取られても、生命までは奪られない。
そういう確証があるからなのだろうし、吸血鬼のIを得ているという確信も、妻を支えているに違いない。
そう――人妻が吸血鬼に血を吸われると、そのまま犯されてしまうのが、当地でのお約束。。

さいしょに襲われたのは、この村に着いて数日後のこと。
まだ引っ越しのあと始末もつかないようなときにかり出された、法事の手伝いのときだった。
読経の終わった本堂は、乱交の場となり果てていた。
慣れている奥さんたちは、それぞれなじみの吸血鬼のもとに走り、
夫たちは気をきかせて座をはずしたり、自分の妻が引きずり込まれた空き部屋をのぞき見したり・・・
もちろん、あいさつ抜きで挑みかかられたわたしたちに、そんなゆとりがあるわけはない。
わたしは妻を守ろうと必死で闘い、
けっきょくはねじ伏せられて、首を噛まれた。
妻は本能的に貞操の危機を感じ、やはり必死で抗って、
けっきょくはねじ伏せられて、首を咬まれた。
わたしは身体の力が抜け切ったまま、ただ腑抜けのように、
妻がみすみす餌食にされてゆくのを、薄ぼんやりと見つめていた。

ちゅーちゅーと美味しそうに妻の生き血を吸い上げる吸血鬼を、恨めし気ににらむと。
やつは嬉し気にVサインを送り、意味深なウィンクをして・・・妻のスカートを、引き剥いでいった・・・

おおぜいの吸血鬼が、なん人も相手を変えて、都会育ちの人妻と交わるのをしり目にして。
やつは「この人がいればもういい」と言って、仲間からの度重なる交換の要請に応じようとしなかった。
それだけが――妻の身に恥辱を重ねさせたくないというわたしの要望と一致した。

家まで送る・・・というやつの申し出を拒む気力は、わたしたちには残されていない。
真昼間、半裸どうぜんに剥かれた喪服をまだ身にまといながら、
わたしたちは意思をなくしたように、とぼとぼと家路をたどる。
家にあげてはいけなかったのだと、あとで聞かされた。
当家として貴男の訪問を歓迎する――そんな意味にとられてしまうというのだ。
”歓迎”を受けた吸血鬼はふたたびその場で妻を抱き、犯していった。
わたしは、意味不明な昂ぶりを感じながら、もうやつの所業を妨げようとはしなかった。

それ以来。
やつの訪問は、ひきもきらなかった。
わたしは大声をあげ、なぐりつけ、ひざ蹴りを食らわせてやつを撃退しようとし、
やつはわたしのあらゆる攻撃に耐えて、最終的にわたしの首を咬むことに成功した。
咬まれてしまうと、あとはもう――麻酔のようなものだった。
その場でへたり込んだわたしのまえで、やつは観念して立ちすくむばかりの妻に迫って首すじを咬んで、
肌色のストッキングのうえから、ふくらはぎにも咬みついていった。
あとはお定まりの、ベッド・シーン・・・

なん度かそういう訪問をくり返し受けたとき。
やつは落花狼藉の最中に、妻の頭をつかんで囁いた。わたしにも聞こえるように――
どうぢゃ、エエぢゃろ?エエぢゃろ?お前の亭主よりもずっとエエぢゃろ?
いっそ亭主と別れて、わしの嫁にならんか?
それは反則だろう――声をあげたかったが、力がなくなっていた。
「エエぢゃろ?」と言われるたびに、妻は無言でうなずき続けていた。
妻はあえぎながら、応えた――
「あなたのものになります。でも――
 セックスはいいけれど、主人と別れるつもりはありません」

そうか・・・
やつはしんそこ、落胆したようだった。
わかった・・・
妻の胸の谷間に顔を埋めたのは、涙を見せないためだった――と。
皮膚に沁み込んだ潤いを感じた妻が、あとでそっとわたしに告げてくれた。

話はすぐに、まとまった。
出かけるのが恥ずかしかったら、来てもらえばいい。
そういうわたしに、小声でそうしますとだけ呟いた妻は。
やがて大胆にも、「私出かけますから。誘われましたから」と、まえの晩に告げるようになった。
妻はわたしの出勤と前後して家を出、やつのところに入り浸る。
スーツに着替えた妻に、「ゆっくりしていらっしゃい」そんなことまで言える余裕が身に着いた。
きっと、やつとの境界線が、きちんと定まったからなのだろう。

視ないで・・・視ないで・・・そう訴えつづけていた妻は。
「あなたのものになります」と誓ってからは、言葉を変えた。
ねぇあなた、視て・・・視て・・・と。

けれども気強い性格は、やつの奴隷に堕ちてからも、変わることはなかった。
「お世話にしてるの、私――」
そう訴えて、やまないのだった。

行ってまいりますね。

2015年07月06日(Mon) 07:54:44

この街に転入してきて、初めての週末。
「行ってまいりますわね」
黒一色のスーツに身を包んだ妻は、わたしにそう声をかけてきた。
その日妻は、ご近所の法事の手伝いに、招ばれていた。
玄関を後にする後ろ姿――黒のストッキングに透けるふくらはぎを、わたしは惜しげに見送った。
ムザムザと、村の衆の淫らな指で弄ばれて、辱められるとわかっている華奢な身体は、あっという間に曲がり角に消えた。
わたしもいそいそと、身支度を始めていた。妻のあとを追うために。

この街に赴任してきた夫たちは、こうして無条件に、妻の貞操を譲り渡す。
それがこの土地のものとして生きていくための、通過儀礼。
法事の手伝いに招(よ)ばれたと告げた彼女に真実を告げず、そのまま行かせたわたしは、明らかに共犯だった。

落花狼藉の有様だった。
招ばれた女たちは、軽く20人を超えていた。
ほとんどが経験済みの女たち――初体験だったのは、妻ともうひとり、わたしと同時に赴任してきた若い社員の奥さんだった。
漆黒のブラウスをはぎ取られた胸に。
薄黒のストッキングを引き裂かれた脛に。
無数の唇が押し当てられていった。
スカートの裏側には、まがまがしい濁った粘液が、なん人分も織り交ざって、礼装を穢していた――


「行ってまいりますわね」
結婚前でさえ身に着けなかったほどの、丈の短いスカートから
網タイツの脚をにょっきりと覗かせた妻は、きょうもにこやかにわたしのことをふり返る。
「ああ、行ってらっしゃい」
わたしもまた、あっけらかんと妻に応えている。
これから輪姦の渦の待ち受ける場所は、あのお寺の本堂か。それとも納屋か。
草むらに引きずり込まれ、陽の光を浴びながら裸体をさらすことだってある。
きょうは妻はどんなふうにして、夫であるわたしを裏切るのだろう?
ゾクゾクっと総身を走る愉悦を、苦笑いで封じながら。
ムザムザと汚される装いを目に焼き付けると、わたしはいつものように、いそいそと身支度を整えていった。

妻に血を吸われる。

2015年07月06日(Mon) 07:23:51

妻が吸血鬼に襲われて、血を吸われた。
吸血鬼と人間とが友好性裡に共存するこの街では、日常的な出来事だった。
都会育ちで都会の会社に勤め、一か月前この街に初めて赴任してきたわたしたちにとって、もちろんそうではなかったとしても。

「あなたの血が吸いたい」
ある休日の夜、面と向かってそう言われるまで、わたしは彼女の変化に気づいていなかった。
妻はいつものハッキリとした口調で、顔色もかえずにそういったのだ。
一瞬で、なにが起きたのかを悟った。
わたしは無条件に、彼女のために自分の首すじを差し出していた。

つねるような感覚がむず痒く、うなじの一角を冒した。
ゴクゴクと喉を鳴らして、妻はわたしの血を飲み耽った。
渇いたものが欲しいだけむしり取るような、容赦のないやり方だった。
ひとしきり血を飲んだ彼女がわたしを放したとき、ひどい眩暈に襲われた。
彼女は自己嫌悪のこもった昏い瞳で、わたしを見ていた。
「私の中に獣がいる」
彼女はそう、口走った。
――離婚してくださらない?とまで、妻はいった。
だいじょうぶだよ。わたしはやっと応えた。
本社の溝田さんだって、あんなふうに言ってたじゃないか。夫婦の長い時間のなかで、それはたししたことじゃない。
――だから、離婚だけは思い止ってほしい。
彼女の身になにが起きたのか、ほぼ正確に気づいたわたしは、彼女の罪悪感を消そうと躍起になった。

溝田は人事課に勤める、数年上の先輩だった。
わたしの前々任としてこの街に赴任した経験を持っていた。
――仕事なんか、やらなくっていい。そもそも、やるに値するような仕事はあの街にはない。
溝田はあけすけに、そういった。
――あの街は、創立者のふるさとだ。あの営業所は、きみやぼくのようなもののために彼が作った、楽園のようなところなのだ。きみは家族ともども、餌になれ。ひたすら、餌としてあそこにいる連中のために奉仕しろ。なに、想像するよりもずっと、ましな世界だ。あいつらには情がある。ぼくも女房を喰われちまったが、女房のやつはいまでも仲良く、あいつらとつき合っているし、ぼくもそれを認めているし、たまにはいっしょについていったりしているくらいなんだぜ。
溝田の言葉は悪魔のもたらした毒液のようにわたしの鼓膜を侵し、世間なみの理性を痺れさせていった・・・

いったいいつからなんだ?
妻の浮気が発覚した夫のように、わたしは訊いた。
「こっちに来て一週間経った頃からよ」
彼女はもう、悪びれてはいなかった。
なん回咬まれたんだ?
「週に2,3回」
聞かれたことに対する答だけが、簡潔にかえってきた。
相手はどんなやつなんだ?
もっとも怖れた問いにも、彼女は平然としていた。
「しかるべき人」とだけ、彼女はこたえた。

そのしかるべき人というのに、逢ってもらいたい。
彼女のほうからの申し出だった。
向こうがぼくに、逢いたがっているの?
「あのひと、男の血は吸わないわよ」
突き放すような口調だった。
「あのひとに私の血をたっぷり召しあがってもらうために、わたしがあなたの血を吸うの」
イタズラを仕掛けてくるときの、意地悪そうな上機嫌。
妻の黒い瞳が、嬉しげに輝いていた。

あなただったんですね・・・?
迎え入れた自宅の客まで、わたしはほとんどぼう然としていた。
相手は赴任の初日にあいさつに出向いた、街はずれの洋館に棲む男だった。
村長の親友で、街では指折りの旧家の当主だという彼は、日本人離れした秀でた目鼻立ちと、蒼白い皮膚とを持っていた。
いつになく赤みを帯びた彼の皮膚。その裏側には妻の身体から吸い取った血がめぐっているというのか・・・
まがまがしい想像に、嫉妬とともにえも言われぬ昂ぶりを感じた。
妻とこの男とは、わたしの知らない時間を共有している・・・
私は男の生き血は好まない、とだけ、男はいった。
妻に言うとも、わたしに言うともいえない態度だった。
妻はさいしょのときにそうしたように、これ見よがしに牙をむき出して、わたしの首すじに咬みついた。
ゴクゴクゴク・・・
あのときと同じ、あからさまに喉を鳴らして、彼女はわたしの血をむさぼった。
わたしは痛痒い疼きと、自覚し始めた恍惚感に身をゆだねた。

口許に撥ねたわたしの血を、妻は行儀悪く指で拭い取り、その指を唇で吸った。
クチュッ・・・と、下品な響きを洩らして、妻は指先についたわたしの血を吸った。
「視ててくださいね。こんどは私ご奉仕する番だから」
妻はわたしのほうをふり返り、得意そうに白い歯をみせると。ツカツカと客人のほうへと歩みを進めた。
家のなかだというのに、彼女はハイヒールを穿いていた。
真新しいハイヒールはピカピカと黒光りをしていて、肌色のストッキングに包まれたふくらはぎを硬質な耀きで補強している。
ひざから上を覆い隠す花柄のワンピースのすそが、落ち着いた足取りに合わせて静かにそよいだ。
失血で身動きのできないわたしは、客間の冷たい床のうえに転がされたまま、なりゆきを見守るしかなかった。

拡げられた猿臂をまえに、妻はまっすぐに飛び込んでいった。
彼女が身に纏う花柄のワンピースは、去年の結婚記念日にプレゼントしたものだった。
それと知っていて彼女はあの服を選んだのか――なにを訊いても、気の向いたこと以外は軽い含み笑いで受け流してしまう彼女は、いっこうに真相を語ろうとはしない。
猿臂に抱きすくめられた華奢な身体に、男の纏う黒衣が覆いかぶさった。
アップにした髪の生え際に、男は牙をむいて喰いついた。
チクリ、と、音がしたような錯覚を覚えた。
男はそのまま、妻の首すじにあてた牙を、根元まで埋め込んでいた。
赤黒いほとびがぼとぼとと、花柄のワンピースに不規則な水玉もようを拡げていった。

溝田の声が、いまでも耳の奥に響いている。
処女の生き血は貴重とみえて、すぐにどうこうということはないんだけれど。
あの土地の人間が女性をつかまえて血を吸うときにはね。
既婚の女性はたいがい、セックスまでされちゃうことになるんだ。
きみのところも例外じゃないし、ぼくのときだって例外じゃなかった。
だからといってそれ以上、彼らは夫婦の世界に立ち入ってこない。
連中は奥さんのことを、愉川夫人のまま関係しつづけたがるだろうから、きみはもの分かりのよいご主人にならなきゃいけないよ。
ああ、ぼくももちろん、そうしてきたつもりだ。
だからうちの女房が連れ出されるときにだって、ぼくまでお誘いがかかるんだからね。
溝田の言い草は呪縛のようにわたしを縛り、いつか昂ぶらせてさえいた。
行き先を持たない熱い粘液がわたしの股間から迸ってじゅうたんを汚すのを、妻は白い眼で視つづけていた。
引き裂かれたワンピースのすき間から、白い膚をチラチラと覗かせながら。
息荒く迫る男に愛を注がれるために、はずんだ息遣いで応じながら・・・

妻は若返った。
襲われるたびにいままでの服を引き裂かれていって、
そのたびに妻の洋服タンスの中身は、吸血鬼にあてがわれた服に、入れ替わっていった。
だいじょうぶよ。
妻はなんの脈絡もなしに、呟いた。
彼好みの女になったところで、あなたの妻であることに変わりはないわ。
あのひと、人妻を征服するのが好きなの。だから私は、あなたの妻で居つづけるの。
でもそうすることは、あなたの好みに合せていることなんだって、わかってしまった。
あなたも――自分の奥さんが犯されるの、嬉しくて仕方ないんでしょう?

ねえ、今夜も出かけていい?
妻は瞳を輝かせ、わたしの顔を上目づかいで覗き込む。
あなたを裏切りたいの。愉川家の名誉に、たっぷりと泥を塗りたいの。
活き活きとした頬を輝かせ、白い歯をみせつづける彼女のまえに。
送り迎えしてやるよ。
昂ぶりを抑えた声色でわたしはそう告げて、妻は嬉しげによそ行きのワンピースをそよがせる。

躊躇(ためら)う吸血鬼

2015年06月27日(Sat) 09:41:10

第一幕 第一場

勤務先のデスクに腰かけたわたしを、背後から襲いながら、男は聞き取れないほどかすかな声で囁いた。
言葉の響きの妖しさが、鼓膜を衝いた。

さっき、あんたの奥さんを襲ってきた。
奥さんの血は、美味かった。

・・・死なせたのか?
いちばん怖れていた問いを、男は即座に否定した。
・・・犯したのか?
つぎに怖れていた問いに、男はわずかに口ごもった。
・・・肯定するのか?
半ばすべてをあきらめかけたとき、男が口ごもったのがべつの理由だと知れた。
襲った相手がセックス経験のある婦人の場合。
ほぼ例外なく、それも躊躇なく犯すと知っていたのは。
それだけわたしが、彼らと近い立場に身を置きつつあったから。
彼はちょっとだけ口ごもると、こたえてくれた。

犯さなかった。犯せなかった。
両手を合わせて、「それだけは堪忍」って言われた。
ふつうならそれくらいのことで引き下がるようなオレじゃない。
○んちんだって、じゅうぶん勃っていた。あんたの奥さん、いい女だしな。
なのにどういうわけか、見逃してしまった。
まったく、オレらしくもない・・・

男は己が躊躇したことを、心から恥じているようだった。
絶好のエモノを見逃すなど、彼らの中ではあってはならないことなのだろう。
彼を苛んでいる激しい自己嫌悪が、わたしの肩を掴んだがっちりとした掌から、ありありと伝わってくる。
――この掌が、妻のことを抑えつけたというのか。
――この掌からの支配を、妻はかろうじて免れたというのか。
わたしは安堵を覚えながらも、男の様子が気になった。
そのぶんよけいに、吸いなさいよ。それで、あんたの憂さ晴らしになるのなら。
ふたたび差し伸べた首すじに、男は「すまないね」と言いながら、もう一度喰いついた。
濃い眩暈が視界をよぎり、咬まれた痛みを忘れるほどに陶然とした心持ちに堕ちてゆく・・・

「咬んで血を吸わせてもらうんだからな。ちっとは相手に、いい思いさせてやんなくちゃな」
男の口癖だった。
襲った相手を決して殺めようとしないのが、彼らの暗黙のルールらしい。
そのルールゆえに、この街の人間たちは彼らの存在を許し、すすんで献血に応じたり、家族の血を吸わせたりさえしているのだった。

――明日は会社、休んでいいからね。
物分かりの良い上司は、そういってくれていた。
着任してから五年になる彼は、歓迎会の席上夫婦ながら初めて襲われている。
永年連れ添った家内を目のまえでひーひー言わされちゃ、たいがいのことは乗り越えちゃうよね。
初めて咬まれた痕をじんじんさせながら聞かされた打ち明け話は、やけにリアルだった。
ノーブルな顔立ちと優雅なしぐさで知られた夫人からは、想像もつかない有様だったけれど。
おなじことがいま、わたしと妻にも、ふりかかろうとしていた。

目をあければ、着任して一か月、ようやく目になじみ始めた勤め先の風景がいつものようにひろがっている。
なんのへんてつもない風景のなか、息づいている人影はわたしたちだけだった。


帰宅すると、妻は放心したように脚をおっ拡げたまま、壁にもたれて尻もちを突いていた。
やつが出ていったときから、身じろぎひとつしていないようだった。
髪はほつれ、頬は蒼ざめ、半ば唇を開いてぼう然とした様子に、さすがに言葉を喪った。
まるでレイプの後のような生々しさが、部屋じゅうに渦巻いていた。
夫の帰宅をうつろなまなざしで迎えた妻は、おずおずとした低い声で、「おかえりなさい」とだけ、言った。
ワンピースのあちこちには血が撥ねていて、ところどころ破れていた。
妻がまだストッキングを穿いているのをみて、わたしは男の告白が真実だと察した。
脱がされたストッキングを穿きなおす気力を、そのときの妻が持ち合わせているようには見えなかったから。
もっとも・・・しつようにいたぶられたらしい足許には、露骨な裂け目が滲んでいて。
血液とも唾液とも・・・あるいはもっとまがまがしい体液とも見分けのつかない半透明の粘液を、あちこちに粘りつけられてたけれど。
そんなことを気にしているゆとりなど、わたしにはなかった。
わたしは妻に肩を貸して起き上がらせ、そのままよたよたとリビングに連れて行ってソファに腰かけさせた。
やつの食事の場がダイニングだったのは、たんなる偶然だったのだろうか。

小柄な身体を荒い息であえがせながら、彼女はほっとしたようにソファに身を沈めた。
なんにもありませんでしたから、と、彼女はやっとの思いでわたしに告げた。
よくがんばったね、と、わたしは言った。
信じてくれるの?――力のないまなざしが、しんけんな色をたたえた。
直接聞かされたから。淡々と応えるわたしに、彼女は目を瞑った。
彼女はわたしの首すじを見、あっとちいさく叫んで、そのまま口を閉ざした。
いままで見えなかったものが見えた――夫婦ながらおなじ境遇にあることを、彼女は初めて知った。

いつからなの?
こっちに来てすぐさ。
お相手はどんなかた?
取引先の工場主さ。そいつがきみまで欲しがった。
あなたが仕向けたの・・・?
いや、それはない。
でも、男が家に入れたのは、妻のいないときにわたしが彼を家にあげたからだった――いつでも家に入れるように。だからわたしも、しょせんは共犯。
妻もすぐに、それを察したらしかった。
べつべつのひとに咬まれるよりは、よかったかも。
彼女の言葉の選択は、このさいもっとも適切だった・・・と、いまでも思う。
わたしはただ、そうだね、とだけ、応えていた。
ややこしいことは、お互い苦手な質だった。
ややこしいことが苦手なわたしは、やはりややこしいことが苦手な妻に、言った。

きみさえよければ、時々やつと逢って、血を吸わせてあげてくれ。
ぼくに言いにくかったら、なにも言わないでいいし、
言いたかったら、素直に言って。
ぼくは決してきみのことを怒らないし、話も聞いてあげるから。

うつろな瞳は、見据える視線だけがまっすぐだった。
視線の行先は、薄闇の支配する虚空。
目に見えない何かを見据えながら、身体を守り通す自信がない、と、彼女は告げた。
そういうことも、あり得るだろうね、と、わたしは応えた。

すでに奪われていてもおかしくない、いや奪われていて当然だった、女の操――
けれどもやつは、彼女が手を合わせただけで、なぜか見逃してくれた。
私が魅力的じゃなかったから?という妻に、かすかな嫉妬を感じながら、即座に否定する。

やつはきみのこと、いい女だと言っていた、と。
それなら、二度目はなおさら自信がない――それはそうだろう。
彼女も素肌につけられた咬み痕を、ジンジンと疼かせる身になってしまったのだから。
いまわたしを心地よく苛んでいる皮膚の疼きを、同時に彼女も感じているのか。
彼女のうなじには、わたしを咬んだのと同じ牙が残した痕が、赤紫の痣になって、くっきりと刻印されていた。
じりじりとするような危機感と。おなじ異常体験を共有するもの同士の共感と。
どちらがわたしのなかで、色濃いものなのか。

ぼくはきみを、責めないよ。彼とはもう、だいじなものをあげても構わない関係だから――
わたしは彼女の気分を楽にさせるためだけに、そう言った。
あとは大人の男女であるふたりを、信じるしかないのだろう・・・


第一幕 第二場

奥さんが、逢いに来てくれた。
わたしを背後から襲いながら、男はくぐもった声色で囁きかけてきた。
けだるい眩暈にうなされながら、わたしはただ、そうなんですね・・・と応えたきりだった。
あの小柄な身体から、生き血をたっぷりと吸い取らせていただいた。
きっと、目いっぱい吸い取らせてくれたんだと思う。
貧血で頭を抱えているのが痛々しくて、家まで送っていった。
家にあがって、布団を敷いて寝かせてやった。
このまえは、食事のしっ放しでほうり出してしまったからな。わるいことをした。

ここは勤め先の事務所。いまは定時を過ぎてわたしだけの夕刻。
さかのぼって察するのなら、妻が吸血されたのは午後の早い刻限だったのか。
いずれにしても、白昼のことだった。
彼らは昼間でも、活動できるのだ。
いや、そんなことよりも。
妻が吸血鬼と逢って、家まで送ってもらえる間柄なのだと――ご近所という狭い世間ではもう、知られてしまったということだった。
もっとも。
あのときだって、妻は誰か、誰かあっ!と必死に叫んで家じゅうを逃げ回ったというから、すべては筒抜けだったに違いないのだけれど。

――犯さなかったのか?
いちばん怖れていた問いを、男は即座に否定した。
手を合わせられたからな。それだけは堪忍って。
男は身振りで、妻の振る舞いを伝えてくれた。
男のしぐさに、しんけんに手を合わせて憐れみを乞う妻のしぐさが重なった。
――また、見逃してくれたのか?
ああ。オレもまったく、ヤキがまわったものだ。
男は己の情けなさを、しんそこ恥じているようだった。プライドが傷ついてもいるようだった。
――夫としては、感謝するよ。
さり気なく言ったつもりの言葉が、男の胸の奥には鋭く突き刺さったらしかった。
男はかすかに、顔を歪めた。
かすかな狼狽を、わたしはおぼえた。
つぎの瞬間。自分の唇がひとりでに動くのを感じた。
けれども、言ってはならない言葉が洩れるのを、止めようとはしなかった。

ガマンならなくなったら、すこしくらい強引に迫っちゃっても、いいんだぜ。
そうなのか?
うん、あんたなら。

あとはもう、スムーズだった。
言葉に自分の気持ちが重なっていたから。

でも、あんまり手荒にしないでくれよ。かわいそうだから。
わかってる。あんたの奥さんはいいひとだ。オレと逢うのに苦しんでいる。
咬まれたくなっちゃったのかな。ぼくのように。
そうかもしれないけれど、ちがうかもしれない。あのひとは、やさしいひとだから。
きっと、血が足りなくて困っているオレに、血を吸わせてくれようとしたんだろう・・・と、男は言った。
覗きに行こうかな。ふたりが逢っているところ。
思わず漏らした本音に、男は、かまわないさ、と、言った。


第二幕 第一場

切ない吐息の重なりが、半開きのドアのすき間を満たしていた。
よそ行きのワンピースを着た妻が、男と逢っている。
立ったまま抱きすくめられ、もう首すじを咬まれていた。
失血に息を弾ませ肩を揺らしながら、男の抱擁のなかにいた。
白いうなじにぴったりと這わされた唇は、ヒルのように赤黒く膨れあがっていて。
キュウキュウと、ひとをこばかにしたような音を洩らしながら、妻の血を吸い取ってゆく。
あさましいほどあからさまな吸血の音に合わせるように。
妻はけだるげに目を瞑り、華奢な身を左右に揺らしていた。
流れるような黒髪が、身体の動きに合わせてユサユサと揺れていた。

妻は、夫の知人に対する善意の献血だといっていた。
男は、おぞましい吸血行為に過ぎないと自虐していた。
そのどちらでもないように、わたしの目には映った。
そう――それは挿入行為を伴わない情事なのだと。
妻と他の男とに交わされる情事を、わたしは遮りもせず見つめつづけていた。
妻も男も、わたしに覗かれていると薄々知りながら――情事に耽りつづけていた。
いつか・・・わたしは股間が昂ぶりに逆立つのを感じていた。
夫としては感じてはならない、禁断の昂ぶりだった。
世の夫がかなりの割合でその昂ぶりを自覚してしまうのだと――それも上司や同僚の告白から、そうと知らされていた。
わたしの職場に勤める、妻ある同僚たちは全員、その経験を持っていた。
転任してきたこの街は、そういう街だった。
情事に耽るふたりをまえに・・・妻に悟られるのを恥じながらも、自慰に耽ってしまっていた・・・

ふたたび妻と、顔を合わせたとき。
わたしはきっと、このごろ習慣になっている言葉をまた、口にするのだろう。
情事の現場を見たなどとは、おくびにも出さないで。
――よくがんばったね。 と。


第二幕 第二場

わたしを背後から襲いながら、男は囁きかけてきた。
きょうも、奥さんが訪ねてきてくれた。
今週になってから、やつと三回も逢っていることになる。
わたしが勘定するよりも早く、男はいった。
このごろはあんたが勤めに出かけるとすぐにオレのところに来て、身の回りの世話まで焼いてくれるのだ、と。
わたしは初めて、夫としての立場に危機感を抱いた。
そう。妻もわたしも、ややこしいことが苦手な性分だった。

わかっている。いまあんたが考えていること。
やつはわたしの首のつけ根をかじりながら、そう言った。
血がビュッと撥ねて、ワイシャツにシミを作った。
奥さんもこんな感じで、もてなしてくださるんだよな。
やつは、エモノの着衣を持ち主の血で汚すことに、けしからぬ執着を感じているようだった。
きょうは深緑の、ベーズリ柄のワンピース。
きのうは藤色のブラウスに、純白のスカート。
そのまえは――真っ白なブラウスに、赤いスカートだった。
浮気の現場から帰宅した妻を出迎えたわたしのまえ。
真っ白なブラウスに撥ねかる血は、純白のスカートのすそに映えるしたたりは、じつに目に鮮やかだった。
どれも見慣れた、妻の外出着だった。
それらは次々と、葬り去られていった。
手持ちの衣装が入れ替わるたび・・・妻とわたしとの結婚生活じたいが、塗り替えられてゆくような心持がした。

妻の帰宅はしばしばわたしの帰りよりも遅くって。
ほつれた髪に、蒼い顔。
よろけた足どりで、玄関のドアを開けて。
ついさっきまでいっしょだったはずの男(ひと)をうつろな目で追いながら、「ただいま」を告げるのだった。
純白のブラウスの肩先には、真紅のシミがコサアジュのようにあからさまに拡がっていたし、
藤色のブラウスはいちど剥ぎ取られでもしたのか、ブラジャーの肩ひもがあらわになるくらい破かれていたし、
白無地のスカートにもべっとりと、赤黒い血のりが不規則な水玉もようを描いていた。
「よくがんばったね」
そんな凄まじい身なりに内心胸をとどろかせながら、それでも見てみぬふりをして、わたしはそういって妻を迎え入れていた。
自分の身なりを棚に上げて、ワイシャツを紅く汚したわたしに、彼女はからかうような言葉を向けた。「まるで勲章みたいだわね」
勲章――たしかに受章するだけのことはしていたはず。
夫婦ながらに、おなじ吸血鬼を相手に、「善意の献血」に励んでいたのだから。
自分自身の乱れた着衣を気にも留めずに、彼女はわたしの着替えを手伝ってくれ、
わたしはブラウスやワンピースのすそから覗く足許の、肌色のストッキングの伝線に目を留めつづけていた。
いやがるふくらはぎに吸いつけられる、ヒルのように膨れ上がったあの赤黒い唇を思い描きながら・・・

男は去りぎわに、言い残した。

あんたの奥さんだから、よけい愉しいんだろうな。

奥さんを、蔵野夫人のまま犯したい。
やつはきっと、そう言いたかったはず。
果たして妻に、そんな器用なまねができるのだろうか?
妻もわたしも、ややこしいことは苦手な性分だった。


第二幕 第三場

やめて。いけません。主人のまえですっ!
縛られて身じろぎひとつできないわたしの前で。
妻は戸惑いながら、髪を振り乱して抗いつづけた。
男を公式に家に招いたのは、今夜が初めてだった。
三人が公然と席を同じくするのも、じつは今夜が初めてだった――ひそかに同席したことは・・・すでになん度もあったことだけれども。
わたしは妻に男を紹介し、妻ははじめまして、と、男に言った。
そらぞらしいやり取りは、そこまでだった。

わたしは男が吸血鬼なのだと妻に告げ、妻は存じています、とだけ、応えていた。
この街には、吸血鬼がおおぜいいるそうですものね、と。
このひとはぼくの血を気に入ってくれていて、きみの血も吸いたがっている、と、わたしは言った。
そうなんですのね。でも、私怖いわ。妻はそう言った。
ぼくがお手本を見せたら、怖くなくなるんじゃないかな、と、ぼくが言うと、そんな勇気があなたにおありになるの?と、妻はからかうように言った。
和やかに打ち解けた笑みが、そこにあった。
じゃあ試してみよう、ということになって・・・わたしは初めて、彼女のまえで首すじを咬まれ、血を吸い取られ、その場に尻もちを突いた。
いつも以上の素早さに、眩暈がした。
やつは手にしていた鞄のなかからロープを取り出すと、わたしをぐるぐる巻きに縛って、部屋のすみに転がした。
慣れたやり口だった。
このやり口に、なん組の夫婦が、堕ちていったのだろう?と、自分がおかれている立場を忘れてふと思った。
男はこれ見よがしに舌なめずりをすると、
悪りぃな。奥さんいただくぜ。
わざと悪っぽく宣言をして。
そのうえで、妻に迫って、狼藉に及んだ。

いけない!いけないっ!あなた!あなたあっ!
妻は身を揉んで抗い、叫んでいた。声はご近所にも、届いていたはず。
家の外に人の気配がわらわらと群がって、庭先に回り込む。
隣家の異常を察知して、救いの手を伸べようという意図は、感じられなかった。
そんなことをするのなら、もっと前の段階で救いの手は差し伸べられていたはず。
ある段階までは、見て見ぬふりをすること。
そのあとは、じっくり視て愉しみ合ってしまうこと。
救いの手っていうのは、そういうものなんですよ――
隣家のご主人がわたしにそういってくれたのは、だいぶあとのことだった。
庭に面した窓ガラスからは、意図したようにカーテンが取り払われていた。

茂みに隠れながらのあからさまな好奇の視線に、気づかないふりをして。
わたしは無念そうに、歯がみをするばかり。
血を抜き取られた身体は薄ぼんやりと力を喪って、激しい意識だけが火の玉のように、胸の奥をかけめぐる。
嫉妬と狼狽と、悩乱と・・・なにかを飛び越えてしまうときにいつも感じる惧れと後ろめたさ――そして昂奮。
それらがいっしょくたになって、わたしのなかをかけめぐった。

昨日やつと逢ったとき。
やつは妻に本気で迫っていって。
妻は「それだけは堪忍」を、いつものようにくり返して。
無理に唇を奪われてしまうと、たまりかねたように口走っていた。

なさるなら、主人のまえでなさって!と。

それなら不服はないのか?と重ねて問う男に、無言のままうなずくのを。
わたしは半開きのふすまの陰で、心震わせながら、見守っていた。


ビリッ!ビリッ!ブチチ・・・ッ!
悲鳴のような音をたてて引き裂かれてゆく着衣は、去年の結婚記念日に買ったワンピース。
夫婦愛の記念品はそっくり、男への贈り物として、他愛なく慰まれていった。
スリップをくしゃくしゃにされ、するどい爪で真っ二つにされて、
肌色のストッキングを穿いた脚には、唇がヌメヌメと這いまわる。
いやっ!いやっ!あなたっ!視ないで・・・御覧にならないで・・・っ
たまぎるような悲鳴は、半ばは演技、半ばは本気。
じたばた暴れる身体から衣装のすべてを剥ぎ堕とされると。
脱げかかったスカートの奥、どす黒くそそり立った一物が差し入れられてゆくのを、
わたしは目の当たりにする羽目になる。

ずぶ・・・
音がしたように感じたのは、錯覚だったのだろうか?
血を吸った婦人にセックス経験がある場合には、躊躇なく犯す。
彼らのなかでは通り相場な仕打ちが、今はじめて、妻の身に訪れる――

ひくっ。
その瞬間。妻は身体を硬直させて。
喘ぐ唇は求める唇を重ねられて、悲鳴を封じられてゆく。
引きつった立て膝が、じれったそうにうごめいて・・・妻の潔い処は、蹂躙を受けていた。

感じている。
そう受け取らざるを得なかった。
身をしならせて、素肌を密着させ合って。
もっと・・・もっと・・・と、自分から求めはじめていた。
あなた、視て・・・御覧になって・・・とまで、妻は口走っていた。
あなたの奥さん、犯されちゃってるのよ。それだのに、感じちゃってるのよ。
そんなあたしでも、許してくださるの?あなた以外の男に、感じちゃってもいいの?

支配されてしまった。
そう感じざるを得なかった。
男は自分の好みの体位を要求し、逃げることも可能なくらい妻を自由にしていたのに。
妻は四つん這いの姿勢になって、男の器を口に含んで、根元まで唇で賞玩し、愛し抜いてゆく。
それは屈従のポーズ。
蔵野家の主婦としての立場をかなぐり捨てて、男の劣情に屈して、ただひたすら奉仕してゆく。

完敗だ。完膚なきまでの完敗だ。
虚ろな敗北感をゾクゾクとした昂ぶりのなかで受け止めながら、わたしはなぜか妖しく深い歓びに胸をわななかせていた。

幸せなふたりのために・・・乾杯・・・


エピローグ

ややこしいことが苦手なふたりだった。
妻に備わる華奢な身体と生真面目な心とは、多くの男を受け容れるには、ふじゅうぶんだった。
妻はその場で手を突いてわたしに謝罪をくり返し、どうか私をこのかたの愛人として家から追い出してほしい、と言った。
わたしは彼女に、罰を与えた。
ややこしいことが苦手な彼女に、二人の夫を持たせるために。
やつは言っていた――きみの奥さんだから、愉しいのだ――と。
わたしは妻に告げた。
わたしはこの方に、当家の最良のものを差し上げると約束をした。
その約束を果たすため・・・きみは蔵野夫人のまま、このひとに犯されつづけなければならないと。
その夜から・・・妻はふたりの夫に奉仕する身となっていた。
新たな同居人は、わたしが勤めに出てしまうと、ほしいままに妻を、もてあそんだ。
もちろんわたしの在宅中でも、気が向けばわたしの前で妻の血を吸い、犯していった。
妻もそれまで守り通してきた操を、もはや惜しげもなく蕩かせていった。
それだけではなかった。
やつは自分がモノにしてきた人妻の夫たち――ご近所の家々のすべてのご主人たちを含んでいた――をうちに招いて、妻のことをわたしに無断でまた貸しするようになっていた。
夜にもなると、わたしの家の門前は、夜這いをかける男たちの黒い頭が、列をなした。なかにはわたしよりもずっとご年配のごま塩頭や、禿げ頭さえ混じっていた。
それらのすべてを妻は招き入れ、隣室で息をひそめるわたしを憚りながらも、抱かれていった。
情事に耽る妻の気配に欲情するのが、わたしの日常になっていた。

きみの奥さんは、ひとりを守るのが賢明なのだろうね。
あの上司はそういった。うちの家内は、いまじゃおおぜいの男とつるんじゃってるけど。
お宅の奥さんには、無理じゃないかな。
でもきっと、お相手もちゃんとそんなところは見極めて、うまくやってくれるだろうよ――
そんなことを言っている上司さえもが、妻の相手のなかに含まれていた。
けれどもわたしは、何食わぬ顔で出勤し、妻の情夫となっている上司や同僚と言葉を交わし、帰宅してゆく。
これがわたしの得た日常。
きょうも家では、輪姦の果てに放心した妻が、脱げかかった黒のストッキングを片脚だけ穿いた脚を大の字に伸ばして、わたしに「おかえり」を言ってくれるのだろう。

6月19日脱稿 同27日加筆

帰宅。

2015年02月09日(Mon) 08:05:13

ただ~いま。
丸芝が間抜けな声をつくって、玄関口に立つと。
・・・はぁい・・・
インタホンの向こうから、妻の弓枝の声が華やいで響いた。
ふつうの声でインタホンに応えるときは、なにもないとき。
間抜けな声色で戻った時は、吸血鬼つきで帰宅したとき。
夫婦の間でいつの間にか始まったそんな決めごとを、同伴の赤桑もよく心得ていた。
腕の良い職人だった赤桑が、吸血鬼になったのは。
女房の浮気相手がたまたま吸血鬼だったからだった。
都会の事務所から仕事を請け負うことが多かった赤桑は、すでになん人か、社員の妻を襲っている。
仕事の窓口の部署にたまたま居合わせたのが、丸芝とのご縁だった。
十五歳年下の丸芝の女房と睦み合うようになったのは、ごく自然ななりゆきというわけ。
丸芝こそいい迷惑だったが、もうこの年輩になるとあまりそういうことは気にならなくなるものか、
あるいは女房が生き血を吸い取られながらウットリするのを見て昂奮してしまっている丸芝がただの変態なだけなのか。
そんなことはもう、彼らの間ではどうでもいいことになっていた。
いちど汚された貞操は、最早もとには戻らないのである。

あら、あら、まあ、まあ・・・
スラックスを脱いだ夫が履いている靴下の破け具合に目をやった弓枝は、大仰な声をあげて夫を揶揄している。
泥んこで帰ってきた男の子を、「まあしょうがないわねえ」と言って迎える母親のような口調だった。
娘の結花が、二階から降りてきた。
中学二年生の結花は、まだブレザーの制服のままだった。
「こんばんは、小父さん」
生気に満ちた結花の声色に、赤桑は眩しそうに会釈でこたえた。
「母さんね、用意がまだなんだって。父さんもこれからお着替えだし、結花が相手してあげるよ」
早くも濃紺のプリーツスカートの下から、紺のハイソックスの脚を見せびらかしている。
誘惑に弱い赤桑が腰を浮かせるのと、「結花、いいかげんになさい!」と母親の叱声が飛ぶのとが同時だった。
「んもう~、母さんだけズルイ」
ふくれる結花の両肩に、赤桑は手を置いて囁いた。
「母さんには母さんの役目があるのさ」
どういうこと?結花の白目が後ろを仰ぎ見たが、男はその視線をかいくぐるようにして、結花の首すじに顔を埋めた。
リボンで結わえたおさげ髪と白のブラウスのすき間から覗いたうなじに、赤黒い唇がヒルのように吸いついた。

きゃー。
ふすま越しに聞こえる娘の声には耳も貸さずに、弓枝はパンツを脱いだ夫の一物を咥えている。
はずした口許から、白い粘液がぼとぼととこぼれた。
「もう、汚れるじゃない」
奥さんはそつなく夫の処理を済ませると、「はい、貴男も結花の代わりに血を吸われていらっしゃい」
夫の肩をポンとたたいていた。

丸芝が応接間に戻ると、ちょうど、
紺のハイソックスのふくらはぎを侵された娘が、白目を剥いてその場にくずおれるところだった。
あーあー。
丸芝は嘆かわしそうに声をあげ、男は横倒しになった娘の身体になおものしかかって、首すじを吸いつづける。
うちの娘の血は、そんなにいけてますかね?
「だいじょうぶ。あたし保健委員だから。具合が悪くなった子の面倒見るのが役目だから」
寝ぼけた声で呟く娘の髪を、丸芝は優しく撫でてやった。
「将来は世話女房になりそうだねえ。お母さんに似て。」
赤桑は傍らから、揶揄交じりの口調でそういった。
もっともそれが本音からの言葉だと、お互いに通じ合っていたけれど。


首すじの疼きが、じんじんと響く。
事務所の広い応接室で、ストッキング地のハイソックスを咬み破らせてしまったときから。
「女房のパンストもこんなふうに破かれちまうのかなあ・・・」と呟いていた丸芝だった。
予想通り・・・布団の上に寝かされた妻は、肌色のストッキングをチリチリに喰い剥かれてしまっている。
夫婦の寝室の布団のうえでは。
赤桑と丸芝の妻とが素肌を合わせ、セックスに熱中して、急いた息を交わし合っている。
ワンピースを着たまま犯されるのが好き。それも、ダンナのまえで。
そんな不敵なことをうそぶいていた妻は、赤桑の腕のなかで、可愛い女になりきってしまっている。

あーあ。
ため息をつきながらも丸芝は、自分の首すじに咬みつく直前囁かれた赤桑の言葉が忘れられない。
――こぎれいなかっこをしたおなごを襲うのが好きでなあ。あんたも奥さんの服着て、儂の相手してみるかね?


2月12日6:18脱稿。
2月14日0:05あっぷ☆